HIV/AIDS関連情報

2007年1月2日(火) GINAが選ぶ2006年HIV/AIDS関連ニューストップ10

 GINAのウェブサイトが誕生したのは2006年の5月中旬です。当初から、世界のHIV/AIDS関連ニュースを集めだし、最終的には12月31日までに214本のニュースを掲載するにいたりました。このなかで、GINA的に意味のあるニュースにランキングを付け、トップ10形式で振り返ってみたいと思います。


★第1位 フィンランドのHIV増加はタイのせい? (2006年9月8日)

 フィンランド人のHIV新規感染が増えているのはタイの売春婦のせいだ!と、自国の売春オヤジの恥を棚に上げて、タイ政府を公式に非難したフィンランド政府の厚顔無知ぶりを露呈したニュースでしたが、タイの売春婦からHIVに感染する外国人が増加していることを象徴するニュースです。

 他にもタイで感染する外国人が増加しているニュースが相次ぎました。

関連ニュース
オーストラリアのHIV増加もタイのせい? (2006年9月14日)
またタイのせい? ジャージー島のHIV増加 (2006年9月27日)
マレーシアでHIV検査が義務付けられた理由(2006年8月15日)
イングランド北西部でHIV新規感染が増加 (2006年9月6日)


★第2位 ストリートチルドレンにオープンハウスを! (2006年9月23日)

 ミャンマーやラオスといったタイの隣国から不当に国境を越えてやってくる子供たちが2万人もいて、児童買春の犠牲者も少なくないというニュースです。タイでは以前に比べると児童買春は減っていると言われていただけに、このニュースはGINAにとって大変ショッキングなものでした。日本では観光地として知られているパタヤには、数百人の児童買春の常連客がいると報道されています。「ストリートチルドレンにオープンハウスを!」は今後のGINAのミッションのひとつにしていく予定です。


★第3位 タイの主婦へのHIV対策 (2006年9月11日)

以前から、タイでは主婦が自分の旦那からHIVに感染するという問題が指摘されていましたが、それをあらためて問題提起したニュースです。最近は、日本でも同じような問題が生じつつあり、「コンドームを使いましょう」の一点張りでは効果が期待できない典型的なケースです。


★第4位  オーラルセックスにもコンドーム (2006年9月16日)

 タイのある病院が、「HIVに感染した男性のうち10人に1人が口腔性交が原因」という発表をおこなったというニュースです。この数字は少し高すぎるのではないかと感じたため、GINAは、このニュースの発信元であるnewsclip.beに確認をとりました。同社によりますと、「病院名の公表はできないがきちんと裏づけをとっている」とのことです。風俗店のオーラルセックスでコンドームを使うことがほとんどないわが国はこのニュースを真摯に受け止めるべきでしょう。


★第5位  恋人にHIVをうつした女性が禁固刑に(2006年6月23日)

 HIV陽性であることの苦悩をもっとも受け止めることができるのはその恋人のはずです。にもかかわらず、恋人がHIV陽性であることが分かると、掌をかえしたように豹変し、警察にかけこんで自分の恋人を逮捕させたというイギリスの事件です。アカの他人に自分がHIV陽性であることを隠してコンドームを用いない性行為をおこなったのであれば罪に問われるべきでしょうが、このケースは思い切って秘密を打ち明けた恋人を警察に売り渡しています。今後こういった事件は世界で相次ぐかもしれません。法律だけでなく倫理や宗教的な観点からも議論されるテーマだと思われます。

関連ニュース
US,UK,カンボジアでHIV陽性者が逮捕(2006年8月9日)
HIV陽性者が国際指名手配(2006年9月27日)
オーストラリアのゲイ、5人にHIVを故意に感染(2006年10月16日)


★第6位 マドンナの養子縁組が世界中で波紋(2006年10月18日)

 GINAでアンケートをおこなったマドンナの養子縁組のニュースです。その地域社会にそのまま残せば、生存できるかどうかさえ疑わしい肺炎に罹患した1歳の子供を養子にひきとったマドンナが世界中から非難されたという事件です。2002年にはカンボジアの孤児を、2005年にはエチオピアのエイズ孤児を養子にひきとったアンジェリーナ・ジョリーに対しては非難の声がまったくなく、なぜマドンナだけが非難の的にさらされているのか、私にはいまだにその理由が分かりません。

関連ページ
マドンナの苦悩(2006年10月30日)
アフリカエイズ対策にマドンナが参加(2006年10月10日)


★第7位 オーストラリア男性が女性観光客にHIVを感染(2006年10月29日)

 オーストラリアに観光に来ていたアイルランド人とドイツ人の女性とコンドームを用いない性行為をおこなったHIV陽性のオーストラリア男性が逮捕されたという事件です。GINAのウェブサイトでは、主にタイで買春をおこなう男性に対する警告を発していますが、女性たちも海外でのひとときのアバンチュールには充分に注意すべきであることを再認識させられるニュースです。

 海外でアバンチュールを楽しむ日本人女性も少なくありません。日本人女性の場合、オーストラリアやアメリカなどの西洋諸国だけでなく、タイやインドネシアといったアジア諸国で男性を買う者もいます。ダンサーが男性のタイのゴーゴーバーには日本人女性の観光客が少なくありません。(これについては近日中にレポートを発表します)


★第8位 中絶を自分でおこなわされたインド人妊婦(2006年9月6日)

 HIV陽性者が世界最大のインドでは信じられないニュースが相次いでいます。このニュースはHIV陽性である妊婦がまともな医療を受けることができなかったというものですが、インドの驚くべき差別やスティグマは枚挙に暇がありません。

関連ニュース
インド、刑法377条を直ちに撤廃せよ!(2006年10月1日)
インド国会議員の驚くべき無知(2006年8月27日)

   
★第9位 「援交カフェ」の前で日本人がタイ人に刺される(2006年7月10日)    

 マスコミには報道されていないGINAオリジナルニュースです。売春には性感染症以外にもこういったリスクがあることを再認識させられた事件ですが、それにしても海外の援交カフェで売春婦と口論となり現地の人間に刺される・・・、などと聞くと、同じ日本人として何と言っていいのか分かりません。


★第10位 仕事も恋人もなくした日本人の自殺(2006年6月21日)

タイの売春婦と日本人の男性が恋人の関係になったり結婚したりするケースは珍しくありません。しかしながら、すべてのケースがハッピーエンドとなるわけではありません。この事件は、恋人と思っていたタイ女性が自分から離れていったことが原因で自殺をした日本人の悲しい顛末です。



◎総評

 ニュースの情報源は、日本の新聞と世界の主要なマスコミのウェブサイトです。比較的高頻度に参照したのが、ロイター通信、UPI、BBC、CNN、NEW.COM.AU、China Daily、国連関連機関のIRIN、などです。また、ときおり他に追随を見せないスクープを入手するイギリスのタブロイド紙The Independentも参照しました。その他には、Bangkok Postなどのタイの英字新聞、さらに「タイ・ラット」などのタイ語の新聞、数は少ないですが、GINAタイ人スタッフから直接仕入れたマスコミに報道されていない情報というのもあります。

 総数は214ですから、掲載を開始してからは、ほぼ1日に1本のペースでニュースをご紹介したことになります。

日本のマスコミにはHIV/AIDS関連の記事はそれほど高頻度には掲載されませんが、世界のマスコミには毎日大量のHIV/AIDS関連ニュースが報道されています。これらのうち、GINAに(特にGINAのミッション・ステイトメントに)関連したものだけを集めています。したがって、ワクチン開発や新薬発売などといった基礎医学に関連したもの、国や行政の予算などの国策に関したもの、エイズ関連の学会情報などについては一般的には重要なものであったとしてもあえて掲載していません。

 代わりに、HIV/AIDSに関連した差別・スティグマに関することや、薬物・売春といった問題については幅広く取り上げました。また、タイについての情報はHIV/AIDSに直接は関係しないものまでご紹介してきました。

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 あらためてトップ10を振り返ると、GINAらしい記事のオンパレードになっていることが分かります。10のニュースのうち、タイに関連するものが6つもあります。いまや世界最大のHIV陽性者をかかえるインドのニュースはかろうじてひとつだけ入っていますが、かなりたくさんの事件をお伝えしたはずの中国のニュースはトップ10には入りませんでした。アフリカや中東、あるいはルーマニアといった国々でのHIV陽性者の悲惨な状況もお伝えしてきたつもりですが、ランキング外となってしまいました。

 今回選ばれたトップ10のニュース以外にもGINAが皆様に訴えたい事件はたくさんあります。過去のニュースはいつでもご覧いただくことが可能ですので、HIV/AIDSにまつわる諸問題について考えるきっかけにしていただければと思います。


2007年1月2日 GINA代表 谷口恭