HIV/AIDS関連情報

2006年10月14日(土) 中国、B型肝炎ウイルスのキャリアが強制退学に

 日本の隣に位置していながら、中国では、日本人からは考えられないような事件がときおり報道されます。このウェブサイトでも度々取り上げた河南省の「エイズ村」にも驚かされましたが、またもやとんでもない事件が報道されました。

 なんと、B型肝炎ウイルスのキャリア(ウイルスを保有しているが発病はしていない人)の子供たちが学校から強制的に退学させられたというのです。

 10月11日のCHIAN DAILYによりますと、新疆ウイグル(Xinjiang Uygur)自治区のウルムチ(烏魯木斉、Urumqi)のいくつかの中学校で、合計19人の生徒が「B型肝炎ウイルスのキャリアである」という理由だけで、強制退学させられたそうです。

 退学させられた生徒のひとりは言います。

 「この退学命令書を手渡されてどこの学校にも行けなくなった。今は絶望以外に何も感じることができない」

 B型肝炎ウイルスの感染経路は、HIVと同様、性感染と血液感染です。しかし、キャリアとなる人の大半は母子感染によって感染しています。現在中国にはおよそ1億2千万人のキャリアがいると言われています。

 「900人以上の他の生徒の安全のためにB型肝炎ウイルスのキャリアの生徒を退学させざるをえなかった」と、ある学校関係者は述べています。また別の関係者は、地元メディアの取材に対し、3月にウルムチ教育庁が発表した報告を示しながら、「我々はこの規則に従がって措置をとったまでだ」、とコメントしました。その報告には、「慢性の伝染病を有している者を退学させることができる」、と書かれているそうです。

 ウルムチ教育庁のある幹部は、匿名という条件でメディアに次のようにコメントしています。「我々の"DNA検査の結果"で、キャリアが感染を蔓延させる可能性のあることが分かった」

 なんという非科学的なコメントなのでしょう。"DNA検査の結果"というものがよく分かりませんが、おそらく体内で複製されるB型肝炎ウイルスのDNAが何らかの検査で増幅していたことを言っているのでしょう。

 しかし、もちろん中国にも正常に思考できる人はいます。

 ある弁護士は、「学校がとった退学という措置は違法である。たとえB型肝炎ウイルスのキャリアでも学校に行く権利がある」、と述べています。

 中国保健省のスポークスマンは、「これは偏見だ。すべての生徒は入院が必要でない限り学校に行く権利がある」、とコメントしています。

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 日本のB型肝炎ウイルスのキャリアは現在およそ120万人と言われています。最近はかなり減少してきましたが、以前は日本でもキャリアに対する許しがたい差別があったのは事実です。現在の日本は母子感染対策を徹底していますから、新たにキャリアが誕生することはほとんどありませんが、中国ではまだまだ対策が不充分なのでしょう。

 B型肝炎という病気は、母子感染対策を徹底させれば、数十年後には絶滅させることも可能ではないか、と私は考えていますが、それを実現させるには世界規模での対策をおこなう必要があります。残念なことに、このニュースが物語っているように、B型肝炎ウイルスに対する知識が欠落している国があります。

 日本でも医療機関での対策は徹底していますが、一般の方の間にはまだ正しい知識が充分に普及していないように思うことがあります。中国やタイで性交渉によってB型肝炎ウイルスに感染し、急性肝炎で入院、さらにはそれが劇症化し、命を失う日本人がいるのが現状なのですから。

(谷口 恭)