HIV/AIDS関連情報

2006年10月10日(火) 少年一人だけの授業

 中国の北東に位置する遼寧(Liaoning)省Kuandianの人里離れた村に、教師一人と生徒一人の世界で一番小さな小学校があります。

 10月5日のCHINA Dailyがこの小学校のルポをおこなっていますので簡単にご紹介したいと思います。

 その生徒はHIV陽性の9歳の男の子で、名前をリアンリアン君(仮名)と言います。この学校に通い始めて2年になります。

 リアンリアン君の父親は外国船の乗組員で、10年前にHIVに感染していることが分かりました。次いで母親が父親から感染し、リアンリアン君は母子感染によって感染しました。母親がHIVに感染していることは分かっていましたが、HIVの母子感染を阻止する医療を受けることはできませんでした。

 リアンリアン君と両親はこれまで健康な生活を送ってきましたが、エイズの認識が高まるにつれて周りの人々はリアンリアン君一家を避けるようになりました。一緒に食事をしたり泳いだりという行為ではHIVが感染することはありませんが、これを周囲に理解してもらうのは簡単ではありません。HIVの感染ルートが、注射針の共有や性行為、母子感染であることがこの村ではほとんど知られていないのです。

 リアンリアン君は、最初は他の子供と同じように普通の小学校に通い始めましたが、父兄が自分たちの子供にリアンリアン君を避けるように指導しました。一緒に授業を受けることで感染することはないということを誰も信じようとはしません。リアンリアン君は、結局3日間で学校を離れなくてはなりませんでした。

 しかし、行政はリアンリアン君の教育を受ける権利を認め、一人の教師と一人の生徒からなる小学校をつくることを決めました。その村で定年退職をした文化自治会長、ワン・リジュン(Wang Lijun)氏がリアンリアン君の先生となりました。ワン先生は、12年間教師を勤めたことがあり、エイズに対する正しい知識を持っています。しかし、それでもリアンリアン君の専属教師を始めるのに数日間をかけて自分の妻を説得しなければなりませんでした。

 世界で一番小さい学校は2004年11月に始まりました。ワン先生はリアンリアン君に中国語、算数、体育、芸術を教えていますが、リアンリアン君に教えるのは簡単でないことにすぐに気付きました。ワン先生は言います。

 「リアンリアン君はとても賢くてすぐに新しいことを覚えてしまう。他の子供たちがいないからスポーツなどはすぐに興味を失ってしまう」

 ワン先生はリアンリアン君に興味を持ってもらうために新しいゲームや教育方法を毎日夜遅くまで考えるようになりました。スポーツ施設は限られており、他に生徒がいないため、二人は卓球をよくおこないます。

 リアンリアン君にとって今後最も重要なのは健康です。両親は昨年エイズを発症し、現在は抗HIV薬の投与を受けています。リアンリアン君はまだエイズを発症していませんが、中国では12年以上生き延びたHIV感染者がいません。

 リアンリアン君が小学校を卒業してからのことも心配です。教師一人、生徒一人の中学校の設立は現実的に不可能であり、今後の対策を急がなければなりません。


 なにかと「人権が認められない」と非難されることの多い中国ですが、ひとりの少年のためにここまで行政が積極的に支援することは大変素晴らしいことだと言えるでしょう。しかし、元をただせば、「一緒に授業を受けるだけで感染する」などと馬鹿げた噂が流布していることが一番の問題であるわけで、正しい知識を普及させスティグマをなくすことができれば、生徒一人の学校は不要となるはずです。

(大和さちよ・谷口 恭)