HIV/AIDS関連情報

2006年10月21日(土) 中国でメタドン療法のクリニックが急増

 日本ではあまり馴染みがありませんが、麻薬中毒の治療にメタドン(methadone)という鎮痛剤が使われることがあります。メタドンは麻薬ではありませんが、強力な鎮痛作用のある薬剤で、「メタドン療法」とはメタドンを内服することにより麻薬を断ち切っていこうとする治療法です。

 世界的にみてHIV感染の減少にはメタドン療法が効果的であると言われています。麻薬は、初めは内服で始めても容易に耐性ができて(効きにくくなり)、静脈注射をすることになり、それがHIV感染のリスクとなります。しかし、メタドンの場合は原則として内服だけで、効果もそれなりに強く、またあまり薬の耐性も問題とならないため(耐性がでても注射に移行するのではなく内服量を増やすことになる)、HIV感染のリスクを減らすことが期待できるというわけです。

 しかし、麻薬中毒者のなかには、麻薬はやめられてもメタドンから離れられなくなる人もいます。そういった問題があるからなのか、世界のどこの国でもメタドン療法がおこなわれているわけではありません。

 日本では、メタドン療法がおこなわれていないばかりか、なぜかメタドンそのものが流通していません。日本のどこの病院にいってもメタドンは置かれていないということです。日本では麻薬中毒者はそれほど多くないため、これからもメタドン療法の適応が検討される可能性は高くないと思われます。(私は医師になってから日本人の麻薬中毒者をほとんどみたことがありません。驚くほどの勢いで氾濫している覚醒剤やMDMA(エクスタシー)とは対象的です)

 さて、現在の中国はメタドン療法に力を入れており、今年の7月から9月の間で合計206のメタドン療法をおこなうクリニックが誕生したそうです。詳細が10月20日のCHINA DAILYに掲載されていますので簡単にご紹介しておきます。

 新たに206のクリニックが誕生したことにより、現在中国全土では合計307のメタドン療法をおこなうクリニックが存在することになります。

 現在65万人いることになっている中国のHIV陽性者の44%が薬物中毒者であると言われています(性交渉による感染は48%と言われています)。早いペースでメタドン療法のクリニックが次々と誕生したことにより、ヘロインの摂取量が合計1,000キロ以上も少なくなると中国疾病管理局は試算しています。

 中国ではメタドン療法は2003年に導入され、現在31の省や自治体のうちおよそ3分の2でおこなわれています。クリニックでは1回分のメタドンが10元(約1.26ドル、約150円)で処方されます。

 中国疾病管理局は、麻薬を静脈摂取している人が500人以上登録されているすべての地域にメタドン療法のクリニックを設立する計画を立てています。これは、エイズ専門家も歓迎しており、薬物中毒者からの性交渉などによる一般の人々への感染も防ぐことができると期待されています。

 これだけ急速にメタドン療法を普及させていることからも分かるように、現在中国ではHIV対策にかなりの力を注いでいます。2003年に使われた費用が4億9千万元(約6、190万ドル、約73億円)だったのに対し、2005年には10億8千万元(約1億3,650万ドル、約162億円)もの予算が投じられています。

 メタドンそのものへの依存など、メタドン療法にも問題がないとは言えませんが、これまでに世界中で6,500万人もが感染し、2,500万人もの命を奪ってきたHIV/AIDSの問題を効果的に解決するにはやはり重要な対策のひとつであると言えるでしょう。

(谷口 恭)