HIV/AIDS関連情報

2006年9月23日(土) パキスタンの男娼

 9月21日のIRIN Newsで、パキスタンの男娼についてのレポートが掲載されましたので簡単にまとめておきたいと思います。

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 ラホールの露店でマッサージを生業としているPervaizという名の「男性」が言います。

 「ときにはとてもラッキーな日があって、一晩で2人、もっと多いときは3人の「良客」がつくこともあるんだ。そんな日は幸せな気分で家に帰れるよ」

 Pervaiz氏が言う「良客」とは、氏の身体を買う男性のことで、「良客」が数時間の買春行為で氏に支払う金額はせいぜい800円程度です。

 「僕には"レギュラー"の良客がいて、彼らは月に何度か僕を買いに来てくれるんだ。僕の"サービス"をとても気に入ってくれてるのさ」

 Pervaiz氏はラホールでは珍しくない男娼(male sex workers)のひとりです。ラホールはカラチに次ぐパキスタン第2の都市で、およそ800万人の人口を有しています。

 ラホールの正確な男娼の数は分かりませんが、パキスタン国民エイズプログラム(Pakistan National AIDS Programme)の2002年の調査では、およそ3万8千人とされています。

 この人数には、この地域で「hijras」と呼ばれている去勢した男性も含まれます。Pervaiz氏もそのひとりで、ラホールやその他の都市では、夕暮れになるといくつかのスポットに彼(彼女?)らがやって来ます。ラホールで最も大勢集まる場所が、Pervaiz氏も営業をおこなっているMinar-e-Pakistanと呼ばれる回教寺院の周辺、もしくは運河の川沿いです。

 イスラム教に基づいたパキスタンの法律では、男性間の性交渉は厳しく禁じられており、逮捕されれば、むちうち、投獄、あるいは死刑が宣告されることになっていますが、実際にはほとんど黙認されています。しかしながら、公衆の面前で男性間の性行為について語るのはタブーであり、これがHIV感染に対する彼らの意識が極めて低い理由のひとつです。

 「hijras」のコミュニティは社会から疎外され、保健所やHIV関連機関にアクセスできる男娼はほとんどいません。その結果、彼らはより脆弱(vulnerable)な存在となっています。

 「なかには(女性の)売春婦と一緒に活動しているグループもあるけど、誰も我々を支援しようとなどは考えない。我々は社会から見捨てられているんだ」

 とParviz氏の友人Hanif氏は言います。

 UNAIDSによると、2005年の時点でパキスタンには7万人から8万人のHIV陽性者がいるということになっています。パキスタンの人口は1億5千万人ですから、陽性率は0.1%と極めて低くなっています。

 しかしながら、UNAIDSも含めて多くの国際機関は、「ハイリスクな行為、感染に対する意識の低さ、人口の50%が文盲であることなどを考慮すると、実際にはHIVが国民全体に広く蔓延している可能性がある」、とも指摘しています。

 UNAIDSによると、2005年の時点で男娼のHIV感染率は4%、「hijras」では2%となっています。また、HIV以外の性感染症が広く蔓延していることも指摘されています。

 国内のエイズ関連機関であるAPAP(The AIDS Prevention Association of Pakistan)は、男娼に対する啓発活動もおこなっています。APAPのスタッフであるHamid Bhatti医師は言います。

 「現在我々が注目しているのは神学校に通う若い人々です。学校内で男性間の性行為がおこなわれているのは周知の事実です」

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 男性間の性交渉が、法的に禁止されていながら事実上黙認されているなら、いっそのこと合法化すれば、彼らが地下に潜らなくなり、脆弱な状態から社会に認められる存在となり、その結果、HIV感染に対する意識が高まると思われますが、それができない最大の理由は、同性間の性交渉を厳しく禁じているイスラム教の存在なのでしょう。

(谷口 恭)