HIV/AIDS関連情報

2007年1月31日(水) リビアのHIV院内感染、真実の行方は(第5報)

 過去4回にわたりお伝えしていますリビアのHIV院内感染の事件で、前回(「リビアのHIV院内感染、真実の行方は(第4報)」2007年1月22日)は、EUがリビアに対して抗議をおこなうことになるのではないかという私見を述べましたが、その後発展がありましたのでお伝えいたします。

 1月19日のロイター通信によりますと、1月18日、EU議会は、EU加盟国に対して「故意にHIVを子供たちに感染させたとして冤罪で囚われている6人の医療者(1人のパレスチナ人医師と5人のブルガリア看護師)が解放されないなら、EU加盟の各国がリビアとの関係を見直すことによってリビアに圧力をかけるべきだ」、との発表をおこないました。

 これに対しリビアのある団体が翌日、痛烈な抗議をおこないました。この団体はカダフィ大佐の息子が運営しているそうで、「(EUのその発表がおこなわれたことによって)囚われている6人の状況はさらに悪化するだろう。そして、リビアとEU諸国との関係も悪化することになるだろう」、とコメントしています。

 しかしながら、カダフィ大佐の息子は次のようにも述べています。

 「(先月下された)死刑判決は最終的な判決ではない。今後はリビアの最高裁で審議がおこなわれることになる」

 この団体の声明を受けたからなのか、1月22日、スペイン政府が、リビアでHIVに院内感染した当事者の子供たちを引き取って治療をおこなうことを提案しました。具体的に何人の子供の治療をおこなうかは公表されていません。(1月22日ロイター通信)

 また、EUの外交関係の幹部は、22日、院内感染した子供たちのために240万ユーロ(約311万ドル、約3億7千万円)の治療費を負担することをリビア政府に提案しました。しかし、同時にこの幹部は、リビアに対してHIV院内感染の科学的な検証結果を受け入れるように要請をおこないました。

 さらにEU議会は、リビア政府に対して、「6人を早く解放すれば、EUとリビアが友好的な関係を築くことができる」とのコメントを表明しました。

 この発表を受けて、AU(アフリカ連合)は、24日、EUに対して、リビアに圧力を加えることを止めるように勧告をおこないました。囚われている6人の行方についてはリビアの司法に委ねるべきであるとの声明を発表しています。(1月24日ロイター通信)

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 今回の一連の報道にはありませんが、リビア政府は以前、HIVに感染した子供ひとりあたり1,500万ドル(約18億円)の保障をEUに対して求めました。感染者が約430人ですから、合計で64億5千万ドル(約7740億円)にもなり、今回EUが提示した金額(約311万ドル)とは大きな開きがあります。

 先進国の感覚から言っても、ひとりあたり1,500万ドルというのは常識を逸脱した金額のように思えます。また、いくつもの科学的な検証結果によれば、囚われている6人が冤罪であるのは明らかです。

 リビア最高裁での審議は今後数週間以内におこなわれる見込みです。

(谷口 恭)