HIV/AIDS関連情報

2006年10月13日(金) エリトリアでFGM禁止法が制定されるか

 FGMという言葉を聞いたことがありますでしょうか。これはfemale genital mutilationの略語で、日本語では女性器切除、もしくは女性割礼と呼ばれています。主に赤道沿いのアフリカ諸国でおこなわれている慣習で、FGMの対象となるのは生後1週間から初潮が始まる前の女子です。性行為の快感を抑制し、人口増加に歯止めをかけるのが目的と言われており、これらの国では2000年以上も前からおこなわれています。文化によってはFGMにより結婚まで処女が守られ、初夜の際、夫が自力で花嫁の陰部を切り開かなければならないとされているところもあります。

 ときに先進国の価値観の強要は貴重な文化を後退させることになりかねませんが、FGMは例外と考えるべきでしょう。医学的にみて、FGMの弊害は少なくありません。切除部位を誤れば大量出血につながりますし、感染症の問題もあります。滅菌された無菌の道具を使っているわけではないからです。そして、現在FGMに伴う問題で最も重要視されているのがHIV感染です。

 エリトリアというアフリカの小国をご存知でしょうか。エリトリアは1993年にエチオピアから独立したばかりのアフリカ東北部に位置する紅海に面した国で、人口はおよそ440万人、ひとりあたりのGDPは約700ドル(約82,000円)です。UNAIDSの2005年のデータでは、HIV陽性者は59,000人、成人の陽性率は2.4%となっています。

 そのエリトリアの女性運動家たちが、FGMを禁止するための社会運動をおこなっています。10月4日のIRINニュースがそれを取り上げていますので、ここにご紹介いたします。

 現在、94%のエリトリアの女性がFGMを経験していると言われています。FGMが文化的に正しいものと思い込んでいる女性も少なくありません。

 エリトリア国家女性同盟(National Union of Eritrean Women)は、宗教の指導者や政府官僚などに対してFGMを禁止するよう訴えかけています。議会に対してはFGMを禁止する法案を制定するよう働きかけ、司法省とはFGM禁止の立法化について協議しています。また、政策提言(これを「アドボカシー」と言います)をおこなう数百人の活動家を養成し、パンフレットやビデオなどの作成もおこなっています。

 一言でFGMといっても切除の程度は様々です。高地に住む農家の女性は1歳になる頃にFGMを経験しますが、これはクリトリス、あるいは小陰唇の一部のみを切除する比較的軽いタイプのものです。これに対し、低地に住む女性たちは7歳頃に、性行為防止のため、クリトリス、小陰唇、大陰唇の一部を切除され、さらに性器の縫合までもがおこなわれます。(尿や月経血を排出するための小さな穴は残されます)

 アフリカ同盟(African Union)は、「FGMは何百万人もの少女や女性を傷つけており、人権と尊厳の冒涜・侵害である」、と主張し、同盟国に対しFGMを禁止するよう呼びかけています。人権擁護の活動家らも、各国の政府に対してFGMを禁止するよう働きかけ、これまでに少なくとも16のアフリカ諸国でFGMが禁止されるに至りました。2005年11月には、FGMの禁止を訴えるマプト条約議定書(Maputo Protocol)も施行されています。

 ユニセフを含む複数の機関は、就学年齢に達した子供たちや男性に対しても呼びかけをおこなっています。ユニセフによれば、FGM反対の若い活動家やFGM反対運動をおこなうクラブも各地で誕生しているようです。

 IRINニュースによりますと、FGMは現在でも少なくとも28の国々で行われています。ユニセフのデータでは、世界中で1億4千万の少女や女性たちがFGMを経験しているそうです。赤道沿いのアフリカ諸国以外では、中東諸国や移民の多い国々にもこの悪しき慣習が残っています。

(大和さちよ・谷口 恭)