HIV/AIDS関連情報

2007年5月8日(火) 抗HIV薬、依然大勢に行き渡らず

 抗HIV薬を必要とするアジア人で、実際に治療を受けているのはわずか19%・・・

 4月17日にWHO(世界保健機構)が発表した報告にはこのように述べられています。(報道は同日のロイター通信)

 南アジア、東南アジア、東アジアのいずれの地域も、サハラ以南のアフリカ諸国よりも低い数字を示しています。サハラ以南の諸国では2006年の時点で28%の人々が抗HIV薬の恩恵に預かっています。また、中南米では72%の人々が抗HIV薬を入手しています。

 昨年(2006年)、国連は、2010年までに「包括的なエイズの予防と治療、ケアとサポート」をおこなうことを発表しています。

 南アジア、東南アジア、東アジアでは、2006年の時点で抗HIV薬を受給できているのは28万人だけですが、これでも2003年から比べれば4倍となっています。

 アジアのHIV陽性者はおよそ780万人です。世界全体では約4千万人で、サハラ以南で全体の3分の2を占めます。

 インドが570万人で世界最大ですが、このうち抗HIV薬を受給しているのはわずか10万人です。一方、南アフリカ共和国(HIV陽性者がインドに次いで世界2位)では32万5千人の人が薬剤を入手しています。現在インドで抗HIV薬を必要としている人は約52万人です。

 子供に限ってみてみると、アジアの方が成績がいいようです。サハラ以南で抗HIV薬を必要としている15歳以下の子供は68万人いますが、受給しているのはわずか13%です。一方、アジアでは6万4千人の子供たちが薬剤を必要としており受給者は21%となっています。

 インドの2005年のデータでは、抗HIV薬を必要とする妊婦で、実際に薬剤を受給できたのは3%以下だそうです。これは、モザンビークやジンバブエなどの国よりも低い数字となっています。

 WHOは中国の薬物中毒者への対策を評価しています。2005年には注射器と注射針の無償供給をしたのが130人だったのに対し、2006年には392人と一年間で3倍にも増えています。

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 アジアでは子供のケアが手厚く妊婦に対しては冷たいのでしょうか。いずれにせよ、アジアでもアフリカでも、まだまだ薬が行き渡っていないということに異議を唱える人はいないでしょう。

 薬は技術的に製造可能なのにもかかわらず入手できない人がいる・・・。このジレンマに対して誰が何をすればいいのでしょうか・・・

(谷口 恭)

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2007年5月7日(月) 上海、HIV感染者が急上昇

 昨年(2006年)の上海の新規HIV感染者が過去最高となったことが、上海当局の調査で明らかとなりました。(報道は4月14日のCHINA DAILY)

 昨年、上海では新たにHIV感染が判った者が718人で、53人がエイズを発症していました。これは前年から54%の増加となります。

 これだけ高い増加率を示しているのにもかかわらず、上海でのHIV感染は、依然中国全土の平均よりも低い数字を示しています。

 上海で初めてHIV感染が報告されたのは1987年で、その後2006年末までに合計2,313人の感染者が報告されています。このうち100人はすでに死亡しています。

 関係者によりますと、上海では様々な感染ルートがありますが、なかでも売買春と薬物中毒者が多いそうです。当局はHIV撲滅に力を入れていますが、裏社会の売春産業は正確なデータが把握できていないそうです。

 今後は上海の保健当局は警察と協力して売春産業の摘発に力を注ぐそうです。また、薬物中毒者に対してはメタドン療法(麻薬の代替物を中毒者に内服させることにより麻薬を断ち切る治療法)を普及させるようです。

 関係者は次のようにコメントしています。

 「上海では、中国東部の他の地域と同じように性交渉でのHIV感染が増加している。すべての関係当局がHIV減少に取り組まなければならない。HIV感染は単なる感染症ではない。法律や教育、女性の生殖や税関などとも関連がある問題である」

 上海ではHIV以外の性感染症も問題となっています。今年の3月だけで935件の梅毒が報告され、これは深刻な感染症全体の4分の1以上を占めています。

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 私が勤務するクリニックにも、中国帰りの性感染症の患者さんがたくさん受診されます。患者さんのなかには、「中国でビジネスをしようと思えば売買春は避けて通れない道だ・・・」と言う人もいます。

 百歩譲って、売買春が避けられないのだとしても、予防することはできるはずです。

(谷口 恭)

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2007年5月7日(月) HIV陽性のレイプ犯が懲役刑に

 イギリスで21歳の女性をレイプした38歳の男性が11年の実刑判決を受けました。(報道は4月17日のBBC NEWS)

 この男性はブルンジ共和国(アフリカ中部の小国)出身で、2005年の4月、ブライトンの市街地で被害者の女性をレイプしました。

 この男性は2006年3月に一度有罪判決を受けていますが、その後判決が無効となり再審議がおこなわれることとなり、今回あらためて有罪が確定したというわけです。

 判決がいったん無効となったのは、被告がHIV陽性であることが陪審員に伝えられているのは公正でない、との議論があったからです。

 尚、被害者の女性はHIVに感染しなかったようです。

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 レイプとHIV陽性であることは分けて考えるべきだとの理由で、いったん出された判決が無効となり再審議がおこなわれたケースです。

 たしかに、HIV陽性であることが陪審員に伝えられていれば、先入観が入り被告が不利となる可能性があるということは理解できます。

 しかしながら、被害者の立場に立てば、レイプ犯がHIV陽性であるか陰性であるかで心の傷の度合いが変わるかもしれません・・・。

 本当にむつかしい問題です・・・

(谷口 恭)

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2007年5月7日(月) 男性との情事を認めるくらいなら自殺・・・

 男性と性交渉をもっているものの、結婚しているか女性の恋人がいる男性は、男性との情事を認めるよりも"死"を選ぶ・・・

 オーストラリアでこのような調査結果が発表され話題をよんでいます。(報道は4月18日のNEWS.COM.AU)

 この調査はシドニー大学の研究者ハドソン(Hudson)氏によっておこなわれたもので、結婚しているか女性の恋人がいて、かつ男性とも性交渉をもっている240人の男性を対象としています。協力者はインターネットで募集した他、サウナなどゲイが集まるスポットで聞き取り調査をおこなっています。

 調査結果によりますと、彼らの半数以上が、「妻や(女性の)恋人が、自分が男性とも性交渉をもっていることを知らない」、と答えています。

 また、彼らのほとんどが、「家族が欲しい」「異性愛者のノーマルさが欲しい」と答え、「いずれは男性への愛情がなくなるだろう」、と答えています。

 そして、ほとんどが、「妻を傷つけたり結婚生活を台無しにしたりするくらいなら自ら死を選ぶ」、と答えています。

 さらに、「妻を傷つけたくないし、妻を守っていきたいからこそ、真実を語ることはできない」、と考えているそうです。

 この結果に対し、研究者のハドソン氏は次のように述べています。

 「彼らは少なくとも医師に対しては真実を語るべきである。彼らは真実を隠すことが妻にとっていいことと考えているが、それ以上に医師に真実を隠すことは悪いことなのである。結婚していれば、医師はその男性をゲイとみなさない。その結果、必要な性感染症やHIVの検査をおこなわなくなる」

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 この研究者のコメントに納得できないのは私だけでしょうか?

 ゲイだからHIVを含む性感染症のリスクが高いのではなく、危険な性行為(unprotected sex)をおこなうことがリスクであるはずです。

 日本にも男性と性交渉をもつ男性はたくさんいます。もちろん結婚している人も少なくありません。私は、ゲイの人たちを診察するときは、性感染症の検査を薦めるのではなく、まずはunprotected sexの有無を尋ねるようにしています。

(谷口 恭)

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2007年5月7日(月) タイのエイズワクチン最新情報

 現在タイの保健省は、エイズワクチン(HIVワクチン)の臨床試験(治験)を16,000人のボランティアを対象におこなっていますが、試験は最終段階(last phase)に入っており、この結果は7月にも公表されるようです。(報道は5月1日のバンコクポスト)

 このワクチン臨床試験は、タイ保健省の他、いくつかの米国政府の関係筋や会社も関与しています。およそ16,000人のボランティアは、試験開始時にHIVに感染していなかった18歳から30歳のラヨン県もしくはチョンブリー県(いずれもタイ東部)在住の人たちです。

 この臨床試験の結果により、次の3つの対策がとられる見込みです。

 まず80%以上の成功率が得られれば、本格的なワクチンとして市場に流通します。次に成功率が50-79%であれば今後二年間の追加試験がおこなわれます。成功率が50%以下であれば今回試験されているワクチンは失敗とみなされます。

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 新聞記事からは、"成功率"がどのように定められるのかが分かりません。「このワクチンを打てばHIVに感染しない確率が80%以上です」、と言われて安心できるのか、という気がします。

(谷口 恭)

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