HIV/AIDS関連情報
2006年10月28日(土) 関空で5,600錠の覚醒剤押収
10月27日の共同通信などによりますと、27日、大阪府警関西空港署と大阪税関関西空港税関支署は、覚醒剤の錠剤5,600錠を密輸したとして、英国籍の41歳の男性とポーランド国籍の31歳の女性を覚醒剤取締法違反容疑で逮捕しました。
この事件で注目すべきなのは、覚醒剤の「錠剤」が押収されているということでしょう。日本は、かつては覚醒剤(ヒロポン)が合法であったという世界にも類をみない珍しい国で、現在でも「覚醒剤天国」と呼ばれていますが、現在流通しているのは粉末か結晶が大半で錠剤はレアだからです。
報道によりますと、押収された錠剤は、直径7ミリ、重さ約160ミリグラムで、ピンクと青の2種類だそうです。2種類の成分はどちらも同じとしか報道されておらず、メタンフェタミンなのかアンフェタミンなのかは分かりません。容疑者はオランダで入手したと供述しているそうです。
最近、関西空港では薬物対策に以前よりも力を入れており、税関でかなりしつこく尋問されることが多く、普通の旅行者からは苦情も出ているそうです。しかしながら、その成果がこのような密輸摘発につながっているのですから、善良な市民にも理解してもらいたいものです。
今回の事件が示しているように、外国人は日本の税関を甘くみているという問題もあります。そして、同時に警察には、船舶での密航や国内での製造(覚醒剤は大学の研究室程度の設備があれば簡単につくれます)の摘発にも力を注いでもらいたいものです。こういうことになら多少高額の税金が投入されても誰も文句は言わないでしょう。
(谷口 恭)
この事件で注目すべきなのは、覚醒剤の「錠剤」が押収されているということでしょう。日本は、かつては覚醒剤(ヒロポン)が合法であったという世界にも類をみない珍しい国で、現在でも「覚醒剤天国」と呼ばれていますが、現在流通しているのは粉末か結晶が大半で錠剤はレアだからです。
報道によりますと、押収された錠剤は、直径7ミリ、重さ約160ミリグラムで、ピンクと青の2種類だそうです。2種類の成分はどちらも同じとしか報道されておらず、メタンフェタミンなのかアンフェタミンなのかは分かりません。容疑者はオランダで入手したと供述しているそうです。
最近、関西空港では薬物対策に以前よりも力を入れており、税関でかなりしつこく尋問されることが多く、普通の旅行者からは苦情も出ているそうです。しかしながら、その成果がこのような密輸摘発につながっているのですから、善良な市民にも理解してもらいたいものです。
今回の事件が示しているように、外国人は日本の税関を甘くみているという問題もあります。そして、同時に警察には、船舶での密航や国内での製造(覚醒剤は大学の研究室程度の設備があれば簡単につくれます)の摘発にも力を注いでもらいたいものです。こういうことになら多少高額の税金が投入されても誰も文句は言わないでしょう。
(谷口 恭)
2006年10月27日(金) タイ、売春婦の睡眠薬強盗が流行
パタヤのストリート・ガールが観光客のホテルで客に睡眠薬を飲ませ、金銭を盗んで逃亡したという事件を以前にお伝えしましたが(「タイの売春婦が観光客に睡眠薬強盗」2006年6月19日)、最近次々と同じような事件が起こっているようです。
10月25日のバンコク週報によりますと、10月22日、バンコク都内バンケン区のアパートの一室で意識不明となった男性3人が病院に搬送されるという事件が起きたそうです。被害者は35歳、36歳、39歳のインド人男性で、1人はバスタオルを腰に巻いており、あとの2人は、ズボンは履いていたものの上半身は裸だったもようです。
アパートの従業員によると、男性3人と女性3人が深夜3時ごろ、このアパートを訪れ、2部屋にチェックインしたそうです。男性は全員身なりがよく、女性たちは30歳前後の美人タイプだったといいます。翌朝、女性3人が慌てて帰って行ったことから不審に思い、部屋を調べたところ、男性3人が倒れているのを見つけ、急いで病院と警察に連絡したとのことです。
被害者はバンコク都内ラチャダピセク通りのパブで犯人の女性3人と知り合い、閉店後、飲み直しとセックス目的でホテルに誘ったところ、睡眠薬入りの酒で祝杯を上げることになったそうです。
また、23日には、パタヤで50歳と42歳のインド人旅行者が、部屋に連れ込んだ女性に睡眠薬入りのビールを飲まされ、意識不明
となり病院に搬送されたそうです。女性とはバーで知り合ったようで、金のネックレスと指輪、携帯電話、現金8,000バーツ(約24,000円)と5,200ドル(約62万円)を盗まれたそうです。
GINAが最近おこなった調査(「タイのフリーの売春婦(Independent Sex Workers)について」)からも分かるように、風俗店に所属する売春婦よりも、パブやバーなどにたむろし、気に入った男性にだけ身体を売るフリーの売春婦の方が、顧客と親密な関係になりやすいという傾向があります。GINAの調査では、それが性感染症の罹患につながることを指摘しましたが、それ以前にこういう危険性もあることは覚えておいた方がいいでしょう。
(谷口 恭)
10月25日のバンコク週報によりますと、10月22日、バンコク都内バンケン区のアパートの一室で意識不明となった男性3人が病院に搬送されるという事件が起きたそうです。被害者は35歳、36歳、39歳のインド人男性で、1人はバスタオルを腰に巻いており、あとの2人は、ズボンは履いていたものの上半身は裸だったもようです。
アパートの従業員によると、男性3人と女性3人が深夜3時ごろ、このアパートを訪れ、2部屋にチェックインしたそうです。男性は全員身なりがよく、女性たちは30歳前後の美人タイプだったといいます。翌朝、女性3人が慌てて帰って行ったことから不審に思い、部屋を調べたところ、男性3人が倒れているのを見つけ、急いで病院と警察に連絡したとのことです。
被害者はバンコク都内ラチャダピセク通りのパブで犯人の女性3人と知り合い、閉店後、飲み直しとセックス目的でホテルに誘ったところ、睡眠薬入りの酒で祝杯を上げることになったそうです。
また、23日には、パタヤで50歳と42歳のインド人旅行者が、部屋に連れ込んだ女性に睡眠薬入りのビールを飲まされ、意識不明
となり病院に搬送されたそうです。女性とはバーで知り合ったようで、金のネックレスと指輪、携帯電話、現金8,000バーツ(約24,000円)と5,200ドル(約62万円)を盗まれたそうです。
GINAが最近おこなった調査(「タイのフリーの売春婦(Independent Sex Workers)について」)からも分かるように、風俗店に所属する売春婦よりも、パブやバーなどにたむろし、気に入った男性にだけ身体を売るフリーの売春婦の方が、顧客と親密な関係になりやすいという傾向があります。GINAの調査では、それが性感染症の罹患につながることを指摘しましたが、それ以前にこういう危険性もあることは覚えておいた方がいいでしょう。
(谷口 恭)
2006年10月25日(水) 英国、性感染症クリニックが次々と閉院に
英国ヨークシャー地方東部ではHIV感染が急増しています。この影響で、性感染症を診療しているクリニックが次々と閉院する計画を明らかにしています。10月21日のBBC NEWSがこれを報道していますのでご紹介いたします。
ヨークシャーのイーストライディング地方では、成人のHIV陽性率が1997年の10人から2005年には31人と急増しています。これを受けて、この地域のふたつのプライマリケア協会が9月28日の合同会議で審議をおこない、合計6つのクリニックを来年1月から閉院することを発表しました。
この発表に対し、この地域の行政は、「これでは多くの患者さんが(遠くの)総合病院を受診しなければならなくなってしまう」、とのコメントを表明しました。
また、ある国会議員は次のように述べています。
「性感染症の罹患率が年々増加しているこの地域で一度に6つものクリニックが閉院することはたいへんな問題である。政府が性感染症の情報や検査のことをしっかりと国民に、特に若い世代に訴えてこなかった結果、こんなにもHIVを含めた性感染症が増加することになってしまった」
10月21日の時点で、今回の決定をおこなったふたつのプライマリケア協会のスタッフでコメントを表明した者はいないそうです。
HIVを含めた性感染症が急増しているのであれば、性感染症を診療するクリニックを増やす計画を立てるのが、プライマリケア医の団体であるプライマリケア協会がおこなわなければならないことのはずです。イギリスほどの先進国でこのような決議がなされたことはにわかには信じ難いことであり、ヨークシャー地方の住民だけでなく、世界中の多くの医療関係者や患者さんが幻滅することとなるでしょう。
(谷口 恭)
ヨークシャーのイーストライディング地方では、成人のHIV陽性率が1997年の10人から2005年には31人と急増しています。これを受けて、この地域のふたつのプライマリケア協会が9月28日の合同会議で審議をおこない、合計6つのクリニックを来年1月から閉院することを発表しました。
この発表に対し、この地域の行政は、「これでは多くの患者さんが(遠くの)総合病院を受診しなければならなくなってしまう」、とのコメントを表明しました。
また、ある国会議員は次のように述べています。
「性感染症の罹患率が年々増加しているこの地域で一度に6つものクリニックが閉院することはたいへんな問題である。政府が性感染症の情報や検査のことをしっかりと国民に、特に若い世代に訴えてこなかった結果、こんなにもHIVを含めた性感染症が増加することになってしまった」
10月21日の時点で、今回の決定をおこなったふたつのプライマリケア協会のスタッフでコメントを表明した者はいないそうです。
HIVを含めた性感染症が急増しているのであれば、性感染症を診療するクリニックを増やす計画を立てるのが、プライマリケア医の団体であるプライマリケア協会がおこなわなければならないことのはずです。イギリスほどの先進国でこのような決議がなされたことはにわかには信じ難いことであり、ヨークシャー地方の住民だけでなく、世界中の多くの医療関係者や患者さんが幻滅することとなるでしょう。
(谷口 恭)
2006年10月25日(水) アフリカではエイズ孤児が1,800万人に
タイでは、HIVの新規感染は減少しているがエイズ孤児(*1)はむしろ増え続けている、ということをレポートしましたが(「増え続ける北タイのエイズ孤児」2006年7月22日)、アフリカではタイよりもさらにエイズ孤児の増加が深刻化しています。
「アフリカでは効果的な対策がとられなければ2010年までにエイズ孤児が1,800万人にもなる」、国連はそのような試算をしています。10月20日のロイター通信がアフリカの現状を報道していますのでお伝えいたします。
「現在政府やその他組織がおこなっている対策では、数百万人のHIVに感染した子供たちのことが軽視されている。エイズ孤児の数は少なくとも今後10年間は上昇し続け、教育や保健の改善、地域の発展は当分の間期待できない」、と国連の関係者は述べています。
たとえ、成人のHIV陽性者が今の時点でピークであると仮定したとしても、エイズ孤児は増え続けることになります。なぜなら、HIVに感染した人が亡くなるのは数年先のことであり、亡くなればその子供たちはエイズ孤児となるからです。孤児たちは社会から疎外され、健康上の問題はより深刻化し、学校崩壊につながることも予想されます。さらに正しい知識が普及しなければ、エイズで両親を失った子供たちは差別を受け、支援やケアを必要としていても孤立してしまうことも考えられます。
西及び中央アフリカに住む3億5千万人の人口の半分以上が18歳以下であるというデータがあります。そして、彼らの性行動は早い年齢から始まっていることが指摘されています。
しかしこのような青少年の性の乱れは、この地域の保守的な文化では口にすることができません。そしてこの保守的な文化が、多くの若者が、HIVがどのように感染するかについて誤解をしている原因でもあります。
抗HIV薬が充分に普及していないということもこの地域の問題のひとつです。特に妊婦は母子感染を予防するために抗HIV薬が必要となりますが、この地域では2005年の時点で68万人の14歳以下の子供たちがエイズを発症してしまっています。
西及び中央アフリカでは、HIV陽性の妊婦と子供たちで抗HIV薬を服用しているのはわずか1%しかないことをユニセフは指摘しています。2010年までの80%にするという目標には程遠い現実です。
しかし、改善がまったく期待できないわけではありません。
ユニセフによると、抗HIV薬の価格を下げるよう政府に働きかけている声は大きくなっていますし、子供と妊婦の支援に多くの予算をとるべきだ、という政府に対する圧力も小さくないそうです。
象牙海岸では、HIV検査とカウンセリングが受けられるVCTセンター(*2)が設立され、両親がHIV陽性の子供たちの授業料はそのセンターが負担しているそうです。また、中央アフリカ共和国では2千人のエイズ孤児たちがカウンセリングも含めた保健サービスを受けていると言われています。
最後に、セネガルのチャリティ団体のある関係者の言葉をご紹介しておきたいと思います。
「エイズ対策が始まったとき、成人の感染とエイズが経済に与える影響に焦点があてられていた。一方で、子供たちのことは忘れられていたのだ」
注1 「エイズ孤児」とは通常両親がエイズで死亡した子供のことを言います。子供自身がHIV陽性であるか陰性であるかは問いません。
注2 VCTとは、Voluntary Counseling and Testingの略語で、直訳すれば、「自発的なカウンセリングと検査」ということになります。詳しい説明は、当ウェブサイト「HIV陽性者のひとつの生きがい-ピア・エデュケーション-」をご参照ください。
(谷口 恭)
「アフリカでは効果的な対策がとられなければ2010年までにエイズ孤児が1,800万人にもなる」、国連はそのような試算をしています。10月20日のロイター通信がアフリカの現状を報道していますのでお伝えいたします。
「現在政府やその他組織がおこなっている対策では、数百万人のHIVに感染した子供たちのことが軽視されている。エイズ孤児の数は少なくとも今後10年間は上昇し続け、教育や保健の改善、地域の発展は当分の間期待できない」、と国連の関係者は述べています。
たとえ、成人のHIV陽性者が今の時点でピークであると仮定したとしても、エイズ孤児は増え続けることになります。なぜなら、HIVに感染した人が亡くなるのは数年先のことであり、亡くなればその子供たちはエイズ孤児となるからです。孤児たちは社会から疎外され、健康上の問題はより深刻化し、学校崩壊につながることも予想されます。さらに正しい知識が普及しなければ、エイズで両親を失った子供たちは差別を受け、支援やケアを必要としていても孤立してしまうことも考えられます。
西及び中央アフリカに住む3億5千万人の人口の半分以上が18歳以下であるというデータがあります。そして、彼らの性行動は早い年齢から始まっていることが指摘されています。
しかしこのような青少年の性の乱れは、この地域の保守的な文化では口にすることができません。そしてこの保守的な文化が、多くの若者が、HIVがどのように感染するかについて誤解をしている原因でもあります。
抗HIV薬が充分に普及していないということもこの地域の問題のひとつです。特に妊婦は母子感染を予防するために抗HIV薬が必要となりますが、この地域では2005年の時点で68万人の14歳以下の子供たちがエイズを発症してしまっています。
西及び中央アフリカでは、HIV陽性の妊婦と子供たちで抗HIV薬を服用しているのはわずか1%しかないことをユニセフは指摘しています。2010年までの80%にするという目標には程遠い現実です。
しかし、改善がまったく期待できないわけではありません。
ユニセフによると、抗HIV薬の価格を下げるよう政府に働きかけている声は大きくなっていますし、子供と妊婦の支援に多くの予算をとるべきだ、という政府に対する圧力も小さくないそうです。
象牙海岸では、HIV検査とカウンセリングが受けられるVCTセンター(*2)が設立され、両親がHIV陽性の子供たちの授業料はそのセンターが負担しているそうです。また、中央アフリカ共和国では2千人のエイズ孤児たちがカウンセリングも含めた保健サービスを受けていると言われています。
最後に、セネガルのチャリティ団体のある関係者の言葉をご紹介しておきたいと思います。
「エイズ対策が始まったとき、成人の感染とエイズが経済に与える影響に焦点があてられていた。一方で、子供たちのことは忘れられていたのだ」
注1 「エイズ孤児」とは通常両親がエイズで死亡した子供のことを言います。子供自身がHIV陽性であるか陰性であるかは問いません。
注2 VCTとは、Voluntary Counseling and Testingの略語で、直訳すれば、「自発的なカウンセリングと検査」ということになります。詳しい説明は、当ウェブサイト「HIV陽性者のひとつの生きがい-ピア・エデュケーション-」をご参照ください。
(谷口 恭)
2006年10月25日(水) 台湾のエイズ差別
HIV/AIDSに対する正しい知識がどれだけ普及し差別がいかに少ないかということが国家の成熟度のひとつの指標になるのではないか、と私は考えています。先進国であればあるほど、HIV陽性の人たちが「普通に」生活できる、という言い方もできるかと思います。
台湾は、アジアを代表する先進国(地域)です。しかし、先進国であるはずの台湾の成熟度はそれほど高くないかもしれません。
10月19日のBBC NEWSが報道した台湾のニュースは、HIVやエイズに対する人々の態度がいかに誤っているかを示しています。
******************
台湾南部の静かな町に三階建ての家があります。家のなかでは幼児たちがおもちゃで遊び、大人たちは雑談を交わしている者もいればテレビを見て時間を過ごしている者もいます。彼らはこの家に住みだして1年以上が経ちますが、引っ越してきたときから続いている地域社会の住民の冷たい目は今も変わりません。
この家に住む者はHIVに感染しているのです。
そして、今年の10月、地方裁判所はこの一家に引越しを命じました。
裁判所が出した判決は、エイズシェルターであるこの家「ハーモニーホーム」が公衆衛生上の問題を抱え、この地域の住民の心理的健康状態を脅かしている、というものでした。
この施設を設立したニコール・ヤン氏は、この判決は不当であると主張し、次のようにコメントしています。
「私たちは直ちに上告します。私たちにはここに住む権利があります。この地域の住民にはあきれるばかりです。彼らは病気で貧しい生活を強いられている人々に出て行けと言うのですから。昨年この地域に引っ越してきたとき、彼らは私たちの家を燃やそうとし、私たちを追い出そうとしました。まるで20年前のスティグマのようです」
この家には22人のHIV陽性の人が住んでいます。なかには生後2ヶ月の赤ちゃんもいます。親に捨てられたり、母親が違法薬物所持で勾留されたりしている幼い子も少なくありません。
最も古い入居者のひとりである60歳の女性は、取材に対し泣きながら次のようにコメントしました。
「この家に入れてもらう前まではどこにも行くところがなかったわ。自殺しか道はなかったの。この地域の方々に見捨てられると私たちは生活できなくなってしまいます。どうか理解してください」
3年前にHIV陽性であることがわかった22歳の男性は言います。
「僕たちは家族なんだ。僕たちはこの地域社会に対して何も害を与えていない。平穏にここで暮らしたいだけなんだ」
台湾ではHIV陽性者はそれほど多いわけではなく、人口の1%未満です。しかし過去3年間、新規感染者は毎年倍増しています。その多くは、薬物の静脈摂取に使う注射針の共用であると言われています。
専門家は、現在の台湾はHIVが急速に蔓延するかどうかの分岐点にいるとみています。
公式発表では、2006年9月末の時点で、(エイズを発症していない)HIV陽性者が12,474人、エイズ発症者が2,817人となっていますが、実際はこの倍くらいにはなるだろうとみる専門家は少なくありません。
現在台湾がとっている薬物対策は、滅菌された針と注射器の薬物中毒者たちへの無償提供です。また、4つの地域ではメタドン療法がおこなわれています。
このように現在では適切な対策がとられるようになってきていますが、一般の人々のHIV陽性者に対する見方はほとんど変わっていません。全体でみればまだ感染者は少ないこともあってなのか、HIV陽性者は社会のアウトローだと思われているのです。
台湾市民病院のある医師は言います。
「西洋諸国ではエイズ患者のためのシェルターは必要ない。彼らは普通に生活しており、必要なときだけ病院を受診する。もちろん働くことだってできる。しかし、ここでは家族が一緒に住むことを拒否するためにシェルターが必要となってしまっている。これは最善の方法ではない」
このエイズシェルター「ハーモニーホーム」は、これまで何度もマスコミで取り上げられてきました。他のシェルターを運営している人のなかには、このような番組のせいで、エイズシェルターに対する世間の風当たりがきつくなるという人もいるようです。
しかし、「マスコミに報道されることによって、誤った理解が払拭され、HIVがどのように感染するかが正しく認識されるようになる」、と考える人も少なくありません。「こういう番組は、HIVやエイズに関する正しい知識を啓発するためのチャンスだ」、と述べる専門家もいます。
マスコミを通して正しい知識が伝えられ、差別をなくそうという世論が出てきていますが、今のところ「ハーモニーホーム」の近くに住む住民の心は動いていません。住民の多くが、それでも感染する可能性があるのではないかということを危惧し、さらにその地域の地価の下落を心配する者もいるようです。
地域の住民は、正しい知識を教えられても行動が伴っていないのです。これについて、台北の疾病管理局のある幹部が興味深いコメントを述べています。
「政府は国民に教育をおこない、HIVは体液に触れない限り感染の恐れがないことを伝えてきた。国民はすでに理解している。我々が直面している問題はNimby効果だ」
Nimby効果とは、not-in-my-backyard効果とも言い、例えば、焼却炉を地域につくる必要があるのは理解できるが自分の裏庭(backyard)にはつくらないでほしい、というような身勝手な考えのことを言います。
台湾エイズ基金(Taiwan Aids Foundation)のスタッフは言います。
「人々がお互いに尊厳をもてるように、さらなる教育をおこなう必要がある。もし世間がHIV陽性者を理解しなければ、抗体検査に行くのをためらう人が増えるだろう。それがHIVの蔓延を引き起こすこととなる」
*************
この記事では、Nimby効果という言葉を使って人々が身勝手な考えを持っている、というようなことが述べられていますが、Nimby効果という言葉が果たして適切でしょうか。
焼却炉の場合は煙や悪臭も出るでしょう。地価が下がるのも理解できることです。このようなものは社会の必要悪と呼べるかもしれません。けれどもHIV陽性は違います。コンドームを用いない性行為でもしない限り、感染していない人とまったく同じように接することができるはずです。
「感染が分かってからの方が人間らしくふるまえるようになった」、と言うHIV陽性の人を私は大勢知っています。
(谷口 恭)
台湾は、アジアを代表する先進国(地域)です。しかし、先進国であるはずの台湾の成熟度はそれほど高くないかもしれません。
10月19日のBBC NEWSが報道した台湾のニュースは、HIVやエイズに対する人々の態度がいかに誤っているかを示しています。
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台湾南部の静かな町に三階建ての家があります。家のなかでは幼児たちがおもちゃで遊び、大人たちは雑談を交わしている者もいればテレビを見て時間を過ごしている者もいます。彼らはこの家に住みだして1年以上が経ちますが、引っ越してきたときから続いている地域社会の住民の冷たい目は今も変わりません。
この家に住む者はHIVに感染しているのです。
そして、今年の10月、地方裁判所はこの一家に引越しを命じました。
裁判所が出した判決は、エイズシェルターであるこの家「ハーモニーホーム」が公衆衛生上の問題を抱え、この地域の住民の心理的健康状態を脅かしている、というものでした。
この施設を設立したニコール・ヤン氏は、この判決は不当であると主張し、次のようにコメントしています。
「私たちは直ちに上告します。私たちにはここに住む権利があります。この地域の住民にはあきれるばかりです。彼らは病気で貧しい生活を強いられている人々に出て行けと言うのですから。昨年この地域に引っ越してきたとき、彼らは私たちの家を燃やそうとし、私たちを追い出そうとしました。まるで20年前のスティグマのようです」
この家には22人のHIV陽性の人が住んでいます。なかには生後2ヶ月の赤ちゃんもいます。親に捨てられたり、母親が違法薬物所持で勾留されたりしている幼い子も少なくありません。
最も古い入居者のひとりである60歳の女性は、取材に対し泣きながら次のようにコメントしました。
「この家に入れてもらう前まではどこにも行くところがなかったわ。自殺しか道はなかったの。この地域の方々に見捨てられると私たちは生活できなくなってしまいます。どうか理解してください」
3年前にHIV陽性であることがわかった22歳の男性は言います。
「僕たちは家族なんだ。僕たちはこの地域社会に対して何も害を与えていない。平穏にここで暮らしたいだけなんだ」
台湾ではHIV陽性者はそれほど多いわけではなく、人口の1%未満です。しかし過去3年間、新規感染者は毎年倍増しています。その多くは、薬物の静脈摂取に使う注射針の共用であると言われています。
専門家は、現在の台湾はHIVが急速に蔓延するかどうかの分岐点にいるとみています。
公式発表では、2006年9月末の時点で、(エイズを発症していない)HIV陽性者が12,474人、エイズ発症者が2,817人となっていますが、実際はこの倍くらいにはなるだろうとみる専門家は少なくありません。
現在台湾がとっている薬物対策は、滅菌された針と注射器の薬物中毒者たちへの無償提供です。また、4つの地域ではメタドン療法がおこなわれています。
このように現在では適切な対策がとられるようになってきていますが、一般の人々のHIV陽性者に対する見方はほとんど変わっていません。全体でみればまだ感染者は少ないこともあってなのか、HIV陽性者は社会のアウトローだと思われているのです。
台湾市民病院のある医師は言います。
「西洋諸国ではエイズ患者のためのシェルターは必要ない。彼らは普通に生活しており、必要なときだけ病院を受診する。もちろん働くことだってできる。しかし、ここでは家族が一緒に住むことを拒否するためにシェルターが必要となってしまっている。これは最善の方法ではない」
このエイズシェルター「ハーモニーホーム」は、これまで何度もマスコミで取り上げられてきました。他のシェルターを運営している人のなかには、このような番組のせいで、エイズシェルターに対する世間の風当たりがきつくなるという人もいるようです。
しかし、「マスコミに報道されることによって、誤った理解が払拭され、HIVがどのように感染するかが正しく認識されるようになる」、と考える人も少なくありません。「こういう番組は、HIVやエイズに関する正しい知識を啓発するためのチャンスだ」、と述べる専門家もいます。
マスコミを通して正しい知識が伝えられ、差別をなくそうという世論が出てきていますが、今のところ「ハーモニーホーム」の近くに住む住民の心は動いていません。住民の多くが、それでも感染する可能性があるのではないかということを危惧し、さらにその地域の地価の下落を心配する者もいるようです。
地域の住民は、正しい知識を教えられても行動が伴っていないのです。これについて、台北の疾病管理局のある幹部が興味深いコメントを述べています。
「政府は国民に教育をおこない、HIVは体液に触れない限り感染の恐れがないことを伝えてきた。国民はすでに理解している。我々が直面している問題はNimby効果だ」
Nimby効果とは、not-in-my-backyard効果とも言い、例えば、焼却炉を地域につくる必要があるのは理解できるが自分の裏庭(backyard)にはつくらないでほしい、というような身勝手な考えのことを言います。
台湾エイズ基金(Taiwan Aids Foundation)のスタッフは言います。
「人々がお互いに尊厳をもてるように、さらなる教育をおこなう必要がある。もし世間がHIV陽性者を理解しなければ、抗体検査に行くのをためらう人が増えるだろう。それがHIVの蔓延を引き起こすこととなる」
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この記事では、Nimby効果という言葉を使って人々が身勝手な考えを持っている、というようなことが述べられていますが、Nimby効果という言葉が果たして適切でしょうか。
焼却炉の場合は煙や悪臭も出るでしょう。地価が下がるのも理解できることです。このようなものは社会の必要悪と呼べるかもしれません。けれどもHIV陽性は違います。コンドームを用いない性行為でもしない限り、感染していない人とまったく同じように接することができるはずです。
「感染が分かってからの方が人間らしくふるまえるようになった」、と言うHIV陽性の人を私は大勢知っています。
(谷口 恭)