HIV/AIDS関連情報

2006年11月18日(土) インドの聖職者対象エイズキャンペーン

 インドのエイズ問題啓発の活動家たちは、何百万ものインド人が感染しているエイズに対する意識向上のため、1月にヒンズー教徒を対象としたキャンペーンを行うと11月4日のロイター電は伝えています。

 Ardh Kumbhというヒンズー教の祭典に、6千万人以上の聖職者がインド北部、ウッタル・プラデシュ州アラハバードのガンジス河畔に集まるとされています。その祭典をターゲットにインドの様々な地域から約200人のエイズ感染者がエイズのメッセージをプリントした白いエプロンを着ながら意識向上キャンペーンに参加します。ボランティアも情報冊子やビデオを上映し、カウンセリングも行います。

 キャンペーンの組織者であるNaresh Yadavは、「Ardh Kumbhでキャンペーンを行うことを決めたのは、参加する聖職者の大半が地方出身で、HIVの基本的な情報さえも知らないからです。病気に関する正しい情報を伝えなくてはいけません。われわれのスローガンは"エイズを恐れるな、闘え。私たちがあなたとともにいる"」と述べています。

 UNAIDSによると、インドには570万人のHIV陽性者がおり、世界の中でも高い感染率です。活動家らは、社会的な差別(スティグマ)があって皆HIV感染を秘密にするため、本当の数値はさらに高いだろうと予測しています。ウッタル・プラデシュ州のエイズネットワークによると、40万人のHIV陽性の人々がいますが、政府が予測しているのは1万5千人のみです。

(大和さちよ・浅居雅彦)

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2006年11月17日(金) 中国、絶望的なこころに愛とプライドを

 11月3日のCHINA DAILYからのニュースで、中国、雲南省のピア・エデュケーションの実践例をお伝えします。

 HIV陽性者で元麻薬中毒者のシャオウエが恋に落ち、結婚する予定です。彼女はデイトップ麻薬中毒防止・回復センター(Daytop Prevention and Recovery Centre for Drug Dependence)で働く32歳のカウンセラーです。彼女は幸福への貴重なチャンスを逃さないといいました。

 彼女の将来の夫も元麻薬中毒者で、リハビリ治療のためにデイトップに来たのがきっかけで、彼もまた、現在はデイトップで働いています。

 彼は彼女の病を受け入れ、コンドームを使えば感染しないということを知っています。カップルは人口受精によって子供ももうけることができるし、母子感染を防ぐための特効薬も開発されています。

 シャオウエは若い頃に両親を亡くし、ひいおばあさんと一緒に住んでいました。高校での成績はよかったものの、彼女はカレッジの入学試験に失敗し、失意のどん底に落ちて自殺を図りました。そんなときに、友達が心のいたみを取り除くのだといって「すばらしいパウダー」をくれました。彼女はしばらくしてそれがヘロインであることを知りました。

 「そして薬を買うお金が欲しくて、セックス・ワーカーになったの」とシャオウエは言います。

 麻薬は中国でも違法で、警察に逮捕された中毒者は強制的にリハビリセンターに行かなければいけません。シャオウエは警察に4回逮捕されましたが、麻薬を断ち切ることができませんでした。

 それから彼女は昆明(Kunming)のデイトップセンターに行きました。そこは違うタイプのリハビリセンターで、警察が運営しているものより厳しくなく、宿泊代や治療費は払わなくてはなりませんが、患者はセンターに住むように強制されていません。医師は親切で、患者はグループ別にコミュニケーションをとるようになっています。医療的な授業や心理的なリラクゼーションの技術が教えられ、スポーツや娯楽施設もあります。

 ひとつだけ遵守すべきポリシーがあって、もし患者がデイトップの恩恵に預かりたければ、他の患者が中毒を止められるように助けなくてはなりません。彼らが助ければ助けるほどデイトップの恩恵を受けられるようになり、受講料が安くなり、その上賃金を払ってもらえるチューターとなることができます。

 「デイトップで私は麻薬を断ち切り、他の多くの患者を助けたの。今はこの名誉ある仕事から給料ももらえるわ」とシャオウエはいいました。

 デイトップのプロジェクト・マネージャーのウォン・シャオフェンは、センターのボランティア・リハビリテーションモデルによって何百人もの麻薬中毒者が立ち直ったといいました。デイトップは受講料として患者から費用を受け取りますが、政府からも資金を受けていて、個人的な寄附ももらっています。センターはChina-UK AIDSという、イギリスの資金によるプロジェクトからの資金もあります。デイトップチューターや研修生によって雲南省の麻薬中毒者らに安全な薬の使用の知識や清潔にする習慣が伝えられました。

 「China-UK AIDSとデイトップの協力はエイズ撲滅のために草の根集団が関わっている典型的な事例です」とプロジェクト・マネージャーのシャン・ヤンは述べています。

(大和さちよ・浅居雅彦)

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2006年11月16日(木) イギリス、なぜ若者はコンドームを避けるのか

 コンドームが性感染症(STI)の予防につながるということは、おそらく誰もが知っていることだと思います。それでは、実際コンドームが効果的に利用されているのかどうかについて、ロイター発11月3日付の記事は伝えています。昨日のニュース(「イギリス、世界規模のセックス行動調査 」11月15日)に引続き、メディカル・ジャーナル、ランセット誌(The Lancet)で発表されています。

 アメリカでは、性教育の一環として禁欲を勧めていますが、性感染症への感染率を下げる結果にはつながっていません。しかし、コンドームが手に入らないとか、気にしないとかいったことだけではなく、社会的や文化的な要因によっても若者はコンドームをつけたがらないのだという調査結果が出ています。

 ロンドン大学の公衆衛生・熱帯薬科(London School of Hygiene and Tropical Medicine)では1990年から2004年まで250以上の若者の性行動の調査を行い、異なる国々において若者の性行動に影響を与えている要因に驚くべき類似性があることが判明しました。

 「この調査は若者の性行動を理解でき、なぜ安全でないセックスをするのかという要因を集約している」と、Cicely Marston、Eleanor King博士らがランセット誌(The Lancet)で発表しています。

 同調査は、若者はコンドームの必要性をパートナーから病気をうつされる可能性よりも、相手の容姿やどれくらい顔見知りであるかによって判断するということがわかりました。

 例えば25歳以下の性交渉のある若者は、コンドームを持っていると信用がおけないと見られたり、男性はともかくとして女性は性経験が豊富だと思われたりするからつけるのがいやなのだと言う意見があります。

 イギリス、オーストラリア、メキシコ、南アメリカを含む国々からのデータによると、男性は性的に活力的であることが求められ、女性は貞操を守ることが求められています。世界的に見ても、男性と比べて女性の性的な自由は限られており、それを逸脱した女性に対するペナルティーは、言葉による批判から"名誉殺害"(イスラム社会の一部で、婚前交渉など適切でない性行動に出た女性は家族の名誉を傷つけた者として殺されたりすることもあるそうです)までさまざまですが、女性側からコンドームの着用を求めるということは抵抗があるようです。

 「この調査結果によってなぜ多くのHIVプログラムが効率的ではなかったのかがよくわかった」、と調査担当者が言っています。「社会的な要因を考慮することなく、単に情報やコンドームを与えるだけのプログラムはエイズ問題のほんの一部をかじっているだけ」なのだということです。

(大和さちよ・浅居雅彦)

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2006年11月15日(水) イギリス、世界規模のセックス行動調査

 CNN.comが11月2日に伝えた記事によりますと、イギリスのメディカル・ジャーナル、ランセット誌(The Lancet)で世界規模のセックスに関する行動調査の結果が発表されました。ロンドン大学の公衆衛生・熱帯薬科のKate Wellings教授らの、世界59カ国のデータを分析した結果によるものです。

 国々の多様性がセクシャルヘルスの啓発を難しくしていることも判明しましたが、他にも興味深い結果がでています。専門家は、調査から得たデータは性行為のまちがった情報を正すだけではなく、セクシャルヘルスを改善するのにも役立つと述べています。

 若者はそれほど早い時期に性行為を行っておらず、結婚したカップルがもっとも頻繁にセックスをしており、乱交と性感染症には決定的な関連はないということが分かりました。

 Wellings教授らは、性感染症の罹患率がもっとも高いアフリカ諸国で、乱交的な性行為が見受けられると思っていましたが、そうではありませんでした。多数のセックスパートナーを持っているのはむしろ性感染率の低い工業国でした。エイズがアフリカでひろまっているのは乱交行為があるからだという間違った考えがあったことが分かりました。

 Wellings教授は、調査結果によって性感染において乱交行為はあまり問題ではなく、貧困や教育的な要素のほうが重要な原因となることが分かったと述べています。

 アフリカ諸国の独身男女は、約3分の2がセックスの経験があります。これに対して工業国の独身男女は4分の3以上がセックスの経験があるとのことです。

 また、性行為はそれほど早い年齢で行われているのではなく、多数は10代の後半で行われるのだということがわかりました。そして、既婚者がもっとも頻繁にセックスをしており、発展途上国でさえも結婚する年齢が年々遅れていると述べています。

 とはいえ、これは国によって違いがあり、たとえばイギリスでは初体験の平均年齢が男女でそれぞれ16.5歳と17.5歳、インドネシアでは男女でそれぞれ24.5歳と18.5歳という結果が出ています。

 性感染症については、アフリカとアジアでは、場合によっては、既婚女性が独身女性よりも罹患するリスクが高いという結果がでました。これは、既婚女性は売春婦を買う不誠実な夫から感染する可能性が高いことを示唆しています。

 セックスパートナーの数に関しては、裕福な国の方が貧乏な国より男女差がないこともわかりました。例えば、オーストラリア、イギリス、フランスとアメリカの男女はほとんど同じ数のセックスパートナーを持っていますが、カメルーン、ハイチ、ケニアでは男性の方がたくさんのセックスパートナーを持っているのに対して、女性はたった一人でした。

 「これらの国々では、女性は社会的、経済的に男性に従属しているケースが多く、性行為でコンドームの使用を、相手の男性に交渉する力がなく、その男性が、他の女性たちと性行為をしていることを知らない」ということです。

 Wellings教授は最後に、セクシャルヘルスの啓発について多くの国々で、文化、経済、宗教、社会的にも、性行為に関連する規律や習慣が違っているため、たった一つのアプローチでは、なかなか対応できないという課題が浮かび上がったと述べています。

(大和さちよ・浅居雅彦)

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2006年11月14日(火) インド、香りつきコンドームのCMが物議に

 インド政府筋は香りつきのコンドームは(政府筋にとって)まずい味がするので、テレビなどでの宣伝をやめるよう求めています。11月3日付のNEWS.com.auがニューデリーからレポートしています。

 コマーシャルではストロベリー、チョコレート、バナナ味のコンドームを、「あなたの今晩のお好みの味は?」というキャッチフレーズで宣伝しています。

 しかしながら、インドの宣伝基準協議会と検閲委員会は、政府にこのコマーシャルをデイタイム、特にクリケットの国際試合中に放送することを禁止するよう申し出ました。

 これを日本で例えると、サッカーの日本代表の試合にコンドームメーカーがスポンサーとなり、ハーフタイム中に香りつきコンドームのCMを行うことが妥当かどうか議論となっているといったところでしょうか。

 「この宣伝はいやらしい。おそらく十代の若者を対象にしているのでしょうけれど、子供向けではないわね」

 Sharmila Tagoreという検閲委員会の委員長は言っています。Tagore氏はエイズ撲滅の活動家でもあって、コマーシャルを完全に廃止するのではないけれど、夜11時以降に放送して、子供たちがテレビを見る昼間には放送をやめるよう求めています。コマーシャルに「証明書」マークをつけて、大人だけが見るものであることを示すよう勧めています。

 コンドーム会社の役員は、香りつきのコンドームは口でのセックスを促進するものではなくて、ラテックス臭がきらいなカップルに勧めているのだといっています。

 インドでは、セックスや避妊に対する伝統的な態度や習慣があり、コンドーム使用に対する意識がないのが、特に地方では顕著です。このことが子供たちや女性を不利な立場に追い込んだだけではなく、エイズを国中に拡散させ、世界でも高いHIV陽性率を持つ国となった原因であると主張しています。

 たしかに日本でも、コンドームのCMをデイタイムに流しているのを観たことはありません。業界内で何らかの規制があるのかもしれません。

 デイタイムのコンドームCMが十代への性感染症予防の啓発につながるのかどうかわかりませんが、インドでも日本でもより活発な議論が期待されます。

 国連によると、570万ものインド人がエイズウイルスに感染しています。活動家は、実際の数はこれより高いだろうと予測しています。

(大和さちよ・浅居雅彦)

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