GINAと共に
第15回 "HIV陰性=OK"という誤解(2007年9月)
私が院長をつとめる「すてらめいとクリニック」には、性感染症の検査目的の患者さんが毎日のように来られます。
検査を受ける動機は、「見知らぬ相手と性交渉をもってしまった」、「酔った勢いで風俗店に行ってしまった」、「海外でついハメをはずしてしまった」、「顧客に強引なセックスを強要された」といったものもあれば、「新しい彼(女)ができたから」、「結婚することになったので」というものもあります。
また、「特に危険な行為があるわけではないけれど、なんとなく気になって・・・」という人もいます。
少し前までは、「カップルで来られるのは西洋人だけで、日本人はひとりで受診する」という特徴がありましたが、最近は、カップルで検査を受けに来る日本人の患者さんも増えてきました。(もちろんこれは歓迎すべきことです!) また、最初はひとりで来て、その後に彼(女)を連れてくるというパターンも増えてきています。
HIV感染というのは性感染だけではありません。「海外でタトゥーを入れたことが心配・・・」、「昔遊び半分でシャブをやったことがあって・・・」、という理由でHIV感染を心配している人もいます。
HIVに対する世間の関心が高まって、検査を受けに来る人が増えることはもちろん歓迎されるべきことなのですが、患者さんのなかには大きな誤解をしている人がいます。
それは、「HIV陰性ならそれでOK」という誤解です。
これがなぜ誤解なのかを説明していきましょう。
まず、HIVは性感染でも血液感染でもそれほど感染力の強い感染症ではありません。例えば、医療者の針刺し事故を考えたとき、B型肝炎ウイルス(HBV)であれば感染の可能性は30%、C型肝炎ウイルス(HCV)なら3%程度です。それに対し、HIV感染の可能性はわずか0.3%です。(10分の1ずつ減っていくところが興味深いですね)
性感染の場合は、数字のデータは見たことがありませんが、B型肝炎ウイルスの感染力がHIVとは比較にならない程強いのは間違いありません。日々の臨床の現場でも、風俗店のオーラルセックス(フェラチオ)で風俗嬢からB型肝炎ウイルスをうつされたという男性や、逆に客からうつされたという女性は、まったく珍しくありません。ディープキスでB型肝炎ウイルスがうつったという報告もあります(ただし、学会で報告されるくらいですからディープキスでの感染の頻度は多くないと思われます)
次に、ウイルスを保有している人の数をみてみましょう。日本では、HIV陽性の人は累計で約1万3千人です。それに対し、B型肝炎では約120万人、HTLV-1で120万人から150万人、C型肝炎にいたっては200万人とも言われています。梅毒については、はっきりしたデータはありませんが、おそらく数十万人程度は病原体を保有しているでしょう。
海外でもこの傾向は同じです。例えば、タイではHIV陽性者が約58万人、中国では65万人とされていますが(中国の実数はこれよりはるかに多いとみられています)、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスはその何十倍も多いのは間違いありません。
つまるところ、HIVというのは血液感染でみても、性感染でみても、他の感染症と比較して、感染力が圧倒的に弱いことに加え、病原体を保有している人に出会う可能性も格段に低いわけです。
もちろん、そのようなHIVにも感染している人はいるわけですから、危険なことをしても大丈夫ということにはなりません。実際、HIVに感染した人たちと話をすると、ごく些細なことで感染している人が多いことに驚かされます。
しかし、全体からみれば、HIVというのはもっとも感染しにくい感染症とも言えるわけで、それならば、HIVだけを調べてその結果が陰性であればそれでOKというのは理屈の上でもおかしいわけです。
ただ、もしもB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HTLV-1などが、HIVに比べて治癒しやすいものであったとすれば、HIVに最も注目すべきということになります。
けれども、実際はそうではありません。HIVに対しては、効果の高い薬剤が次々と開発されたおかげで、現在はかなりの確率でエイズを発症しにくくなっています。しかも、最近では薬を飲むのは1日1回、朝だけとなっています。これなら、薬を職場に持っていく必要もありませんし、規則正しい生活をしていれば飲み忘れることもないでしょう。
一方、他の感染症をみてみると、例えば、B型肝炎ウイルスに感染して、ウイルスが体内に遷延し慢性化した場合、高価な薬をかなり長期に渡って服用しなければなりません。(B型肝炎ウイルスの薬は、HIVに対しても使われることのあるものです) それに、B型肝炎ウイルスに感染すれば、急性肝炎から劇症肝炎に移行することもあり、そうなればかなりの確率で命を奪われます。危険な性行為をした数ヵ月後に命を落としているかもしれないのがB型肝炎ウイルスなのです。(だからこそ、ワクチン接種が大切なのです!)
C型肝炎ウイルスは、B型肝炎ウイルスのように劇症化することはほとんどありませんが、その多くは慢性化し、やがて肝硬変や肝癌に移行していきます。ウイルスを死滅させる薬としてインターフェロンという注射薬があります。最近は、かなり効果の高いインターフェロンが使われるようになってきましたが、それでもおよそ6割の人にしか効きません。あとの4割は何もなす術がないのです。しかも、インターフェロンの注射は週に一度、約1年間打ち続けなければなりません。副作用の少ない注射ではありませんし、それを乗り越えたとしても4割の人は効果がなく、やがて肝硬変や肝癌を待つことになるのです。
HTLV-1はさらに絶望的で、いったん症状が出現すれば有効な治療法がほとんどありません。
もう一度まとめなおすと、HIVよりも、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HTLV-1などの感染症の方が、病原体を保有している人がはるかに多く、感染力も強く、感染すれば有効な手立てがないことも多いのです!
さらに、クラミジアや淋病といった尿道炎、咽頭炎、子宮けい管炎をきたす性感染症も早期発見すれば簡単に治りますが、放置しておくと危険な状態になりかねません。特に、女性が子宮けい管炎をおこした場合、進行して卵管炎がおきれば卵管がつまり不妊の原因となりますし、さらに進行しておなかのなかまでいけば緊急開腹手術になることもあります。
HIV感染が心配ならば、HIVだけでなく、他の感染症も確認しておく必要があるということがお分かりいただけたでしょうか。
参考:
太融寺町谷口医院ウェブサイト
「はやりの病気」第43回「B型肝炎にはワクチンを」
「はやりの病気」第47回「誤解だらけのHTLV-1感染症(前編)」
「はやりの病気」第48回「誤解だらけのHTLV-1感染症(後編)」
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検査を受ける動機は、「見知らぬ相手と性交渉をもってしまった」、「酔った勢いで風俗店に行ってしまった」、「海外でついハメをはずしてしまった」、「顧客に強引なセックスを強要された」といったものもあれば、「新しい彼(女)ができたから」、「結婚することになったので」というものもあります。
また、「特に危険な行為があるわけではないけれど、なんとなく気になって・・・」という人もいます。
少し前までは、「カップルで来られるのは西洋人だけで、日本人はひとりで受診する」という特徴がありましたが、最近は、カップルで検査を受けに来る日本人の患者さんも増えてきました。(もちろんこれは歓迎すべきことです!) また、最初はひとりで来て、その後に彼(女)を連れてくるというパターンも増えてきています。
HIV感染というのは性感染だけではありません。「海外でタトゥーを入れたことが心配・・・」、「昔遊び半分でシャブをやったことがあって・・・」、という理由でHIV感染を心配している人もいます。
HIVに対する世間の関心が高まって、検査を受けに来る人が増えることはもちろん歓迎されるべきことなのですが、患者さんのなかには大きな誤解をしている人がいます。
それは、「HIV陰性ならそれでOK」という誤解です。
これがなぜ誤解なのかを説明していきましょう。
まず、HIVは性感染でも血液感染でもそれほど感染力の強い感染症ではありません。例えば、医療者の針刺し事故を考えたとき、B型肝炎ウイルス(HBV)であれば感染の可能性は30%、C型肝炎ウイルス(HCV)なら3%程度です。それに対し、HIV感染の可能性はわずか0.3%です。(10分の1ずつ減っていくところが興味深いですね)
性感染の場合は、数字のデータは見たことがありませんが、B型肝炎ウイルスの感染力がHIVとは比較にならない程強いのは間違いありません。日々の臨床の現場でも、風俗店のオーラルセックス(フェラチオ)で風俗嬢からB型肝炎ウイルスをうつされたという男性や、逆に客からうつされたという女性は、まったく珍しくありません。ディープキスでB型肝炎ウイルスがうつったという報告もあります(ただし、学会で報告されるくらいですからディープキスでの感染の頻度は多くないと思われます)
次に、ウイルスを保有している人の数をみてみましょう。日本では、HIV陽性の人は累計で約1万3千人です。それに対し、B型肝炎では約120万人、HTLV-1で120万人から150万人、C型肝炎にいたっては200万人とも言われています。梅毒については、はっきりしたデータはありませんが、おそらく数十万人程度は病原体を保有しているでしょう。
海外でもこの傾向は同じです。例えば、タイではHIV陽性者が約58万人、中国では65万人とされていますが(中国の実数はこれよりはるかに多いとみられています)、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスはその何十倍も多いのは間違いありません。
つまるところ、HIVというのは血液感染でみても、性感染でみても、他の感染症と比較して、感染力が圧倒的に弱いことに加え、病原体を保有している人に出会う可能性も格段に低いわけです。
もちろん、そのようなHIVにも感染している人はいるわけですから、危険なことをしても大丈夫ということにはなりません。実際、HIVに感染した人たちと話をすると、ごく些細なことで感染している人が多いことに驚かされます。
しかし、全体からみれば、HIVというのはもっとも感染しにくい感染症とも言えるわけで、それならば、HIVだけを調べてその結果が陰性であればそれでOKというのは理屈の上でもおかしいわけです。
ただ、もしもB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HTLV-1などが、HIVに比べて治癒しやすいものであったとすれば、HIVに最も注目すべきということになります。
けれども、実際はそうではありません。HIVに対しては、効果の高い薬剤が次々と開発されたおかげで、現在はかなりの確率でエイズを発症しにくくなっています。しかも、最近では薬を飲むのは1日1回、朝だけとなっています。これなら、薬を職場に持っていく必要もありませんし、規則正しい生活をしていれば飲み忘れることもないでしょう。
一方、他の感染症をみてみると、例えば、B型肝炎ウイルスに感染して、ウイルスが体内に遷延し慢性化した場合、高価な薬をかなり長期に渡って服用しなければなりません。(B型肝炎ウイルスの薬は、HIVに対しても使われることのあるものです) それに、B型肝炎ウイルスに感染すれば、急性肝炎から劇症肝炎に移行することもあり、そうなればかなりの確率で命を奪われます。危険な性行為をした数ヵ月後に命を落としているかもしれないのがB型肝炎ウイルスなのです。(だからこそ、ワクチン接種が大切なのです!)
C型肝炎ウイルスは、B型肝炎ウイルスのように劇症化することはほとんどありませんが、その多くは慢性化し、やがて肝硬変や肝癌に移行していきます。ウイルスを死滅させる薬としてインターフェロンという注射薬があります。最近は、かなり効果の高いインターフェロンが使われるようになってきましたが、それでもおよそ6割の人にしか効きません。あとの4割は何もなす術がないのです。しかも、インターフェロンの注射は週に一度、約1年間打ち続けなければなりません。副作用の少ない注射ではありませんし、それを乗り越えたとしても4割の人は効果がなく、やがて肝硬変や肝癌を待つことになるのです。
HTLV-1はさらに絶望的で、いったん症状が出現すれば有効な治療法がほとんどありません。
もう一度まとめなおすと、HIVよりも、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HTLV-1などの感染症の方が、病原体を保有している人がはるかに多く、感染力も強く、感染すれば有効な手立てがないことも多いのです!
さらに、クラミジアや淋病といった尿道炎、咽頭炎、子宮けい管炎をきたす性感染症も早期発見すれば簡単に治りますが、放置しておくと危険な状態になりかねません。特に、女性が子宮けい管炎をおこした場合、進行して卵管炎がおきれば卵管がつまり不妊の原因となりますし、さらに進行しておなかのなかまでいけば緊急開腹手術になることもあります。
HIV感染が心配ならば、HIVだけでなく、他の感染症も確認しておく必要があるということがお分かりいただけたでしょうか。
参考:
太融寺町谷口医院ウェブサイト
「はやりの病気」第43回「B型肝炎にはワクチンを」
「はやりの病気」第47回「誤解だらけのHTLV-1感染症(前編)」
「はやりの病気」第48回「誤解だらけのHTLV-1感染症(後編)」
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第14回 リタイア後の楽しみ(2007年8月)
2006年4月に改定された高年齢者雇用安定法では、定年を65歳未満に設定している企業に対して、定年 を引き上げる、退職後に雇用契約を結びなおして再雇用する「継続雇用制度」を導入する、定年制を廃止する、のいずれかが義務付けられるようになりました。
また、今月(2007年8月)には、厚生労働省が、来年度から、従業員全員を70歳まで継続して雇用する企業を財政支援する方針を固めました。雇用保険を活用して、一社あたり40から200万円程度の助成金を支払うことになります。
これは、今後日本で労働人口が急激に減少することから起こる人手不足に対する解決策というのが一番の理由だと思われますが、すでに崩壊してしまっている年金問題への対応策として、厚生労働省は年金支給年齢の切り上げを検討しているのではないかと、私には思えます。
日頃医師として患者さんと接していると、65歳以上、あるいは70歳以上で仕事をしている人は、していない人に比べて"元気"な印象があります。"元気"だから仕事をしている、というのもあるでしょうが、私にはそれだけでないように見えます。つまり、「仕事をしているから生活にハリができて元気になっている」のではないかと思われるのです。
一方で、65歳まで(あるいは60歳まで)働き続けたんだから、高齢者には休ませてあげればいいじゃないか、という意見もあります。
海外ではどうでしょうか。
欧米諸国にある程度長期で滞在したことがある人たちがよく言うのは、高齢者のボランティアの多さです。
病院や施設で患者さんのケアをしたり話し相手になっている人、公園や街を掃除している人、地域の子供たちのためにクリスマスパーティを開いたり、伝統行事を教えたりしている人は、無償のボランティア、それも高齢者のボランティアが多いことがよくあります。
年をとってからの過ごし方が、日本人は仕事、西洋人はボランティア、と単純に区別できるわけではありませんが、なにかとワーカホリックと揶揄されることの多い日本人はやはり仕事が好きなのかもしれません。
私は日本人として仕事は楽しんでおこなうものだと思っていますし、仕事をしている高齢者を医師として支援したいと考えていますが、今一度「ボランティアの喜び」について日本人が思いをめぐらせてみてもいいのではないかと考えています。
仕事とボランティアの一番の違いは、「報酬がもらえるかどうか」です。高福祉国家のヨーロッパ諸国と比べれば、たしかに日本は年をとってからの生活が保障されていません。年金ですら今後受給されるかどうかが疑わしい状況です。
しかしながら、現在の日本では衣・食・住にこまるということはそれほどありませんし、高齢者になれば、例えば子供の教育費や交際費などに悩まされることは少なくなっているでしょうし、住宅ローンの返済が済んでいる人も多いでしょう。また、日本の高齢者の貯蓄率は世界一位だと言われています。
それならば、全員が、というわけにはいきませんが、ある程度お金に余裕のある人はボランティアを始めてみてはどうでしょうか。お金に余裕がある、と言い切れる人はそんなに多くないかもしれませんが、例えば、アルバイトというかたちで週に2~3日程度働けば充分にやっていけるという人は少なくないのではないかと思われます。
もちろん、私が提案するまでもなく、すでにボランティア活動をしている人は少なくありません。団塊世代(1947年から49年生まれ)の3人に1人はすでにボランティア活動をおこなっていることが、国立教育政策研究所がおこなったアンケート調査でわかりました。(報道は2007年8月14日の日本経済新聞)
この調査結果を詳しくみてみると、団塊世代でボランティアにかかわっている人は、全体では35.1%、男性33.6%、女性37.1%です。活動内容は、「町内会などの手伝い」が19.1%でトップ、「ゴミ拾いやリサイクル」「伝統芸能や祭りの指導」が続いています。
また、満足度については、「満足している」「やや満足している」を合わせると72.5%と高い数値を示しています。活動の意義については、「地域に役立つ」「ものの見方が広がる」「友人・知人ができる」などの意見が多いようです。
さて、再び西洋人に話を戻すと、タイのエイズ施設では多くの高齢の西洋人がボランティアをしています。それに対し、タイで会う日本人のボランティアの大半は若い人で、なかには「自分探し」のためにボランティアを試している、というような人もいます。それはそれで悪くはないと思いますが、若い人たちのボランティアはどうしても期間が短くなりがちで、この点が西洋人から批判されがちです。
先に、「ある程度お金に余裕があるなら、収入が得られる仕事は週に2~3回で・・・」という意見を述べましたが、「週に2~3回」ではなく、「半年間は週5日間働いて、残りの半年をボランティアに費やす」という選択肢があってもいいのではないかと思います。労働力があふれている社会では無理でしょうが、これからの日本のように「超高齢化」を迎える社会では、労働者側の売り手市場になりますから、そのような勤務形態も可能になるのではないかと私は考えています。
海外でのボランティアには、日本では体験できない楽しみがいくつもあります。まず、違う文化を知ることができますし、日本で得た知識や技術が現地の人から大変感謝されることもよくあります。それに、もうひとつ大きな楽しみがあります。それは世界中の人と仲良くなれることです。実際、私はタイに行くときの楽しみのひとつが、タイ人だけでなく、世界中から集まってきている人たちと交流がもてることです。(これはバックパッカーの経験がある人ならお分かりいただけるでしょう)
私個人の意見として、ボランティア以外のリタイア後の楽しみとして、語学の習得があります。若い頃は、英語以外の外国語を勉強するのは相当困難ですが(英語だけでもかなり大変!)、リタイア後なら時間にゆとりができるはずです。
語学の習得、海外でのボランティア、この2つは私自身がリタイア後に実践しようと考えていることでもあるのですが、私はこの2つを本格的にできることを考えると、今からリタイア後の人生が楽しみで仕方がありません。
私と同世代か、少し上の世代の人と話をしていると、「老いることへの恐怖」を持っている人が少なくありません。
しかし、リタイア後は、時間にゆとりがもてて、出費が減る分お金にも余裕ができますから、若い時代にできなかったことが楽しめるのです!
70歳まで連続勤務も悪くはないですが、残された人生を最大限に楽しむにはどうすればいいか・・・。その選択肢のなかに、海外でのボランティアと語学習得を入れてみるのはいかがでしょうか。
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また、今月(2007年8月)には、厚生労働省が、来年度から、従業員全員を70歳まで継続して雇用する企業を財政支援する方針を固めました。雇用保険を活用して、一社あたり40から200万円程度の助成金を支払うことになります。
これは、今後日本で労働人口が急激に減少することから起こる人手不足に対する解決策というのが一番の理由だと思われますが、すでに崩壊してしまっている年金問題への対応策として、厚生労働省は年金支給年齢の切り上げを検討しているのではないかと、私には思えます。
日頃医師として患者さんと接していると、65歳以上、あるいは70歳以上で仕事をしている人は、していない人に比べて"元気"な印象があります。"元気"だから仕事をしている、というのもあるでしょうが、私にはそれだけでないように見えます。つまり、「仕事をしているから生活にハリができて元気になっている」のではないかと思われるのです。
一方で、65歳まで(あるいは60歳まで)働き続けたんだから、高齢者には休ませてあげればいいじゃないか、という意見もあります。
海外ではどうでしょうか。
欧米諸国にある程度長期で滞在したことがある人たちがよく言うのは、高齢者のボランティアの多さです。
病院や施設で患者さんのケアをしたり話し相手になっている人、公園や街を掃除している人、地域の子供たちのためにクリスマスパーティを開いたり、伝統行事を教えたりしている人は、無償のボランティア、それも高齢者のボランティアが多いことがよくあります。
年をとってからの過ごし方が、日本人は仕事、西洋人はボランティア、と単純に区別できるわけではありませんが、なにかとワーカホリックと揶揄されることの多い日本人はやはり仕事が好きなのかもしれません。
私は日本人として仕事は楽しんでおこなうものだと思っていますし、仕事をしている高齢者を医師として支援したいと考えていますが、今一度「ボランティアの喜び」について日本人が思いをめぐらせてみてもいいのではないかと考えています。
仕事とボランティアの一番の違いは、「報酬がもらえるかどうか」です。高福祉国家のヨーロッパ諸国と比べれば、たしかに日本は年をとってからの生活が保障されていません。年金ですら今後受給されるかどうかが疑わしい状況です。
しかしながら、現在の日本では衣・食・住にこまるということはそれほどありませんし、高齢者になれば、例えば子供の教育費や交際費などに悩まされることは少なくなっているでしょうし、住宅ローンの返済が済んでいる人も多いでしょう。また、日本の高齢者の貯蓄率は世界一位だと言われています。
それならば、全員が、というわけにはいきませんが、ある程度お金に余裕のある人はボランティアを始めてみてはどうでしょうか。お金に余裕がある、と言い切れる人はそんなに多くないかもしれませんが、例えば、アルバイトというかたちで週に2~3日程度働けば充分にやっていけるという人は少なくないのではないかと思われます。
もちろん、私が提案するまでもなく、すでにボランティア活動をしている人は少なくありません。団塊世代(1947年から49年生まれ)の3人に1人はすでにボランティア活動をおこなっていることが、国立教育政策研究所がおこなったアンケート調査でわかりました。(報道は2007年8月14日の日本経済新聞)
この調査結果を詳しくみてみると、団塊世代でボランティアにかかわっている人は、全体では35.1%、男性33.6%、女性37.1%です。活動内容は、「町内会などの手伝い」が19.1%でトップ、「ゴミ拾いやリサイクル」「伝統芸能や祭りの指導」が続いています。
また、満足度については、「満足している」「やや満足している」を合わせると72.5%と高い数値を示しています。活動の意義については、「地域に役立つ」「ものの見方が広がる」「友人・知人ができる」などの意見が多いようです。
さて、再び西洋人に話を戻すと、タイのエイズ施設では多くの高齢の西洋人がボランティアをしています。それに対し、タイで会う日本人のボランティアの大半は若い人で、なかには「自分探し」のためにボランティアを試している、というような人もいます。それはそれで悪くはないと思いますが、若い人たちのボランティアはどうしても期間が短くなりがちで、この点が西洋人から批判されがちです。
先に、「ある程度お金に余裕があるなら、収入が得られる仕事は週に2~3回で・・・」という意見を述べましたが、「週に2~3回」ではなく、「半年間は週5日間働いて、残りの半年をボランティアに費やす」という選択肢があってもいいのではないかと思います。労働力があふれている社会では無理でしょうが、これからの日本のように「超高齢化」を迎える社会では、労働者側の売り手市場になりますから、そのような勤務形態も可能になるのではないかと私は考えています。
海外でのボランティアには、日本では体験できない楽しみがいくつもあります。まず、違う文化を知ることができますし、日本で得た知識や技術が現地の人から大変感謝されることもよくあります。それに、もうひとつ大きな楽しみがあります。それは世界中の人と仲良くなれることです。実際、私はタイに行くときの楽しみのひとつが、タイ人だけでなく、世界中から集まってきている人たちと交流がもてることです。(これはバックパッカーの経験がある人ならお分かりいただけるでしょう)
私個人の意見として、ボランティア以外のリタイア後の楽しみとして、語学の習得があります。若い頃は、英語以外の外国語を勉強するのは相当困難ですが(英語だけでもかなり大変!)、リタイア後なら時間にゆとりができるはずです。
語学の習得、海外でのボランティア、この2つは私自身がリタイア後に実践しようと考えていることでもあるのですが、私はこの2つを本格的にできることを考えると、今からリタイア後の人生が楽しみで仕方がありません。
私と同世代か、少し上の世代の人と話をしていると、「老いることへの恐怖」を持っている人が少なくありません。
しかし、リタイア後は、時間にゆとりがもてて、出費が減る分お金にも余裕ができますから、若い時代にできなかったことが楽しめるのです!
70歳まで連続勤務も悪くはないですが、残された人生を最大限に楽しむにはどうすればいいか・・・。その選択肢のなかに、海外でのボランティアと語学習得を入れてみるのはいかがでしょうか。
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第13回 恐怖のCM(2007年7月)
おそらく今から20年以上前、私が子供の頃、政府広報のCMで覚醒剤追放を目的としたものがありました。
現在30代以上の人なら覚えてられると思うのですが、私はあれほど恐ろしいCMをみたことがありません。
音楽も一切なく、覚醒剤にむしばまれた無言の若い母親の横で、子供が「ママー、ママー」と泣き叫びます。その子供を無視して母親が自身の左腕に覚醒剤を注射します。このCMには音楽が一切なく、低音の男性の無機質な「覚醒剤やめますか、それとも人間やめますか・・・」というナレーションが流れます。
おそらく特殊メイクだと思うのですが、その母親の表情はまさに"廃人"でした。当時、覚醒剤についてよく分かっていなかった私は、覚醒剤が怖いというよりも、その女性のとても人間とは思えない表情に大変な恐怖を感じました。
このCMをみて、覚醒剤がとんでもないものであり、何があっても手をださないと決めたのは私だけではないはずです。テレビのCMには大変な影響力があるのは誰もが認めることですが、少なくとも私にとって、この恐怖のCMが覚醒剤の"誘惑"を打ち消す以上の効果を与えているのは事実です。
いつのまにかそのCMを見なくなり、私は田舎を離れ都会の生活を始めました。
都会には様々な誘惑があります。田舎にいたときは、(違法)薬物と言えば、タバコ(当時私は未成年でした)とシンナーくらいしかありませんでしたが、都会に出てくれば、大麻や覚醒剤の誘惑が次から次へとやってきます。
今の時代も、覚醒剤で身を滅ぼしていくのは、裏社会に生きている人だけではなく、学生や主婦、サラリーマンなども大勢いると言われていますが、1980年代後半当時もそれは変わらなかったと思います。いえ、あの恐怖のCMで廃人となっていたのも子供をもつ母親だったことを考えると、大昔から日本では覚醒剤の犠牲になるのは裏社会の住人ではなく「一般人」だったと考えるべきでしょう。
あの恐怖のCMは私と同世代の人ならほとんど全員が見ているはずなのに、それでも私の知人で覚醒剤にハマっていく人たちがいました。
覚醒剤は初めから人間を廃人にするわけではなく、ある意味ではその人にとっての"メリット"があります。
例えば、シンナーがキマれば、動けなくなりある種の恍惚感が得られますが、覚醒剤の場合は、"恍惚感"が得られるわけではありません。
むしろ、シャキッとして集中力がでてきます。眠気も吹き飛びます。深夜の長距離ドライバーに覚醒剤ユーザーが多いのはこのためです。私の昔の知人に、試験の前夜に覚醒剤をキメるという人がいましたが、その効果は絶大だそうです。
ダイエット目的で覚醒剤を使用する人もいます。以前、ヒロポンが合法的に堂々と販売されていたとき(なんと、日本は覚醒剤が合法だったのです!)、その効果効能には「痩身」と記載されていたそうです。
セックスの際に用いる人もいます。覚醒剤がキマッた状態でセックスをおこなえば、三日三晩程度ならあっという間にすぎるそうです。金曜日の晩から覚醒剤を使ったセックスをおこない気付けば月曜の朝だった、などという話もよく聞きました。
集中力アップ、ダイエット、セックスの快楽増強、などと、その部分だけを聞けば、たしかにどれも魅力的かもしれません。少々高いお金を払っても、本当にこういった効果が得られるなら試してみたいと思う人もいるでしょう。
実際、私も過去に何度か覚醒剤の誘惑に駆られたことがあります。
けれども、私は決して手を出しませんでしたし、これからも一度たりとも使用するつもりはありません。
その理由のひとつは、「現在医師をしているから」、というものです。医師であれば、覚醒剤がどれだけ有害なものであるかは理解できますし、覚醒剤をきらした状態の患者さんも数多く見ていますし、覚醒剤のせいで仕事だけでなく全財産や家庭を失った人を見る機会もあります。それに、注射針を使いまわせばC型肝炎ウイルスやHIVに感染するリスクがあります。
しかしながら、私が覚醒剤をやらない本当の理由は別のところにあります。実際、「医師なら覚醒剤をやらない」は説得力がありません。なぜなら、毎年数回は「医師が覚醒剤取締法違反で逮捕」という新聞記事を目にしますし、長距離ドライバーと同様、深夜に集中力が要求される医療者のなかには覚醒剤が魅力的にみえる人もいるからです。
私がこれまで覚醒剤に手を染めたことがなく、また今後も手を出さないことを断言できる最大の理由は、子供の頃に心に深く植えつけられたあの恐怖のCMの存在です。
私が医学部に入学したのは27歳のときで、それまでは医学的な知識などほぼ皆無でした。それでも覚醒剤に手を出さなかったのは、心のどこかであの恐怖のCMが私にブレーキをかけてくれたからなのです。
もう一度、あのCMを全国放送すればどうでしょう。特に子供がテレビをみる時間帯にすべてのキー局で一斉に放送すれば絶大な効果があることを私は確信しています。あのCMを流すためならいくらでも税金を使ってもかまわないとさえ思います。
覚醒剤の誘惑があなたを襲ったとき、どうかあの言葉を思い出してみてください。
「覚醒剤やめますか・・・、それとも、人間やめますか・・・?」
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現在30代以上の人なら覚えてられると思うのですが、私はあれほど恐ろしいCMをみたことがありません。
音楽も一切なく、覚醒剤にむしばまれた無言の若い母親の横で、子供が「ママー、ママー」と泣き叫びます。その子供を無視して母親が自身の左腕に覚醒剤を注射します。このCMには音楽が一切なく、低音の男性の無機質な「覚醒剤やめますか、それとも人間やめますか・・・」というナレーションが流れます。
おそらく特殊メイクだと思うのですが、その母親の表情はまさに"廃人"でした。当時、覚醒剤についてよく分かっていなかった私は、覚醒剤が怖いというよりも、その女性のとても人間とは思えない表情に大変な恐怖を感じました。
このCMをみて、覚醒剤がとんでもないものであり、何があっても手をださないと決めたのは私だけではないはずです。テレビのCMには大変な影響力があるのは誰もが認めることですが、少なくとも私にとって、この恐怖のCMが覚醒剤の"誘惑"を打ち消す以上の効果を与えているのは事実です。
いつのまにかそのCMを見なくなり、私は田舎を離れ都会の生活を始めました。
都会には様々な誘惑があります。田舎にいたときは、(違法)薬物と言えば、タバコ(当時私は未成年でした)とシンナーくらいしかありませんでしたが、都会に出てくれば、大麻や覚醒剤の誘惑が次から次へとやってきます。
今の時代も、覚醒剤で身を滅ぼしていくのは、裏社会に生きている人だけではなく、学生や主婦、サラリーマンなども大勢いると言われていますが、1980年代後半当時もそれは変わらなかったと思います。いえ、あの恐怖のCMで廃人となっていたのも子供をもつ母親だったことを考えると、大昔から日本では覚醒剤の犠牲になるのは裏社会の住人ではなく「一般人」だったと考えるべきでしょう。
あの恐怖のCMは私と同世代の人ならほとんど全員が見ているはずなのに、それでも私の知人で覚醒剤にハマっていく人たちがいました。
覚醒剤は初めから人間を廃人にするわけではなく、ある意味ではその人にとっての"メリット"があります。
例えば、シンナーがキマれば、動けなくなりある種の恍惚感が得られますが、覚醒剤の場合は、"恍惚感"が得られるわけではありません。
むしろ、シャキッとして集中力がでてきます。眠気も吹き飛びます。深夜の長距離ドライバーに覚醒剤ユーザーが多いのはこのためです。私の昔の知人に、試験の前夜に覚醒剤をキメるという人がいましたが、その効果は絶大だそうです。
ダイエット目的で覚醒剤を使用する人もいます。以前、ヒロポンが合法的に堂々と販売されていたとき(なんと、日本は覚醒剤が合法だったのです!)、その効果効能には「痩身」と記載されていたそうです。
セックスの際に用いる人もいます。覚醒剤がキマッた状態でセックスをおこなえば、三日三晩程度ならあっという間にすぎるそうです。金曜日の晩から覚醒剤を使ったセックスをおこない気付けば月曜の朝だった、などという話もよく聞きました。
集中力アップ、ダイエット、セックスの快楽増強、などと、その部分だけを聞けば、たしかにどれも魅力的かもしれません。少々高いお金を払っても、本当にこういった効果が得られるなら試してみたいと思う人もいるでしょう。
実際、私も過去に何度か覚醒剤の誘惑に駆られたことがあります。
けれども、私は決して手を出しませんでしたし、これからも一度たりとも使用するつもりはありません。
その理由のひとつは、「現在医師をしているから」、というものです。医師であれば、覚醒剤がどれだけ有害なものであるかは理解できますし、覚醒剤をきらした状態の患者さんも数多く見ていますし、覚醒剤のせいで仕事だけでなく全財産や家庭を失った人を見る機会もあります。それに、注射針を使いまわせばC型肝炎ウイルスやHIVに感染するリスクがあります。
しかしながら、私が覚醒剤をやらない本当の理由は別のところにあります。実際、「医師なら覚醒剤をやらない」は説得力がありません。なぜなら、毎年数回は「医師が覚醒剤取締法違反で逮捕」という新聞記事を目にしますし、長距離ドライバーと同様、深夜に集中力が要求される医療者のなかには覚醒剤が魅力的にみえる人もいるからです。
私がこれまで覚醒剤に手を染めたことがなく、また今後も手を出さないことを断言できる最大の理由は、子供の頃に心に深く植えつけられたあの恐怖のCMの存在です。
私が医学部に入学したのは27歳のときで、それまでは医学的な知識などほぼ皆無でした。それでも覚醒剤に手を出さなかったのは、心のどこかであの恐怖のCMが私にブレーキをかけてくれたからなのです。
もう一度、あのCMを全国放送すればどうでしょう。特に子供がテレビをみる時間帯にすべてのキー局で一斉に放送すれば絶大な効果があることを私は確信しています。あのCMを流すためならいくらでも税金を使ってもかまわないとさえ思います。
覚醒剤の誘惑があなたを襲ったとき、どうかあの言葉を思い出してみてください。
「覚醒剤やめますか・・・、それとも、人間やめますか・・・?」
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第12回(2007年6月) レディボーイの苦悩
個人的にはあまり好きな街ではありませんが、バンコクから南東の方向にバスで2時間ほどの距離にパタヤというタイ最大の歓楽街があります。パタヤは、一応は海岸に面しておりビーチリゾートということになっていますが、海は決してきれいではなく、観光客の多くは景色ではなく娯楽を求めてやってきます。
拙書『今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ』でも述べましたが、パタヤにはありとあらゆる娯楽施設が用意されています。ゴーゴーバー、マッサージパーラー、オープンバー、ムエタイショー、ディスコ、カラオケ、置屋、・・・、と、しばらくこんなところで生活すれば社会復帰ができなくなってしまうのではないかという気にすらなります。
また、世界中からゲイが集まってくるリゾートとしても有名で、実際、パタヤのゲイ・ストリートに足を踏み入れれば、西洋人やタイ人だけでなく、日本人のゲイも大勢集まっていることに驚きます。
そんなパタヤで、今年で第10回となる毎年恒例の一大イベントが先月開かれました。
それは「ミス・ティファニー・ユニバース」という名のミスコンですが、通常のミスコンとは少し趣が異なります。このコンテストでは、最も美しいレディボーイが選ばれます。
「レディボーイ」という言い方は日本ではあまり馴染みがなく「ニューハーフ」とする方が分かりやすいかもしれません。英語では、lady-boyのほか、she-maleと呼ばれることもあります。医学的には、transvestiteと呼ばれることが多いようですが、この表現は差別的なニュアンスがあると言う人もいます。タイでは、カトゥーイと呼ばれます。(ただし、日本語にない母音が含まれるためこのまま発音しても通じません)
さて、今年で第10回となる記念すべきコンテストで見事栄冠を手にしたのは、カセサート大学に通う20歳の大学生タンヤラート・ジラパッパコーン(Thanyarat Jirapatpakorn)さんです。
ミス・ティファニー・ユニバースの映像はYouTubeなどで見ることができるため、ご覧になられた方も多いと思いますが、ステージに立つ彼女らの美しさに圧倒されてしまいます。
栄冠を手にしたタンヤラートさんをはじめ、これだけの美貌をもつ彼女たちは今後華やかな人生を歩むかのように見えますが、必ずしもそうなるわけではありません。
他国と同様、タイでも彼女たちに対する差別や偏見が存在するのです。
たしかに、タイのショービジネスにはレディボーイの存在が欠かせません。レディボーイのショーを売り物とした高級クラブは数多く存在し日本からの観光客もよく訪れます。(私は、何度かそういったクラブに行くことを試みたのですが、あまりにも値段が高いためにいつも断念してしまいます。安くても日本円にして5000円以上もするのです・・・)
また、タイの映画では、レディボーイが主役を演じたり、名脇役としてレディボーイが登場したりすることが少なくありません。
しかしながら、彼女たちが芸能社会で活躍できるのは、彼女らの"性"が興味深いからであり、その"性"がコマーシャリズムに利用されているからに他なりません。
バンコクのスリナカリンウィロット大学(Srinakharinwirot University)の臨床心理学者ヴァンロップ・ピヤマノタム(Vanlop Piyamanotham)氏は、彼女たちの"性"の歪んだ利用のされ方に危機感を抱いています。
「以前は男女のポルノグラフィーが盛んだったが、やがてそれらに飽きる人がでてきた。その結果、幼児とのセックス、高齢者とのセックス、障害者とのセックスなどを描いたポルノが氾濫するようになった。これはビデオ供給者が人々を新たな興奮に導こうと策略したものだ。今後レディボーイが利用されることになりかねないのではないか・・・」
ヴァンロップ氏はバンコクポストの取材に対しこのようにコメントしています。
レディボーイが普通の会社に就職しにくいことも彼女らを悩ませています。
2000年のミス・ティファニー・ユニバースでグランプリに輝いたソムさん(「ソム」はニックネームで、本名はChanya Moranoさん)は言います。
「何度も何度も仕事を求めて面接に行ったわ。だけど私はレディボーイであるという理由で決して採用されないの。何度失望したか分からないわ・・・」
ミス・ティファニー・ユニバースの主催者は、「彼女たちには可能性がある。我々は彼女らに仕事の機会を与えているのだ」と言いますが、グランプリを取ったソムさんでさえ(普通の会社には)就職ができないのです。
結局のところ、彼女たちはショービジネスで利用されているにすぎないのかもしれません・・・
世界最大のエイズホスピスであるパバナプ寺(Wat Phrabhatnamphu)には、常に何人かのレディボーイのHIV陽性者がいます。彼女たちはHIVに感染し、体力が低下していますが、ほぼ毎日のように、ホスピスを訪れる観光客に対してショーを演じて観光客を楽しませています。ショーを演じるのはわずか数十分ですが、化粧と衣装合わせに数時間を費やしています。
私がタイで初めて出会ったレディボーイはパバナプ寺のジョイ(仮名)と言います。ジョイは、どんなに疲れていても毎日綺麗に着飾って必ず観光客の前でステージに立っていました。悲観的な表情は一切見せず、私は彼女の底抜けの明るさに何度も励まされました。
去年も今年も、ミス・ティファニー・ユニバースの報道をみて、私の心に浮かんだのはジョイの美しい笑顔です。
彼女の明るさを前にすると想像することすらできませんでしたが、やはり彼女も実社会では差別を受けていたのでしょう・・・
参考:Bangkok Post 2007年5月17日 「Lady boys become a business」
************
注1 ここではレディボーイたちの三人称を「彼女」としていますが、これは正確でないかもしれません。戸籍上は「彼」ですし、レディボーイたちの性自認は必ずしも女性であるわけではありません。しかし、これ以上の議論は話が複雑になりますのでここでは「彼女」としておきます。
注2 今年の優勝者タンヤラートさんの写真はhttp://www.thaiphotoblogs.com/index.php?blog=5&p=463&more=1&c=1&tb=1&pb=1で見ることができます
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拙書『今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ』でも述べましたが、パタヤにはありとあらゆる娯楽施設が用意されています。ゴーゴーバー、マッサージパーラー、オープンバー、ムエタイショー、ディスコ、カラオケ、置屋、・・・、と、しばらくこんなところで生活すれば社会復帰ができなくなってしまうのではないかという気にすらなります。
また、世界中からゲイが集まってくるリゾートとしても有名で、実際、パタヤのゲイ・ストリートに足を踏み入れれば、西洋人やタイ人だけでなく、日本人のゲイも大勢集まっていることに驚きます。
そんなパタヤで、今年で第10回となる毎年恒例の一大イベントが先月開かれました。
それは「ミス・ティファニー・ユニバース」という名のミスコンですが、通常のミスコンとは少し趣が異なります。このコンテストでは、最も美しいレディボーイが選ばれます。
「レディボーイ」という言い方は日本ではあまり馴染みがなく「ニューハーフ」とする方が分かりやすいかもしれません。英語では、lady-boyのほか、she-maleと呼ばれることもあります。医学的には、transvestiteと呼ばれることが多いようですが、この表現は差別的なニュアンスがあると言う人もいます。タイでは、カトゥーイと呼ばれます。(ただし、日本語にない母音が含まれるためこのまま発音しても通じません)
さて、今年で第10回となる記念すべきコンテストで見事栄冠を手にしたのは、カセサート大学に通う20歳の大学生タンヤラート・ジラパッパコーン(Thanyarat Jirapatpakorn)さんです。
ミス・ティファニー・ユニバースの映像はYouTubeなどで見ることができるため、ご覧になられた方も多いと思いますが、ステージに立つ彼女らの美しさに圧倒されてしまいます。
栄冠を手にしたタンヤラートさんをはじめ、これだけの美貌をもつ彼女たちは今後華やかな人生を歩むかのように見えますが、必ずしもそうなるわけではありません。
他国と同様、タイでも彼女たちに対する差別や偏見が存在するのです。
たしかに、タイのショービジネスにはレディボーイの存在が欠かせません。レディボーイのショーを売り物とした高級クラブは数多く存在し日本からの観光客もよく訪れます。(私は、何度かそういったクラブに行くことを試みたのですが、あまりにも値段が高いためにいつも断念してしまいます。安くても日本円にして5000円以上もするのです・・・)
また、タイの映画では、レディボーイが主役を演じたり、名脇役としてレディボーイが登場したりすることが少なくありません。
しかしながら、彼女たちが芸能社会で活躍できるのは、彼女らの"性"が興味深いからであり、その"性"がコマーシャリズムに利用されているからに他なりません。
バンコクのスリナカリンウィロット大学(Srinakharinwirot University)の臨床心理学者ヴァンロップ・ピヤマノタム(Vanlop Piyamanotham)氏は、彼女たちの"性"の歪んだ利用のされ方に危機感を抱いています。
「以前は男女のポルノグラフィーが盛んだったが、やがてそれらに飽きる人がでてきた。その結果、幼児とのセックス、高齢者とのセックス、障害者とのセックスなどを描いたポルノが氾濫するようになった。これはビデオ供給者が人々を新たな興奮に導こうと策略したものだ。今後レディボーイが利用されることになりかねないのではないか・・・」
ヴァンロップ氏はバンコクポストの取材に対しこのようにコメントしています。
レディボーイが普通の会社に就職しにくいことも彼女らを悩ませています。
2000年のミス・ティファニー・ユニバースでグランプリに輝いたソムさん(「ソム」はニックネームで、本名はChanya Moranoさん)は言います。
「何度も何度も仕事を求めて面接に行ったわ。だけど私はレディボーイであるという理由で決して採用されないの。何度失望したか分からないわ・・・」
ミス・ティファニー・ユニバースの主催者は、「彼女たちには可能性がある。我々は彼女らに仕事の機会を与えているのだ」と言いますが、グランプリを取ったソムさんでさえ(普通の会社には)就職ができないのです。
結局のところ、彼女たちはショービジネスで利用されているにすぎないのかもしれません・・・
世界最大のエイズホスピスであるパバナプ寺(Wat Phrabhatnamphu)には、常に何人かのレディボーイのHIV陽性者がいます。彼女たちはHIVに感染し、体力が低下していますが、ほぼ毎日のように、ホスピスを訪れる観光客に対してショーを演じて観光客を楽しませています。ショーを演じるのはわずか数十分ですが、化粧と衣装合わせに数時間を費やしています。
私がタイで初めて出会ったレディボーイはパバナプ寺のジョイ(仮名)と言います。ジョイは、どんなに疲れていても毎日綺麗に着飾って必ず観光客の前でステージに立っていました。悲観的な表情は一切見せず、私は彼女の底抜けの明るさに何度も励まされました。
去年も今年も、ミス・ティファニー・ユニバースの報道をみて、私の心に浮かんだのはジョイの美しい笑顔です。
彼女の明るさを前にすると想像することすらできませんでしたが、やはり彼女も実社会では差別を受けていたのでしょう・・・
参考:Bangkok Post 2007年5月17日 「Lady boys become a business」
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注1 ここではレディボーイたちの三人称を「彼女」としていますが、これは正確でないかもしれません。戸籍上は「彼」ですし、レディボーイたちの性自認は必ずしも女性であるわけではありません。しかし、これ以上の議論は話が複雑になりますのでここでは「彼女」としておきます。
注2 今年の優勝者タンヤラートさんの写真はhttp://www.thaiphotoblogs.com/index.php?blog=5&p=463&more=1&c=1&tb=1&pb=1で見ることができます
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第11回 "Independent Sex Workers in Thailand"(2007年5月)
2007年5月16日、この日はGINA初の国際学会での発表となりました。(大きな学会での発表は昨年の日本エイズ学会に次いで2回目となります)
今回の国際学会は、International Society of Psychosomatic Obstetrics and Gynecology(ISPOG)という名前の国際学会で、日本語にすれば「国際女性心身医学会」となると思います。15回目となる今年の大会は京都で開かれました。
なぜ、女性心身医学会とGINAが関係あるかというと、今回のシンポジウムのなかに、Infection and female mental state(感染症と女性の精神状態)というものがあり、そのシンポジウムのなかで、GINAが昨年おこなった研究の「タイのフリーの売春婦について」の発表の場をいただいたというわけです。
「フリーの売春婦」というのは、店に所属せずに個人で客をとる売春婦のことですが、「free sex workers」とすれば、「無料の売春婦」となってしまいます。「フリーの売春婦」の英語は「Independent sex workers」です。
発表の時間は12分しかなかったために、GINAが主張したかったことの一部しか話せませんでしたが、発表の後、世界中の参加者から多くの質問や意見をいただくことになり、大勢の方々に興味深く聞いてもらえたのではないかと感じています。
なかでも、もっとも興味をもってもらえたと思われるのが、GINAの調査で明らかとなった、「顧客の数が少ないほど性感染症に罹患しやすい」という意外な結果です。そしてこの理由を、「タイのフリーの売春婦は外国人の顧客と親密な関係(intimate friend)になりやすく、危険な性行為(unprotected sex)に陥りやすい」とGINAでは考えています。
考えてみれば、売春婦が多い国は何もタイだけでなく、中国、韓国、ロシア、フィリピン、・・・、といくらでもあります。ヨーロッパではほとんどの国で個人売春は合法ですし、オランダの飾り窓については説明はいらないでしょう。日本でも性風俗に従事する女性は少なくありませんし、一応売春は非合法ですが個人売春をしている女性などいくらでもいます。
古今東西どこの地域にも売春に従事する女性は少なくないのに、タイでのみ、外国人が容易に売春婦と恋仲になり、その結果、性感染症に罹患するというのは非常に興味深いと言えるでしょう。
さて、私が発表をおこなったシンポジウムには、私の他にもタイの売春事情について発表をおこなった演者がいます。
ひとりは、タイ国ソンクラー県のタクシン大学(日本語で"タクシン"と書くと前首相のタクシンと同じになりますが、タイ語では発音が異なりタクシン大学とタクシン前首相はまったく関係がありません)のChutarat教授です。
Chutarat教授は、昨年私がタクシン大学まで訪ねた教授で、同教授はその頃ソンクラー県の置屋などで働く売春婦の調査とケアをおこなっていました。私がそのフィールドワークに参加させてもらったこともあり、Chutarat教授の発表の共同演者に私の名前も入れてもらっていました。
置屋などで働く売春婦のことを「Dependent sex worker」または「Direct sex worker」と言います。シンポジウムでは結果として、タイのdependent sex workerとindependent sex workerの双方の研究発表がおこなわれたこととなり、興味深いコラボレーションになったのではないかと思います。
もうひとり、タイの売春婦について話した演者がいます。彼女は神戸大学大学院のAlexander教授で、内容は世界中の(強制)移民についてです。国境を越え仕事を求めて移住をおこなう女性たちのなかには売春産業に従事する(させられる)ものが少なくなく、その例として、ラオスからタイに渡り売春をおこなう女性について話されていました。
結局、合計6人の演者のうち、私を含めた3人がタイの売春婦についての話をおこなったことになります。まとめ方はそれぞれ異なりますが、タイの売春婦についての問題提示をおこなったという点で、タイでの売買春の問題が浮き彫りにされたのではないかと思われます。
**************
私は今年の1月から大阪の東梅田でクリニックをオープンさせていますが、タイでHIVに感染したかもしれないといって受診する患者さんが大変多いことに驚いています。海外でHIVを含む性感染症に罹患した(かもしれない)と言ってクリニックを受診する人に、「どこの国ですか」と尋ねると、中国と並んでタイがトップです。
患者さんに尋ねると、中国とタイには異なった特徴があります。中国で性感染症に罹患した(かもしれない)人のほとんどは、仕事で中国に行き、仕事の一環で(?)売春婦と関係をもっています。なかには、中国でビジネスをおこなうためには買春は避けて通れない、と言う人までいます。
一方、タイで感染した(かもしれない)と言って受診する人は、仕事の関係で・・・、と答える人もなかにはいますが、大半はバカンスでタイに行ってタイの女性と関係をもっています。
しかも、そのタイの女性というのが、マッサージパーラーや置屋で働く女性ではなく、バーやコーヒーショップで知り合った女性であることが多いのです。興味深いことに、彼らの多くは買春をおこなったという意識がなく、「偶然知り合った」、「ナンパで知り合った」という表現を使います。
もちろん、実際にそうであることもあるでしょうし、なかには本当の恋人の関係や結婚にまでいたるケースもあります。しかしながら、GINAの調査でも明らかになったように、そのような店で外国人男性との出会いを求めている女性の多くは売春を目的としています。
最初は売春婦と顧客の関係であっても、幸せな関係を築いているカップルは珍しくありませんが、恋に盲目になる前にHIVを含む性感染症のリスクを考えるべきだというのはGINAが一貫して主張していることです。
今回の国際学会で主張した、「多くの顧客をとる売春婦よりも週に1人以下の顧客しかとらない売春婦の方が性感染症に罹患しやすい」、ということはもっと注目されてもいいのではないかと思います。
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今回の国際学会は、International Society of Psychosomatic Obstetrics and Gynecology(ISPOG)という名前の国際学会で、日本語にすれば「国際女性心身医学会」となると思います。15回目となる今年の大会は京都で開かれました。
なぜ、女性心身医学会とGINAが関係あるかというと、今回のシンポジウムのなかに、Infection and female mental state(感染症と女性の精神状態)というものがあり、そのシンポジウムのなかで、GINAが昨年おこなった研究の「タイのフリーの売春婦について」の発表の場をいただいたというわけです。
「フリーの売春婦」というのは、店に所属せずに個人で客をとる売春婦のことですが、「free sex workers」とすれば、「無料の売春婦」となってしまいます。「フリーの売春婦」の英語は「Independent sex workers」です。
発表の時間は12分しかなかったために、GINAが主張したかったことの一部しか話せませんでしたが、発表の後、世界中の参加者から多くの質問や意見をいただくことになり、大勢の方々に興味深く聞いてもらえたのではないかと感じています。
なかでも、もっとも興味をもってもらえたと思われるのが、GINAの調査で明らかとなった、「顧客の数が少ないほど性感染症に罹患しやすい」という意外な結果です。そしてこの理由を、「タイのフリーの売春婦は外国人の顧客と親密な関係(intimate friend)になりやすく、危険な性行為(unprotected sex)に陥りやすい」とGINAでは考えています。
考えてみれば、売春婦が多い国は何もタイだけでなく、中国、韓国、ロシア、フィリピン、・・・、といくらでもあります。ヨーロッパではほとんどの国で個人売春は合法ですし、オランダの飾り窓については説明はいらないでしょう。日本でも性風俗に従事する女性は少なくありませんし、一応売春は非合法ですが個人売春をしている女性などいくらでもいます。
古今東西どこの地域にも売春に従事する女性は少なくないのに、タイでのみ、外国人が容易に売春婦と恋仲になり、その結果、性感染症に罹患するというのは非常に興味深いと言えるでしょう。
さて、私が発表をおこなったシンポジウムには、私の他にもタイの売春事情について発表をおこなった演者がいます。
ひとりは、タイ国ソンクラー県のタクシン大学(日本語で"タクシン"と書くと前首相のタクシンと同じになりますが、タイ語では発音が異なりタクシン大学とタクシン前首相はまったく関係がありません)のChutarat教授です。
Chutarat教授は、昨年私がタクシン大学まで訪ねた教授で、同教授はその頃ソンクラー県の置屋などで働く売春婦の調査とケアをおこなっていました。私がそのフィールドワークに参加させてもらったこともあり、Chutarat教授の発表の共同演者に私の名前も入れてもらっていました。
置屋などで働く売春婦のことを「Dependent sex worker」または「Direct sex worker」と言います。シンポジウムでは結果として、タイのdependent sex workerとindependent sex workerの双方の研究発表がおこなわれたこととなり、興味深いコラボレーションになったのではないかと思います。
もうひとり、タイの売春婦について話した演者がいます。彼女は神戸大学大学院のAlexander教授で、内容は世界中の(強制)移民についてです。国境を越え仕事を求めて移住をおこなう女性たちのなかには売春産業に従事する(させられる)ものが少なくなく、その例として、ラオスからタイに渡り売春をおこなう女性について話されていました。
結局、合計6人の演者のうち、私を含めた3人がタイの売春婦についての話をおこなったことになります。まとめ方はそれぞれ異なりますが、タイの売春婦についての問題提示をおこなったという点で、タイでの売買春の問題が浮き彫りにされたのではないかと思われます。
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私は今年の1月から大阪の東梅田でクリニックをオープンさせていますが、タイでHIVに感染したかもしれないといって受診する患者さんが大変多いことに驚いています。海外でHIVを含む性感染症に罹患した(かもしれない)と言ってクリニックを受診する人に、「どこの国ですか」と尋ねると、中国と並んでタイがトップです。
患者さんに尋ねると、中国とタイには異なった特徴があります。中国で性感染症に罹患した(かもしれない)人のほとんどは、仕事で中国に行き、仕事の一環で(?)売春婦と関係をもっています。なかには、中国でビジネスをおこなうためには買春は避けて通れない、と言う人までいます。
一方、タイで感染した(かもしれない)と言って受診する人は、仕事の関係で・・・、と答える人もなかにはいますが、大半はバカンスでタイに行ってタイの女性と関係をもっています。
しかも、そのタイの女性というのが、マッサージパーラーや置屋で働く女性ではなく、バーやコーヒーショップで知り合った女性であることが多いのです。興味深いことに、彼らの多くは買春をおこなったという意識がなく、「偶然知り合った」、「ナンパで知り合った」という表現を使います。
もちろん、実際にそうであることもあるでしょうし、なかには本当の恋人の関係や結婚にまでいたるケースもあります。しかしながら、GINAの調査でも明らかになったように、そのような店で外国人男性との出会いを求めている女性の多くは売春を目的としています。
最初は売春婦と顧客の関係であっても、幸せな関係を築いているカップルは珍しくありませんが、恋に盲目になる前にHIVを含む性感染症のリスクを考えるべきだというのはGINAが一貫して主張していることです。
今回の国際学会で主張した、「多くの顧客をとる売春婦よりも週に1人以下の顧客しかとらない売春婦の方が性感染症に罹患しやすい」、ということはもっと注目されてもいいのではないかと思います。
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