HIV/AIDS関連情報

2006年8月14日(月) ケニアのバーホステスの苦悩

 8月11日付けのBBC News(website版)に、ケニアのバーで働くホステスの苦悩が紹介されていますので、ここに紹介したいと思います。

 バーで働くホステスは、客から一晩過ごすことを誘われれば応じざるを得ず、もしも断れば店をクビになるそうです。そして、これは客だけではなく、バーの店長からの誘いも同様だそうです。また、ホステスとしての仕事を得るために、店長と性関係をもたなければならないことも多いそうです。

 ある女性のコメントが紹介されています。現在25歳のこの女性は、幼い頃から看護師になるのが夢でしたが、両親の突然の交通事故により打ち砕かれました。現在は、ひとりの子供と三人の兄弟を養うためにやむをえずバーのホステスとして働き、客や店長から誘われれば性関係を断れない日々が続いているそうです。

 この女性は言います。

 「家にはお腹をすかして泣いている子供が待っているのよ。仕事を終えた朝にお金を持たずに帰ることなんてできないわ・・・」

 現在GINAは、タイで働くセックスワーカーの調査をおこなっていますが、GINAタイスタッフの調査によりますと、バンコクのある有名なゴーゴーバーでは、ウエイトレスでさえも最低月に3回は客と性関係を持たなければならないそうです。(ダンサーの場合は、客からの誘いをほとんど断れないそうです。)

 このケニアの記事の最後に、ある国会議員のコメントが紹介されています。

 「バーのホステスにも他の職業と同じように自由と権利がある。だから尊厳に値するのである・・・・」

 自信を持ってホステスをやっているのならまだしも、多くの女性はできれば売春などしたくないのです。こんなキレイ事、誰が真剣に聞くことができるでしょうか。
 
 「職業に貴賎はない」、というのは事実ですが、それは各人がその仕事に誇りを持っている場合のみだと私は考えています。

 尚、UNAIDSのデータによると、ケニアでは人口の6.1%、およそ130万人がHIV陽性です。

(谷口 恭)

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2006年8月11日(金) 性行動がおとなしくなってきた全米の高校生

 8月13日からカナダのトロントで開かれる第16回国際エイズ学会で発表される予定の報告が、8月10日のロイター通信でいち早く報道されましたのでここに報告します。

 この調査はCDC(米国厚生省疾病管理・予防センター)の主導のもと、全米50州及びコロンビア区の公立・私立の高校生(15歳から18歳)を対象に、匿名・自己回答方式のアンケート形式によっておこなわれました。

 性的交渉をもったことがあると回答した高校生が、1991年には54.1%だったのに対し、2005年には46.8%まで減少しています。4人以上の経験があると答えたのは、1991年に18.7%だったのが、2005年には14.3%まで減少しています。一番最近の性行為でコンドームを用いたと答えたのが、1991年には46.2%だったのに対し、2005年には62.8%にまで上昇しています。

 違法薬物の静脈注射の経験は2.1%で、1995年の調査時と変わらなかったそうです。

 この報告では、「薬物の静脈注射経験者は依然少ない(4%未満)ものの、HIVのリスクのある(性)行動をしている高校生は依然として多い」、と述べられています。

 2.1%という静脈注射の経験者数を重要視していないようなコメントですが、この数字は本当に少ないと捉えてよいのでしょうか。静脈注射が2.1%なら、吸入や内服で違法薬物を使用している高校生がどれくらいになるかを考えるとぞっとします。

 また、きちんと統計をとったわけではありませんが、私が医師として若い患者さんと接していて思うのは、日本の高校生のコンドーム使用率がはたして62.8%まで届くだろうか、ということです。

(谷口 恭)

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2006年8月11日(金) イラクでHIV陽性の夫婦が共に殺害

 イラクで41歳の男性と38歳のその妻が相次いで射殺されたことが議論をよんでいます。

 IRIN newsの8月9日の記事によりますと、「この男性は下品な病気を持っているため国家のために殺害されることになる」、という内容の電話が匿名で当局にかかってきたそうです。その2日後、この男性は路上で射殺されました。目撃者によると、この犯人は引き金を引く前に、「イスラムの教えに反する下品な行動で病気になったやつは死ななければならない!」と大声で叫んだとのことです。

 悲劇はまだ続きます。数日後、この男性の妻が、11歳の子供を学校に迎えにいこうと家を出たところ、夫を殺したのとは別の男性によって射殺されました。そして、その犯人が残した声明文には、「悪魔の穢れを持っている男と寝たムスリムの女性に対する当然の報いである」、と書かれていたそうです。

 この夫婦はHIV陽性でしたが、感染した理由は、ムスリムの教えに反するようなものではなく、汚染された血液製剤によるものでした。夫婦はともに血友病に罹患していたのです。(女性の血友病というのは非常に稀ですが、ないわけではありません。)

 ムスリムの保守層の間では、HIVは、同性愛、婚外交渉、薬物の静脈注射など、いずれも教義に反する行動で感染するもの、と考えられています。そして、汚染された血液製剤で感染するといった事実は、イラクではほとんど知られていないそうです。
 
 サダム・フセインが国家を統治していた頃は、HIV陽性であることが分かると特別な施設に収容されていました。この記事では「事実上の投獄」と表現されています。2003年にアメリカ軍がイラク領土を統治するようになって、ようやく開放されたという経緯があります。

 イラクでは感染者に対する差別が尋常ではありません。

 この射殺された夫婦は、血友病の治療中にHIVに感染していることが分かり、その後施設に収容されていましたが、それ以降、この夫婦の家族は、この夫婦が死んだものとみなし、一切の連絡をとろうとしなかったばかりか、この夫婦の名前を聞くことすら嫌がっていたそうです。射殺された男性は7人兄弟ですが、このなかで唯一ひとりの妹だけが、この夫婦のことを理解していたそうです。そして、この夫婦は施設から出た後、この妹の隣の家で生活していました。

 イラクのNGOのIAACP(Iraqi Aid Association for Chronic Patients)のスタッフによると、イラクではHIVに対する無知が顕著であり、HIV陽性者は、「狂犬病ウイルスを保持している犬と同じように、ただちに社会から追い出されなければならないもの」、と認知されているそうです。

 また、別のNGOのスタッフは、「イラクでは、キスやハグでHIVが感染すると思っている人が大多数で、ただ近づいただけでもリスクがあると考えている人も多い」、と話しているそうです。「ほとんどの感染者は家族からも見放され、自分の子供からも拒絶される場合が多い」、と述べる人もいます。

 この記事には、ひとりのHIV陽性者の苦悩が紹介されています。40歳のその陽性者は、部屋に抗HIV薬を置いていることが偶然近所の人に発見されてから、生活が大きく変わりました。その日を境に、近所の人から挨拶をされることが一切なくなり、子供たちから石を投げられ、頭から大量に血を流していても誰も助けてくれなかったそうです。

 イラクでは、現在およそ100人のHIV陽性者が抗HIV薬による治療を受けていますが、実際にどれくらいの人が感染しているのかは把握できていないようです。UNAIDSの国別データを見ても、イラクの感染者は不明となっています。

(谷口 恭)

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2006年8月10日(木) スワジランドでHIVが原因の自殺急増

 8月8日付けのIRIN newsの報告によりますと、アフリカのスワジランドで、HIV感染を苦にした自殺が急増しており、そのため24時間フリーダイアルのホットラインの活用が呼びかけられているようです。

 スワジランドは人口が120万人弱のアフリカの小国です。この小国にもエイズが猛威をふるうようになり、実に国民の40%以上がHIV陽性です。

 スワジランドでは、問題が起これば家族内で解決する伝統があったが、HIVの問題は家族では対処できなくなっている、とこの記事では述べられています。

 今週発行された現地の新聞の一面には、わずか9歳の少年の自殺未遂が報道されたようです。この少年は、HIVに感染していることが原因で実のおばさんから暴行を受け自殺を試みました。母親はすでにAIDSで死亡しており、父親もその母親を追うように自殺したそうです。少年がロープで首をつっているところをこの少年のいとこが発見しなんとか死は免れたようです。

 2004年現在のWHO(世界保健機構)のデータによりますと、人口あたりの自殺率の国際比較では、スワジランドは上位99位に入っていません。(100位以降のデータは公表されておらず、要するにスワジランドではほとんど自殺がないということです。)

 このWHOのデータによれば、日本は自殺率が世界第10位です。ただ、1位から9位は旧ソ連や東欧の小国ばかりで、いわゆる先進国のなかでは日本が第1位となります。スワジランドのようなもともと自殺のない国ですらHIV感染が原因で自殺が急増していることを考えると、今後日本でもHIV感染による自殺が大きな社会問題になるのではないかと懸念されます。

(谷口 恭)

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2006年8月10日(木) リビアのHIV院内感染、真実の行方は・・・

 リビアのトリポリタニアで起こった426人の子供へのHIV院内感染が、政治的な背景と相まって複雑な展開を見せています。

 もともとこの事件は、トリポリタニアのBenghazi病院で、426人もの子供がHIVに感染したのは、パレスチナ人の医師とブルガリア人の5人の看護師の計6人が、故意にHIVを子供たちに感染させたからだとして、裁判がおこなわれたことから始まります。

 この6人の被告は、一審で銃殺の判決が言い渡され、1999年から投獄されています。この判決の証拠になったのは、リビアの5人のHIVの専門家が作成した報告書で、このなかで、被告の6人が故意にHIVを子供たちに感染させたことが述べられています。

 ところが、2005年12月に最高裁はこの有罪判決をくつがえしました。

 8月8日のロイター通信によりますと、この6人は、暴行や拷問を受け、虚偽の告白をさせられ、実際は無実であることを主張しています。被告の弁護人は、「HIV感染は病院の過失によるものであり、リビアの専門家の主張は誤りである」、と述べているそうです。

 感染した子供のうちおよそ50人はすでにAIDSで死亡しており、家族の代弁者は、「リビアの専門家の作成したレポートは科学的であり確固としたものだ。(だから6人の被告は有罪である)」、と述べているそうです。

 リビア側はこの6人の有罪判決を支持しており、ブルガリア政府に対し、55億ドルの補償金を支払えば5人の看護師を釈放することを提案していますが、ブルガリア政府はこれを拒否しています。しかし、US、EU、リビアと共にエイズ基金を設立することには賛同しているそうです。

 最高裁はいったん休廷となり、再審は8月29日におこなわれる予定です。

 この事件が複雑なのは、リビアと西側諸国との政治的な問題があるからです。ブルガリアとEUは6人の被告の無罪を主張しており、USもこれに賛同しています。そしてブルガリアは補償金の支払いを拒否しています。「リビアとしては西側諸国の主張を全面的に認めるわけにはいかないが、エイズ基金の設立を受け入れて6人を釈放すれば面子が保てるのではないか」、と見る専門家もいるようです。

 リビアは長年の間USと敵対していましたが、現在国交回復がおこなわれようとしているところです。この事件が国交回復の障害になる可能性が指摘されています。

 しかしながら、医療事故の真実は政治的背景に左右されるものであってはいけません。私自身は一医師として、最高裁が公正な判決を下してくれることを切に願います。

(谷口 恭)

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