HIV/AIDS関連情報
2006年10月1日(日) 毎日新聞でタンザニアのエイズ問題のレポート
毎日新聞で9月21日から数回に渡り、アフリカのエイズ問題がレポートされています。
「エンベの子守唄」と題されたこの記事は、長野県在住のタンザニア人がフリージャーナリストに、自身の母親が運営するエイズ孤児の宿舎の窮状を訴えたことがきっかけで、長野県内でのHIV陽性者の拡大が深刻化していることもあり、「アフリカから日本のエイズを考える」をコンセプトに市民団体が設立され、その団体がアフリカ・タンザニアを視察したときの模様を毎日新聞、長野支局の川崎桂吾記者がレポートしたものです。
中央アフリカ東部、インド洋に面したタンザニアのエイズ関連の状況をUNAIDSのWebサイトで見てみますと、人口3800万人、平均寿命は50歳に満たなく、ひとり当たりのGNPは660ドル、1日につき2ドル以下で暮らす人が全体の59・7%です。HIV陽性者が140万人、成人のHIV陽性率はおよそ6.5%、17歳までのエイズ孤児は110万人です。
レポートでは、貧困や無知がHIVを拡散させ、エイズによって死亡していることを報告しています。日本では、保険が適用される抗HIV薬もタンザニアでは高価ゆえ手に入らず、最近では安価なジェネリック薬も出回り始めましたが、それでも月20ドルほどするため庶民には高価なものとなっています。また、仮に薬が手に入ったとしても、栄養のある食事を取ることが難しい問題なのです。
啓発教育も大きな問題です。識字率の低さがHIVを予防する知識の普及を妨げていますし、農村部ではいまだに「ウィッチドクター」と呼ばれる呪術師が病気の治療にあたっています。レポートでも「病気が悪霊のしわざと思っている人にどうやってHIVの感染の仕組みを説明すればよいのか・・・?」と嘆く現地の医師のコメントを載せています。
日本の大手報道機関のエイズに関するレポートは以前に比べ減っているため、今回のようなエイズ問題に対する改めての問題提起は評価されるべきでしょう。最近エイズに対する関心が遠のいている日本人が、こういったレポートをきっかけとしてエイズについて考えるようになることを願いたいと思います。
(浅居 雅彦)
「エンベの子守唄」と題されたこの記事は、長野県在住のタンザニア人がフリージャーナリストに、自身の母親が運営するエイズ孤児の宿舎の窮状を訴えたことがきっかけで、長野県内でのHIV陽性者の拡大が深刻化していることもあり、「アフリカから日本のエイズを考える」をコンセプトに市民団体が設立され、その団体がアフリカ・タンザニアを視察したときの模様を毎日新聞、長野支局の川崎桂吾記者がレポートしたものです。
中央アフリカ東部、インド洋に面したタンザニアのエイズ関連の状況をUNAIDSのWebサイトで見てみますと、人口3800万人、平均寿命は50歳に満たなく、ひとり当たりのGNPは660ドル、1日につき2ドル以下で暮らす人が全体の59・7%です。HIV陽性者が140万人、成人のHIV陽性率はおよそ6.5%、17歳までのエイズ孤児は110万人です。
レポートでは、貧困や無知がHIVを拡散させ、エイズによって死亡していることを報告しています。日本では、保険が適用される抗HIV薬もタンザニアでは高価ゆえ手に入らず、最近では安価なジェネリック薬も出回り始めましたが、それでも月20ドルほどするため庶民には高価なものとなっています。また、仮に薬が手に入ったとしても、栄養のある食事を取ることが難しい問題なのです。
啓発教育も大きな問題です。識字率の低さがHIVを予防する知識の普及を妨げていますし、農村部ではいまだに「ウィッチドクター」と呼ばれる呪術師が病気の治療にあたっています。レポートでも「病気が悪霊のしわざと思っている人にどうやってHIVの感染の仕組みを説明すればよいのか・・・?」と嘆く現地の医師のコメントを載せています。
日本の大手報道機関のエイズに関するレポートは以前に比べ減っているため、今回のようなエイズ問題に対する改めての問題提起は評価されるべきでしょう。最近エイズに対する関心が遠のいている日本人が、こういったレポートをきっかけとしてエイズについて考えるようになることを願いたいと思います。
(浅居 雅彦)
2006年10月1日(日) どうなる?! 30バーツ医療の行方
9月28日のバンコク週報によりますと、9月27日、タイの市民団体らが「30バーツ医療」の存続を求めて、民主改革評議会(CDR)へ嘆願したそうです。
30バーツ医療についてはこのウェブサイトでも度々取り上げていますが、ここでも簡単にまとめておくと、「無保険であっても一回の診療費が30バーツ(約90円)のみで病院にかかれる制度」のことです。
きちんとした統計は見たことがありませんが、現地の医療関係者は、「タイで医療保険に入っているのは国民の1割から2割程度しかいない」と言います。このため以前は、病院へのアクセスが非常に悪く、病気や怪我をしても大部分の国民は簡単には診療を受けられませんでした。
そこに登場したのが、「30バーツ医療」でした。この政策は2001年に政権をとったタイ愛国党(TRT、タイ・ラック・タイ)が始めたもので、これにより北部や東北部(イサーン)の貧困層も医療機関にアクセスできるようになり、これがこれらの地域でTRTの支持率が高い理由のひとつです。
9月18日におこったクーデターによりTRTの党首タクシン首相は失脚し、一部の報道ではクーデター支持率が8割を超えていると報じていますが、北部と東北部では必ずしもタクシン首相の失脚を歓迎しているわけではありません。実際、27日には北部カンペンペット県の3地区で、反クーデター派(親タクシン派)による学校5校が放火される事件が起こりました。
今後30バーツ医療がどうなるかに注目していきたいと思いますが、タイの医師団体はすでに民主改革評議会にこの医療システムを見直すように要求しています。
(谷口 恭)
30バーツ医療についてはこのウェブサイトでも度々取り上げていますが、ここでも簡単にまとめておくと、「無保険であっても一回の診療費が30バーツ(約90円)のみで病院にかかれる制度」のことです。
きちんとした統計は見たことがありませんが、現地の医療関係者は、「タイで医療保険に入っているのは国民の1割から2割程度しかいない」と言います。このため以前は、病院へのアクセスが非常に悪く、病気や怪我をしても大部分の国民は簡単には診療を受けられませんでした。
そこに登場したのが、「30バーツ医療」でした。この政策は2001年に政権をとったタイ愛国党(TRT、タイ・ラック・タイ)が始めたもので、これにより北部や東北部(イサーン)の貧困層も医療機関にアクセスできるようになり、これがこれらの地域でTRTの支持率が高い理由のひとつです。
9月18日におこったクーデターによりTRTの党首タクシン首相は失脚し、一部の報道ではクーデター支持率が8割を超えていると報じていますが、北部と東北部では必ずしもタクシン首相の失脚を歓迎しているわけではありません。実際、27日には北部カンペンペット県の3地区で、反クーデター派(親タクシン派)による学校5校が放火される事件が起こりました。
今後30バーツ医療がどうなるかに注目していきたいと思いますが、タイの医師団体はすでに民主改革評議会にこの医療システムを見直すように要求しています。
(谷口 恭)
2006年9月28日(木) 「エイズはもはや死因とはならない」、米国の研究
「ニューヨークに住むHIV陽性者の4分の1以上がエイズ以外の病で死亡している」、こんな発表を米国の研究者が9月18日におこない、同日のロイター通信で報道されています。
この研究によりますと、ニューヨーク在住のHIV陽性者68,669人のうち、1999年から2004年の間に亡くなった人の26.3%がエイズ以外の原因で死亡しています。
1999年の時点では20%以下でしたから32%の増加となります。
この研究は医学誌「Annals of Internal Medicine」に発表される予定で、エイズ以外の死因は、31%が違法薬物の乱用、24%が心疾患、20%がHIVに関係のない悪性腫瘍だったそうです。
「HIV陽性者の多くがHIVに関係のない病で死亡している(要するにHIVは生命予後に関係がない)、ということをすべての医師は認識しなければならない」、とこの研究の執筆者であるニューヨーク大学のJudith Aberg医師は述べています。
ただし、この事象はもちろん抗HIV薬を適切に内服した場合の話であって、抗HIV薬が入手できない地域では依然エイズは「死に至る病」であることは忘れてはなりません。
(谷口 恭)
この研究によりますと、ニューヨーク在住のHIV陽性者68,669人のうち、1999年から2004年の間に亡くなった人の26.3%がエイズ以外の原因で死亡しています。
1999年の時点では20%以下でしたから32%の増加となります。
この研究は医学誌「Annals of Internal Medicine」に発表される予定で、エイズ以外の死因は、31%が違法薬物の乱用、24%が心疾患、20%がHIVに関係のない悪性腫瘍だったそうです。
「HIV陽性者の多くがHIVに関係のない病で死亡している(要するにHIVは生命予後に関係がない)、ということをすべての医師は認識しなければならない」、とこの研究の執筆者であるニューヨーク大学のJudith Aberg医師は述べています。
ただし、この事象はもちろん抗HIV薬を適切に内服した場合の話であって、抗HIV薬が入手できない地域では依然エイズは「死に至る病」であることは忘れてはなりません。
(谷口 恭)
2006年9月28日(木) 男性と性交渉する男性の7割は既婚者
医学誌「Annals of Internal Medicine」に最近掲載された興味深い研究が9月18日のロイター通信に報告されています。
「自分は異性愛者」と申告するニューヨーク在住の男性のおよそ10%が、実際は過去一年間の間に少なくとも一度は男性と性交渉をしていることが分かったそうです。
身体精神衛生局ニューヨーク支部(New York City Department of Health and Mental Hygiene)が、ニューヨーク在住の男性と性交渉をもつ男性4193人を調査したところ、そのうち70%が結婚していたそうです。
そしてそのなかの大勢がコンドームを用いない性交渉をしておりHIV検査も受けていないことが分かりました。
この調査をおこなった研究者は言います。
「医師は患者の証言に惑わされることなく適切な質問をおこなって患者の性行動を聞きださなければならない。HIVの予防啓発は、ゲイであることを申告した人に対してではなく、アナルセックスのような危険な性行為をしている人に対しておこなわれなければならない」
これは日本の医者も経験していることであって、患者さんはときに自分の性行動についてなかなか本音で話してくれません。この研究では、患者さんから聞き出さなければならない(need to ask patients about specific sexual practices)と述べていますが、それ以前に大切なのは、患者さんとの信頼関係の構築であることは言うまでもないでしょう。
(谷口 恭)
「自分は異性愛者」と申告するニューヨーク在住の男性のおよそ10%が、実際は過去一年間の間に少なくとも一度は男性と性交渉をしていることが分かったそうです。
身体精神衛生局ニューヨーク支部(New York City Department of Health and Mental Hygiene)が、ニューヨーク在住の男性と性交渉をもつ男性4193人を調査したところ、そのうち70%が結婚していたそうです。
そしてそのなかの大勢がコンドームを用いない性交渉をしておりHIV検査も受けていないことが分かりました。
この調査をおこなった研究者は言います。
「医師は患者の証言に惑わされることなく適切な質問をおこなって患者の性行動を聞きださなければならない。HIVの予防啓発は、ゲイであることを申告した人に対してではなく、アナルセックスのような危険な性行為をしている人に対しておこなわれなければならない」
これは日本の医者も経験していることであって、患者さんはときに自分の性行動についてなかなか本音で話してくれません。この研究では、患者さんから聞き出さなければならない(need to ask patients about specific sexual practices)と述べていますが、それ以前に大切なのは、患者さんとの信頼関係の構築であることは言うまでもないでしょう。
(谷口 恭)
2006年9月28日(木) 現代のミャンマーの問題点
相変わらず民主化の兆しが見えないミャンマーですが、9月22日のロイター通信が現代ミャンマーの問題点をまとめています。
現在、ミャンマーには数万人の遊牧生活(nomadic life)をしている人がいますが、この理由は、どこかに定住すれば軍に厳しく管理されることになり強制労働を強いられるからです。この最たる被害者が、以前から軍に厳しい抑圧を課せられているカレン族です。
国連安全保障理事会は同国の軍事政権を問題視しており、同国は国際的に注目を集めていますが、当の軍事政権は国際世論に一向に耳を貸そうとしません。
現在ミャンマー軍事政権は、電話を盗聴し、ウェブサイトの検閲をおこない、インターネットカフェにはインターネット利用者の写真を撮影するよう義務付けています。一台3千ドル(約35万円)もする携帯電話を持っているのは軍の関係者だけです。
そして現代ミャンマーの忘れてはならない問題が「医療危機」です。法律の欠如、公衆衛生の崩壊、長期にわたる政治腐敗が、無秩序な薬剤供給につながっています。薬が不適切に混ぜ合わせられることもあれば、服用方法が不適切であることも少なくないそうです。
こういうことを続けていれば、薬剤耐性の結核やマラリアが蔓延することが予想されます。実際、タイとミャンマーの国境付近ではすでに問題になっています。そして、同様の問題がHIVで起こることが懸念されています。
尚、UNAIDSのデータでは、現在ミャンマーのHIV陽性者は36万人で、これは成人のおよそ1.3%に相当します。
(谷口 恭)
現在、ミャンマーには数万人の遊牧生活(nomadic life)をしている人がいますが、この理由は、どこかに定住すれば軍に厳しく管理されることになり強制労働を強いられるからです。この最たる被害者が、以前から軍に厳しい抑圧を課せられているカレン族です。
国連安全保障理事会は同国の軍事政権を問題視しており、同国は国際的に注目を集めていますが、当の軍事政権は国際世論に一向に耳を貸そうとしません。
現在ミャンマー軍事政権は、電話を盗聴し、ウェブサイトの検閲をおこない、インターネットカフェにはインターネット利用者の写真を撮影するよう義務付けています。一台3千ドル(約35万円)もする携帯電話を持っているのは軍の関係者だけです。
そして現代ミャンマーの忘れてはならない問題が「医療危機」です。法律の欠如、公衆衛生の崩壊、長期にわたる政治腐敗が、無秩序な薬剤供給につながっています。薬が不適切に混ぜ合わせられることもあれば、服用方法が不適切であることも少なくないそうです。
こういうことを続けていれば、薬剤耐性の結核やマラリアが蔓延することが予想されます。実際、タイとミャンマーの国境付近ではすでに問題になっています。そして、同様の問題がHIVで起こることが懸念されています。
尚、UNAIDSのデータでは、現在ミャンマーのHIV陽性者は36万人で、これは成人のおよそ1.3%に相当します。
(谷口 恭)