HIV/AIDS関連情報

2006年11月8日(水) バンコク、母親が娘の友達に売春を斡旋

 イサーン(東北)地方、タイ北部などでは、貧困から娘が売春せざるを得ないというケースが多々あります。そして娘の売春を両親が知っている場合も少なくありません。娘が一家を支えるという伝統がこのようなかたちとなってしまっているわけです。我々先進国の人間からすると、「たとえ何があろうと娘の売春を容認するなどそれでも親か!」と感じますが、これがタイの現実、そして貧困の現実です。

 しかし、私はこれまでこのような現象は貧困地域に限ったことだと思っていました。ところが、自分の娘ではないものの、その娘の友達に買春客を斡旋していた母親が逮捕されるという事件が首都バンコクで起こりました。11月1日のバンコク週報が報道していますのでご紹介いたします。

 バンコク都内トンブリ地区のチャランサニットウォン通りで伝統薬販売店を営業する女主人(44歳)が売春斡旋容疑で逮捕されました。

 警官が、いわゆるおとり捜査で客を装いこの女主人に近づいたところ、女主人は少女1人につき1,500バーツ(約4,500円)で買春を持ちかけてきたそうです。警官が「2人の少女を呼んでくれ」と言うと、実際に少女2人がやってきたため、この時点で警官は女主人を逮捕し、2人の少女を保護したようです。

 保護された少女のひとりは、学校が休みでこの女主人の娘の家に遊びに来ていたところ、女主人に売春を促されたそうです。この少女はすでに「3回客と寝た」と供述しているといいます。もうひとりの少女は、妊娠1カ月で中絶費用を稼ぐために売春をしていたそうです。

 売買春、特にタイでの売買春はそれが原因で恋愛や結婚にいたるケースも珍しくなく、またタイの売春婦の定義自体が非常にむつかしいということを当ウェブサイトでこれまで指摘してきました。「売買春をやめましょう」と言うだけでは何の解決にもならないのです。しかしながら、今回の事件のように、未成年の少女、しかも自分の娘の友達を買春客に紹介するなどというものは議論の余地がありません。ふたりの少女は高校にまで進学しているわけですから、両親を助けるための売春ではないでしょう。この国の売買春問題のむつかしさをかいまみたような気がします。

(谷口 恭)

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2006年11月7日(火) ネパールの薬物中毒者の間でHIV感染が急増

 適切な予防対策が取られていないことから、ネパールの薬物中毒者の間でHIV感染が急増しているようです。10月30日のCHINA DAILYがそれを報道していますのでご紹介いたします。

 「薬物中毒者のHIV/AIDS予防プログラム(National advocacy program for prevention of HIV/AIDS on the issue of injecting drug users)」と題されて28日にカトマンズで開催された研究会で、NCASC(National Center for AIDS and Sexually Transmitted Disease Control、エイズ・性感染症国民管理センター)の代表者Mishra氏は、「現在のネパールのエイズ対策の問題のひとつは予防対策が充分にできていないことである」と述べました。

 NCASCによりますと、薬物中毒者のHIV陽性率は32.7%にものぼるそうです。一方、売春婦の陽性率は3.8%です。ネパール全土での薬物中毒者は30,000人から35,000人で、そのうち12,000人から15,000人がすでにHIVに感染しているそうです。

 この研究会で外務副大臣のOli氏は次のように述べています。

 「薬物中毒者の間でHIV感染が急増していることはネパール社会の危機というだけではなく深刻な政治問題でもある。予防対策だけでは不充分だ。我々は治療にも力を入れていかなければならない」

(谷口 恭)

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2006年11月6日(月) 北京、ゲイ専門クリニックが誕生

 2004年に中国で初めて公表されたゲイの人数は500万人から1,000万人です。そして、青島(チンタオ、Qingdao)大学のZhang Beichuan教授によりますと、成人ゲイのHIV陽性率はおよそ1.5%だそうです。

 2004年2月に、深?(Shenzhen)と南京(Nanjing)でゲイ専門クリニックが設立されましたが、今年の10月26日には、北京でも新たにゲイ専門クリニックが誕生しました。これについて10月28日のCHINA DAILYが報道していますのでご紹介いたします。

 このクリニックは、ひとつのボランティア団体(朝陽エイズボランティアグループ、Chaoyang Chinese AIDS Volunteer Group)、ひとつのNGO(AIDS prevention organization)、そしてひとつの行政機関(朝陽疾病管理局、Disease Prevention and Control Center of Chaoyang District of Beijing)が協力して設立されるにいたりました。

 このクリニックを受診するには、事前に朝陽エイズボランティアグループのウェブサイトにログインして申し込みをおこなわなければなりません。受診者は匿名で検査を受けることができプライバシーは守られます。受診者にはクリニックまでの交通費として50元(6.3ドル、750円)相当の携帯電話のカードが支給されます。

 このクリニックでは性感染症の検査を無料で受けることができます。具体的には、HIV、梅毒、淋病、性器ヘルペスの検査が無料で受けられ、さらにエイズ以外の性感染症は治療費も無料です。HIV陽性と診断されれば、国の無償プログラムに入れられ、定期的な検査を無料で受けることができます。

 現在中国では31の省の623の地域で25,000人が無償でエイズの治療を受けています。また、14の省では15歳以下の516人のHIV陽性者に特別の治療がおこなわれています。

 保健省によりますと、中国は過去3年間で約2億8,800万元(約3,600万ドル、約43億円)を投入し、抗HIV薬の無償供与をおこなっています。これはエイズ対策費の14.3%を占めています。

(谷口 恭)

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2006年11月5日(日) 日本の四半期報告、HIV感染者が過去2位

 厚生労働省エイズ動向委員会は、四半期(3ヶ月)ごとに新たにHIV感染が判った者、及びエイズを発症した者の人数を発表しています。以前このコーナーでお伝えしましたように、今年の第2四半期(4月から6月)の報告はHIV感染者が248件と過去最高となりました。一方、エイズ発症者は106件でした。(詳細は「厚生労働省のエイズ動向委員会の第2四半期報告」2006年8月25日)

 先日、第3四半期の結果がエイズ動向委員会より発表され、HIV新規感染者数は今年の第2四半期に次ぐ過去2位であることがわかりました。

 11月2日の共同通信によりますと、7月から約3カ月間に報告されたHIV新規感染者数は男性214人、女性19人の計233人とのことです。エイズ発症者数は107人で、こちらは2004年の第3四半期(7月から9月)の126人に次いで過去2番目に多いことが分かりました。

 新規感染者の感染経路別では、同性間の性的接触が136人(うち128人が日本人男性)で最多となり、年齢別では20-30代が約69%を占めますが、40代以上も約30%と前期に引き続き増加傾向にあります。日本人女性の感染者、患者数は計23人で、こちらも前期に比べ増加しています。

(谷口 恭)

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2006年11月2日(木) 中国のメタドン療法と注射針無償供与

 中国では性感染とならんで麻薬の静脈注射によるHIV感染が問題となっています。中国のメタドン療法については最近このコーナーでお伝えしましたが(「中国でメタドン療法のクリニックが急増」2006年10月21日)、現在の中国は薬物中毒者に対する注射針の無償供与もおこなっています。その状況を10月23日のCHINA DAILYが伝えていますのでご紹介いたします。

 2004年に雲南省の箇旧(こきゅう、Gejiu)で中国初のメタドン療法クリニックが誕生し、現在では200以上になっています。7月1日までにメタドン療法を受けた麻薬中毒者は15,678人にのぼります。

 現在も10,754人の中毒者が麻薬を断ち切るためにメタドンを内服しています。

 中国の公式データでは、麻薬中毒者(*1)は100万人以上となっています。しかしながら、この数は正確な人数を反映しておらず、実際には1千万人にものぼるとみている専門家もいます。

 麻薬中毒者のHIV感染は中国全土にみられますが、特に多いのが雲南省(Yunnan Province)と広西自治区(Guangxi Zhuang Autonomous Region)です。

 保健省副大臣のWang Longde氏は、現在中国で問題となっているのは薬物中毒者や売春婦から一般の人々への感染が広がっていることだと述べています。氏は、売春婦が薬物中毒者であることも多く、こうなればHIVに感染するリスクが跳ね上がることを指摘しています。

 中国ではメタドン療法のクリニックの他に、300もの注射針の無償供与センターを今年中に設立する計画を立てています。保健省によりますと、2005年末の時点では91の注射針無償供与センターがすでに設立されているそうです。

 メタドン療法を受けている者は定期的に(麻薬を摂取していないことを確認するための)尿検査を受けなければなりません。このデータは警察が収集し中国全土でデータベース化されています。

 「エイズ・性感染症管理予防センター(National Centre for AIDS/STD Control and Prevention)」の代表者Wu Zunyou氏によりますと、1年間メタドン療法を続けて再び麻薬に手を出すのはわずか8.8%だそうです。しかしながら、1年以内でやめてしまえばおよそ70%の中毒者は再び麻薬に手を染めるそうです。

*1 文脈から「麻薬中毒者」だと思われますが、原文は「drug addict」なので覚醒剤なども含めた違法薬物全般の「薬物中毒者」の人数かもしれません。

(谷口 恭)

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