HIV/AIDS関連情報
2006年11月1日(水) タイの30バーツ医療、無料化が決定!
タイの30バーツ医療が無料になる可能性がでてきたことを以前紹介しましたが(「タイの30バーツ医療が無料になる見込み」2006年10月14日)、10月31日からついに無料となりました。
10月31日のBangkok Postによりますと、モンコル保健大臣が、31日、これまで30バーツ医療を受けていた人の医療費が全面的に無料になることを発表しました。これまで30バーツ医療を受けていた人は「ゴールドカード」を持っていますが、そのカードがあれば今後無料医療を受けることができるそうです。
現在事務作業が遅れており(このあたりがタイらしいですね)、国民ひとりあたりの政府補助金をいくらにするかということは発表されていませんが、モンコル保健大臣は11月7日に開催される審議会で承認を求めるようです。30バーツ医療のときはひとりあたりの補助金が1,695バーツでしたが、これを2,089バーツ(約6,300円)にすれば不足する財源がまかなえると試算されています。
(谷口 恭)
10月31日のBangkok Postによりますと、モンコル保健大臣が、31日、これまで30バーツ医療を受けていた人の医療費が全面的に無料になることを発表しました。これまで30バーツ医療を受けていた人は「ゴールドカード」を持っていますが、そのカードがあれば今後無料医療を受けることができるそうです。
現在事務作業が遅れており(このあたりがタイらしいですね)、国民ひとりあたりの政府補助金をいくらにするかということは発表されていませんが、モンコル保健大臣は11月7日に開催される審議会で承認を求めるようです。30バーツ医療のときはひとりあたりの補助金が1,695バーツでしたが、これを2,089バーツ(約6,300円)にすれば不足する財源がまかなえると試算されています。
(谷口 恭)
2006年11月1日(水) 献血時のHIV検査で過去最高の陽性率
日本は、全体の総数はまだ少ないものの着実にHIV陽性者が増加している国ですが、それを裏付けるようなニュースが10月31日に読売新聞社により報道されています。
献血された血液のHIV検査で、昨年17年ぶりに減少した陽性率が今年上半期に増加に転じ過去最高となったことが厚生労働省のまとめでわかり、31日に開かれた同省薬事・食品衛生審議会血液事業部会で報告されました。
同省血液対策課は、「感染を知らずに献血した人が増加しているのではないか。医療機関などでの検査体制を充実させる必要がある」としています。
上半期の献血件数約248万件のうち、HIVが検出されたのは48件(うち女性3件)。10万件当たりの陽性率は1.935で、昨年1年間の1.466を大きく上回りました。
昨年陽性率が下がったのは、献血前の問診が功を奏したからであろうと言われています。今回、再び陽性率が上昇したのは、昨年と同様の徹底した問診がおこなわれたものの、献血者のHIV感染に対する危機感が小さく、コンドームを用いない性行為(unprotected sex)を危険だと考えていない人が多いことが原因ではないかとみられています。
性行為の経験のある人は皆、HIVに感染している可能性は0ではないということです。
(浅居 雅彦)
献血された血液のHIV検査で、昨年17年ぶりに減少した陽性率が今年上半期に増加に転じ過去最高となったことが厚生労働省のまとめでわかり、31日に開かれた同省薬事・食品衛生審議会血液事業部会で報告されました。
同省血液対策課は、「感染を知らずに献血した人が増加しているのではないか。医療機関などでの検査体制を充実させる必要がある」としています。
上半期の献血件数約248万件のうち、HIVが検出されたのは48件(うち女性3件)。10万件当たりの陽性率は1.935で、昨年1年間の1.466を大きく上回りました。
昨年陽性率が下がったのは、献血前の問診が功を奏したからであろうと言われています。今回、再び陽性率が上昇したのは、昨年と同様の徹底した問診がおこなわれたものの、献血者のHIV感染に対する危機感が小さく、コンドームを用いない性行為(unprotected sex)を危険だと考えていない人が多いことが原因ではないかとみられています。
性行為の経験のある人は皆、HIVに感染している可能性は0ではないということです。
(浅居 雅彦)
2006年10月31日(火) マレーシアのエイズ対策
人口約2,500万人、マレー系中心の多民族国家、国教はイスラム教、ひとりあたりのGDPが約9,600ドル(約110万円)、HIV陽性者69,000人で成人のHIV陽性率0.5%(2005年UNAIDS)、といったあたりがマレーシアの基本情報です。
そんなマレーシアのエイズ事情を一言で言うなら、「これまで適切なエイズ対策をとってこなかった」ということだと思われます。しかし、この国は隣国のタイなどと比べると、あまりにも異なった文化を持っているため他国と同じようにはいかないという背景もあります。そのあたりの事情を10月25日のロイター通信がまとめていますのでご紹介しておきます。
*************
以前刑務所に入所していた経験のあるチャン氏は、マレーシアの不充分なエイズ対策が生んだ犠牲者と言えるかもしれません。
1984年、チャン氏は窃盗罪で3年間の実刑をくらいました。彼は刑務所のなかで薬物中毒となり、その結果HIVに感染してしまったのです。
「僕は薬物の静脈注射でHIVに感染したんだ。針を共有してたってわけさ。刑務所内にはたくさんのプッシャー(薬物密売人)がいるからね、安く入手できるんだよ」
現在41歳のチャン氏はその後15年間、薬物中毒者を矯正させる施設への出入りを繰り返しています。現在も23人の同僚と一緒にその矯正施設で暮らしているそうです。
イスラム教を国教とするマレーシアは非常に保守的な国家であり、薬物に対しては厳しい刑が科せられます。しかし、実際には違法薬物は浸透し、効果的な性教育がなされていないこともあり、HIV感染は徐々に広がりつつあります。HIV対策をこれまで充分におこなってこなかったマレーシア政府には批判の声が相次ぎ、昨年WHOは、「マレーシアはHIV蔓延の分岐点にいる」、と警告を発しました。
2006年当初の時点で、当局はマレーシアのHIV陽性者を70,559人としています。そのうち10,663人がすでにエイズを発症しています。2005年にエイズを発症した人は1,221人で、これは1995年の233人と比べると大幅に増加していることになります。
最近まで、マレーシアは、同じくイスラム教の国家であるイランやパキスタンなどがおこなっている注射針の無料供与などのHIV対策を取っていませんでした。注射針の無料供与は世界的に有効性が示されているのにもかかわらずです。
昨年になってようやく注射針やコンドームの無料配布を開始しました。「(コンドームや注射針を配布すれば)フリーセックスや薬物の氾濫を助長しかねない」という反対意見が根強いためになかなか実行に移せなかったというわけです。
現在では、注射針の無料供与を含めて5億リンギット(約1億3,600万ドル、約160億円)を投入しエイズ予防に力を入れています。
マレーシアのHIV感染の原因で最多のものは薬物の静脈注射で、男女比は10対1となっています。HIV陽性者のおよそ6割はマレー人だと言われています。マレー人はマレーシアで最大数をほこる民族で、HIV陽性者の大半は無職です。
エイズの活動家たちは、政府が薬物対策、さらには性教育を適切におこなってこなかったことを非難しています。
特に若者の間でコンドームを用いない性行為が氾濫しHIVに対する知識が欠落している者が多いという調査を受けて、若者を対象とするHIVに関する教育が近日中に開始される予定です。政府のデータでは、1986年から2005年までにエイズを発症した者の4人に1人は13歳から29歳の若い世代であったそうです。
「政府が充分な予算を組んでいることもあり、現在上昇し続けているHIV陽性者の数は2009年もしくは2010年までに頭打ちになるだろう」、マレーシアの保健大臣Chua Soi Lek氏はそのように述べています。
マレーシアは高い経済成長率を続け、西洋の文化も浸透してきていますが、その割には性については容易に口にできない保守的な文化を保っています。
クアラルンプールは19世紀半ばにスズの採掘拠点で栄えだしましたが、その頃は置屋、賭博場、アヘン吸引者のアジトなどがあふれた街であったと言われています。現在では、いくつかのクラブで薬物やアルコールが氾濫しています。一方、公園などでのキスやハグは厳しく禁じられているという一面もあります。
学校では性の教育が一切おこなわれておらず、そのため、HIVは蚊やノミ、南京虫などの媒介で感染すると考えている若者もいるそうです。
イスラム教の指導者たちは注射針やコンドームの配布に厳しく反対しています。
「そんなことをすれば、人々はフリーセックスに走るようになる。我々は問題の根源を主張していかなければならない。(注射針やコンドームの配布の代わりに)政府は娯楽施設を統制し、若者の夜間の外出を禁止すべきだ」、マレーシア最大のイスラム教系宗教組織のスポークスマンはそのように述べています
このような考えをもっているのはイスラム教徒だけではありません。マレーシアのキリスト教系の宗教団体の一員は次のようなコメントをしています。
「この国では注射針やコンドームを配布するよりも、伝統的価値観を見直す方がエイズ抑制の効果があるだろう。我々が発展し続けるために最も大切なことは禁欲なのである」
***************
最近の日本の世論は、性教育を広げてHIVに対する関心を高めようというものがあり、それに対する保守層からの反対意見は少なくありません。しかしながら、「日本の伝統を見直すことがHIV予防につながる」というコメントはあまり聞ききません。日本はマレーシアなどとは異なり、禁欲の文化はそれほどなく、昔から性に開放的な国であったのは事実でしょうが、それでも、現実的かどうかは別にして、そのような意見をあまり耳にしないのは少し寂しい気がします・・・。
(谷口 恭)
そんなマレーシアのエイズ事情を一言で言うなら、「これまで適切なエイズ対策をとってこなかった」ということだと思われます。しかし、この国は隣国のタイなどと比べると、あまりにも異なった文化を持っているため他国と同じようにはいかないという背景もあります。そのあたりの事情を10月25日のロイター通信がまとめていますのでご紹介しておきます。
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以前刑務所に入所していた経験のあるチャン氏は、マレーシアの不充分なエイズ対策が生んだ犠牲者と言えるかもしれません。
1984年、チャン氏は窃盗罪で3年間の実刑をくらいました。彼は刑務所のなかで薬物中毒となり、その結果HIVに感染してしまったのです。
「僕は薬物の静脈注射でHIVに感染したんだ。針を共有してたってわけさ。刑務所内にはたくさんのプッシャー(薬物密売人)がいるからね、安く入手できるんだよ」
現在41歳のチャン氏はその後15年間、薬物中毒者を矯正させる施設への出入りを繰り返しています。現在も23人の同僚と一緒にその矯正施設で暮らしているそうです。
イスラム教を国教とするマレーシアは非常に保守的な国家であり、薬物に対しては厳しい刑が科せられます。しかし、実際には違法薬物は浸透し、効果的な性教育がなされていないこともあり、HIV感染は徐々に広がりつつあります。HIV対策をこれまで充分におこなってこなかったマレーシア政府には批判の声が相次ぎ、昨年WHOは、「マレーシアはHIV蔓延の分岐点にいる」、と警告を発しました。
2006年当初の時点で、当局はマレーシアのHIV陽性者を70,559人としています。そのうち10,663人がすでにエイズを発症しています。2005年にエイズを発症した人は1,221人で、これは1995年の233人と比べると大幅に増加していることになります。
最近まで、マレーシアは、同じくイスラム教の国家であるイランやパキスタンなどがおこなっている注射針の無料供与などのHIV対策を取っていませんでした。注射針の無料供与は世界的に有効性が示されているのにもかかわらずです。
昨年になってようやく注射針やコンドームの無料配布を開始しました。「(コンドームや注射針を配布すれば)フリーセックスや薬物の氾濫を助長しかねない」という反対意見が根強いためになかなか実行に移せなかったというわけです。
現在では、注射針の無料供与を含めて5億リンギット(約1億3,600万ドル、約160億円)を投入しエイズ予防に力を入れています。
マレーシアのHIV感染の原因で最多のものは薬物の静脈注射で、男女比は10対1となっています。HIV陽性者のおよそ6割はマレー人だと言われています。マレー人はマレーシアで最大数をほこる民族で、HIV陽性者の大半は無職です。
エイズの活動家たちは、政府が薬物対策、さらには性教育を適切におこなってこなかったことを非難しています。
特に若者の間でコンドームを用いない性行為が氾濫しHIVに対する知識が欠落している者が多いという調査を受けて、若者を対象とするHIVに関する教育が近日中に開始される予定です。政府のデータでは、1986年から2005年までにエイズを発症した者の4人に1人は13歳から29歳の若い世代であったそうです。
「政府が充分な予算を組んでいることもあり、現在上昇し続けているHIV陽性者の数は2009年もしくは2010年までに頭打ちになるだろう」、マレーシアの保健大臣Chua Soi Lek氏はそのように述べています。
マレーシアは高い経済成長率を続け、西洋の文化も浸透してきていますが、その割には性については容易に口にできない保守的な文化を保っています。
クアラルンプールは19世紀半ばにスズの採掘拠点で栄えだしましたが、その頃は置屋、賭博場、アヘン吸引者のアジトなどがあふれた街であったと言われています。現在では、いくつかのクラブで薬物やアルコールが氾濫しています。一方、公園などでのキスやハグは厳しく禁じられているという一面もあります。
学校では性の教育が一切おこなわれておらず、そのため、HIVは蚊やノミ、南京虫などの媒介で感染すると考えている若者もいるそうです。
イスラム教の指導者たちは注射針やコンドームの配布に厳しく反対しています。
「そんなことをすれば、人々はフリーセックスに走るようになる。我々は問題の根源を主張していかなければならない。(注射針やコンドームの配布の代わりに)政府は娯楽施設を統制し、若者の夜間の外出を禁止すべきだ」、マレーシア最大のイスラム教系宗教組織のスポークスマンはそのように述べています
このような考えをもっているのはイスラム教徒だけではありません。マレーシアのキリスト教系の宗教団体の一員は次のようなコメントをしています。
「この国では注射針やコンドームを配布するよりも、伝統的価値観を見直す方がエイズ抑制の効果があるだろう。我々が発展し続けるために最も大切なことは禁欲なのである」
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最近の日本の世論は、性教育を広げてHIVに対する関心を高めようというものがあり、それに対する保守層からの反対意見は少なくありません。しかしながら、「日本の伝統を見直すことがHIV予防につながる」というコメントはあまり聞ききません。日本はマレーシアなどとは異なり、禁欲の文化はそれほどなく、昔から性に開放的な国であったのは事実でしょうが、それでも、現実的かどうかは別にして、そのような意見をあまり耳にしないのは少し寂しい気がします・・・。
(谷口 恭)
2006年10月30日(月) HIVは性交渉で感染しない!?
オーストラリアの男性がヨーロッパの女性観光客2人に故意にHIVを感染させた事件をお伝えしたばかりですが(「オーストラリア男性が女性観光客にHIVを感染」2006年10月29日)、同国でまたもや同じような事件が起こりました。しかし、今度の容疑者は変わった理屈で検察の求刑に対抗する姿勢を見せています。10月25日及び26日のNEWS.COM.AUがこれを報道していますのでご紹介いたします。
35歳のオーストラリア男性が、自身がHIV陽性であることを知っていながら、3人の女性とコンドームを用いない性行為をおこない、このうち1人がHIVに感染するという事件が起こりました。この3人の女性のうち、ひとりはHIVに感染したことが明らかとなっています。この女性は2児の母親だそうです。
オーストラリアの法律では、たとえ感染しなくても、自身がHIV陽性であることを知っていてコンドームを用いない性交渉をおこなった場合には有罪となります。検察はこの男性に対して、3つの事件で合計15年の実刑を要求しています。
この男性の弁護士は南オーストラリア刑事控訴裁判所に対して、容疑者は無罪であると主張し、その理由を、「HIVが性交渉で感染するという証拠はなく現在の検査方法は正確でない(*1)」としています。
弁護側は2人の研究者を証人台に立たせました。彼らはいわゆる「パース一派」のメンバーで、この一派は現在のHIVに対する見解に反対し、性行為でHIVが感染しないという持論を提唱しています。
一方、検察側は、現在世界中で認められている「コンドームを用いない性行為でHIVが感染する」ことを立証するために専門家を喚問しました。検察は、弁護側が招いたパース一派の証人は「専門家」ではないと主張し、喚問させることに反対しましたが、裁判官は、証人が証言することは認めました。
被告の弁護人は無料で弁護を引き受けています。もしもHIVが性交渉で感染するということが脆弱な科学にしか裏づけされていないなら、被告の有罪が正しいとは言えないと考えているからです。弁護側が喚問した研究者も、交通費は被告人の母親に負担してもらっていますが、証言は無償でおこなったようです。
弁護側が喚問したパース一派の研究者のひとりは、ロイヤルパース病院で医療エンジニアとして働いている医学物理学者のPapadopulos-Eleopulos氏です。氏は、「1983年にフランスの科学者たちがHIVを誤って認識し、それが現在も引き継がれている」、と証言台で述べました。
50ページに及ぶパワーポイントを使って、氏は証言をおこないました。
「エイズはHIVとは関係がない。もしも何らかの関係があったとしても、HIVはレトロウイルス(*2)ではなく、性交渉で感染するものでもない。HIVは一度も同定されておらず、1983年に逆転写(*3)の過程が明らかにされたに過ぎない。1983年にMontagnier博士が発見した逆転写が、「HIVの発見」とされているが、逆転写はHIVに限ったことではない」
Papadopulos-Eleopulos氏は、エイズのリスクがアナルセックスや薬物の静脈注射であることは認めています。また、「エイズは長時間精液に曝されることで発症する」と述べています。精液は細胞を酸化させる作用があり、これにより細胞が劣化しそれがいろんな病気につながるというのです。そのひとつがエイズ関連疾患であるというわけです。
Papadopulos-Eleopulos氏はまた、腟性交ではHIVが感染しないと述べている多くの論文を引き合いに出しました。カリフォルニア大学で1997年に発表された研究を紹介し、腟性交で男性から女性にHIVが感染する確率は0.0009%に過ぎず、これは仮に週3回のペースで夫婦が性行為を行った場合、95%の確率でHIVに感染するのに27.4年もかかるとしています。(*4)
証言台に立ったもう1人のパース一派のVal Turner氏は、「HIVの検査は、ウイルスが産生する蛋白質や抗体を検知しているだけで間接的なものにすぎない。そして直接HIVを検知する方法はない」、と述べています。
*1 実は、HIVは腟性交で感染しないと考える学者は他にも存在します。しかし、その理論は科学的とは言えず、もちろん世界的に認められているわけではありません。「HIVが腟粘膜に侵入し感染が成立することを直接示せ」と言われれば、人体を使ったそんな実験はできるはずがありませんが、研究室レベルで確認された理論と、実際の臨床(腟性交のみでHIVに感染した患者さんはいくらでもいます)とを合わせて考えれば、HIVが腟性交で感染し得ることは自明です。
*2 レトロウイルスとは、RNA型ウイルスのうち、逆転写酵素をもち、自身の情報(RNA)を宿主の細胞にDNAのかたちで取り込ませることのできるウイルスのことで、HIVもこの仲間です。そして宿主の細胞の中で生き続け、あるとき自分の情報をどんどんと増幅させるのです。他人の家に勝手に上がりこんでその家のご飯を勝手に食べて、ある時子孫を作り出すようなものです。
*3 通常、生命における代謝は、DNAの情報をRNAが読み取りその情報をもとに蛋白質がつくられます。このDNA→RNA→蛋白質という流れは、以前は一方通行と考えられていたため(これを「セントラル・ドグマ」と言います)、レトロウイルスがRNA→DNAと、従来とは逆向きの方向で情報を伝えていくことから「逆転写」と名づけられています。RNA→DNAの情報の伝達には特有の酵素が必要で、これが「逆転写酵素」です。
*4 このような確率論はよく引き合いに出されますが、個人レベルの行動でこのような確率を考えることには意味がありません。なぜなら0.0009%などという数字は、例え正しかったとしても、結果としての事後確率にすぎず、個人レベルでの感染の確率は常に0%か100%かのどちらかしかあり得ないからです。私の知人に、数ヵ月後にエイズで亡くなった女性とコンドームを用いない性行為を繰り返していたのにもかかわらず感染しなかった男性がいますが、その逆に、自身がHIV陽性だとは知らなかった相手とただ一度の性交渉で感染した人は決して少なくないからです。
(谷口 恭)
35歳のオーストラリア男性が、自身がHIV陽性であることを知っていながら、3人の女性とコンドームを用いない性行為をおこない、このうち1人がHIVに感染するという事件が起こりました。この3人の女性のうち、ひとりはHIVに感染したことが明らかとなっています。この女性は2児の母親だそうです。
オーストラリアの法律では、たとえ感染しなくても、自身がHIV陽性であることを知っていてコンドームを用いない性交渉をおこなった場合には有罪となります。検察はこの男性に対して、3つの事件で合計15年の実刑を要求しています。
この男性の弁護士は南オーストラリア刑事控訴裁判所に対して、容疑者は無罪であると主張し、その理由を、「HIVが性交渉で感染するという証拠はなく現在の検査方法は正確でない(*1)」としています。
弁護側は2人の研究者を証人台に立たせました。彼らはいわゆる「パース一派」のメンバーで、この一派は現在のHIVに対する見解に反対し、性行為でHIVが感染しないという持論を提唱しています。
一方、検察側は、現在世界中で認められている「コンドームを用いない性行為でHIVが感染する」ことを立証するために専門家を喚問しました。検察は、弁護側が招いたパース一派の証人は「専門家」ではないと主張し、喚問させることに反対しましたが、裁判官は、証人が証言することは認めました。
被告の弁護人は無料で弁護を引き受けています。もしもHIVが性交渉で感染するということが脆弱な科学にしか裏づけされていないなら、被告の有罪が正しいとは言えないと考えているからです。弁護側が喚問した研究者も、交通費は被告人の母親に負担してもらっていますが、証言は無償でおこなったようです。
弁護側が喚問したパース一派の研究者のひとりは、ロイヤルパース病院で医療エンジニアとして働いている医学物理学者のPapadopulos-Eleopulos氏です。氏は、「1983年にフランスの科学者たちがHIVを誤って認識し、それが現在も引き継がれている」、と証言台で述べました。
50ページに及ぶパワーポイントを使って、氏は証言をおこないました。
「エイズはHIVとは関係がない。もしも何らかの関係があったとしても、HIVはレトロウイルス(*2)ではなく、性交渉で感染するものでもない。HIVは一度も同定されておらず、1983年に逆転写(*3)の過程が明らかにされたに過ぎない。1983年にMontagnier博士が発見した逆転写が、「HIVの発見」とされているが、逆転写はHIVに限ったことではない」
Papadopulos-Eleopulos氏は、エイズのリスクがアナルセックスや薬物の静脈注射であることは認めています。また、「エイズは長時間精液に曝されることで発症する」と述べています。精液は細胞を酸化させる作用があり、これにより細胞が劣化しそれがいろんな病気につながるというのです。そのひとつがエイズ関連疾患であるというわけです。
Papadopulos-Eleopulos氏はまた、腟性交ではHIVが感染しないと述べている多くの論文を引き合いに出しました。カリフォルニア大学で1997年に発表された研究を紹介し、腟性交で男性から女性にHIVが感染する確率は0.0009%に過ぎず、これは仮に週3回のペースで夫婦が性行為を行った場合、95%の確率でHIVに感染するのに27.4年もかかるとしています。(*4)
証言台に立ったもう1人のパース一派のVal Turner氏は、「HIVの検査は、ウイルスが産生する蛋白質や抗体を検知しているだけで間接的なものにすぎない。そして直接HIVを検知する方法はない」、と述べています。
*1 実は、HIVは腟性交で感染しないと考える学者は他にも存在します。しかし、その理論は科学的とは言えず、もちろん世界的に認められているわけではありません。「HIVが腟粘膜に侵入し感染が成立することを直接示せ」と言われれば、人体を使ったそんな実験はできるはずがありませんが、研究室レベルで確認された理論と、実際の臨床(腟性交のみでHIVに感染した患者さんはいくらでもいます)とを合わせて考えれば、HIVが腟性交で感染し得ることは自明です。
*2 レトロウイルスとは、RNA型ウイルスのうち、逆転写酵素をもち、自身の情報(RNA)を宿主の細胞にDNAのかたちで取り込ませることのできるウイルスのことで、HIVもこの仲間です。そして宿主の細胞の中で生き続け、あるとき自分の情報をどんどんと増幅させるのです。他人の家に勝手に上がりこんでその家のご飯を勝手に食べて、ある時子孫を作り出すようなものです。
*3 通常、生命における代謝は、DNAの情報をRNAが読み取りその情報をもとに蛋白質がつくられます。このDNA→RNA→蛋白質という流れは、以前は一方通行と考えられていたため(これを「セントラル・ドグマ」と言います)、レトロウイルスがRNA→DNAと、従来とは逆向きの方向で情報を伝えていくことから「逆転写」と名づけられています。RNA→DNAの情報の伝達には特有の酵素が必要で、これが「逆転写酵素」です。
*4 このような確率論はよく引き合いに出されますが、個人レベルの行動でこのような確率を考えることには意味がありません。なぜなら0.0009%などという数字は、例え正しかったとしても、結果としての事後確率にすぎず、個人レベルでの感染の確率は常に0%か100%かのどちらかしかあり得ないからです。私の知人に、数ヵ月後にエイズで亡くなった女性とコンドームを用いない性行為を繰り返していたのにもかかわらず感染しなかった男性がいますが、その逆に、自身がHIV陽性だとは知らなかった相手とただ一度の性交渉で感染した人は決して少なくないからです。
(谷口 恭)
2006年10月30日(月) リビアのHIV院内感染、真実の行方は・・・(第3報)
2006年8月10日の「リビアのHIV院内感染、真実の行方は・・・」及び9月22日「リビアのHIV院内感染、真実の行方は・・・(続編)」でお伝えしましたように、現在リビアでは、故意にHIVを大勢の子供たちに感染させたとして、ひとりのパレスチナ人の医師と5人のブルガリア人の看護婦が投獄されています。いったん死刑判決が出されましたが、最高裁で判決がくつがえったことから審理が再度おこなわれていました。
ところが、最近になって再びこれら6人の容疑者に死刑判決が言い渡されました。しかし、もちろん反対意見は少なくありません。10月25日のBBC NEWSがそれを伝えていますのでご紹介いたします。
専門家のひとりは、子供たちが感染しているHIVは様々なタイプのものが混じっており(だから故意に感染させたのではない)、同時に肝炎に感染している者も多く、不衛生な環境が院内のいたるところにあることを指摘しています。
再度の死刑判決に対し、科学誌「ネイチャー」は異例の行動に出ました。検察側が提出した資料を入手し、それを英訳し、6カ国のエイズ専門医たちに検証させたのです。その結果、すべてのエイズ専門医は「あきれるほど不備だらけの資料だ」とコメントしています。
ある伝染病学者は、「6人が故意に子供たちにHIVを感染させたことを示す証拠など何ひとつない。そればかりか、なかにはその6人が働き始める前からすでに感染していた子供もいることが分かっている」、と述べています。
今回の死刑判決に対して近日中に再審議がおこなわれる予定だそうです。
GINAは、今後もこの事件を追っていきたいと考えています。
(谷口 恭)
ところが、最近になって再びこれら6人の容疑者に死刑判決が言い渡されました。しかし、もちろん反対意見は少なくありません。10月25日のBBC NEWSがそれを伝えていますのでご紹介いたします。
専門家のひとりは、子供たちが感染しているHIVは様々なタイプのものが混じっており(だから故意に感染させたのではない)、同時に肝炎に感染している者も多く、不衛生な環境が院内のいたるところにあることを指摘しています。
再度の死刑判決に対し、科学誌「ネイチャー」は異例の行動に出ました。検察側が提出した資料を入手し、それを英訳し、6カ国のエイズ専門医たちに検証させたのです。その結果、すべてのエイズ専門医は「あきれるほど不備だらけの資料だ」とコメントしています。
ある伝染病学者は、「6人が故意に子供たちにHIVを感染させたことを示す証拠など何ひとつない。そればかりか、なかにはその6人が働き始める前からすでに感染していた子供もいることが分かっている」、と述べています。
今回の死刑判決に対して近日中に再審議がおこなわれる予定だそうです。
GINAは、今後もこの事件を追っていきたいと考えています。
(谷口 恭)