HIV/AIDS関連情報
2006年10月14日(土) オーストラリア、HIVを含めた性感染症が急増
このウェブサイトで何度も述べているように、日本のマスコミが言っている「先進国でHIVが増えているのは日本だけ」というのはまったくの誤りで、韓国やシンガポールといった他のアジアの先進国でも新規感染の増加は問題視されています。そして、アジア(太平洋)諸国で、もうひとつ忘れてはならない先進国があります。それがオーストラリアです。
10月12日にオーストラリアの2005年のHIV新規感染者数が発表され、同日のNEWS.COM.AUが報道しています。
2005年に新たにHIV陽性と診断されたのは928人で、これは2004年からみると9.3%の増加、2000年の656人からみると、なんと41%も増加していることになります。地域別でみると、最も増加率が高いのがクイーンズランド州で48%、以下ヴィクトリア州40%、南オーストラリア州34%、ニューサウスウェールズ州20%、と続きます。
他の性感染症もみてみましょう。
淋病の昨年の感染者は8,015人で、これは10年前の2倍となります。梅毒は2,203人で、2001年は1,851人ですから4年間で19%の増加となります。
クラミジアは、いまやオーストラリアで最も頻度の高い性感染症で、昨年は41,300人が罹患しています。2004年からは14%の上昇で、10年間でおよそ4倍にもなっています。男性にも女性にも、そしてあらゆる年齢層で増加しているのが特徴です。
淋病、梅毒、HIVは主にゲイの間で蔓延していますが、異性愛者の間にも少なくないようです。あるエイズの研究施設のスタッフは、「HIVの治療薬が進歩したせいで、性行動における予防意識が減少しているかもしれない・・・」、と述べています。
オーストラリア政府は、昨年1年間で、1,250万オーストラリアドル(約11億2,500万円)をかけて予防・調査などおこないました。しかし、このまま感染者が増加し続けると、いずれ5億オーストラリアドル(約450億円)の薬剤費が必要になるであろうとみられているようです。
(谷口 恭)
10月12日にオーストラリアの2005年のHIV新規感染者数が発表され、同日のNEWS.COM.AUが報道しています。
2005年に新たにHIV陽性と診断されたのは928人で、これは2004年からみると9.3%の増加、2000年の656人からみると、なんと41%も増加していることになります。地域別でみると、最も増加率が高いのがクイーンズランド州で48%、以下ヴィクトリア州40%、南オーストラリア州34%、ニューサウスウェールズ州20%、と続きます。
他の性感染症もみてみましょう。
淋病の昨年の感染者は8,015人で、これは10年前の2倍となります。梅毒は2,203人で、2001年は1,851人ですから4年間で19%の増加となります。
クラミジアは、いまやオーストラリアで最も頻度の高い性感染症で、昨年は41,300人が罹患しています。2004年からは14%の上昇で、10年間でおよそ4倍にもなっています。男性にも女性にも、そしてあらゆる年齢層で増加しているのが特徴です。
淋病、梅毒、HIVは主にゲイの間で蔓延していますが、異性愛者の間にも少なくないようです。あるエイズの研究施設のスタッフは、「HIVの治療薬が進歩したせいで、性行動における予防意識が減少しているかもしれない・・・」、と述べています。
オーストラリア政府は、昨年1年間で、1,250万オーストラリアドル(約11億2,500万円)をかけて予防・調査などおこないました。しかし、このまま感染者が増加し続けると、いずれ5億オーストラリアドル(約450億円)の薬剤費が必要になるであろうとみられているようです。
(谷口 恭)
2006年10月14日(土) 中国、B型肝炎ウイルスのキャリアが強制退学に
日本の隣に位置していながら、中国では、日本人からは考えられないような事件がときおり報道されます。このウェブサイトでも度々取り上げた河南省の「エイズ村」にも驚かされましたが、またもやとんでもない事件が報道されました。
なんと、B型肝炎ウイルスのキャリア(ウイルスを保有しているが発病はしていない人)の子供たちが学校から強制的に退学させられたというのです。
10月11日のCHIAN DAILYによりますと、新疆ウイグル(Xinjiang Uygur)自治区のウルムチ(烏魯木斉、Urumqi)のいくつかの中学校で、合計19人の生徒が「B型肝炎ウイルスのキャリアである」という理由だけで、強制退学させられたそうです。
退学させられた生徒のひとりは言います。
「この退学命令書を手渡されてどこの学校にも行けなくなった。今は絶望以外に何も感じることができない」
B型肝炎ウイルスの感染経路は、HIVと同様、性感染と血液感染です。しかし、キャリアとなる人の大半は母子感染によって感染しています。現在中国にはおよそ1億2千万人のキャリアがいると言われています。
「900人以上の他の生徒の安全のためにB型肝炎ウイルスのキャリアの生徒を退学させざるをえなかった」と、ある学校関係者は述べています。また別の関係者は、地元メディアの取材に対し、3月にウルムチ教育庁が発表した報告を示しながら、「我々はこの規則に従がって措置をとったまでだ」、とコメントしました。その報告には、「慢性の伝染病を有している者を退学させることができる」、と書かれているそうです。
ウルムチ教育庁のある幹部は、匿名という条件でメディアに次のようにコメントしています。「我々の"DNA検査の結果"で、キャリアが感染を蔓延させる可能性のあることが分かった」
なんという非科学的なコメントなのでしょう。"DNA検査の結果"というものがよく分かりませんが、おそらく体内で複製されるB型肝炎ウイルスのDNAが何らかの検査で増幅していたことを言っているのでしょう。
しかし、もちろん中国にも正常に思考できる人はいます。
ある弁護士は、「学校がとった退学という措置は違法である。たとえB型肝炎ウイルスのキャリアでも学校に行く権利がある」、と述べています。
中国保健省のスポークスマンは、「これは偏見だ。すべての生徒は入院が必要でない限り学校に行く権利がある」、とコメントしています。
****************
日本のB型肝炎ウイルスのキャリアは現在およそ120万人と言われています。最近はかなり減少してきましたが、以前は日本でもキャリアに対する許しがたい差別があったのは事実です。現在の日本は母子感染対策を徹底していますから、新たにキャリアが誕生することはほとんどありませんが、中国ではまだまだ対策が不充分なのでしょう。
B型肝炎という病気は、母子感染対策を徹底させれば、数十年後には絶滅させることも可能ではないか、と私は考えていますが、それを実現させるには世界規模での対策をおこなう必要があります。残念なことに、このニュースが物語っているように、B型肝炎ウイルスに対する知識が欠落している国があります。
日本でも医療機関での対策は徹底していますが、一般の方の間にはまだ正しい知識が充分に普及していないように思うことがあります。中国やタイで性交渉によってB型肝炎ウイルスに感染し、急性肝炎で入院、さらにはそれが劇症化し、命を失う日本人がいるのが現状なのですから。
(谷口 恭)
なんと、B型肝炎ウイルスのキャリア(ウイルスを保有しているが発病はしていない人)の子供たちが学校から強制的に退学させられたというのです。
10月11日のCHIAN DAILYによりますと、新疆ウイグル(Xinjiang Uygur)自治区のウルムチ(烏魯木斉、Urumqi)のいくつかの中学校で、合計19人の生徒が「B型肝炎ウイルスのキャリアである」という理由だけで、強制退学させられたそうです。
退学させられた生徒のひとりは言います。
「この退学命令書を手渡されてどこの学校にも行けなくなった。今は絶望以外に何も感じることができない」
B型肝炎ウイルスの感染経路は、HIVと同様、性感染と血液感染です。しかし、キャリアとなる人の大半は母子感染によって感染しています。現在中国にはおよそ1億2千万人のキャリアがいると言われています。
「900人以上の他の生徒の安全のためにB型肝炎ウイルスのキャリアの生徒を退学させざるをえなかった」と、ある学校関係者は述べています。また別の関係者は、地元メディアの取材に対し、3月にウルムチ教育庁が発表した報告を示しながら、「我々はこの規則に従がって措置をとったまでだ」、とコメントしました。その報告には、「慢性の伝染病を有している者を退学させることができる」、と書かれているそうです。
ウルムチ教育庁のある幹部は、匿名という条件でメディアに次のようにコメントしています。「我々の"DNA検査の結果"で、キャリアが感染を蔓延させる可能性のあることが分かった」
なんという非科学的なコメントなのでしょう。"DNA検査の結果"というものがよく分かりませんが、おそらく体内で複製されるB型肝炎ウイルスのDNAが何らかの検査で増幅していたことを言っているのでしょう。
しかし、もちろん中国にも正常に思考できる人はいます。
ある弁護士は、「学校がとった退学という措置は違法である。たとえB型肝炎ウイルスのキャリアでも学校に行く権利がある」、と述べています。
中国保健省のスポークスマンは、「これは偏見だ。すべての生徒は入院が必要でない限り学校に行く権利がある」、とコメントしています。
****************
日本のB型肝炎ウイルスのキャリアは現在およそ120万人と言われています。最近はかなり減少してきましたが、以前は日本でもキャリアに対する許しがたい差別があったのは事実です。現在の日本は母子感染対策を徹底していますから、新たにキャリアが誕生することはほとんどありませんが、中国ではまだまだ対策が不充分なのでしょう。
B型肝炎という病気は、母子感染対策を徹底させれば、数十年後には絶滅させることも可能ではないか、と私は考えていますが、それを実現させるには世界規模での対策をおこなう必要があります。残念なことに、このニュースが物語っているように、B型肝炎ウイルスに対する知識が欠落している国があります。
日本でも医療機関での対策は徹底していますが、一般の方の間にはまだ正しい知識が充分に普及していないように思うことがあります。中国やタイで性交渉によってB型肝炎ウイルスに感染し、急性肝炎で入院、さらにはそれが劇症化し、命を失う日本人がいるのが現状なのですから。
(谷口 恭)
2006年10月14日(土) タイの30バーツ医療が無料になる見込み
このウェブサイトでは以前から何度も取り上げている30バーツ医療(無保険でも一回の医療費が30バーツ(約90円)ですむ制度)ですが、スラユット新内閣のモンコル(Mongkol)保健大臣が、無料化にする方針を10月12日に発表しました。
10月13日のBangkok Postによりますと、モンコル保健大臣は、国民経済社会諮問機関(NESAC、National Economic Social Advisory Council)の試算を引き合いに出し、「国民ひとりあたりの政府補助金を現在の1,695バーツから2,089バーツ(約6,300円)にすれば資金不足は解決する。病院の経営には影響を与えない。また、きちんと医療保険を払っている人が損をすることもない」、という旨を発表したようです。
タイ開発調査機構(TDRI, Thailand Development Research Institute)は、「病院で支払う金額が無料になって患者が増え、病院のスタッフの業務は増えることが予想されるが、全体としては大きな問題にはならない」、とコメントしています。
*************
タイで医療保険に入っている人のデータは見たことがありませんが、現地のある医療従事者は、保険代を支払っているのはおそらく国民の1~2割程度ではないか、と言います。かたや保険代をきちんと支払い、かたや無料で医療が受けられると考えると、支払うだけ損と考える人がいるかもしれませんが、実際はそうでもありません。
これまで30バーツ医療が実施されていた病院がそのまま無料医療をおこなうことになると思われますが、すべての病院が対象となるわけではありません。公立病院と一部の私立病院だけでの実施ですし、一日のうち何人まで、と制限を設けているところが多いのが実情です。他の患者さんよりも待たされて、薬を受け取ったり、支払いを済ませたりするのに長い列をつくらなければならないという問題もあります。また、どんな病気でも診てもらえるわけでもありません。(ちなみにエイズの場合は、抗HIV薬については30バーツ医療でまかなわれるケースが多いのですが、それ以外の薬がどれだけ支給されるか、あるいは生活保護や病院までの交通費の支給などについては、地域によって様々です)
旅行でタイに行き、突然の病気や怪我で現地の病院に行かれた方も少なくないと思われますが、外国人の旅行者が受診するような大きくてきれいな病院はたいてい私立病院で、そのような病院はこの医療政策の対象になっていません。一般的なタイの公立病院というのは、ひとつの病室が体育館のような広さで、数十人の様々な病気をもった患者さんがベッドに横たわっています。なかにはベッドが足らなくて床に寝ている患者さんもおられます。
最先端の医療を希望する人は保険料をきちんと支払い、貧困で保険料が支払えない人は、「高度な医療の恩恵に預かることはできないけれども最低限の医療は受けられる」というシステムがタイの現在の医療制度というわけです。ですから、モンコル保健大臣がコメントしているように、保険料をきちんと支払っている人たちから不公平感はそれほどでないのではないか、と私は思います。
格差が広がりつつあるのではないかと言われている日本でも、いずれこのような制度を導入すべき時代が来るかもしれません。そのとき国民は何を思うのでしょうか。
(谷口 恭)
10月13日のBangkok Postによりますと、モンコル保健大臣は、国民経済社会諮問機関(NESAC、National Economic Social Advisory Council)の試算を引き合いに出し、「国民ひとりあたりの政府補助金を現在の1,695バーツから2,089バーツ(約6,300円)にすれば資金不足は解決する。病院の経営には影響を与えない。また、きちんと医療保険を払っている人が損をすることもない」、という旨を発表したようです。
タイ開発調査機構(TDRI, Thailand Development Research Institute)は、「病院で支払う金額が無料になって患者が増え、病院のスタッフの業務は増えることが予想されるが、全体としては大きな問題にはならない」、とコメントしています。
*************
タイで医療保険に入っている人のデータは見たことがありませんが、現地のある医療従事者は、保険代を支払っているのはおそらく国民の1~2割程度ではないか、と言います。かたや保険代をきちんと支払い、かたや無料で医療が受けられると考えると、支払うだけ損と考える人がいるかもしれませんが、実際はそうでもありません。
これまで30バーツ医療が実施されていた病院がそのまま無料医療をおこなうことになると思われますが、すべての病院が対象となるわけではありません。公立病院と一部の私立病院だけでの実施ですし、一日のうち何人まで、と制限を設けているところが多いのが実情です。他の患者さんよりも待たされて、薬を受け取ったり、支払いを済ませたりするのに長い列をつくらなければならないという問題もあります。また、どんな病気でも診てもらえるわけでもありません。(ちなみにエイズの場合は、抗HIV薬については30バーツ医療でまかなわれるケースが多いのですが、それ以外の薬がどれだけ支給されるか、あるいは生活保護や病院までの交通費の支給などについては、地域によって様々です)
旅行でタイに行き、突然の病気や怪我で現地の病院に行かれた方も少なくないと思われますが、外国人の旅行者が受診するような大きくてきれいな病院はたいてい私立病院で、そのような病院はこの医療政策の対象になっていません。一般的なタイの公立病院というのは、ひとつの病室が体育館のような広さで、数十人の様々な病気をもった患者さんがベッドに横たわっています。なかにはベッドが足らなくて床に寝ている患者さんもおられます。
最先端の医療を希望する人は保険料をきちんと支払い、貧困で保険料が支払えない人は、「高度な医療の恩恵に預かることはできないけれども最低限の医療は受けられる」というシステムがタイの現在の医療制度というわけです。ですから、モンコル保健大臣がコメントしているように、保険料をきちんと支払っている人たちから不公平感はそれほどでないのではないか、と私は思います。
格差が広がりつつあるのではないかと言われている日本でも、いずれこのような制度を導入すべき時代が来るかもしれません。そのとき国民は何を思うのでしょうか。
(谷口 恭)
2006年10月13日(金) エリトリアでFGM禁止法が制定されるか
FGMという言葉を聞いたことがありますでしょうか。これはfemale genital mutilationの略語で、日本語では女性器切除、もしくは女性割礼と呼ばれています。主に赤道沿いのアフリカ諸国でおこなわれている慣習で、FGMの対象となるのは生後1週間から初潮が始まる前の女子です。性行為の快感を抑制し、人口増加に歯止めをかけるのが目的と言われており、これらの国では2000年以上も前からおこなわれています。文化によってはFGMにより結婚まで処女が守られ、初夜の際、夫が自力で花嫁の陰部を切り開かなければならないとされているところもあります。
ときに先進国の価値観の強要は貴重な文化を後退させることになりかねませんが、FGMは例外と考えるべきでしょう。医学的にみて、FGMの弊害は少なくありません。切除部位を誤れば大量出血につながりますし、感染症の問題もあります。滅菌された無菌の道具を使っているわけではないからです。そして、現在FGMに伴う問題で最も重要視されているのがHIV感染です。
エリトリアというアフリカの小国をご存知でしょうか。エリトリアは1993年にエチオピアから独立したばかりのアフリカ東北部に位置する紅海に面した国で、人口はおよそ440万人、ひとりあたりのGDPは約700ドル(約82,000円)です。UNAIDSの2005年のデータでは、HIV陽性者は59,000人、成人の陽性率は2.4%となっています。
そのエリトリアの女性運動家たちが、FGMを禁止するための社会運動をおこなっています。10月4日のIRINニュースがそれを取り上げていますので、ここにご紹介いたします。
現在、94%のエリトリアの女性がFGMを経験していると言われています。FGMが文化的に正しいものと思い込んでいる女性も少なくありません。
エリトリア国家女性同盟(National Union of Eritrean Women)は、宗教の指導者や政府官僚などに対してFGMを禁止するよう訴えかけています。議会に対してはFGMを禁止する法案を制定するよう働きかけ、司法省とはFGM禁止の立法化について協議しています。また、政策提言(これを「アドボカシー」と言います)をおこなう数百人の活動家を養成し、パンフレットやビデオなどの作成もおこなっています。
一言でFGMといっても切除の程度は様々です。高地に住む農家の女性は1歳になる頃にFGMを経験しますが、これはクリトリス、あるいは小陰唇の一部のみを切除する比較的軽いタイプのものです。これに対し、低地に住む女性たちは7歳頃に、性行為防止のため、クリトリス、小陰唇、大陰唇の一部を切除され、さらに性器の縫合までもがおこなわれます。(尿や月経血を排出するための小さな穴は残されます)
アフリカ同盟(African Union)は、「FGMは何百万人もの少女や女性を傷つけており、人権と尊厳の冒涜・侵害である」、と主張し、同盟国に対しFGMを禁止するよう呼びかけています。人権擁護の活動家らも、各国の政府に対してFGMを禁止するよう働きかけ、これまでに少なくとも16のアフリカ諸国でFGMが禁止されるに至りました。2005年11月には、FGMの禁止を訴えるマプト条約議定書(Maputo Protocol)も施行されています。
ユニセフを含む複数の機関は、就学年齢に達した子供たちや男性に対しても呼びかけをおこなっています。ユニセフによれば、FGM反対の若い活動家やFGM反対運動をおこなうクラブも各地で誕生しているようです。
IRINニュースによりますと、FGMは現在でも少なくとも28の国々で行われています。ユニセフのデータでは、世界中で1億4千万の少女や女性たちがFGMを経験しているそうです。赤道沿いのアフリカ諸国以外では、中東諸国や移民の多い国々にもこの悪しき慣習が残っています。
(大和さちよ・谷口 恭)
ときに先進国の価値観の強要は貴重な文化を後退させることになりかねませんが、FGMは例外と考えるべきでしょう。医学的にみて、FGMの弊害は少なくありません。切除部位を誤れば大量出血につながりますし、感染症の問題もあります。滅菌された無菌の道具を使っているわけではないからです。そして、現在FGMに伴う問題で最も重要視されているのがHIV感染です。
エリトリアというアフリカの小国をご存知でしょうか。エリトリアは1993年にエチオピアから独立したばかりのアフリカ東北部に位置する紅海に面した国で、人口はおよそ440万人、ひとりあたりのGDPは約700ドル(約82,000円)です。UNAIDSの2005年のデータでは、HIV陽性者は59,000人、成人の陽性率は2.4%となっています。
そのエリトリアの女性運動家たちが、FGMを禁止するための社会運動をおこなっています。10月4日のIRINニュースがそれを取り上げていますので、ここにご紹介いたします。
現在、94%のエリトリアの女性がFGMを経験していると言われています。FGMが文化的に正しいものと思い込んでいる女性も少なくありません。
エリトリア国家女性同盟(National Union of Eritrean Women)は、宗教の指導者や政府官僚などに対してFGMを禁止するよう訴えかけています。議会に対してはFGMを禁止する法案を制定するよう働きかけ、司法省とはFGM禁止の立法化について協議しています。また、政策提言(これを「アドボカシー」と言います)をおこなう数百人の活動家を養成し、パンフレットやビデオなどの作成もおこなっています。
一言でFGMといっても切除の程度は様々です。高地に住む農家の女性は1歳になる頃にFGMを経験しますが、これはクリトリス、あるいは小陰唇の一部のみを切除する比較的軽いタイプのものです。これに対し、低地に住む女性たちは7歳頃に、性行為防止のため、クリトリス、小陰唇、大陰唇の一部を切除され、さらに性器の縫合までもがおこなわれます。(尿や月経血を排出するための小さな穴は残されます)
アフリカ同盟(African Union)は、「FGMは何百万人もの少女や女性を傷つけており、人権と尊厳の冒涜・侵害である」、と主張し、同盟国に対しFGMを禁止するよう呼びかけています。人権擁護の活動家らも、各国の政府に対してFGMを禁止するよう働きかけ、これまでに少なくとも16のアフリカ諸国でFGMが禁止されるに至りました。2005年11月には、FGMの禁止を訴えるマプト条約議定書(Maputo Protocol)も施行されています。
ユニセフを含む複数の機関は、就学年齢に達した子供たちや男性に対しても呼びかけをおこなっています。ユニセフによれば、FGM反対の若い活動家やFGM反対運動をおこなうクラブも各地で誕生しているようです。
IRINニュースによりますと、FGMは現在でも少なくとも28の国々で行われています。ユニセフのデータでは、世界中で1億4千万の少女や女性たちがFGMを経験しているそうです。赤道沿いのアフリカ諸国以外では、中東諸国や移民の多い国々にもこの悪しき慣習が残っています。
(大和さちよ・谷口 恭)
2006年10月10日(火) 少年一人だけの授業
中国の北東に位置する遼寧(Liaoning)省Kuandianの人里離れた村に、教師一人と生徒一人の世界で一番小さな小学校があります。
10月5日のCHINA Dailyがこの小学校のルポをおこなっていますので簡単にご紹介したいと思います。
その生徒はHIV陽性の9歳の男の子で、名前をリアンリアン君(仮名)と言います。この学校に通い始めて2年になります。
リアンリアン君の父親は外国船の乗組員で、10年前にHIVに感染していることが分かりました。次いで母親が父親から感染し、リアンリアン君は母子感染によって感染しました。母親がHIVに感染していることは分かっていましたが、HIVの母子感染を阻止する医療を受けることはできませんでした。
リアンリアン君と両親はこれまで健康な生活を送ってきましたが、エイズの認識が高まるにつれて周りの人々はリアンリアン君一家を避けるようになりました。一緒に食事をしたり泳いだりという行為ではHIVが感染することはありませんが、これを周囲に理解してもらうのは簡単ではありません。HIVの感染ルートが、注射針の共有や性行為、母子感染であることがこの村ではほとんど知られていないのです。
リアンリアン君は、最初は他の子供と同じように普通の小学校に通い始めましたが、父兄が自分たちの子供にリアンリアン君を避けるように指導しました。一緒に授業を受けることで感染することはないということを誰も信じようとはしません。リアンリアン君は、結局3日間で学校を離れなくてはなりませんでした。
しかし、行政はリアンリアン君の教育を受ける権利を認め、一人の教師と一人の生徒からなる小学校をつくることを決めました。その村で定年退職をした文化自治会長、ワン・リジュン(Wang Lijun)氏がリアンリアン君の先生となりました。ワン先生は、12年間教師を勤めたことがあり、エイズに対する正しい知識を持っています。しかし、それでもリアンリアン君の専属教師を始めるのに数日間をかけて自分の妻を説得しなければなりませんでした。
世界で一番小さい学校は2004年11月に始まりました。ワン先生はリアンリアン君に中国語、算数、体育、芸術を教えていますが、リアンリアン君に教えるのは簡単でないことにすぐに気付きました。ワン先生は言います。
「リアンリアン君はとても賢くてすぐに新しいことを覚えてしまう。他の子供たちがいないからスポーツなどはすぐに興味を失ってしまう」
ワン先生はリアンリアン君に興味を持ってもらうために新しいゲームや教育方法を毎日夜遅くまで考えるようになりました。スポーツ施設は限られており、他に生徒がいないため、二人は卓球をよくおこないます。
リアンリアン君にとって今後最も重要なのは健康です。両親は昨年エイズを発症し、現在は抗HIV薬の投与を受けています。リアンリアン君はまだエイズを発症していませんが、中国では12年以上生き延びたHIV感染者がいません。
リアンリアン君が小学校を卒業してからのことも心配です。教師一人、生徒一人の中学校の設立は現実的に不可能であり、今後の対策を急がなければなりません。
なにかと「人権が認められない」と非難されることの多い中国ですが、ひとりの少年のためにここまで行政が積極的に支援することは大変素晴らしいことだと言えるでしょう。しかし、元をただせば、「一緒に授業を受けるだけで感染する」などと馬鹿げた噂が流布していることが一番の問題であるわけで、正しい知識を普及させスティグマをなくすことができれば、生徒一人の学校は不要となるはずです。
(大和さちよ・谷口 恭)
10月5日のCHINA Dailyがこの小学校のルポをおこなっていますので簡単にご紹介したいと思います。
その生徒はHIV陽性の9歳の男の子で、名前をリアンリアン君(仮名)と言います。この学校に通い始めて2年になります。
リアンリアン君の父親は外国船の乗組員で、10年前にHIVに感染していることが分かりました。次いで母親が父親から感染し、リアンリアン君は母子感染によって感染しました。母親がHIVに感染していることは分かっていましたが、HIVの母子感染を阻止する医療を受けることはできませんでした。
リアンリアン君と両親はこれまで健康な生活を送ってきましたが、エイズの認識が高まるにつれて周りの人々はリアンリアン君一家を避けるようになりました。一緒に食事をしたり泳いだりという行為ではHIVが感染することはありませんが、これを周囲に理解してもらうのは簡単ではありません。HIVの感染ルートが、注射針の共有や性行為、母子感染であることがこの村ではほとんど知られていないのです。
リアンリアン君は、最初は他の子供と同じように普通の小学校に通い始めましたが、父兄が自分たちの子供にリアンリアン君を避けるように指導しました。一緒に授業を受けることで感染することはないということを誰も信じようとはしません。リアンリアン君は、結局3日間で学校を離れなくてはなりませんでした。
しかし、行政はリアンリアン君の教育を受ける権利を認め、一人の教師と一人の生徒からなる小学校をつくることを決めました。その村で定年退職をした文化自治会長、ワン・リジュン(Wang Lijun)氏がリアンリアン君の先生となりました。ワン先生は、12年間教師を勤めたことがあり、エイズに対する正しい知識を持っています。しかし、それでもリアンリアン君の専属教師を始めるのに数日間をかけて自分の妻を説得しなければなりませんでした。
世界で一番小さい学校は2004年11月に始まりました。ワン先生はリアンリアン君に中国語、算数、体育、芸術を教えていますが、リアンリアン君に教えるのは簡単でないことにすぐに気付きました。ワン先生は言います。
「リアンリアン君はとても賢くてすぐに新しいことを覚えてしまう。他の子供たちがいないからスポーツなどはすぐに興味を失ってしまう」
ワン先生はリアンリアン君に興味を持ってもらうために新しいゲームや教育方法を毎日夜遅くまで考えるようになりました。スポーツ施設は限られており、他に生徒がいないため、二人は卓球をよくおこないます。
リアンリアン君にとって今後最も重要なのは健康です。両親は昨年エイズを発症し、現在は抗HIV薬の投与を受けています。リアンリアン君はまだエイズを発症していませんが、中国では12年以上生き延びたHIV感染者がいません。
リアンリアン君が小学校を卒業してからのことも心配です。教師一人、生徒一人の中学校の設立は現実的に不可能であり、今後の対策を急がなければなりません。
なにかと「人権が認められない」と非難されることの多い中国ですが、ひとりの少年のためにここまで行政が積極的に支援することは大変素晴らしいことだと言えるでしょう。しかし、元をただせば、「一緒に授業を受けるだけで感染する」などと馬鹿げた噂が流布していることが一番の問題であるわけで、正しい知識を普及させスティグマをなくすことができれば、生徒一人の学校は不要となるはずです。
(大和さちよ・谷口 恭)