HIV/AIDS関連情報

2006年10月18日(水) マドンナの養子縁組が世界中で波紋

 以前このコーナーでもお伝えしましたように、マドンナがアフリカのマラウイで、エイズ対策のため300万ドル(約3億5千万円)を用意し、さらに貧困にあえぐ子供を養子に迎え入れることになりました。(この子供がエイズ孤児かどうかは報道されていませんが、これは報道されるべきでないでしょう)

 この養子縁組に関して大きな波紋が広がっています。

 マラウイの法律では、非居住者による養子縁組は認められていません。10月13日のロイター通信によりますと、同国の裁判所は、非居住者であるマドンナに対し、例外的に養子縁組を許可したところ、現地の人権団体「アイ・オブ・ザ・チャイルド(Eye of the Child)」は、59の人権団体と共に、この養子縁組の差し止め命令を裁判所に求める意向を明らかにしました。

 同組織は次のように述べています。

 「金持ちだけが特別扱いを受けるのはおかしい。養子となる子供はまだ1歳で自分の意見を表現できない」

 しかし、この子供の父親はマドンナの決断を歓迎し、次のようにコメントしています。

 「この子の母親はもう死んでしまった。こんな貧しい村でこの子がまともに育つのはむつかしい。私は(自分の子供をマドンナに)養子縁組にしてもらって大変感謝している」

 母親あるいは両親を失った子供たちは、養子に迎え入れられるよりも、その地域で育てられるのが望ましいことは自明です。しかしながら、人口1300万人のこの国ではエイズが蔓延し(HIV陽性者は94万人、成人のHIV陽性率は14.1%)、伝統的な大家族の形態は崩壊しつつあります。こうなれば親を失った子供の面倒をみる親戚の存続も脆弱となります。子供たちを支援するNPOはいくつもありますが、資金不足などの問題もあり効果的に機能している状態ではないために、高いHIV陽性率が続き大勢の孤児が貧困にあえいでいるという現実があるわけです。

 マドンナは今月4日から13日まで夫のガイ・リッチと共にマラウイに滞在し、時間の大半をチャリティ活動に費やし、すでに300万ドル(約3億5千万円)の寄附を表明しています。現在のマラウイでは、寄附金を出すだけでなく、実際に貧困にあえぐ子供たちを養子として迎え入れることがひとつの解決方法であるとマドンナは考えて養子縁組を決意したものと思われます。

 子供は生まれた地域で育てられるべき、という考えに異論のある人はいないと思われます。(GINAが支援している北タイの子供たちには「里親制度」を採用しています(詳しくは「増え続ける北タイのエイズ孤児」)。「養子縁組」を考えていないのは、地域の活動がある程度機能しており、知識や情報の提供と、寄附金の授与をおこなうことにより、地域で子供たちを養育することが可能だと考えているからです)

 しかしながら、その地域で健全に育てられるかどうか分からない子供に対する養子縁組がひとつの選択肢になるという考えは理解できないわけではありません。

 マドンナの養子縁組に関して、私はどうしても分からないことがあります。

 アンジェリーナ・ジョリーがカンボジアとエチオピアで養子縁組を結んだときには、(少なくとも私の知る限り)反対意見はほとんどありませんでした。では、なぜ同じようなことをしたマドンナはこれだけ非難されるのでしょうか。

 私は、この問題を西洋人を含めて数人の知人に聞いてみたのですが、みんな「わからない」と言います。この理由が分かる方がおられましたらご教示いただければと存じます。

(谷口 恭)