HIV/AIDS関連情報

2007年1月16日(火) タイ、若い世代のHIV新規感染が急増

 「タイはHIV感染減少に成功した国だ。タイを見習え」、などと一時は言われていましたが、そんな時代はもう過ぎ去ってしまったようです。

 1月15日のBangkok Postによりますと、モンコル保健大臣はHIV/AIDS予防委員会の直後、「HIVの新規感染が増えていることは大変な問題である」、と公式に発表しました。

 タイのHIV感染者は来年にも総計110万人を越える勢いで、このうち14,000人は新規感染とみられています。

 モンコル保健大臣が特に懸念しているのは、若い世代の新規感染の急増です。例えば、HIVに新規に感染した売春婦は、2005年には売春婦1,000人あたり23人だったのが、昨年(2006年)は35人にまで増加しています。

 HIV新規感染の急増への対策として、モンコル保健大臣はHIV予防対策の5ヵ年計画を発表しました。この計画では、若い世代、主婦(*1)、同性愛者といったハイリスクグループに対する啓蒙活動や、HIV陽性者の人権保護、HIV関連の研究といったことが盛り込まれています。また、新規感染者を半減させ、HIV陽性者の80%が抗HIV薬を入手できるようにすることも明記されています。

 保健省によると、昨年(2006年)は27億バーツ(薬81億円)が84,000人のHIV陽性者への抗HIV薬支給に使用されましたが、今年は10万人に支給する計画が立てられているそうです。

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 私は日々の臨床で、タイの売春婦から性感染症に罹患したという患者さんをよく見ますが、それを裏付けるような記事だと言えるでしょう。


注*1 主婦がHIV感染のハイリスクグループというと奇異な印象を受ける方がおられるかもしれませんが、タイでは主婦は最も深刻なハイリスクグループのひとつです。詳細は、「タイの主婦へのHIV対策」などをご覧ください。

(谷口 恭)

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2007年1月15日(月) 英国、コンドーム使用率は上昇するものの・・・ 

 イギリスではコンドームを使う若者が増えてきているものの、新しい性パートナーを高頻度につくる者は"常に"は使用していない・・・

 イギリスでおこなわれたコンドーム使用状況の研究でこのようなことが分かり、ブライトン大学のジャッキー・カッセル博士(Dr. Jackie Cassell)が、医学誌「Sexually Transmitted Infections」に発表し、これを1月3日のReuter Healthが報道しています。

 この研究は、コンドーム使用状況の2つの調査を比較することによっておこなわれています。ひとつは、1990年に実施された調査で、16歳から44歳のイギリスに住む13,765人を対象におこなわれています。もうひとつは、2000年におこなわれた同様の調査で、こちらは11,161人を対象としています。

 16歳から24歳の男性でみると、「コンドームを使用している」と答えた者は、1990年に61%だったのに対し、2000年には82%まで上昇しています。同世代の女性では、42%から63%と、男性に比べると上昇率はそれほど大きくありません。一方、年齢が上の世代になると、コンドーム使用率は10年間であまり変わっていないようです。

 この研究で興味深いのは、コンドーム使用率が10年間で上昇しているのにもかかわらず、HIVを含めた性感染症への罹患率は逆に増加しているということです。

 カッセル博士は次のようにコメントしています。

「性感染症の罹患率が上昇しているのは、この世代の3人に2人が複数の性的パートナーを有している(過去4週間に2人以上と性交渉の経験がある)ことがひとつの原因であろう。彼(女)らは、常にコンドームを使用しているわけではない。コンドームは"常に"そして"正しく"使用されなければ性感染症の罹患を防ぐことはできない」

(谷口 恭)

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2007年1月13日(土) 男性のトリコモナス感染は検知されてないだけ

 腟トリコモナス症という性感染症をご存知でしょうか。

 これは、トリコモナスという名の原虫(小さな虫)が腟に感染し、腟内に炎症をおこす感染症です。感染が進行すると"おりもの"が黄色くなりイヤな臭いをはなつようになります。

 腟トリコモナス症は性感染症ですから、当然男性から感染するわけです。ところが、男性はトリコモナスを持っていても症状がほとんど出ないため、自身が感染していることに気付いていないことが多く、また重症化もしません。したがって、男性に対するトリコモナス症の検査というのは日常の臨床ではおこなわれていません。

 「腟トリコモナス症に感染している女性の男性パートナーの4人に3人以上が、同じくトリコモナスに感染しているが、症状がないために感染していることを知らない」

 米国のノースカロライナ大学のセナ博士(Dr.Arlene C.Sena)が、「Clinical Infectious Diseases」という医学誌の2007年1月1日号にそのような発表をし、同日のReuter Healthが報道しています。

 「トリコモナス感染症の蔓延を防ぐには、女性だけでなく男性に対する対策もとらなければならない。トリコモナス感染症は放置しておいてよい感染症ではない。骨盤内炎症疾患(PID)や子宮頸部の前がん状態への変化、早産、HIVの感染しやすさ、などと関連しているからである」

 セナ博士はそのようにコメントしています。

 現在一般的に使用されているトリコモナス感染症の検査方法では、かなり大量のトリコモナスが棲息しているときにしか感知されません。したがって、トリコモナスがそれほど増えず自覚症状がほとんど出ない男性に対しては感染していても検査で分からないのです。

 今回おこなわれた研究では、男性の感染率を正確に知るために、男性パートナーの検査にトリコモナスのDNA検査を用いています。

 3つの性感染症クリニックを受診した3,836人の女性にトリコモナスの検査をおこなったところ、20.6%が陽性となりました。このうち、540人のトリコモナス陽性の女性と、261人の男性パートナーに対して検査をおこなったところ、男性の71.7%が陽性となり、そのうち76.8%は症状がなかったそうです。

 この研究に対して、インディアナ大学のヴァン・デル・ポル博士(Dr.Barbara Van Der Pol)は、次のようなコメントをしています。

 「トリコモナス感染症の減少に向けてより多くの資金が投入されなければならない。具体的な目標を設定しなければトリコモナス感染症は蔓延し続ける。これは数百万人の女性のHIV感染へのリスクを高めることにつながる」

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 この研究が主張するように、性感染症は治療するときはパートナーと一緒におこなわなければ意味がありません。パートナーも治療しなければ、すぐにまた感染するからです。

 私自身の臨床でも、男性にトリコモナスの検査をおこなったことはほとんどありませんが、今後、パートナーが陽性の男性に対しては、できるだけ精度の高い検査を積極的におこなっていきたいと思います。

(谷口 恭)

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2007年1月11日(木) 東京の病院でHIV陽性夫婦が体外受精実施

 夫婦のどちらかがHIV陽性であっても、生まれてくる子供に感染させないようにする技術はかなり進歩してきています。しかしながら、夫婦のどちらもHIV陽性であるケースの出産はこれまで世界中でも試みがありませんでした。

 これを世界で初めておこなおうとしているのが東京の荻窪病院です。

 1月10日の毎日新聞によりますと、同院は9日、夫も妻もHIV陽性である2組のカップルに対し、精液からHIVウイルスを除去して人工授精または体外受精をおこなうことを院内の倫理委員会で承認しました。

 一組の夫婦は関東地方在住の30代の夫婦で、2人とも血液製剤によって感染したそうです。夫に増殖能力の強いタイプのHIVが増えており、妻にこのタイプが重ねて感染すると免疫力が急激に落ちる可能性があります。

 もう一組は東海地方の20代夫婦で、夫が血液製剤によって感染し、妻にも感染したそうです。夫のHIVは薬剤耐性を持っており、妻への重感染を防ぐためにも体外受精が必要と診断されたようです。

 精子からHIVを取り除き、事前に母側のウイルスの感染力を抑える措置を施し、陣痛開始前に帝王切開するなどといったことをおこなえば、子供への感染率は0.6%以下に抑えられると考えられています。

 同院では、これまでに、夫が感染者の夫婦55組に人工授精などを行い、37人の子供が生まれたほか、現在も5組が妊娠中で、妻や子に感染した例はこれまでないようです。 

(谷口 恭)

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2007年1月9日(火) 英国のHIV陽性者に対する差別

 イギリスでもHIV感染は増加していますが、「陽性者の多くが極度の貧困状態にある・・・」、そんな発表をふたつの関連機関(National Aids TrustとCrusaid基金)が共同でおこない、12月1日のBBC NEWSが報道しています。

 この発表をまとめてみましょう。

 ・HIV陽性者に対する増悪犯罪(hate crime)や差別が、陽性者を貧困に陥れ孤立させている。

 ・1986年にCrusaid基金が設立されて以来、HIV陽性者の3人に1人がこの基金を利用せざるを得ない状況である。過去4年間で、極度の貧困状態にあるために基金に応募しなければならない人が33%も上昇している。かなりの人数の人が収容施設を探している。

 ・2005年に基金に応募したHIV陽性者の週あたりの収入は60ポンド(約13,000円)しかなく、食料や衣類を求める者も増加している。

 National AIDS Trustの幹部デボラ・ジャック(Deborah Jack)氏は、「HIV陽性者の3人に1人が極めて貧困な状態にいることは大変ショッキングなことである」とコメントしています。ジャック氏は続けます。

 「貧困の原因は、政府の不適切な政策と社会にはびこる差別である。早急に対策をとってHIV陽性者の貧困を救わなければならない」

 これに対し政府は、「HIV陽性者に対して適切な支援がおこなわれている」、と反論しています。

 このBBC NEWSの記事では、ひとりのHIV陽性者のことが述べられています。彼女の名前はアリスと言います。

 アリスは気管支喘息をもっており、HIVが原因の足の痛みと体重減少があります。彼女の住居は貧困そのもので、ネズミが這い回り、じめじめしているため壁には黒カビがはえています。彼女は自分のその部屋に辿り着くために40段もの階段を上らなければなりません。彼女は5年前から家の修理を依頼していますが何もしてもらえないままです。

 アリスは言います。

 「慢性の病気をもっている者はゴミ捨て場に置いておいてかまわないってこの社会は思っているのよ」

 彼女は現在、Crusaid基金に、カビのはえたベッド、タオル、カーテンを交換してヒーターの電気代を払ってもらえるよう申請をしています。

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 このようなHIV陽性者に対する差別や貧困の様子は、アジアやアフリカの記事ではよく見かけますが、イギリスほどの先進国でもこのような貧困があることに驚かされます。日本にだって私たちが気付いていない悲惨な状況があるかもしれません。現在のGINAはタイ国の患者さんやエイズ孤児を中心に支援をおこなっていますが、自国の状況に目を向けることも忘れてはならないと考えています。 

(谷口 恭)

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