HIV/AIDS関連情報

2006年9月12日(火) 南ア厚生大臣、ついに降格

 以前このコーナーでお伝えしたように、南アフリカの厚生大臣は、抗HIV薬が必要な患者さんに薬剤を供給するのではなくニンニクやビートの根などを食べるように指導しており、それが世界中の科学者から非難されていました(2006年9月8日「科学者たちが南アのエイズ政策を激しく非難」)。

 9月9日のThe Independent (online edition)によりますと、この非難を受けて、Mbeki大統領は、ようやくこの厚生大臣Tshabalala-Msimang氏を降格させることを決めました。(依然、厚生大臣という役職は維持されるものの、エイズ対策の責任者から外されることになったようです。)

 厚生大臣は降格されたとしても、Mbeki大統領自身が、かつて、「エイズの原因はHIVではなく貧困である」、と発言したのは事実です。今後、南アフリカが適切なエイズ対策をとるのかどうか注目したいところです。

 尚、この記事によりますと、南アフリカでは、一日に2000人がエイズで死亡しているそうです。(The Independentの9月8日の報道では、900人となっています。)

(谷口 恭)

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2006年9月11日(月)   タイの主婦へのHIV対策

 9月9日のBangkok Postによりますと、タイの公的機関「エイズ・結核・性感染症局」が、「主婦のHIV感染が増加している」と発表しました。

 タイ厚生省の最新の発表によりますと、昨年新たにHIV感染がわかったおよそ1万7千人のうち主婦が30%以上を占めます。20%がMSM(男性と性交渉を持つ男性)、10%が薬物の静脈注射をする人、残りが10代の少年少女、及び売春行為で感染する人です。

 「エイズ・結核・性感染症局」は、全国の病院に「パートナー告知プロジェクト(Partner Notification Project)」と呼ばれる対策を徹底するように通達しました。これは、夫婦に対し定期的な血液検査をおこなうよう促すというものです。

 このプロジェクトでは、夫婦間で「ABC原則」と呼ばれるHIV感染対策をおこなうことも促しています。「ABC原則」とは、「禁欲(Abstinence)」、「忠誠(Faithfulness)」、「コンドーム(Condom)」を徹底するというものです。(「忠誠」は理解できるとして、夫婦間に「禁欲」が求められるべきなのでしょうか・・・。それから、なぜ"faithfulness" が "B"なのでしょうか・・・)

 他のところでも述べましたが、最近タイではエイズ対策が「予防」から「治療」にシフトしています。そのため、ここ7年間は「コンドーム・キャンペーン」が下火になっています。

 エイズアクセス財団(Aids Access Foundation)の代表者、Nimit Tien-udom氏は、「単に抗HIV薬を支給するだけでは、この慢性的な問題を解決することはできない」、とコメントしています。

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 この記事では、主婦の感染に注目すべきである、といったような報道となっていますが、タイでは以前から主婦の感染が問題になっていたはずです。拙書『今そこに・・・』でも述べていますが、タイでは、売春婦を除けば、女性の感染者は大半が主婦です。治療と同様に予防が重要なのは言うまでもありませんが、「コンドームだけでは限界がある」ということは以前から分かっていたことです。

 主婦のHIV感染に関して、最近GINAでおこなった調査で興味深いことが分かりましたバンコク、パタヤ、プーケットで活動するフリーの売春婦(Independent Sex Worker)200人のうち、なんと67人(33.5%)が主婦だったのです(離婚者が16.5%、独身は50.0%)。

 (この調査では意外な結果が次々と出ました。現在分析中ですので公開までもう少しお待ちください。)→公開しています(2006/10/12)

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 ところで、主婦の感染は日本でも問題になりつつあります。東京都立駒込病院の看護師、堀成美氏の昨年の日本エイズ学会での報告によりますと、「初診時に50歳以上だった女性のHIV感染症例を調べたところ、14例中8例(57%)もが、夫やパートナーの感染・発症をきっかけに感染が発覚していることが分かった」、そうです。

 主婦が自分の夫から感染するというケースは、数は多くないものの関西でも報告があります。また、HIVは現時点ではそれほど頻度が高くありませんが、クラミジアや淋病といった性感染症に自分の夫からうつされた、という症例は珍しくありません。なかには、それが原因で離婚にいたったケースもあります。

 夫婦間の感染は非常にむつかしい一面を孕んでいます。タイの「ABC原則」が提唱している「禁欲」や「コンドーム」は効果が乏しいと思われるからです。唯一、期待できるのが「忠誠」でしょう。

 夫婦もしくはカップルで、HIVを含めた性感染症について話し合い、ふたりで検査を受け、その後は忠誠を誓い合う、というのが最善の方法であると私は思うのですが、これは非現実的な「キレイ事」なのでしょうか・・・。

(谷口 恭)

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2006年9月11日(月) 「治療不能」の結核が急増

 エイズの定義は、「HIV陽性かつ特定23疾患のいずれかを発症している」というものです。この23疾患のうち、比較的よく遭遇するのが「結核」です。

 結核は、昔は「不治の病」でしたが、複数のすぐれた抗結核薬が登場したことにより、今では治癒する病気となっています。しかし他の細菌感染症とは異なる点があります。それは、複数の薬剤を比較的長期間(最低半年間)は内服し続けなければならないということです。このため、一部の地域では、実際に患者さんが薬を服用するところを医療者が確認する治療対策(これをDOT(Direct Observed Treatment)と呼びます)をとり、たとえばニューヨークが結核減少に成功したのはこの対策を徹底したからだと言われています。

 適切な服薬を怠ると、結核菌が抗結核薬に耐性をもち、通常の治療では治癒しなくなります。要するに、きちんと薬を飲まないと薬が効かなくなってしまうということです。薬が効かなくなった結核のことを「MDR結核(薬剤耐性結核)」と呼びます。WHOのデータでは、現在世界中でMDR結核は一年間におよそ42万5千症例発症しています。特に多いのが旧ソ連、中国、インドです。MDR結核に対する治療には、別のタイプの抗結核薬を用いますが、これらは高価で、なおかつ副作用が多いという欠点があります。ただし、この時点からでも、がんばって薬を飲み続ければ治癒が期待できます。

 しかし、最近、どんな薬を飲んでも治らない結核が増加しており、これが世界的に問題になっています。どんな薬を飲んでも効かない結核は「XDR結核」と呼ばれ、最近南アフリカで開催された国際会議で議論を呼びました。

 9月6日付けのBBC NEWS(website版)に、XDR結核についての情報が掲載されています。

 米国CDC(米国疾病予防管理センター)とWHOが2004年と2005年の二年間でおこなった調査によりますと、1万8千の結核のうち、20%がMDR結核で、2%がXDR結核でした。他のいくつかの国で同様の調査をおこなったところ、これよりもさらに深刻な結果がでています。米国ではMDR結核のうち4%がXDR結核であったのに対し、韓国では15%にものぼっています。

 WHOの結核担当者によると、XDR結核には複数のタイプがあることは分かっていますが、どのような経路で感染するのかといったことや、限られた地域に限定しているのかどうかといった点は現在も不明だそうです。

 しかし、ひとつだけはっきりしていることがあります。それは、HIV陽性の人はXDR結核のリスクが高いということです。南アフリカの53例のXDR結核の調査では、そのうち52例が25日以内に死亡し、44例にHIV抗体検査を実施したところ、なんと全員が陽性だったのです。

 XDR結核は、すでにHIV陽性率の高いアフリカ諸国で蔓延している可能性が強いとみられています。

 しかしながら、HIV陽性者も含めて、XDR結核の発症を防ぐ方法はあります。それは、結核の診断がついた時点できちんと服薬をするということです。

 このBBCのニュースでは、日本の結核については触れられていませんが、実は日本は、韓国と並んで先進国のなかで結核が蔓延している稀な国です。私は以前タイで、アメリカ人の医師に「日本は結核の罹患率が低くない」という話をしたところ、「日本は先進国ではなかったのか」と言われました。結核は発展途上国の病気という見方が一般的なのです。

 日本のなかで、もっとも結核発生率が高いのが大阪市西成区です。9月4日の毎日新聞で「世界最悪の結核感染地」という見出しで、西成区の実態が報道されています。

 その記事によりますと、西成区の罹患率(人口10万人あたりの患者数)は、2004年で750にものぼります。日本全国では23.3ですから、西成区は全国平均のおよそ32倍ということになります。

 では、なぜ西成区でこれほど結核が蔓延しているのでしょうか。それは、この地域は全国でもトップクラスの日雇い労働者の居住地域だからです。日雇い労働者は生活が不安定ですから、栄養状態が悪くなり、結核に罹患しやすいのです。(最近、若い女性の間でも結核感染が増えていますが、これは無理なダイエットをして抵抗力が落ちているからだと言われています。)

 さらに、日雇い労働者は相部屋の簡易宿舎や建設作業員の共同宿舎で生活していることが多いという背景があります。このため共同生活者に結核感染者が出ると、一気に蔓延する可能性があるのです。

 日雇い労働者に結核が蔓延しやすい理由はまだあります。彼らは日雇いですから、もしも結核に感染している可能性があると仕事がなくなり収入が途絶えます。そこで少々無理をしてでも病院に行かずに仕事を続け、その結果他人に感染させているのです。また、少しでも早く職場復帰したい彼らは、咳や熱などの症状がなくなれば、勝手に薬を飲むのをやめて働き出すことが少なくありません。これが、耐性菌の出現を招くのです。

 現時点では、日本はまだXDR結核の問題が深刻化していないようですが、HIV陽性者の増加と相まって、近いうちに社会問題となるかもしれません。

(谷口 恭)

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2006年9月9日(土) ウガンダの同性愛差別

 ニューヨークに本部を置くHuman Rights WatchというNGOが、同組織の情報配信媒体であるHuman Rights News(9月8日号)を通して、ウガンダの同性愛差別に関する詳しい情報を発表しましたのでここに報告します。

 イギリスの統治にあった頃に制定され現在も継続している同性愛禁止法により、ウガンダでは同性愛行為は犯罪とされています。刑法140条では、同性愛行為をおこなった場合、「自然摂理に反した交接」として最低でも終身刑が科せられます。141条では同性愛行為を試みようとしただけで最低7年間の禁固刑となっています。
 
 
ヨウェリ・ムセベニ大統領の統治下で、ウガンダの同性愛者たちは長年の間不当な扱いを受けてきました。

 今年の8月8日、Red Pepperという名のウガンダのタブロイド紙が、45人の男性同性愛者の個人情報を公開しました。同紙は、「不道徳な同性愛が社会にいかに急速に広まっているかを示すために公開した」と述べ、レズビアンについても同様の発表をおこなう予定をしています。

 レズビアンの公開に対し、ウガンダのある活動家は指摘します。

 「国連の2000年のデータでは、ウガンダの女性の41%が家庭内暴力を受けていると報告されている。家長制度がはびこるこんな国では、レズビアンであることが分かると、家庭内や社会で暴力を受けることになるのは明らかだ」

 同タブロイド紙は、2002年に女性どうしで(非合法的に)結婚したカップルを写真入りで報道しました。警察は直ちにそのふたりの女性の尋問をおこないました。弁護士が介入しふたりは開放されましたが、再び逮捕され数日間抑留されることになりました。このふたりから相談を受けた牧師は逮捕され国外に追放されました。

 もう少しウガンダの同性愛差別についてみてみましょう。

 2004年10月には、情報大臣が警察に対し、Makerere大学で結成されたゲイの団体を取り締まるよう命じています。

 2005年6月6日、政府管轄のNew Visionという新聞は、「警察は同性愛者の家宅捜査をおこない逮捕すべきだ」、とコメントしました。同時に、政府関連の別の機関は、不道徳なウェブサイト、雑誌、新聞、テレビ局を追放すべきだと主張し、その対象にポルノと共に同性愛をあげています。その後、地方当局は、Sexual Minorities Ugandaという機関の代表をつとめるレズビアンの活動家を家宅捜査し、書類などを差し押さえ逮捕しました。また、別のレズビアンの活動家も逮捕し抑留しました。

 政府は同性愛者の権利や生活について話をすることを禁止しています。政府管轄の放送委員会は、レズビアンとゲイが出演したトークショーを放送したラジオ局に対して、約12万円の罰金を言い渡しました。

 2005年2月に、アメリカ人のEve Ensler原作の「腟の独白(The Vagina Monologues)」というタイトルの演劇が政府の検閲により禁止されました。同性愛や売春といった非合法で自然に反する行為を助長する恐れがある、という理由です。

 ところで、ウガンダがとっているエイズ対策は「結婚まで貞操を守る」というものです。

 2005年3月のHuman Right Watchのレポートは、「この対策は、若い世代に正確な情報を知らせないことにつながり、本質的な性差別をもたらしている」、と指摘しています。結婚までの禁欲は、法的に結婚できない同性愛者の存在を否定することになるからです。

 2002年3月は、国家のHIV/AIDS対策は評価されましたが、そのとき大統領は、「ウガンダでは同性愛を認めない」、とコメントしています。

 Human Rights Watchのスタッフは言います。

 「ウガンダのいったん成功したかにみえるエイズ予防対策はすでに破綻しつつある。なぜなら脆弱な人々が地下に潜ることになっているからだ」

 Human Right Watchは、政府に対し次のことを要求しています。

 ・同性愛者を差別する政策を直ちに中止する
 ・同性愛禁止法を撤廃する
 ・同性愛者を擁護している人権擁護者に対する暴力や不当な扱いをやめる

 尚、UNAIDSのデータでは、ウガンダのHIV陽性者はおよそ100万人で、国民のおよそ6.7%に相当します。

(谷口 恭)

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2006年9月9日(土) カザフスタンの子供たちが輸血でHIVに感染

 9月8日のロイター通信によりますと、旧ソ連のカザフスタンで、最近2,3ヶ月の間で生後2ヶ月から10歳までの子供49人が輸血でHIVに感染し、そのうち4人が死亡したそうです。亡くなった4人の子供たちは全員2歳以下と報道されています。同国の厚生省と司法当局は、ウイルスに汚染した血液を供給したと思われる13人の調査をおこなっているようです。

 HIVに感染してもエイズを発症するまでに通常数年の期間がありますから、おそらく亡くなった子供たちは、急性HIV感染症の症状が重症化したためではないかと思われます。

 カザフスタンを含む中央アジアでは、ソビエト連邦崩壊以降HIV感染が急増しています。この地域はアフガニスタンからヨーロッパへのヘロイン輸送の中継地点となっており、感染者の多くは薬物中毒者です。

 尚、UNAIDSのデータでは、カザフスタンのHIV陽性者は現在およそ12,000人で、国民の0.1%に相当します。

(谷口 恭)

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