HIV/AIDS関連情報

2006年10月20日(金) 中国から日本への覚醒剤密輸が発覚

 10月19日の日本経済新聞夕刊によりますと、兵庫県警と神戸税関などは、50代の中国船船員の中国人男性、30代の中国人男性、20代の日本人男性の3人を覚醒剤取締法違反容疑で現行犯逮捕したそうです。

 調べによると、この中国船船員は、9月29日、兵庫県姫路港の埠頭で、中国船で持ち込んだ覚醒剤3キロを30代の中国人男性に受け渡したとみられています。事前に情報を得ていた県警などが現場で取り押さえ、さらに船内から3キロの覚醒剤が見つかり、合計6キロの覚醒剤が押収されたことになります。

 最近は北朝鮮ルートの覚醒剤の密輸が減少してきていると言われており、それを補完するようなかたちで中国ルートが開発されているのでしょうか。日本が「覚醒剤天国」の汚名を返上できるよう、警察や税関にさらなる活躍を期待したいものです。

(谷口 恭)

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2006年10月19日(木) 中国、イギリス合同エイズプロジェクトの成果

 中国の商務省(Ministry of Commerce)とイギリス国際開発庁(British Department for International Development)が共同で2000年からおこなっていたエイズ予防プロジェクトが今月10日に終了しました。

 このプロジェクトの成果について、10月12日のCRIENGLISH.COMが報道していますのでここにご紹介いたします。

 このプロジェクトは中国南西部に位置する四川省と雲南省の37の都市のなかの83区域でおこなわれました。CRIENGLISH.COMによると、少なくとも4,500人のHIV陽性者の治療がおこなわれ、プロジェクトの予防によって13万人がHIVに感染するのを防ぐことができたと試算されています。

 プロジェクトの対象になったのは、薬物中毒者、売春婦など、HIVに感染するリスクが高いと考えられている人たちが中心です。

 薬物の静脈注射に対しては、注射器の無料配布が徹底されました。1,990万ポンド(約44億円)が投入され、128万本の注射器の配布、114万本の注射針の回収がおこなわれました。この結果、2002年の同プロジェクトの調査では、四川省、雲南省とも中毒者の半数が注射器の共用をしていたのに対し、最終的には四川省、雲南省でそれぞれ80%、86%の中毒者が共用しなくなったそうです。

 売春婦に対しては、プロジェクトのボランティアが売春婦にコンドームの使用を指導しました。この結果、四川省、雲南省の売春婦のそれぞれ53%、80%がコンドームを使用するようになったそうです。

 また、このプロジェクトでは、地域にはびこる差別に対する対策も打ち立てました。

 四川省の内陸に位置し132万人の人口を抱えるZizhongでは、1995年に違法の売血がおこなわれていましたが、地域の行政はこの問題に対して対策を講じることはありませんでした。この結果、109人がHIVに感染したと言われています。

 この売血によってHIVに感染したある男性は言います。

 「村の若いやつが僕をみるとタバコに火をつけるんだ。やつらはライターの火で風向きを確かめて、僕がいる方向から風が吹いてこないことを確認していたんだ」

 この男性は絶望のどん底にいましたが、2001年にこのプロジェクトのボランティアたちに勇気を与えられました。

 「ボランティアの人たちは、もう悩むのはやめてこれからはエイズの予防のために村人たちに正しい知識を一緒に啓発していこうって言ってくれたんだ」

 現在37歳のこの男性は、生まれ故郷で喫茶店を経営し材木の栽培をおこなっているそうです。

 「このプロジェクトが成功したのは、地域の行政やNGOなどの団体と協力し、草の根レベルで行動したことである」と、UNAIDS中国支部のスタッフはコメントしています。

 中国は2005年の時点で、75,000人のエイズ発症者を含む65万人がHIVに感染していると発表しています(ほとんどの専門家は実際の数字はこれよりも遥かに多いとみていますが)。ドラッグユーザーのなかで288,000人がHIV陽性であるとの報告もあります。

 ゴールデントライアングルに面している雲南省では、2005年の時点で40,157人のHIV陽性者が確認されています。四川省では、今年の6月までで7,647人のHIV陽性者が報告されています。

 イギリス国際開発庁は、これからも5年間にわたり合計3千万ポンド(約6,700億円)の資金協力をする予定だそうです。

(谷口 恭)

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2006年10月19日(木) ミャンマーの新しい基金は成功するか

 ミャンマーで3つの病気を克服するための国連主導の基金が新たに設立されることになり、10月13日に国連が発表しました。これを同日のロイター通信が報道しています。

 3つの病気とは、HIV/AIDS、結核、マラリアで、基金の名称は「3つの疾病対策基金(3-Diseases Fund)」です。総額は1億ドル(約119億円)で、出資した主な国はオーストラリア、イギリス、他のEU諸国です。5年間の計画で、運営は国連が監督をおこない、他に国際NGOやチャリティ、地域の保健関連機関も協力するかたちになるそうです。

 この新しい基金に期待したいところですが、疑問視する声も少なくありません。その理由はミャンマーの軍事政権にあります。実は、ミャンマーでは、昨年まで「エイズ・結核・マラリア世界基金(Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis, Malaria)」が同じような活動をおこなっていたのですが、軍事政権により同基金の活動に様々な制約がかけられたため成功したとは言い難い結果となってしまいました。

 ミャンマーでは1962年に軍事政権が誕生して以来、タイなど隣国と比べると、西洋諸国からの支援がほとんどありません。その最大の理由が、軍事政権が人権を軽視し、政治的反対勢力を抑圧してきたからです。

 しかし、軍事政権の良し悪しは別にして、これら3つの病に苦しんでいる人はかなりの数に上ります。

 マラリアは、同国の5歳以下の子供たちの最大の死因で、毎年3000人の命を奪っています。そして、薬剤耐性のマラリアは年々増えていると言われています。

 結核は、1年間に1万2千人以上の命を奪っていますが、それ以上に懸念されているのは薬剤耐性結核が急増しているということです。これは誤った結核治療がもたらした結果であるのです。(参考:2006年9月11日「「治療不能」の結核が急増」

 HIV/AIDSについては、ここ数年間でかなり予防啓発に力が入れられてきていると言われていますが、それでも現在36万人の人がHIV陽性です。(ミャンマーの人口は約5千万人、成人のHIV陽性率は1.3%、1人当たりのGDPは不明です)

 ミャンマーでは、いまだに国内でアウンサンスーチー氏の名前を出すことすらできませんし、北部のカレン族など少数民族に対する抑圧は相当ひどいものです。しかし、これら3つの病に苦しんでいる人は少なくなく、政治や軍事とは関係なく支援していくことが大切でしょう。医療の国際協力でミャンマー政権が軟化することに期待したいと思います。

(谷口 恭)

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2006年10月19日(木) 南アフリカでもHIV陽性者のための恋人紹介サービス

 以前、ジンバブエでHIV陽性者のための恋人紹介機関が発足したというニュースをお伝えしましたが(2006年8月1日「ジンバブエでHIV陽性者の恋人紹介機関発足」)、同じような試みが南アフリカ共和国でもおこなわれています。

 10月16日のロイター通信によりますと、ヨハネスブルグに在住のある男性がウェブサイトを通して、HIV陽性者の恋人を募集するサービスを始めたようです。この男性は、自身の友人ふたりから、「自分たちHIV陽性者が恋人を見つけるのは不可能だ」、との意見を聞いたことがきっかけとなりこのサービスを始めたといいます。

 ジンバブエ、南アフリカとも応募する異性がHIV陽性かどうかは明らかにされていませんが、以前このコーナーでお伝えしたインドのグジャラート州で開催されたカップリング・パーティでは参加者は男性も女性もHIV陽性者でした。(2006年10月7日「インドのHIVカップル」

 性行為はコンドームをしていれば問題ありませんし、出産にしても最新技術をもってすればかなりの確率で母子感染を防げますから、理屈の上では、HIV陽性であっても恋人を見つけにくいことはないのかもしれませんが、実際にはスティグマがはびこっているために恋人が見つからないという現状があるのでしょう。

 応募する相手をHIV陽性とするかどうかは別にして、GINAでも将来的にこのような試みを検討したいと思います。

(谷口 恭)

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2006年10月19日(木) 中国、売春婦へのエイズ予防教育の波紋

 中国での売春産業は1949年の共産主義革命以降大きく減少しましたが、改革開放政策に移行しはじめた1980年代初頭あたりから再び栄えだしたと言われています。現在でも売買春は違法ですが、これが中国のHIV/AIDS増加の主な原因となっており、実際中国のHIV感染で最も多いのが性行為による感染です。(ただし2位の薬物の静脈注射とそれほど差はありません)

 以前このコーナーで、重慶の画期的なエイズ予防対策をご紹介しましたが(2006年9月13日「重慶の娯楽施設でコンドームを配布」)、黒竜江省でも地域の行政が中心となった新しい試みがおこなわれています。

 10月17日のCHINA DAILYによりますと、黒竜江省哈爾浜(ハルビン)の公立保健関連機関(The Harbin Disease Prevention and Control Centre's Aids Prevention and Control Institute)が、地域の売春婦を対象にエイズ予防の講習会を開き、これまでに180人以上の売春婦が参加したそうです。

 10月11日におこなわれた3回目の講習会では、50人以上の売春婦に加え、彼女らが働く風俗店の店長も参加し、エイズの予防、コンドームの重要性と適切な使い方などについての講習があったようです。

 講習終了後、この保健機関はコンドームが入った箱を無料で出席者に配布し、その箱には質問があればすぐに問い合わせができるように、この機関の電話番号が記載されているそうです。

 売春が違法行為である共産主義の中国で、公的な機関がこのような施策を打ち出したことに驚きますが、やはり波紋は広がっているようです。

 「(このような講習会を開けば)非合法の売春業界を認めることになる」、さらには「売春を奨励することになりかねない」、という声もあるようです。

 特に地元警察は強い反対の姿勢を見せています。黒竜江省に限らず、中国の多くの地域では、「コンドームを所持している」という理由で売春婦を逮捕し抑留しているわけですから、こういった政策に反対するのは当然でしょう。

 10月15日のロイター通信によりますと、ある地元警察の幹部は、「教育はたしかに様々な形でおこなうことができる。しかしこのような講習を認めるわけにはいかない」、と述べています。

 しかし地域住民の多くはこの政策に理解を示しているようです。地元のメディアHarbin Dailyによると、ある地域住民は、「売春婦が存在し、それを警察が抑制できていないのは事実。ならばその結果を受け止め現実的に対処するほうがいい」、と述べているそうです。

 実際に講習をおこなった保健機関のある幹部は次のようにコメントしています。

 「(非合法だからといって)売春婦を無視するのは無責任だ。彼女らはHIVや他の性感染症のハイリスクグループのひとつであるのだから。彼女たちが存在する以上、我々は必要な知識を伝える責任がある。それに、このような講習会を開いたのは我々が初めてではない。北京や上海ではすでにおこなわれていることだ」

 この波紋は、売春を合法化しようとの動きにもつながっているようです。

 中国性科学協会(China Sexology Association)に所属する性科学者のFang Qiang氏は言います。

 「結果として何らかの悪影響を与えることになったとしても、現在の中国が抱えている問題に正面から向き合い、HIVや他の性感染症の蔓延を最大限に抑制するためには、売春の合法化が必要だ。我々は二つの悪のどちらかましな方を選ぶべきなのである」

 警察が主張しているような、「売春婦は社会には存在しないはずだから売春婦に対する啓発はすべきでない」などという考えをしていれば、いずれ国家に大きなダメージを与えることになるのは必至です。共産主義の中国で実際に売春が合法化されることになるとは思えませんが、この性科学者が言うように、ふたつの悪のましな方を選択するというのは現実を見据えた対応であると言えるでしょう。

 それにしても、中国でこのようなことが堂々と発言できるようになったということに驚かされます。

(谷口 恭)

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