HIV/AIDS関連情報

2006年9月27日(水) シンガポール、10代の間で性感染症急増

 9月26日のStraits Times(シンガポールの新聞)によりますと、シンガポールの10代の間でHIVを含む性感染症が急増しているようです。Straits Timesは、この原因を「性の乱れ(promiscuity)」と「危険な性行為(disregard for safe-sex practice)」とみています。

 シンガポールの公的なデータによると、性感染症の治療目的で受診した10歳から19歳の青少年は、2001年には256人だったところ、2005年には678人に増加しています。この世代の性感染症の罹患率でみると、2001年には3.8%だったところ、2005年では6.1%にもなっています。

 1985年から2004年の間には、合計18人の10代のHIV陽性者が発見され、ほぼ1年に1人のペースとなっています。ところが2005年は、17歳から19歳のゲイ4人が新たにHIVに感染したことが分かりました。

 今回の発表では、「性交渉は若年化しており、複数のパートナーと危険な性行為をおこなう頻度は増えている一方で、検査の必要性の認識は上がっている」、とコメントしています。

 また、10代で性感染症関係のクリニックを受診する者は平均で4人の性パートナーを持っているそうです。

 保健省ではHIVの増加に警告を発していますが、シンガポール政府自体はコンドーム使用の普及運動をおこなわない方針であり、ゲイコミュニティを批判しています。
 
 シンガポールの人口はおよそ430万人、そのうち5人にひとりが外国人です。

 今回の記事は10代に関するものでしたが、シンガポール全体のHIV陽性者は、2003年には4700人だったのに対し、2005年には5500人と2年で20%近くも増加しています。(データはUNAIDSのもの)

(谷口 恭)

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2006年9月27日(水) またタイのせい? ジャージー島のHIV増加

 フィンランド、オーストラリア、マレーシアなどでのHIV感染増加はタイのせいであるという公なコメントが発表されたというニュースをこのコーナーで度々お伝えしてきましたが、ジャージー島でも同様の発表がおこなわれました。

 9月22日のBBC NEWSによりますと、ジャージー島の保健省が下記の発表をおこないました。

・ジャージー島ではHIV感染が10年間で2倍に増えており、現在のHIV陽性者はお  よそ60人である。

・10年前は、HIV陽性者の62%が同性愛者、8%が異性愛者であったが、現在は    70%が異性愛者である。

・感染した場所は、50%がイギリス内、30%が西ヨーロッパ内、そして20%がタイである。

 またまた、タイが名指しされています。

 ジャージー島とは、イギリス海峡のチャネル諸島に位置するイギリス王室の属領で、一人当たりのGDPが4万ドルもある裕福な地域です。(ちなみに、日本の一人当たりのGDPはおよそ3万ドルです)

 それだけ裕福な地域ですから世界に旅行する人は多いのでしょうが、性産業の盛んな地域は、中国、ロシア、フィリピン、韓国、・・・、など他にもいくらでもあるわけで、お金も知識もある彼らが、タイでのみ危険な性交渉をおこなっているということはやはり興味深いと言えるでしょう。

(谷口 恭)

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2006年9月26日(火) 都市部自治体は財政難のためエイズ対策予算を大幅に削減

 9月17日の厚生労働省発表で、国内のHIV陽性者とエイズを発症した患者が増え続けるなか、陽性者らが集中する都市部の東京や大阪など5自治体のエイズ対策予算の総額が、今年度は約4億円と約10年で3分の1まで減少していることが、9月18日の日経新聞で報道されました。
 
 各自治体は財政難で、効果の見えにくい普及啓発事業などが大幅削減されているとのことです。HIV陽性者らはHIV感染の拡大を指摘しています。

 厚労省によると、2005年に新規報告されたHIV陽性者とAIDS患者の合計は1199人となり、過去最多を更新しました。先進各国が横ばいで推移するなか、日本は若い世代を中心に陽性者の増加傾向に歯止めがかかりません。

 大阪には自治体からの委託で、土曜日にHIV抗体検査を行っているNPOもあり、そのサービスの質から年々受検者数も増えています。そういったNPOの活動が財政難で制限されないか懸念します。

(浅居 雅彦)

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2006年9月24日(日) パキスタンで薬物中毒となるアフガン難民

 9月18日のIRIN Newsに、パキスタンに住む薬物中毒のアフガン難民についてのレポートが掲載されていますのでここにご紹介したいと思います。

 その前に、まずはアフガニスタンの歴史について簡単にまとめておきましょう。

 アフガニスタンは19世紀にイギリスと二度の戦争をおこない、二度目の戦争(第二次アフガン戦争)でイギリスに敗れ同国の保護国となります。しかし1919年の第三次アフガン戦争でイギリスに勝利し独立をはたしました。1978年、当時共産圏の拡大を図っていたソ連がアフガニスタンへの侵攻を開始し、翌年には社会主義国となります。この頃から自国で生活できなくなったアフガン人は難民として主に隣国のパキスタンに流れるようになります。1989年にソ連軍は撤退しますが、国は荒廃の一途をたどり続けます。ほぼ無政府の状態が続いていましたが、90年代半ばあたりからタリバン政権が国家を掌握し始めます。そしてタリバン政権が庇護していたアルカイーダが2001年9月11日アメリカで同時多発テロを起こしたことにより、アメリカ軍に侵攻され、タリバン政権は崩壊し、自国で生活できなくなったアフガン人は、難民として隣国に、特にパキスタンに流れるようになりました。

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 パキスタンのペシャワルの路地にある小さな店の前で膝を抱えてしゃがんでいるひとりの青年がいます。彼の名はナジェーブ。雨が降っており彼の衣服はずぶぬれですが気に留める様子はありません。彼の視線はどこか遠いところにあり、あごひげは手入れされていません。左腕の静脈注射の跡が、彼が薬物中毒であることを物語っています。

 「僕がドラッグに手を染め出したのは17歳の頃。家族は僕を見捨ててアフガニスタンに帰ったんだ」

 仕事がなく貧困の極致にいるナジェーブが関心のあるのは、次はどこでヘロインを入手するか、ということだけです。

 「こいつは悪いやつじゃないよ。単に貧乏なだけさ。けどこいつには治療が必要だ」

 自分の店の前でしゃがみこんでいるナジェーブを指してこの店の主人は言います。

 現在も増え続けている薬物中毒のアフガン難民のひとりであるナジェーブが服用するのはヘロインです。現在250万人もいると言われているアフガンからの難民に薬物中毒者がどれくらいいるのかということはパキスタン政府も把握できていません。

 アフガニスタンの首都カブールで薬物中毒者の治療をおこなっている医師Tariq Suleman氏は言います。

 「2006年の国連のデータによると、アフガンニスタンの薬物中毒者は100万人近くにものぼる。多くはパキスタンやイランのキャンプで薬物を始めている」

 薬物が違法であるということよりも問題なのは、治療とリハビリをどのようにするかということです。パキスタンでは、注射針の使いまわしが日常化しており、またHIV感染の知識は乏しく、薬物中毒者は脆弱(vulnerable)な存在となっています。

 「エイズという病気は聞いたことがあるよ。けど、それって西洋諸国の病気だろ」

 ナジェーブはそう言います。もちろん彼はHIVの検査を受けたことがありません。

 パキスタンにいるおよそ150万人のアフガン難民は主に都心部で生活しており、極度の困窮に直面し、容易にドラッグに手を出しています。彼らのほとんどは無職か最低賃金の肉体労働をしているかのどちらかです。彼らが直面する差別は次第に厳しくなってきています。ソ連がアフガニスタンに侵攻しだした頃は、彼ら難民はパキスタンの社会からある程度受け入れられていましたが、最近は差別が増える一方です。

 「アフガン難民は社会のなかで最下層の身分となっている。彼らは社会から卑下され、警察には犯罪者とみなされている」

 ペシャワルの社会学者Ghani Ibrahim氏はそう述べています。また、パキスタン人権委員会(HRCP, Human Right Commission of Pakistan)は、定期的にアフガン難民の集団逮捕をおこなっている警察を非難しています。

 パキスタンではヘロイン中毒者が少なくありません。麻薬撲滅機構(Anti-Narcotic Force)のAnwar Hafeez氏は、「パキスタンは世界で最も薬物中毒者が多い国だ」、と言います。そして、大勢のアフガン難民がパキスタンで中毒者になっているのです。

 政府の統計では、パキスタンにはおよそ50万人もの薬物中毒者がいます。このなかで静脈注射をしているのはおよそ6万人です。

 アフガニスタンは世界の90%以上のヘロインを精製しており、このうち3分の1はパキスタン経由で世界各国に輸出されています。ここ2年間は、パキスタンとアフガニスタンの国境付近でのヘロインの密輸や精製が増えてきています。

 薬物の静脈注射をする人のHIVに対するリスクはここ数年間で次第に大きくなってきています。1999年に国連薬物犯罪オフィス(UNODC)が、パキスタン東部の都市ラホールでおこなった調査では、薬物摂取の方法を吸入から静脈注射に変えている中毒者が多いことが分かりました。UNODCはこれがHIV感染のリスクを高めていることを指摘しています。パキスタンでは注射針の使いまわしが日常化しているのです。

 2005年、UNAIDSはシンド州ラルカナで、薬物の静脈注射をする人の間でHIVが蔓延していることを発表しました。薬物中毒者170人にHIVの検査をしたところ20人以上が陽性だったのです。

 カラチでおこなわれた2004年の調査では、薬物を静脈注射している人の5人に1人以上がHIV陽性であることが分かりました。

 パキスタン国民エイズプログラム(Pakistan's National AIDS Programme)は次のようにコメントしています。

 「薬物の静脈注射をする人や売春婦の間ではHIVに関する知識が極めて低い。カラチは主要な交易都市であるが、4人に1人以上がエイズという病名を知らない。また、滅菌してない注射器でHIVに感染することを知っている者はほとんどいない」

 UNAIDSは、現在のパキスタンのHIV陽性者を7万人から8万人としており、これは国民の0.1%程度ですが、実際はこれよりも遥かに多く、今後も感染者が増加していくものとみられています。

 ナジェーブのようなアフガン難民は非常に危険な状態に直面しています。文字が読めない者が多く、知識が欠落しており、家族から離れてパキスタン全域に散らばっているアフガン難民はHIV感染に対する脆弱(vulnerable)な存在なのです。

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 アフガンは19世紀よりイギリス、ソ連、アメリカといった大国に侵攻され続け、多くの難民を生み出しています。そしてその難民たちの間でHIVが蔓延しているのです。彼(女)らは誤った政治が生み出した犠牲者であると言えるのではないでしょうか・・・。

(谷口 恭)

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2006年9月23日(土) パキスタンの男娼

 9月21日のIRIN Newsで、パキスタンの男娼についてのレポートが掲載されましたので簡単にまとめておきたいと思います。

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 ラホールの露店でマッサージを生業としているPervaizという名の「男性」が言います。

 「ときにはとてもラッキーな日があって、一晩で2人、もっと多いときは3人の「良客」がつくこともあるんだ。そんな日は幸せな気分で家に帰れるよ」

 Pervaiz氏が言う「良客」とは、氏の身体を買う男性のことで、「良客」が数時間の買春行為で氏に支払う金額はせいぜい800円程度です。

 「僕には"レギュラー"の良客がいて、彼らは月に何度か僕を買いに来てくれるんだ。僕の"サービス"をとても気に入ってくれてるのさ」

 Pervaiz氏はラホールでは珍しくない男娼(male sex workers)のひとりです。ラホールはカラチに次ぐパキスタン第2の都市で、およそ800万人の人口を有しています。

 ラホールの正確な男娼の数は分かりませんが、パキスタン国民エイズプログラム(Pakistan National AIDS Programme)の2002年の調査では、およそ3万8千人とされています。

 この人数には、この地域で「hijras」と呼ばれている去勢した男性も含まれます。Pervaiz氏もそのひとりで、ラホールやその他の都市では、夕暮れになるといくつかのスポットに彼(彼女?)らがやって来ます。ラホールで最も大勢集まる場所が、Pervaiz氏も営業をおこなっているMinar-e-Pakistanと呼ばれる回教寺院の周辺、もしくは運河の川沿いです。

 イスラム教に基づいたパキスタンの法律では、男性間の性交渉は厳しく禁じられており、逮捕されれば、むちうち、投獄、あるいは死刑が宣告されることになっていますが、実際にはほとんど黙認されています。しかしながら、公衆の面前で男性間の性行為について語るのはタブーであり、これがHIV感染に対する彼らの意識が極めて低い理由のひとつです。

 「hijras」のコミュニティは社会から疎外され、保健所やHIV関連機関にアクセスできる男娼はほとんどいません。その結果、彼らはより脆弱(vulnerable)な存在となっています。

 「なかには(女性の)売春婦と一緒に活動しているグループもあるけど、誰も我々を支援しようとなどは考えない。我々は社会から見捨てられているんだ」

 とParviz氏の友人Hanif氏は言います。

 UNAIDSによると、2005年の時点でパキスタンには7万人から8万人のHIV陽性者がいるということになっています。パキスタンの人口は1億5千万人ですから、陽性率は0.1%と極めて低くなっています。

 しかしながら、UNAIDSも含めて多くの国際機関は、「ハイリスクな行為、感染に対する意識の低さ、人口の50%が文盲であることなどを考慮すると、実際にはHIVが国民全体に広く蔓延している可能性がある」、とも指摘しています。

 UNAIDSによると、2005年の時点で男娼のHIV感染率は4%、「hijras」では2%となっています。また、HIV以外の性感染症が広く蔓延していることも指摘されています。

 国内のエイズ関連機関であるAPAP(The AIDS Prevention Association of Pakistan)は、男娼に対する啓発活動もおこなっています。APAPのスタッフであるHamid Bhatti医師は言います。

 「現在我々が注目しているのは神学校に通う若い人々です。学校内で男性間の性行為がおこなわれているのは周知の事実です」

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 男性間の性交渉が、法的に禁止されていながら事実上黙認されているなら、いっそのこと合法化すれば、彼らが地下に潜らなくなり、脆弱な状態から社会に認められる存在となり、その結果、HIV感染に対する意識が高まると思われますが、それができない最大の理由は、同性間の性交渉を厳しく禁じているイスラム教の存在なのでしょう。

(谷口 恭)

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