HIV/AIDS関連情報

2006年9月8日(金) フィンランドのHIV増加はタイのせい?

 フィンランドで最大の発行部数をほこる新聞Helsingin SanomatのInternational edition9月7日号によりますと、フィンランドでは今年のHIV新規感染者が現時点で117人を記録し、同国の厚生省は最終的に170人にのぼるとみているようです。2001年の感染者は53人ですから、急激に感染者が増加していることになります。(UNAIDSのデータによりますと、フィンランドのHIV感染者は現在およそ1900人で、国民全体の0.1%に相当します。)

 フィンランドの新規感染者のうち4人に3人は性交渉によるもので、最も多いのが40歳前後の異性愛者だそうです。そしてその多くが海外での売春行為による感染で、なかでも「タイでの売春行為が問題だ」、とフィンランド政府が公式に発表しました(発表したのは厚生省幹部のMerja Saarinen氏)。

 国名をあげて公式に非難をされたタイ国は反論をおこないました。

 9月7日のBangkok Postにタイ厚生省のコメントが紹介されています。

 「感染者が増加しているのは、タイに旅行に来るフィンランド人が危険な性行為をするからであって、旅行者はどこに行ってもHIVの感染予防をしなければならない」

 疾病管理局の局長であるタワット医師(Dr.Thawat)は言います。

 「我々は、すべての渡航者に対して、タイ渡航の目的が売春かどうかを調べることはできない」

 タイのHIV/AIDS問題に関心のある者なら知らない者はいないと言われているミスター・コンドームことミーチャイ・ウィラワタイヤ(Mechai Veravaidya)氏も、今回のフィンランドの公式発表に対してコメントを出しています。ミーチャイ氏は、タイを非難したフィンランド政府を批判し、「フィンランド政府はタイで感染したという具体的証拠を提出すべきだ」、と述べています。

 しかしミーチャイ氏は、同時に、「外国人は売春目的でタイに来ないように」とのコメントも発表しています。「ここ3年でエイズ予防の関心が薄れ、売春婦のコンドーム使用率は90%にまで低下してきている」、と警告を発しています。

 9月6日のBangkok Postによりますと、タイ国のHIV感染者はおよそ80万人で(UNAIDSのデータでは約58万人です)、新規感染者は減少してきているものの(昨年は約17,000人)、感染者総数は増加し続けています。(これは抗HIV薬の普及により死亡数が減少したことが主要因です)

 タイでは、エイズ対策が予防から治療にシフトしてきており、疾病管理局によれば、昨年のエイズ予防対策費が300-400万バーツ(約900-1,200万円)だったのに対し、今年は180万バーツ(約540万円)に低下しています。

 フィンランドが科学的証拠を提出せずに、公式にタイを非難したことには問題があると言えます。しかしながら、フィンランド人にとってタイは最も人気のある観光地であり、売春目的でのタイ渡航(sex tourism)をおこなうフィンランド人が多いのは事実でしょう。そして、これはフィンランドだけではありません。イギリスにも同様のデータがありますし(当website「なぜ日本人や西洋人はタイでHIVに感染するのか」参照)、日本にはきちんとしたデータはないものの、私は日々の臨床で同じことを感じています。

(谷口 恭)