HIV/AIDS関連情報

2006年8月9日(水) US,UK,カンボジアでHIV陽性者が逮捕

 以前このコーナーで、自分の恋人にHIVを感染させたUKの女性が禁固刑になったという事件をお伝えしましたが(「恋人にHIVをうつした女性が禁固刑に」2006年6月23日)、最近相次いで似たような事件が報道されています。

 8月4日のCNN.comによりますと、アイオワ州の25歳の男性が、自身がHIV陽性で治療を受けているのにもかかわらず、複数のパートナーとコンドームを用いずに性的関係をもっていたことが分かったそうです。このうち、少なくともひとりの女性がHIVに感染し、アイオワ州最高裁判所は、この男性に対し50年の禁固刑の判決を下しています。アイオワ州の法律では、自身がHIVに感染している場合、パートナーに告知する義務があります。

 8月4日のBBC NEWS(website版)によりますと、UKの47歳のゲイが自分のパートナーに故意にHIVを感染させたとして3年4ヶ月の禁固刑を言い渡されています。HIVをうつされたこのパートナーは、日頃から暴力をふるわれるなどして、この男性から逃げられなかったそうです。

 8月4日のロイター通信(website版)によりますと、カンボジアの40歳の男性が、自分の妻に対してコンドームを用いない性交渉を強要し、妻が求めに応じなかったため、暴力をふるいレイプに及んだそうです。カンボジア裁判所は、この男性に対し、懲役10年の実刑を下しています。

 アメリカのいくつかの州や他の先進国では、故意にHIVを感染させれば罪になりますが、「いわゆる発展途上国でこのような判決が下されたのは初めてである」、とこの記事では述べられています。

 カンボジアは、政府やNPOによる対策が功を奏し、1998年には人口の3.3%がHIV陽性でしたが、2004年には1.9%まで減少しています。故意にHIVを感染させたことで罪になるというこの画期的な法律は、2003年に制定され、今回のケースで初めて適用されました。

 こういった事例は、一般論として議論することはむつかしく、ひとつひとつのケースを個別に検討する必要があります。USの25歳の男性の場合、特定のパートナーがいたわけではなく事件の悪質さが伺えます。UKとカンボジアのケースでは、被害者は特別な関係のパートナーですが、いずれも暴力で支配されていたという背景があります。

 一方で、以前ご紹介しましたUKの43歳の女性の場合は、自分の特定の恋人に告知できなかったという加害者の心理的背景をも考慮する必要があるでしょう。

 いずれにしても、こういう事件では単に罪を重くすればいいというわけではなく、罪を重くすることによって、むしろ社会的なスティグマが助長される、というパラドックスが存在することに注目すべきです。

 少なくとも自分のパートナーには、感染していることを告げやすい社会があるべき姿のはずです。そのためには、ひとりひとりが偏見を持たずにHIV感染について正しい知識をもって冷静に考えることが必要なのです。

(谷口 恭)

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2006年8月9日(水) 中国人の"無知"がインターネット調査で露呈

 8月3日付のロイターの記事(website版)が、中国人を対象としたインターネットによる調査でAIDSに関する"無知"が露呈した、と報道しています。

 この調査は、Zogby、MFCという名前の、それぞれ米国、中国の調査会社によって、インターネットを使って実施されたそうです。

 調査結果は、「中国ではHIVを含めた性感染症のリスクが理解できていない」、と結論づけられており、具体的には、「男性の37%が売春行為をおこなっており、パートナーと性感染症の話をしているのはわずか3分の1だけである」、と報告されています。

 この記事で気になる点が2つあります。

 ひとつは、パートナーと性感染症の話をしているのが、"わずか"3分の1、という点です。3分の1は確かに少ない数字ですが、私が日頃診察している性感染症の検査目的で受診される患者さんのなかで、パートナーと性感染症の話をしていると言う人は、3分の1もいません。3分の1という数字を、この記事では"わずか"と形容し、中国人は"無知"としていますが、日本で同様の調査をおこなえば、中国よりも"無知"になってしまわないかということを危惧します。

 もうひとつの気になる点は、この記事を書いた記者は、HIVの知識が欠落している中国人を"無知"と非難していますが、HIVの説明を"fatal"(致命的な)で、" incurable"(治療不能な)"、としていることです。もちろん、HIVは適切な治療を受けることによって"fatal"でも"incurable"でもありません。

 中国人とロイターのこの記者、"無知"なのはどちらでしょうか。

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2006年8月9日(水) ナイジェリアの大学病院で赤ちゃんがHIV感染

 8月3日付けのBBCニュース(website版)によりますと、ナイジェリアの大学病院で輸血により赤ちゃんがHIVに感染したそうです。

 ナイジェリア政府は、大学病院の過失を認め、3人の病院幹部を解雇し、この赤ちゃんの医療費は全額国が負担することになりました。

 この大学病院(Lagos University Teaching Hospital)は、ナイジェリアで最もすぐれた病院として知られています。

 危険な性行為や薬物を避けることは本人の努力で可能でしょうし、母子感染は現在の医療技術をもってすればかなりの確率で防ぐことができます。しかしながら、このような輸血による感染は、本人や家族がいくら気をつけても防ぐことはできません。

 BBCの情報では、感染の原因は、「病院の過失(managerial lapses)」としか報道されていません。なぜこのような事故が起こったかを、世界中の医療従事者に報告して、同じことが二度と起こらないように注意を促す義務がこの大学病院にあるのではないかと思われます。

 ちなみに、ナイジェリアではおよそ570万人が HIV陽性で、これは国民の4.4%に相当します。

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2006年8月9日(水) ルーマニアで差別を受ける少年少女たち

 HIVが混入している血液製剤を使用されたことにより、血友病の患者さんがエイズを発症した、いわゆる「薬害エイズ事件」が日本にはありますが、ルーマニアにもこれに匹敵するようなとんでもない歴史があります。

 1986年から1991年までの6年もの間、「輸血をすることにより免疫力が高まる」、というまったく誤った根拠に基づいて、ルーマニアの大勢の子供たちが輸血によりHIVに感染したのです。

 The Independent (online edition)8月3日号の記事によりますと、現在15歳から19歳のルーマニアの少年少女のおよそ7200人が、この不必要な輸血によってHIVに感染しているそうです。

 この調査はHuman Right Watch(HRW)という機関が調査したもので、HRWは、「政府が適切な対策をとっていないことが社会的な差別を助長している」と報告しています。

 HIV陽性の少年少女たちの実に40%以上が教育を受ける機会を与えられていないばかりか、多くの医師がHIV陽性の患者さんの診察を拒否しているそうです。さらに、ほとんどの企業はHIV陽性という理由で採用を拒んでいるそうです。

 理容師、美容師、ベビーシッター、医療従事者、清掃業者、食品会社やその他多くの業種の従業員となるには、HIV陰性であることがルーマニアでは義務付けられています。このような馬鹿げた規則がある限り、社会からの差別がなくならないのは自明です。

 7200人の少年少女たちは今後どのように生きていけばいいのでしょうか。

 ちなみに、ルーマニアは来年EUに加入する予定です。

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2006年8月1日(火) ジンバブエでHIV陽性者の恋人紹介機関発足

 7月26日のBBC NEWS(website版)によりますと、アフリカのジンバブエで、HIV陽性者に恋人を紹介する機関が発足し話題を呼んでいます。この機関は、HAPANAという名称で、自らの母をAIDSで亡くしたLuta Shabaさんが2ヶ月前に設立しました。先日1組のカップルが誕生したそうです。

 「HIVは早期発見をし、薬を飲むことによってAIDSを発症しなくなる。だから怖い病気じゃないんですよ。」

 と言われることが増えてきました。

 しかし、本当にそうでしょうか。

 人間は死ななければそれでいいというものではありません。人間らしい生き方をするには自身を理解してくれる人が必要です。また生涯に渡り、性的接触や恋人との関係を持てなければ意味のない人生になってしまうでしょう。

 HAPANAという機関の名称は、ジンバブエの流行歌である「Hapana Asina Wake」という曲からとったもので、このタイトルは、「人生において特別な人がいない人はいない」という意味だそうです。

 適切な服薬と同様に、あるいはそれ以上に、HIV陽性の方に対する精神的なサポートはたいへん重要です。気持ちを理解してくれるパートナーほど安らぎを得られるものはないでしょう。

 ちなみに、UNAIDSの統計によりますと、ジンバブエでは国民のHIV陽性率が21%(2004年)、コンドームの使用率は、男性で86%、女性で83%だそうです。政府やNPOの啓発が功を奏し、感染率、コンドーム使用率とも改善してきているようです。

(谷口 恭)

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