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2006年10月14日(土) タイの30バーツ医療が無料になる見込み

 このウェブサイトでは以前から何度も取り上げている30バーツ医療(無保険でも一回の医療費が30バーツ(約90円)ですむ制度)ですが、スラユット新内閣のモンコル(Mongkol)保健大臣が、無料化にする方針を10月12日に発表しました。

 10月13日のBangkok Postによりますと、モンコル保健大臣は、国民経済社会諮問機関(NESAC、National Economic Social Advisory Council)の試算を引き合いに出し、「国民ひとりあたりの政府補助金を現在の1,695バーツから2,089バーツ(約6,300円)にすれば資金不足は解決する。病院の経営には影響を与えない。また、きちんと医療保険を払っている人が損をすることもない」、という旨を発表したようです。

 タイ開発調査機構(TDRI, Thailand Development Research Institute)は、「病院で支払う金額が無料になって患者が増え、病院のスタッフの業務は増えることが予想されるが、全体としては大きな問題にはならない」、とコメントしています。

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 タイで医療保険に入っている人のデータは見たことがありませんが、現地のある医療従事者は、保険代を支払っているのはおそらく国民の1~2割程度ではないか、と言います。かたや保険代をきちんと支払い、かたや無料で医療が受けられると考えると、支払うだけ損と考える人がいるかもしれませんが、実際はそうでもありません。

 これまで30バーツ医療が実施されていた病院がそのまま無料医療をおこなうことになると思われますが、すべての病院が対象となるわけではありません。公立病院と一部の私立病院だけでの実施ですし、一日のうち何人まで、と制限を設けているところが多いのが実情です。他の患者さんよりも待たされて、薬を受け取ったり、支払いを済ませたりするのに長い列をつくらなければならないという問題もあります。また、どんな病気でも診てもらえるわけでもありません。(ちなみにエイズの場合は、抗HIV薬については30バーツ医療でまかなわれるケースが多いのですが、それ以外の薬がどれだけ支給されるか、あるいは生活保護や病院までの交通費の支給などについては、地域によって様々です)

 旅行でタイに行き、突然の病気や怪我で現地の病院に行かれた方も少なくないと思われますが、外国人の旅行者が受診するような大きくてきれいな病院はたいてい私立病院で、そのような病院はこの医療政策の対象になっていません。一般的なタイの公立病院というのは、ひとつの病室が体育館のような広さで、数十人の様々な病気をもった患者さんがベッドに横たわっています。なかにはベッドが足らなくて床に寝ている患者さんもおられます。

 最先端の医療を希望する人は保険料をきちんと支払い、貧困で保険料が支払えない人は、「高度な医療の恩恵に預かることはできないけれども最低限の医療は受けられる」というシステムがタイの現在の医療制度というわけです。ですから、モンコル保健大臣がコメントしているように、保険料をきちんと支払っている人たちから不公平感はそれほどでないのではないか、と私は思います。

 格差が広がりつつあるのではないかと言われている日本でも、いずれこのような制度を導入すべき時代が来るかもしれません。そのとき国民は何を思うのでしょうか。

(谷口 恭)