HIV/AIDS関連情報

2007年2月2日(金) アメリカの薬物常用者は中年に多い

 アメリカでは、静脈注射をおこなう薬物常用者は若者よりも中年に多いことが研究により明らかとなりました。

 この研究は米国CDC(疾病管理局)のグレゴリー・アームストロング博士によっておこなわれ、博士は医学誌「Archives Internal Medicine」の1月22日号でこれを発表し、1月23日のロイターヘルスが報道しています。

 アームストロング博士は、1979年から2002年における薬物乱用に関する全国調査(National Household Survey)のデータを基に、アメリカの薬物使用の実態を調査しました。調査の結果、2000年から2002年でみると、薬物の静脈注射の経験者が全体では1.5%に相当する340万人で、そのうち44万人(全体の0.19%)が過去1年以内に経験があります。年齢別では、35歳から49歳が最も多く3.1%にのぼります。全体でみたとき、男性は女性より多く(男性2%、女性1%)、白人は黒人より多い(白人1.7%、黒人0.8%)ことが分かりました。

 人種別のデータでは、1955年以前に生まれた者の間では黒人が白人より多くなっていますが、それ以降に生まれた者でみれば白人の方が多くなっています。

 アームストロング博士は、医師たちに対し次のような警告をおこなっています。

「ドラッグユーザーはもはや若者ではないことを認識すべきだ。患者の年齢にかかわらず薬物の使用歴について尋ねなければならない。過去に一度でも薬物の静脈注射の経験のある者は、それがどれだけ古いことであろうとも、HIV、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスの検査を受けるべきである」

*************

 日本の違法薬物に関する年齢別のデータというものを私は見たことがありませんが、若者にも中年にも多いような印象があります。日本にも違法薬物の静脈注射でこういった感染症に罹患した人が少なくありませんし、タトゥーが原因という人も決して稀ではありません。

(谷口 恭)

記事URL

2007年1月31日(水) 中国、出稼ぎ労働者にエイズ予防

 1月26日のCHINA Dailyによりますと、中国政府は国中で2億人にもなる地方からの出稼ぎ労働者に対するエイズ予防教育を3年間のプランでおこなうことを発表しました。

 中国の出稼ぎ労働者たちはハイリスクグループのひとつと言われており、今回のプランでは出稼ぎ労働者とその家族に、エイズ予防についてのみならず、職場でのHIV陽性者に対する差別をなくすような教育もおこなわれます。

(谷口 恭)

記事URL

2007年1月31日(水) イギリス、若い女性はHIVに無関心

 若い女性の10人に7人は自分にはHIVのリスクがないと思っている・・・

 最近、イギリスのボディショップとMTVが共同でおこなった調査でこのようなことが分かり1月24日のBBC ニュースが報道しています。調査に協力したのは16歳から30歳の1,064人の女性です。

 この調査では、若い女性の無関心がイギリスでHIV蔓延を抑制できていない原因のひとつである、と結論されています。

 今回の調査で分かったことは他にもあります。

・3分の2がコンドームを使うとセックスを台無しにすると考えている
・92%が夜間外出するときにコンドームを不可欠な持ち物と考えていない
・14%がコンドームを用意するのは男の責任と考えている
・10人に1人がコンドームを携帯している女性は誰とでも寝る女だと考えている
・47%がセックスライフについて友達と語るときにコンドームを話題に出さない
・新しいパートナーができたとき過去の性体験を尋ねるのは32%のみ
・7割が女性トイレで自分のバッグからコンドームが落ちるところを他人に見られれ ば恥ずかしいと感じる

 ボディショップの幹部スタッフであるクリス・デイヴィス(Chris Davis)氏は言います。

 「若い女性たちは自分にHIVの危険性があると考えておらず、HIVとは発展途上国や同性愛者、ドラッグユーザーの問題だと思っている。実際は、先進国のなかでも若い女性の間でHIV感染が急激に広がっているというのに・・・」

 尚、昨年の世界での24歳以下のHIV新規感染者は430万人にものぼります。また、イギリスの健康予防局(Health Protection Agency)は、イギリス国内の63,500人の成人がHIV陽性であり、そのうち3分の1が自身の感染に気付いていないと試算しています。

 エイズ予防活動をおこなっているNPO「ナショナル・エイズ・トラスト」の代表者、ユセフ・アザド(Yusef Azad)氏は次のように述べています。

 「イギリスでは、HIVの予防教育に予算がかけられておらず、HIV感染の危険性に対する国民の意識が低いままである。たしかに若い女性は最たるハイリスクグループではないかもしれないが、コンドームを用いない性行為(unprotected sex)でHIVは感染する。彼女たちは予防方法を学ばなければならない」

 また、別のNPOのスタッフは言います。

 「もしもこのまま若い女性たちが、そして男性も、性行為に対し無知のままでいるならHIVを含む性感染症がイギリスで爆発的に増加するだろう。若い女性の誰もがコンドームを持ち歩き感染から身を守る自己責任がある。女性は男性よりもHIVに感染しやすいのだから・・・」

********

 最後のこのコメントは女性に対して説得力があるかもしれません。一般的に性感染症は男性よりも女性の方が感染しやすいからです。

 それにしても、この記事は本当にイギリスのものなのか、と思えます。日本のことを言っているのではないかと感じたのは私だけでしょうか・・・。

(谷口 恭)

記事URL

2007年1月31日(水) インドネシアの薬物問題が深刻化

 インドネシアの薬物問題が深刻化しており、HIVの蔓延だけでなく、過激派や組織犯罪との関連性も懸念されることを、政府の薬物撲滅会議が1月23日に発表し、同日のロイターヘルスが報道しています。

 まずインドネシアの薬物事情についておさえておきたいと思います。2004年のデータでは、IDU(薬物を静脈注射する人)が57万2千人、そのうちの半数がHIV陽性、薬物に関連した原因で死亡した人は15,000人にものぼります。

 「我々は違法薬物の生産、密輸、濫用のいずれの問題にも直面している」

 同会議の議長であるパスティカ氏はそのようにコメントしています。パスティカ氏は現在32歳の警察官で、2002年のバリ島テロ事件の捜査官でもあります。氏は、イスラム過激派を非難し、次のように言います。

 「薬物の密輸とテロや国家間を超えた犯罪とは密接なつながりがある」

 パスティカ氏は、アチェ(スマトラ島の北端に位置する特別州)の独立を求める過激派の資金源がこの地域で大量に栽培されているマリファナであることを明らかにしました。

 アチェの過激派とインドネシア政府は2005年に平和協定を結び、政府は300ヘクタールのマリファナ畑を壊滅させ、代わりに農産物を栽培する計画が立てられています。しかし、アチェ内にはまだ500ヘクタールのマリファナ畑がある、と氏は言います。

 マリファナだけではありません。パスティカ氏によりますと、インドネシアではヘロインやエクスタシー(MDMA)、メタンフェタミン(覚醒剤)などの常用者が急増しているそうです。インドネシアは、以前は違法薬物の中継点に過ぎませんでしたが、最近では生産拠点にもなっています。そして、違法薬物の生産量が増えただけではなく、その質も向上してきており、なかでも最も深刻なのがメタンフェタミンであるそうです。

 2005年にはバンテン(ジャカルタの西に位置する州)の生産工場が警察に発見されました。この工場では、1週間に100万錠のエクスタシーを含む様々な違法薬物の生産能力があることが分かりました。これは年間6億ドル(720億円)に相当するそうです。

 インドネシアの特徴は面積が広いということよりもむしろ、1万以上もの島からなる国家ということです。そのため、密輸が比較的容易で、違法薬物の利益性を考えると今後も増加していくことが予想されます。

 インドネシアでは5000ルピア(約55セント、約66円)でエクスタシー1錠が産生でき、ジャカルタなど大都市のクラブでは、1錠10万ルピア(約11ドル、1,300円)で販売されているそうです。

*********

 このロイターヘルスの記事によりますと、インドネシアではメタンフェタミン(覚醒剤)のことを"シャブ"と呼ぶそうです。もしかすると日本人がこの国に覚醒剤を普及させたのでしょうか・・・

(谷口 恭)

記事URL

2007年1月31日(水) リビアのHIV院内感染、真実の行方は(第5報)

 過去4回にわたりお伝えしていますリビアのHIV院内感染の事件で、前回(「リビアのHIV院内感染、真実の行方は(第4報)」2007年1月22日)は、EUがリビアに対して抗議をおこなうことになるのではないかという私見を述べましたが、その後発展がありましたのでお伝えいたします。

 1月19日のロイター通信によりますと、1月18日、EU議会は、EU加盟国に対して「故意にHIVを子供たちに感染させたとして冤罪で囚われている6人の医療者(1人のパレスチナ人医師と5人のブルガリア看護師)が解放されないなら、EU加盟の各国がリビアとの関係を見直すことによってリビアに圧力をかけるべきだ」、との発表をおこないました。

 これに対しリビアのある団体が翌日、痛烈な抗議をおこないました。この団体はカダフィ大佐の息子が運営しているそうで、「(EUのその発表がおこなわれたことによって)囚われている6人の状況はさらに悪化するだろう。そして、リビアとEU諸国との関係も悪化することになるだろう」、とコメントしています。

 しかしながら、カダフィ大佐の息子は次のようにも述べています。

 「(先月下された)死刑判決は最終的な判決ではない。今後はリビアの最高裁で審議がおこなわれることになる」

 この団体の声明を受けたからなのか、1月22日、スペイン政府が、リビアでHIVに院内感染した当事者の子供たちを引き取って治療をおこなうことを提案しました。具体的に何人の子供の治療をおこなうかは公表されていません。(1月22日ロイター通信)

 また、EUの外交関係の幹部は、22日、院内感染した子供たちのために240万ユーロ(約311万ドル、約3億7千万円)の治療費を負担することをリビア政府に提案しました。しかし、同時にこの幹部は、リビアに対してHIV院内感染の科学的な検証結果を受け入れるように要請をおこないました。

 さらにEU議会は、リビア政府に対して、「6人を早く解放すれば、EUとリビアが友好的な関係を築くことができる」とのコメントを表明しました。

 この発表を受けて、AU(アフリカ連合)は、24日、EUに対して、リビアに圧力を加えることを止めるように勧告をおこないました。囚われている6人の行方についてはリビアの司法に委ねるべきであるとの声明を発表しています。(1月24日ロイター通信)

*************

 今回の一連の報道にはありませんが、リビア政府は以前、HIVに感染した子供ひとりあたり1,500万ドル(約18億円)の保障をEUに対して求めました。感染者が約430人ですから、合計で64億5千万ドル(約7740億円)にもなり、今回EUが提示した金額(約311万ドル)とは大きな開きがあります。

 先進国の感覚から言っても、ひとりあたり1,500万ドルというのは常識を逸脱した金額のように思えます。また、いくつもの科学的な検証結果によれば、囚われている6人が冤罪であるのは明らかです。

 リビア最高裁での審議は今後数週間以内におこなわれる見込みです。

(谷口 恭)

記事URL