HIV/AIDS関連情報

2007年1月13日(土) 男性のトリコモナス感染は検知されてないだけ

 腟トリコモナス症という性感染症をご存知でしょうか。

 これは、トリコモナスという名の原虫(小さな虫)が腟に感染し、腟内に炎症をおこす感染症です。感染が進行すると"おりもの"が黄色くなりイヤな臭いをはなつようになります。

 腟トリコモナス症は性感染症ですから、当然男性から感染するわけです。ところが、男性はトリコモナスを持っていても症状がほとんど出ないため、自身が感染していることに気付いていないことが多く、また重症化もしません。したがって、男性に対するトリコモナス症の検査というのは日常の臨床ではおこなわれていません。

 「腟トリコモナス症に感染している女性の男性パートナーの4人に3人以上が、同じくトリコモナスに感染しているが、症状がないために感染していることを知らない」

 米国のノースカロライナ大学のセナ博士(Dr.Arlene C.Sena)が、「Clinical Infectious Diseases」という医学誌の2007年1月1日号にそのような発表をし、同日のReuter Healthが報道しています。

 「トリコモナス感染症の蔓延を防ぐには、女性だけでなく男性に対する対策もとらなければならない。トリコモナス感染症は放置しておいてよい感染症ではない。骨盤内炎症疾患(PID)や子宮頸部の前がん状態への変化、早産、HIVの感染しやすさ、などと関連しているからである」

 セナ博士はそのようにコメントしています。

 現在一般的に使用されているトリコモナス感染症の検査方法では、かなり大量のトリコモナスが棲息しているときにしか感知されません。したがって、トリコモナスがそれほど増えず自覚症状がほとんど出ない男性に対しては感染していても検査で分からないのです。

 今回おこなわれた研究では、男性の感染率を正確に知るために、男性パートナーの検査にトリコモナスのDNA検査を用いています。

 3つの性感染症クリニックを受診した3,836人の女性にトリコモナスの検査をおこなったところ、20.6%が陽性となりました。このうち、540人のトリコモナス陽性の女性と、261人の男性パートナーに対して検査をおこなったところ、男性の71.7%が陽性となり、そのうち76.8%は症状がなかったそうです。

 この研究に対して、インディアナ大学のヴァン・デル・ポル博士(Dr.Barbara Van Der Pol)は、次のようなコメントをしています。

 「トリコモナス感染症の減少に向けてより多くの資金が投入されなければならない。具体的な目標を設定しなければトリコモナス感染症は蔓延し続ける。これは数百万人の女性のHIV感染へのリスクを高めることにつながる」

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 この研究が主張するように、性感染症は治療するときはパートナーと一緒におこなわなければ意味がありません。パートナーも治療しなければ、すぐにまた感染するからです。

 私自身の臨床でも、男性にトリコモナスの検査をおこなったことはほとんどありませんが、今後、パートナーが陽性の男性に対しては、できるだけ精度の高い検査を積極的におこなっていきたいと思います。

(谷口 恭)