HIV/AIDS関連情報

2006年9月11日(月)   タイの主婦へのHIV対策

 9月9日のBangkok Postによりますと、タイの公的機関「エイズ・結核・性感染症局」が、「主婦のHIV感染が増加している」と発表しました。

 タイ厚生省の最新の発表によりますと、昨年新たにHIV感染がわかったおよそ1万7千人のうち主婦が30%以上を占めます。20%がMSM(男性と性交渉を持つ男性)、10%が薬物の静脈注射をする人、残りが10代の少年少女、及び売春行為で感染する人です。

 「エイズ・結核・性感染症局」は、全国の病院に「パートナー告知プロジェクト(Partner Notification Project)」と呼ばれる対策を徹底するように通達しました。これは、夫婦に対し定期的な血液検査をおこなうよう促すというものです。

 このプロジェクトでは、夫婦間で「ABC原則」と呼ばれるHIV感染対策をおこなうことも促しています。「ABC原則」とは、「禁欲(Abstinence)」、「忠誠(Faithfulness)」、「コンドーム(Condom)」を徹底するというものです。(「忠誠」は理解できるとして、夫婦間に「禁欲」が求められるべきなのでしょうか・・・。それから、なぜ"faithfulness" が "B"なのでしょうか・・・)

 他のところでも述べましたが、最近タイではエイズ対策が「予防」から「治療」にシフトしています。そのため、ここ7年間は「コンドーム・キャンペーン」が下火になっています。

 エイズアクセス財団(Aids Access Foundation)の代表者、Nimit Tien-udom氏は、「単に抗HIV薬を支給するだけでは、この慢性的な問題を解決することはできない」、とコメントしています。

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 この記事では、主婦の感染に注目すべきである、といったような報道となっていますが、タイでは以前から主婦の感染が問題になっていたはずです。拙書『今そこに・・・』でも述べていますが、タイでは、売春婦を除けば、女性の感染者は大半が主婦です。治療と同様に予防が重要なのは言うまでもありませんが、「コンドームだけでは限界がある」ということは以前から分かっていたことです。

 主婦のHIV感染に関して、最近GINAでおこなった調査で興味深いことが分かりましたバンコク、パタヤ、プーケットで活動するフリーの売春婦(Independent Sex Worker)200人のうち、なんと67人(33.5%)が主婦だったのです(離婚者が16.5%、独身は50.0%)。

 (この調査では意外な結果が次々と出ました。現在分析中ですので公開までもう少しお待ちください。)→公開しています(2006/10/12)

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 ところで、主婦の感染は日本でも問題になりつつあります。東京都立駒込病院の看護師、堀成美氏の昨年の日本エイズ学会での報告によりますと、「初診時に50歳以上だった女性のHIV感染症例を調べたところ、14例中8例(57%)もが、夫やパートナーの感染・発症をきっかけに感染が発覚していることが分かった」、そうです。

 主婦が自分の夫から感染するというケースは、数は多くないものの関西でも報告があります。また、HIVは現時点ではそれほど頻度が高くありませんが、クラミジアや淋病といった性感染症に自分の夫からうつされた、という症例は珍しくありません。なかには、それが原因で離婚にいたったケースもあります。

 夫婦間の感染は非常にむつかしい一面を孕んでいます。タイの「ABC原則」が提唱している「禁欲」や「コンドーム」は効果が乏しいと思われるからです。唯一、期待できるのが「忠誠」でしょう。

 夫婦もしくはカップルで、HIVを含めた性感染症について話し合い、ふたりで検査を受け、その後は忠誠を誓い合う、というのが最善の方法であると私は思うのですが、これは非現実的な「キレイ事」なのでしょうか・・・。

(谷口 恭)