HIV/AIDS関連情報
2006年10月23日(月) 中国のNGOが強制解散させられた理由とは?
中国北西部の新疆ウイグル(Xinjiang Uygur)自治区にあるエイズ関連のNGOが、当局により10月18日に強制的に解散させられ、これが物議を醸しています。
「Slow Lotus」という名のこのNGOは、新疆ウイグル自治区の、主に大学生からなる200人以上の組織で、エイズ教育を中心に活動していたそうです。
ロイター通信がこのNGOのスタッフを電話取材し、それが10月19日の同通信に掲載されています。
電話インタビューに答えた21歳の大学生は次のように述べています。
「我々の組織は、正式に登録されていないという理由で強制的に解散させられました。オフィス内の机と活動資料も封印されてしまいました。そして、この解散措置に従わなければ拘留するぞ、と脅されたのです」
中国は1949年以来、共産党の一党独裁体制が続いており、直接支配できない組織に対しては警戒姿勢を見せていますが、最近は少なくともエイズ関連のNGOの活動には柔軟な対応をしていました。ところが、このNGOに対しては強制的な解散命令を発動したのです。
新疆当局は、この件に対してはコメントを表明していませんが、このNGOを支持するある弁護士は次のようにコメントしています。
「このNGOは、最近地域内の中学でB型肝炎ウイルスのキャリア19人が強制退学させられた事件を報じた数日後に解散させられた。当局はこのNGOが登録されていないということを解散措置の理由にしているが、真の理由はこの事件を報じたことに違いない」
B型肝炎ウイルスのキャリアが強制退学などというのは、非科学的な理由による許しがたい措置です。(詳しくは、2006年10月14日「中国、B型肝炎ウイルスのキャリアが強制退学に」)
真実を報じた組織が強制解散・・・。いかにも中国らしい事件と言えるでしょう。
ところで、新疆ウイグル自治区は、現在中国内で最もエイズ問題が深刻化している地域のひとつです。10月19日のCHINA DAILYにその様子が報告されていますのでここにご紹介しておきたいと思います。
同地区では、今年の6月末の時点で16,035人のHIV陽性者が確認されており、昨年9月末の時点では11,303人でしたから、9ヶ月間で4,732人が増加していることになります。また、今年の6月までで105人の死亡者を含む563人のエイズ発症者が報告されています。2001年の初めから昨年6月まででは、54人の死亡者を含む213人のエイズ発症者の報告でしたから、急激にHIV/AIDSが蔓延していることになります。
この地域の特徴は、売春婦などのハイリスクグループから一般の人々へ感染しているということです。このなかには妊婦も含まれ、ほとんどは夫からの感染で、夫たちのなかには薬物の静脈注射によってHIVに感染した者も少なくないそうです。
ある調査によると、地域内のYili地区では妊婦の1%もがHIV陽性だそうです。(他の地区では0.3%程度)
中国全体では昨年一年間に報告されたHIV陽性者は144,089人、内32,286人はすでにエイズを発症しており、そのうち8,404人は死亡したそうです。
(谷口 恭)
「Slow Lotus」という名のこのNGOは、新疆ウイグル自治区の、主に大学生からなる200人以上の組織で、エイズ教育を中心に活動していたそうです。
ロイター通信がこのNGOのスタッフを電話取材し、それが10月19日の同通信に掲載されています。
電話インタビューに答えた21歳の大学生は次のように述べています。
「我々の組織は、正式に登録されていないという理由で強制的に解散させられました。オフィス内の机と活動資料も封印されてしまいました。そして、この解散措置に従わなければ拘留するぞ、と脅されたのです」
中国は1949年以来、共産党の一党独裁体制が続いており、直接支配できない組織に対しては警戒姿勢を見せていますが、最近は少なくともエイズ関連のNGOの活動には柔軟な対応をしていました。ところが、このNGOに対しては強制的な解散命令を発動したのです。
新疆当局は、この件に対してはコメントを表明していませんが、このNGOを支持するある弁護士は次のようにコメントしています。
「このNGOは、最近地域内の中学でB型肝炎ウイルスのキャリア19人が強制退学させられた事件を報じた数日後に解散させられた。当局はこのNGOが登録されていないということを解散措置の理由にしているが、真の理由はこの事件を報じたことに違いない」
B型肝炎ウイルスのキャリアが強制退学などというのは、非科学的な理由による許しがたい措置です。(詳しくは、2006年10月14日「中国、B型肝炎ウイルスのキャリアが強制退学に」)
真実を報じた組織が強制解散・・・。いかにも中国らしい事件と言えるでしょう。
ところで、新疆ウイグル自治区は、現在中国内で最もエイズ問題が深刻化している地域のひとつです。10月19日のCHINA DAILYにその様子が報告されていますのでここにご紹介しておきたいと思います。
同地区では、今年の6月末の時点で16,035人のHIV陽性者が確認されており、昨年9月末の時点では11,303人でしたから、9ヶ月間で4,732人が増加していることになります。また、今年の6月までで105人の死亡者を含む563人のエイズ発症者が報告されています。2001年の初めから昨年6月まででは、54人の死亡者を含む213人のエイズ発症者の報告でしたから、急激にHIV/AIDSが蔓延していることになります。
この地域の特徴は、売春婦などのハイリスクグループから一般の人々へ感染しているということです。このなかには妊婦も含まれ、ほとんどは夫からの感染で、夫たちのなかには薬物の静脈注射によってHIVに感染した者も少なくないそうです。
ある調査によると、地域内のYili地区では妊婦の1%もがHIV陽性だそうです。(他の地区では0.3%程度)
中国全体では昨年一年間に報告されたHIV陽性者は144,089人、内32,286人はすでにエイズを発症しており、そのうち8,404人は死亡したそうです。
(谷口 恭)
2006年10月21日(土) 中国でメタドン療法のクリニックが急増
日本ではあまり馴染みがありませんが、麻薬中毒の治療にメタドン(methadone)という鎮痛剤が使われることがあります。メタドンは麻薬ではありませんが、強力な鎮痛作用のある薬剤で、「メタドン療法」とはメタドンを内服することにより麻薬を断ち切っていこうとする治療法です。
世界的にみてHIV感染の減少にはメタドン療法が効果的であると言われています。麻薬は、初めは内服で始めても容易に耐性ができて(効きにくくなり)、静脈注射をすることになり、それがHIV感染のリスクとなります。しかし、メタドンの場合は原則として内服だけで、効果もそれなりに強く、またあまり薬の耐性も問題とならないため(耐性がでても注射に移行するのではなく内服量を増やすことになる)、HIV感染のリスクを減らすことが期待できるというわけです。
しかし、麻薬中毒者のなかには、麻薬はやめられてもメタドンから離れられなくなる人もいます。そういった問題があるからなのか、世界のどこの国でもメタドン療法がおこなわれているわけではありません。
日本では、メタドン療法がおこなわれていないばかりか、なぜかメタドンそのものが流通していません。日本のどこの病院にいってもメタドンは置かれていないということです。日本では麻薬中毒者はそれほど多くないため、これからもメタドン療法の適応が検討される可能性は高くないと思われます。(私は医師になってから日本人の麻薬中毒者をほとんどみたことがありません。驚くほどの勢いで氾濫している覚醒剤やMDMA(エクスタシー)とは対象的です)
さて、現在の中国はメタドン療法に力を入れており、今年の7月から9月の間で合計206のメタドン療法をおこなうクリニックが誕生したそうです。詳細が10月20日のCHINA DAILYに掲載されていますので簡単にご紹介しておきます。
新たに206のクリニックが誕生したことにより、現在中国全土では合計307のメタドン療法をおこなうクリニックが存在することになります。
現在65万人いることになっている中国のHIV陽性者の44%が薬物中毒者であると言われています(性交渉による感染は48%と言われています)。早いペースでメタドン療法のクリニックが次々と誕生したことにより、ヘロインの摂取量が合計1,000キロ以上も少なくなると中国疾病管理局は試算しています。
中国ではメタドン療法は2003年に導入され、現在31の省や自治体のうちおよそ3分の2でおこなわれています。クリニックでは1回分のメタドンが10元(約1.26ドル、約150円)で処方されます。
中国疾病管理局は、麻薬を静脈摂取している人が500人以上登録されているすべての地域にメタドン療法のクリニックを設立する計画を立てています。これは、エイズ専門家も歓迎しており、薬物中毒者からの性交渉などによる一般の人々への感染も防ぐことができると期待されています。
これだけ急速にメタドン療法を普及させていることからも分かるように、現在中国ではHIV対策にかなりの力を注いでいます。2003年に使われた費用が4億9千万元(約6、190万ドル、約73億円)だったのに対し、2005年には10億8千万元(約1億3,650万ドル、約162億円)もの予算が投じられています。
メタドンそのものへの依存など、メタドン療法にも問題がないとは言えませんが、これまでに世界中で6,500万人もが感染し、2,500万人もの命を奪ってきたHIV/AIDSの問題を効果的に解決するにはやはり重要な対策のひとつであると言えるでしょう。
(谷口 恭)
世界的にみてHIV感染の減少にはメタドン療法が効果的であると言われています。麻薬は、初めは内服で始めても容易に耐性ができて(効きにくくなり)、静脈注射をすることになり、それがHIV感染のリスクとなります。しかし、メタドンの場合は原則として内服だけで、効果もそれなりに強く、またあまり薬の耐性も問題とならないため(耐性がでても注射に移行するのではなく内服量を増やすことになる)、HIV感染のリスクを減らすことが期待できるというわけです。
しかし、麻薬中毒者のなかには、麻薬はやめられてもメタドンから離れられなくなる人もいます。そういった問題があるからなのか、世界のどこの国でもメタドン療法がおこなわれているわけではありません。
日本では、メタドン療法がおこなわれていないばかりか、なぜかメタドンそのものが流通していません。日本のどこの病院にいってもメタドンは置かれていないということです。日本では麻薬中毒者はそれほど多くないため、これからもメタドン療法の適応が検討される可能性は高くないと思われます。(私は医師になってから日本人の麻薬中毒者をほとんどみたことがありません。驚くほどの勢いで氾濫している覚醒剤やMDMA(エクスタシー)とは対象的です)
さて、現在の中国はメタドン療法に力を入れており、今年の7月から9月の間で合計206のメタドン療法をおこなうクリニックが誕生したそうです。詳細が10月20日のCHINA DAILYに掲載されていますので簡単にご紹介しておきます。
新たに206のクリニックが誕生したことにより、現在中国全土では合計307のメタドン療法をおこなうクリニックが存在することになります。
現在65万人いることになっている中国のHIV陽性者の44%が薬物中毒者であると言われています(性交渉による感染は48%と言われています)。早いペースでメタドン療法のクリニックが次々と誕生したことにより、ヘロインの摂取量が合計1,000キロ以上も少なくなると中国疾病管理局は試算しています。
中国ではメタドン療法は2003年に導入され、現在31の省や自治体のうちおよそ3分の2でおこなわれています。クリニックでは1回分のメタドンが10元(約1.26ドル、約150円)で処方されます。
中国疾病管理局は、麻薬を静脈摂取している人が500人以上登録されているすべての地域にメタドン療法のクリニックを設立する計画を立てています。これは、エイズ専門家も歓迎しており、薬物中毒者からの性交渉などによる一般の人々への感染も防ぐことができると期待されています。
これだけ急速にメタドン療法を普及させていることからも分かるように、現在中国ではHIV対策にかなりの力を注いでいます。2003年に使われた費用が4億9千万元(約6、190万ドル、約73億円)だったのに対し、2005年には10億8千万元(約1億3,650万ドル、約162億円)もの予算が投じられています。
メタドンそのものへの依存など、メタドン療法にも問題がないとは言えませんが、これまでに世界中で6,500万人もが感染し、2,500万人もの命を奪ってきたHIV/AIDSの問題を効果的に解決するにはやはり重要な対策のひとつであると言えるでしょう。
(谷口 恭)
2006年10月21日(土) 中国、ホテルはコンドームを用意すべきか
中国で今年3月にエイズ予防管理局が発令した規則に従って、上海人口家族計画委員会(Shanghai Municipal Commission of Population and Family Planning)は、上海内の各地域の行政に対し、ホテルや娯楽施設にコンドームを配布するよう求めていました。ところが、浦東(ほとう、Pudong)で配布されたコンドームの40%が実際には使われていなかったことが新聞の調査で明らかとなりました。詳細が10月20日のCHINA DAILYに掲載されていますのでご紹介いたします。
ホテルや娯楽施設によっては、特にハイクラスのホテルでは、コンドームはプライベートなものであるとの見方をしています。ホテルのスタッフのコメントを集めてみましょう。
「我々は生活に必要なものだけを供給している。コンドームはプライバシーにかかわるものだ」
「我々のホテルではコンドームを配布したり販売したりするつもりはない。我々は我々の会社で決められた規則に従って部屋を提供している。我々は上海人口家族計画委員会の通達に従うつもりはない」
「客が必要なら自身で持ってくるであろうし、コンドームは街じゅうにあるスーパーマーケットや薬局で買えるものだ。コンドームの供給はお金の無駄だ」
「我々の顧客のほとんどは出張で来ており、ひとりで宿泊している。彼らはコンドームを必要としていない。カップルで来る客にしてもコンドームは自分たちで用意している。彼らはホテルで用意された無料のコンドームを使うようなことはない。だから我々は部屋にコンドームを用意するつもりはない。」
こういったホテル側の反応に対して、浦東の役人のひとりは言います。
「ホテルにコンドームを置くことには問題がある。3つ星以上の200のホテルのうち、行政から支給されるコンドームの自動販売機を置くことに同意しているのは10から20しかない。半分以上のホテルは無料コンドームの供給を拒否している。最も大きな障壁は人々の思考様式である」
こういったホテル側が難色を示していることに対し、上海人口家族計画委員会のある幹部は次のように述べています。
「ハイクラスのホテルにコンドームを置くのはむつかしいことは聞いている。しかしエイズを予防するために、我々はさらなる努力を続けて明るい展望(bright prospects)が得られることを確信している」
*********
すべてのホテルにコンドームを置くべきか否か・・・。むつかしい問題かもしれません。私自身も出張などで国内外のホテルに泊まるとき、もし部屋のなかにコンドームの自動販売機があればあまりいい感じがしないかもしれません。
そもそも、なぜ一流ホテルにコンドームを置かなければならないのでしょうか。上で紹介したホテルのコメントのように、必要であれば自分たちで用意するものだと思われるのですが・・・。
中国では、売春婦を一流ホテルに連れ込む(呼び込む)ような慣習があるのでしょうか・・・。それならば、売春婦がホテルに出入りできないような対策を先にとるべきなのではないでしょうか・・・。
(谷口 恭)
ホテルや娯楽施設によっては、特にハイクラスのホテルでは、コンドームはプライベートなものであるとの見方をしています。ホテルのスタッフのコメントを集めてみましょう。
「我々は生活に必要なものだけを供給している。コンドームはプライバシーにかかわるものだ」
「我々のホテルではコンドームを配布したり販売したりするつもりはない。我々は我々の会社で決められた規則に従って部屋を提供している。我々は上海人口家族計画委員会の通達に従うつもりはない」
「客が必要なら自身で持ってくるであろうし、コンドームは街じゅうにあるスーパーマーケットや薬局で買えるものだ。コンドームの供給はお金の無駄だ」
「我々の顧客のほとんどは出張で来ており、ひとりで宿泊している。彼らはコンドームを必要としていない。カップルで来る客にしてもコンドームは自分たちで用意している。彼らはホテルで用意された無料のコンドームを使うようなことはない。だから我々は部屋にコンドームを用意するつもりはない。」
こういったホテル側の反応に対して、浦東の役人のひとりは言います。
「ホテルにコンドームを置くことには問題がある。3つ星以上の200のホテルのうち、行政から支給されるコンドームの自動販売機を置くことに同意しているのは10から20しかない。半分以上のホテルは無料コンドームの供給を拒否している。最も大きな障壁は人々の思考様式である」
こういったホテル側が難色を示していることに対し、上海人口家族計画委員会のある幹部は次のように述べています。
「ハイクラスのホテルにコンドームを置くのはむつかしいことは聞いている。しかしエイズを予防するために、我々はさらなる努力を続けて明るい展望(bright prospects)が得られることを確信している」
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すべてのホテルにコンドームを置くべきか否か・・・。むつかしい問題かもしれません。私自身も出張などで国内外のホテルに泊まるとき、もし部屋のなかにコンドームの自動販売機があればあまりいい感じがしないかもしれません。
そもそも、なぜ一流ホテルにコンドームを置かなければならないのでしょうか。上で紹介したホテルのコメントのように、必要であれば自分たちで用意するものだと思われるのですが・・・。
中国では、売春婦を一流ホテルに連れ込む(呼び込む)ような慣習があるのでしょうか・・・。それならば、売春婦がホテルに出入りできないような対策を先にとるべきなのではないでしょうか・・・。
(谷口 恭)
2006年10月21日(土) 南アのエイズ専門医、HIV検査の義務化を提唱
10月19日に南アフリカのあるエイズ専門医が、HIV検査の義務化を提唱し、同日のロイター通信が報道しています。
この医師(Dr. Francosis Venter、以下、Venter医師)は、南アフリカHIV臨床医協会(South African Clinician Society)の会長で、「知らないことが人権であるとは思えない」とコメントし、HIV検査の義務化を強く訴えています。
もちろん、HIV検査の義務化には反対意見もあります。人権の侵害であり、HIV陽性者がそれを社会に知られればスティグマの対象となるから、というのが主な理由です。
Venter医師は、現在成人の5人に1人がHIV陽性である南アフリカで、ほとんどの人は自分自身が陽性か陰性かを知らずに、その無知が毎年50万人もの新規感染者を生み出している、と指摘しています。
Venter医師は、毎年のHIV検査を義務づけ、検査を受けていないと医療保険を利用できないようにすることや、すべての雇用者は従業員を雇う前にHIV検査を受けているかどうか(結果ではない)を確認することを提唱し、次のように述べています。
「各々がHIV陽性か陰性かということに我々は関知しない。各自がHIV陽性か陰性かを知っていて、正しく行動しているかどうかということが重要なのだ。運転免許がなければ車に乗れないのと同じように、銀行口座を開くときや行政上の手続きをするときにHIV検査を受けていることを証明しなければならないシステムが必要である。現在この国には自身の状態を知らない人がたくさんいるが、これは倫理的に許されるべきでない。検査を受けていなければ、エイズを発症して初めてHIV陽性であることを知ることになる。健康なうちに状態を知っておいて適切な対策をするのが望ましい」
現在、南アフリカ政府は国民にHIV検査を受けるように促しています。しかしこれは自発的なもので強制力がなく、Venter医師は、「これでは不充分であり、妊娠検査のように国民の誰もが簡単に受けられるような環境を整えなければならない」、と述べています。
またVenter医師は、HIV検査時には、カウンセリングを受けられる状態にし、正しい性行為などを学べるような環境を整備すべきという点も指摘しています。
****************
「知る権利」に対して「知らない権利」を認めるべきかどうか・・・。非常にむつかしい問題で、医師側だけの理屈だけで決められるようなものではないでしょう。今後の南アフリカの対策に注目していきたいと思います。
(谷口 恭)
この医師(Dr. Francosis Venter、以下、Venter医師)は、南アフリカHIV臨床医協会(South African Clinician Society)の会長で、「知らないことが人権であるとは思えない」とコメントし、HIV検査の義務化を強く訴えています。
もちろん、HIV検査の義務化には反対意見もあります。人権の侵害であり、HIV陽性者がそれを社会に知られればスティグマの対象となるから、というのが主な理由です。
Venter医師は、現在成人の5人に1人がHIV陽性である南アフリカで、ほとんどの人は自分自身が陽性か陰性かを知らずに、その無知が毎年50万人もの新規感染者を生み出している、と指摘しています。
Venter医師は、毎年のHIV検査を義務づけ、検査を受けていないと医療保険を利用できないようにすることや、すべての雇用者は従業員を雇う前にHIV検査を受けているかどうか(結果ではない)を確認することを提唱し、次のように述べています。
「各々がHIV陽性か陰性かということに我々は関知しない。各自がHIV陽性か陰性かを知っていて、正しく行動しているかどうかということが重要なのだ。運転免許がなければ車に乗れないのと同じように、銀行口座を開くときや行政上の手続きをするときにHIV検査を受けていることを証明しなければならないシステムが必要である。現在この国には自身の状態を知らない人がたくさんいるが、これは倫理的に許されるべきでない。検査を受けていなければ、エイズを発症して初めてHIV陽性であることを知ることになる。健康なうちに状態を知っておいて適切な対策をするのが望ましい」
現在、南アフリカ政府は国民にHIV検査を受けるように促しています。しかしこれは自発的なもので強制力がなく、Venter医師は、「これでは不充分であり、妊娠検査のように国民の誰もが簡単に受けられるような環境を整えなければならない」、と述べています。
またVenter医師は、HIV検査時には、カウンセリングを受けられる状態にし、正しい性行為などを学べるような環境を整備すべきという点も指摘しています。
****************
「知る権利」に対して「知らない権利」を認めるべきかどうか・・・。非常にむつかしい問題で、医師側だけの理屈だけで決められるようなものではないでしょう。今後の南アフリカの対策に注目していきたいと思います。
(谷口 恭)
2006年10月21日(土) ミャンマーの麻薬事情
世界第1位がアフガニスタン、第2位がミャンマーと言えば、何のランキングかお分かりになるでしょうか。答えは、麻薬(ヘロイン)の生産量です。
10月18日のBangkok Postが、現在ミャンマーの麻薬事情を報道していますのでご紹介したいと思います。
UNODC(国連薬物犯罪オフィス)は、ミャンマーの阿片畑の面積が減少してきていることを発表しました。今年は21,500ヘクタールで、2005年は30,900ヘクタール、2003年は44,200ヘクタールですから、着実に減少してきていることになります。しかしこの数字だけを見て手放しに喜ぶわけにはいきません。なぜなら、畑の面積は減っているものの、麻薬生産量は逆に増えていることが判ったからです。
しかし、それよりも困った問題は、麻薬がビルマ経済の重要な産業になってしまっているということです。以前は、麻薬はマフィアと独裁軍事政権のみが利益を享受する産業でしたが、最近は阿片を栽培する農民やそれを流通させる商人にとっても重要な作物になっていると言われています。
ビルマのNGO Burmanetは、国連の試算を引き合いに出し、ビルマの麻薬取引量は、昨年から24%も増加し、総額72百万ドル(約86億円)にもなると発表しています。また、来年のアヘンの収穫量は315トンになり、ここから麻薬(ヘロイン)3.15トンが精製されるとみています。これだけ高い生産量が得られれば、栽培畑の面積の減少が相殺されてしまいます。
ミャンマーの麻薬はいろんな問題を孕んでいます。暴力、中毒、HIV感染、国境問題、大量の難民・・・。
ゴールデントライアングルの一画であったタイとラオスでは現在麻薬はほとんど栽培されていません。もちろん、そこにいたるには様々な困難がありましたが、特にタイでは政府が非常に効果的な対策を取ったこともあり、阿片を栽培していた農家の多くが、他の農作物の栽培に切り替えることに成功しました。
現在のミャンマーの農家は、阿片のおかげで栄えているそうです。ミャンマーがクリーンな国になるのにはかなりの年月が必要になるかもしれません。
(谷口 恭)
10月18日のBangkok Postが、現在ミャンマーの麻薬事情を報道していますのでご紹介したいと思います。
UNODC(国連薬物犯罪オフィス)は、ミャンマーの阿片畑の面積が減少してきていることを発表しました。今年は21,500ヘクタールで、2005年は30,900ヘクタール、2003年は44,200ヘクタールですから、着実に減少してきていることになります。しかしこの数字だけを見て手放しに喜ぶわけにはいきません。なぜなら、畑の面積は減っているものの、麻薬生産量は逆に増えていることが判ったからです。
しかし、それよりも困った問題は、麻薬がビルマ経済の重要な産業になってしまっているということです。以前は、麻薬はマフィアと独裁軍事政権のみが利益を享受する産業でしたが、最近は阿片を栽培する農民やそれを流通させる商人にとっても重要な作物になっていると言われています。
ビルマのNGO Burmanetは、国連の試算を引き合いに出し、ビルマの麻薬取引量は、昨年から24%も増加し、総額72百万ドル(約86億円)にもなると発表しています。また、来年のアヘンの収穫量は315トンになり、ここから麻薬(ヘロイン)3.15トンが精製されるとみています。これだけ高い生産量が得られれば、栽培畑の面積の減少が相殺されてしまいます。
ミャンマーの麻薬はいろんな問題を孕んでいます。暴力、中毒、HIV感染、国境問題、大量の難民・・・。
ゴールデントライアングルの一画であったタイとラオスでは現在麻薬はほとんど栽培されていません。もちろん、そこにいたるには様々な困難がありましたが、特にタイでは政府が非常に効果的な対策を取ったこともあり、阿片を栽培していた農家の多くが、他の農作物の栽培に切り替えることに成功しました。
現在のミャンマーの農家は、阿片のおかげで栄えているそうです。ミャンマーがクリーンな国になるのにはかなりの年月が必要になるかもしれません。
(谷口 恭)