HIV/AIDS関連情報

2006年12月8日(金) HIV陽性の医療者にケアを受けたら・・・ 

 イギリスのミッドランド(Midland)とサウサンプトン(Southampton)の複数の病院に過去6年間勤務していた医療従事者がHIVとB型肝炎ウイルスに感染していたことが判明し、この医療者にケアを受けた患者さんにはその旨が通知されました。そして、その通知を受け取った1,096人が11月12日までに電話相談をおこなっているそうです。詳細は11月13日のBBC NEWSが伝えています。

 電話相談では、HIVおよびB型肝炎ウイルスに感染している医療者からケアを受けても患者さん自身が感染する可能性はほとんどないことを伝えた上で、念のため血液検査を受けることを薦めているようです。これまでに電話相談をしてきた1,096人のうち74%が血液検査を受けています。

 この医療者に治療を受けた患者さんのなかで、まだ電話相談をしていない人が1,185人いて、彼らが早く電話相談をすることをこの医療者が勤務していた病院では薦めているようです。

 英国ではこれまでHIV陽性の医療者から患者さんに感染したという症例は報告されていません。

(谷口 恭)

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2006年12月7日(木) 台湾のHIVは中国の薬物中毒者から

 台湾のHIVの特徴は、薬物中毒者の間で急速に広がっているということです。これについて11月10日のロイター通信が詳しく伝えていますのでご紹介いたします。

 「台湾で確認された多くのHIVは、中国西部の、特にゴールデントライアングルで確認されているものと同じタイプである」、と台湾のYangming大学の公衆衛生学教室教授のChen Yi-ming教授がコメントしています。
 
 同教授は続けます。

 「台湾ではみんながHIVの感染率は低いと思っている。しかし、薬物中毒者が急増していることを考えるといつまでも感染率の低い地域ではなくなる」

 台湾では、1988年に薬物中毒者にHIV陽性が初めて確認されてから、これまで約12,600人が感染したことが分かっています。これまでは低い感染率を維持していましたが、2003年頃から急激に増えだしました。昨年(2005年)は3,400人の中毒者が感染し、今年は3,000人前後であろうとみられています。

 台湾にはおよそ6万人の薬物中毒者が存在し、警察に押収される違法薬物の量は年々増加しているそうです。

 今年の7月には、台湾全域で、注射針の使いまわしによるHIV感染を防ぐため無料の注射針が配布されるようになりました。来年のHIV関連の予算におよそ2億8千万台湾ドル(約850万ドル、約10億円)があてられるそうです。

(谷口 恭)

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2006年12月5日(火) 蘭州の売春施設でコンドーム使用が義務化

 蘭州(Lanzhou)と言えば、太古は金城と呼ばれた地域で甘粛省の省都です。この古い都にも多くの売春施設があり、HIV蔓延が問題視されています。最近、この地域の売春地域のすべての施設でコンドーム着用が義務化されることとなりました。

 この地域の保健関係者によりますと、甘粛省の登録されているHIV陽性者はおよそ300人ですが、実際には2000人にのぼるだろうとみられています。このうち40%は薬物中毒者で、30%が性感染によるものと試算されています。

 コンドーム義務化のこのプログラムは、中国保健省とWHOの共同計画によるものです。同様の試みはすでに、湖北省の武漢(Wuhan)、江蘇省の晋江(Jingjiang)、海南省のDanzhou、湖南省のLixianなどで試験的におこなわれています。

 甘粛省では、蘭州以外にも嘉峪関(Jiayuguan、万里の長城の西端の砦として有名)、敦煌(Dunhuang、シルクロードの要衝として有名)でも、コンドーム義務化をおこなう計画があるようです。

この計画では、すべての売春(風俗)施設が当局と契約をおこない、教育を受け、無料コンドームの配布を受けるという手続きが必要となります。

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 中国では売春は違法行為ですから、ほんの少し前までは、地域によってはコンドームを保持しているだけで売春行為とみなされ逮捕されるという事件が相次いでいました。その中国でこれだけ急激にコンドームを普及させるプロジェクトを行政がおこなうということに大変驚かされます。しかし、それを別の観点からみるならば、現在の中国のHIV事情がそれだけ逼迫したものであるということなのでしょう。

(谷口 恭)

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2006年12月4日(月) 中国、レズビアン専用ホットラインが誕生

 中国のゲイ専門クリニックやゲイ専門チャットルームなどについては以前もお伝えしましたが、上海ではレズビアン専用のホットラインも今月にオープンしたようです。11月23日のCHINA dailyが報道しています。

 Chi Hengという名前のレズビアン専用ホットラインは中国初の試みで、香港のある基金がスポンサーとなり、電話相談に応じるのはトレーニングを受けたレズビアンのカウンセラーです。(中国ではレズビアンは"ララ"と呼ばれます)

 Chi Hengの代表者であるChung To氏は、カミングアウトをしているゲイです。Chi氏は次のように述べています。

 「電話相談に応じるカウンセラーは全員レズビアンです。レズビアンが抱えている社会的圧力やストレスを最も理解できるのは同じレズビアンだと考えているからです」

 現在の中国のレズビアンの状況に関して、社会学者の李銀河(Li Yinhe)氏は次のように述べています。

 「中国では、レズビアンは(ゲイと比べれば)、社会や家族、友人たちからは比較的理解され受け入れられているが、それでも多くのレズビアンは男性との結婚を強要され、悲惨な人生を過ごしているのが実情である」

 尚、李銀河氏は現在の中国で最も気鋭な女性社会学者と言われており、最近ある性のフォーラムで「スワッピングを奨励すべき」と発言したことで物議をかもしました。(詳細は「スワッピングは奨励されるべきか」2006年11月27日参照)

 中国には、同性愛の公的な統計はありませんが、保健省は、2004年末の時点で中国全土のゲイは500万人から1,000万人になるであろうとみています。これよりも多いとみる関係者も少なくなく、なかには少なくとも3,000万人と試算している専門家もいるようです。

 ほとんどのゲイやレズビアンはいわゆるカミングアウトをしておらず、そのため性交渉の相手をいわば"地下"で探すこととなり、これがHIVを含む性感染症のリスクを高めているのではないかとみられています。ある試算では、ゲイの1%がHIV陽性であるとされています。

 尚、ゲイ専門のホットラインは、北京、上海、広州などに数多く存在します。これらのほとんどはゲイのボランティアや医療や家族計画関連の組織に属する専門家が電話相談に応じています。

(谷口 恭)

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2006年12月3日(日) 懲役を求刑されたHIV陽性者の言い訳

 これまでも何度かこのコーナーでお伝えしているように、自身がHIV陽性であることを知りながらコンドームを用いない性交渉(unprotected sex)をおこなえば有罪判決を受ける事例が世界的に増えてきています。たとえ、相手がHIVに感染しなくとも、です。

 最近、米国カンサス州で、3人の女性に対し、コンドームを用いない性交渉をおこなった30歳のHIV陽性の男性が32ヶ月の禁固刑を求刑されるという事例があり、11月24日のCNN.COMが報道しています。

 この男性は、これら女性と危険な性行為をもったことは認めているものの、32ヶ月の禁固刑は重過ぎると主張しています。

 この男性は、性関係をもった3人の女性に対し、「自身はheart(心臓)の状態が原因で健康上の問題を抱えている」と話していたそうです。

 これにはトリックがあります。現在のエイズ治療は複数の抗HIV薬を組み合わせて内服することによっておこなわれますが、これをHAART療法といいます。HAARTとは、"Highly Active Anti-Retroviral Therapy"の略で、HAARTの発音は心臓のheartと同じです。

 そのため、この男性は、「女性たちに対し、HAARTの状態が原因で健康上の問題を抱えている、とあらかじめ話していた。(だから自身がHIV陽性であることを偽って性行為を持ったわけではない。HAARTをエイズ治療でなく心臓のことと考えたのは彼女たちの思い違いだ)」、という言い訳をしているそうです。

 もちろん、このような見苦しい言い訳が通用するはずはなく、陪審員たちをあきれさせただけとなったようです。

 この男性の弁護士は、3人の女性はHIVに感染していないことと、彼女たちにも危険な性行為をおこなった幾分かの責任はあることを主張し、減刑を求めていくようです。

(谷口 恭)

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