GINAと共に
第17回 コンドームの限界(後編)(2007年11月)
最近タイでは、「夫婦間でもコンドームを!」ということがしきりに言われています。
たしかに、タイでは主婦層でのHIV感染が急増しており、主婦はタイではHIV感染の最たるハイリスクグループとなっています。
これは、主婦の浮気、あるいは生活するための売春という要素もあるにはありますが、圧倒的に多いのが、「自分の夫からの感染」です。
なぜ、自分の夫から感染するのかというと、それは夫が買春行為や違法薬物に耽溺するからです。私自身が懇意にしているタイのHIV陽性の女性のなかにも自分の夫からHIVに感染したという人が少なくありません。
では、やはり家庭内でもコンドームを用いなければならないのでしょうか。
純粋に予防医学的、あるいは公衆衛生学的に考えたときはその通りになるでしょう。主婦が夫から感染しているのであれば夫婦間でもコンドームを用いることでそのリスクが回避できる、というのは理にかなっています。
しかしながら、夫婦間の愛情やセックスをそのような観点からのみ論じることには限界があります。
主婦側からみたときに、「自分の夫も他で遊んでいるかもしれないからコンドームを使おう」、と素直に納得できるでしょうか。
タイでは"ギグ"と呼ばれる、いわばセックスフレンドのような関係をもつ男女が少なくないのは事実です。また"ミヤノイ"と呼ばれる、妾のような存在が、公然とではないにせよ、広く周知されているのも事実です。
けれども、だからといって、タイのすべての女性が自分の夫が"ギグ"や"ミヤノイ"を持つことに賛成しているわけではもちろんありません。
実際、自分の夫が浮気をしたことに逆上して、夫のペニスを切断したというニュースはよくタイの大衆紙に載っていますし、ペニス切断までいかなくても、恋人であるタイの女性を裏切って刺された日本人男性を私も知っています。
私の印象で言えば、"ギグ"や"ミヤノイ"という言葉が外国人にも広く知れ渡っている割には、タイの女性は純真無垢であるようにみえます。日本と比べると、結婚するまで貞操を守る女性は少なくありませんし、ひとりの男性に捧げる愛情の深さに感銘を受けることもよくあります。
そんなタイの女性たちが、「家庭内でもコンドーム」という政策に納得できるでしょうか。
コンドームの使用の前に自分の夫に忠誠を誓わせることの方がはるかに重要であることは明らかです。
ところで、「性感染予防のABC」というものが世界的に広まっています。Aはabstinence(禁欲)、Bはbe faithful(忠誠を誓う)、Cはcondom(コンドーム)です。
このなかでA(禁欲)が意味をなさないのは自明でしょう。歴史的には禁酒法の失敗(1920年頃、全米で禁酒法が制定されたが、結果はかえって酒の流通量が増えた)が有名ですが、最近でも、ブッシュ大統領の出身地であるテキサス州で、青少年に対する禁欲を奨励したところ、かえって若年層の性交頻度が増えた、という事例があります。
C(コンドーム)に効果があるのは事実ですが、前回から述べているように限界があるのもまた事実です。
私個人としては、B(忠誠を誓う)が、少なくとも夫婦間においてはもっとも理想的であると考えています。「理想的」ではあっても「現実的」ではないということは認めますが、そうであったとしても、繰り返し言い続けることが大切だと思うのです。
「忠誠」、あるいは「誠実」などといったことを話すのは私の役目ではないかもしれませんし、話したところで意味がないかもしれませんが、私は、どうしてもこういった根源的な原理原則の重要性を置き去りにしたまま、「家庭内にもコンドームを」というスローガンに素直に同意できないのです。
もちろん、その夫婦が納得して、夫婦間のセックスにコンドームを用いるのは悪いことではありませんし、場合によってはリスク回避のためにやむを得ない場合もあるでしょう。
最近ある患者さんに興味深い質問をされました。その患者さん(30代女性)は、結婚しているのですが、旦那が浮気や風俗遊びを繰り返していて、自分に性感染症の危険性があると考えています。それで、私に「どれくらいのペースで性感染症の検査を受けるべきか」、と質問するのです。
私はその言葉に驚き、「まずはご主人に女遊びをやめさせることが大切じゃないですか」と聞いたのですが、彼女は「それは無理だし、別にかまわないと思っている」、と答えました。
たしかに、ふたりの愛のかたちにはいろんなものがあるでしょうから、こういった夫婦関係に対し正論を押し付けるのはよくないでしょう。特に医師という立場からは、私自身の価値観を話したり、倫理観を話したりしたところであまり意味がありません。
こういったカップルには夫婦間でもコンドームの使用が大切になってくるでしょう。
しかしながら、他人の恋愛のかたちにとやかく言うべきではないにしても、「コンドームの使用よりもはるかに大切なのがふたりの間での忠誠心」、という意見を変えるつもりはありません。
現代の日本では、不倫やキケンな恋、あるいは障害を乗り越えての恋愛、などが小説や映画でもてはやされているようですが、もっと平凡でシンプルなかたちの恋愛のなかに存在する「忠誠」というものの意味を考えるべきではないでしょうか。
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たしかに、タイでは主婦層でのHIV感染が急増しており、主婦はタイではHIV感染の最たるハイリスクグループとなっています。
これは、主婦の浮気、あるいは生活するための売春という要素もあるにはありますが、圧倒的に多いのが、「自分の夫からの感染」です。
なぜ、自分の夫から感染するのかというと、それは夫が買春行為や違法薬物に耽溺するからです。私自身が懇意にしているタイのHIV陽性の女性のなかにも自分の夫からHIVに感染したという人が少なくありません。
では、やはり家庭内でもコンドームを用いなければならないのでしょうか。
純粋に予防医学的、あるいは公衆衛生学的に考えたときはその通りになるでしょう。主婦が夫から感染しているのであれば夫婦間でもコンドームを用いることでそのリスクが回避できる、というのは理にかなっています。
しかしながら、夫婦間の愛情やセックスをそのような観点からのみ論じることには限界があります。
主婦側からみたときに、「自分の夫も他で遊んでいるかもしれないからコンドームを使おう」、と素直に納得できるでしょうか。
タイでは"ギグ"と呼ばれる、いわばセックスフレンドのような関係をもつ男女が少なくないのは事実です。また"ミヤノイ"と呼ばれる、妾のような存在が、公然とではないにせよ、広く周知されているのも事実です。
けれども、だからといって、タイのすべての女性が自分の夫が"ギグ"や"ミヤノイ"を持つことに賛成しているわけではもちろんありません。
実際、自分の夫が浮気をしたことに逆上して、夫のペニスを切断したというニュースはよくタイの大衆紙に載っていますし、ペニス切断までいかなくても、恋人であるタイの女性を裏切って刺された日本人男性を私も知っています。
私の印象で言えば、"ギグ"や"ミヤノイ"という言葉が外国人にも広く知れ渡っている割には、タイの女性は純真無垢であるようにみえます。日本と比べると、結婚するまで貞操を守る女性は少なくありませんし、ひとりの男性に捧げる愛情の深さに感銘を受けることもよくあります。
そんなタイの女性たちが、「家庭内でもコンドーム」という政策に納得できるでしょうか。
コンドームの使用の前に自分の夫に忠誠を誓わせることの方がはるかに重要であることは明らかです。
ところで、「性感染予防のABC」というものが世界的に広まっています。Aはabstinence(禁欲)、Bはbe faithful(忠誠を誓う)、Cはcondom(コンドーム)です。
このなかでA(禁欲)が意味をなさないのは自明でしょう。歴史的には禁酒法の失敗(1920年頃、全米で禁酒法が制定されたが、結果はかえって酒の流通量が増えた)が有名ですが、最近でも、ブッシュ大統領の出身地であるテキサス州で、青少年に対する禁欲を奨励したところ、かえって若年層の性交頻度が増えた、という事例があります。
C(コンドーム)に効果があるのは事実ですが、前回から述べているように限界があるのもまた事実です。
私個人としては、B(忠誠を誓う)が、少なくとも夫婦間においてはもっとも理想的であると考えています。「理想的」ではあっても「現実的」ではないということは認めますが、そうであったとしても、繰り返し言い続けることが大切だと思うのです。
「忠誠」、あるいは「誠実」などといったことを話すのは私の役目ではないかもしれませんし、話したところで意味がないかもしれませんが、私は、どうしてもこういった根源的な原理原則の重要性を置き去りにしたまま、「家庭内にもコンドームを」というスローガンに素直に同意できないのです。
もちろん、その夫婦が納得して、夫婦間のセックスにコンドームを用いるのは悪いことではありませんし、場合によってはリスク回避のためにやむを得ない場合もあるでしょう。
最近ある患者さんに興味深い質問をされました。その患者さん(30代女性)は、結婚しているのですが、旦那が浮気や風俗遊びを繰り返していて、自分に性感染症の危険性があると考えています。それで、私に「どれくらいのペースで性感染症の検査を受けるべきか」、と質問するのです。
私はその言葉に驚き、「まずはご主人に女遊びをやめさせることが大切じゃないですか」と聞いたのですが、彼女は「それは無理だし、別にかまわないと思っている」、と答えました。
たしかに、ふたりの愛のかたちにはいろんなものがあるでしょうから、こういった夫婦関係に対し正論を押し付けるのはよくないでしょう。特に医師という立場からは、私自身の価値観を話したり、倫理観を話したりしたところであまり意味がありません。
こういったカップルには夫婦間でもコンドームの使用が大切になってくるでしょう。
しかしながら、他人の恋愛のかたちにとやかく言うべきではないにしても、「コンドームの使用よりもはるかに大切なのがふたりの間での忠誠心」、という意見を変えるつもりはありません。
現代の日本では、不倫やキケンな恋、あるいは障害を乗り越えての恋愛、などが小説や映画でもてはやされているようですが、もっと平凡でシンプルなかたちの恋愛のなかに存在する「忠誠」というものの意味を考えるべきではないでしょうか。
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第16回 コンドームの限界(前編)(2007年10月)
HIVや性感染症の予防にコンドームを使いましょう・・・
日本でも80年代後半にエイズが社会問題となり、実際にコンドームの使用者が増えているかどうかは別にして、この言葉が広く浸透してきているように思います。
タイでも90年代前半、ときの保健大臣ミーチャイ・ウィラワタイヤ(Mechai Veravaidya)氏が、コンドーム普及を強く訴え、「100%コンドームキャンペーン」なるものを展開し、主要都市の売春施設だけでなく、一部のレストランなどにも無料コンドームが配置されるようになりました。ミーチャイ氏は、小学校で「コンドーム膨らませ大会」といった奇抜なイベントもおこない、「ミスター・コンドーム」と呼ばれるようにまでなりました。
そして、タイでは「100%コンドームキャンペーン」が功を奏し、HIV新規感染の上昇率が急激に低下してきました。1992年には軍人の4%がHIV陽性だったのに対し、10年後には0.5%程度にまで落ち着きました。
では、コンドームがあればHIVや他の性感染症は完全に防ぐことができるのか・・・
残念ながら答えは否でしょう。今回はその理由を考えていきたいと思います。
まず、コンドームが性交時に破損するというリスクがあります。タイ製のコンドームの不良品率が10%を超えるというニュースを以前お伝えしましたが、コンドームメーカーによってはこのような危険性を考えなければなりません。
日本の製品は質がいいからそんなことは考えなくていいのでは・・・。
そのように思う人もいるでしょうが、海外で性交渉の機会がないとも言えませんし、私が院長をつとめるすてらめいとクリニックの患者さんのなかにも、「(日本製の)コンドームが破れた」と言って受診される方は珍しくありません。
次に、ラテックスにアレルギーのある人が少なくないという問題があります。以前別のところで述べましたが、ラテックスアレルギーはときに重篤な症状をきたします。アレルギー症状が重症化し、性交中に命を落としたという事例も世界にはあります。
この問題には、ウレタンなどのラテックス以外の材料でできているコンドームを用いることで対応できるのですが、ラテックス製のものに比べると、そのようなコンドームはまだまだ流通量が少なく、状況によっては入手しにくいことがあるかもしれません。
次に、コンドームを装着していても罹患する性感染症の問題があります。最も多いのが性器ヘルペスです。コンドームはペニスの根元までしか覆わないために、根元付近に出現している性器ヘルペスに対しては感染のリスクをゼロにすることはできません。また、女性の外陰部に出現している性器ヘルペスはペニスの根元に接触するために、男性から女性、女性から男性、(あるいは男性から男性、女性から女性)、のいずれの場合も感染する危険性があります。
性器ヘルペス以外には、尖圭コンジローマ、梅毒、ケジラミ、疥癬(かいせん)などもコンドームを装着していても感染することがあります。
また、オーラルセックス(フェラチオ、クンニリングス)でうつる感染症もあります。感染力の強いB型肝炎ウイルスや梅毒が代表ですが、HIVもオーラルセックスでうつることがあります。
タイのある病院が2006年におこなった報告では、HIV新規感染の10人に1人がオーラルセックスが原因でした。また、拙書『今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ』でも述べたように、日本でもフェラチオで男性からHIVをうつされた女性もいます。
B型肝炎ウイルスやHIVに比べると容易に治りますが、オーラルセックスでクラミジアや淋病に感染することはまったく珍しくなく、日本のセックスワーカー(風俗嬢)の多くは常にこの問題に悩まされています。
もっとも、オーラルセックス(フェラチオ)の際にもコンドームを用いれば、感染のリスクはかなり低下するのは事実です。しかし、日本人というのは国際的にみてかなりオーラルセックスが好きな民族のようです。
実際、タイのある医療関係者によれば、「セックスワーカーがコンドームなしでフェラチオをするのは日本くらいで、海外のセックスワーカーは原則としてフェラチオはしないか、してもコンドームを用いる」、そうです。
この関係者はさらに興味深いことを言います。彼女によりますと、「タイで日本人を相手にする一部のセックスワーカーはリスクを抱えてコンドームを用いないフェラチオをするが、それは日本人の金払いがいいからである」、そうです。
オーラルセックスにはもうひとつの問題があります。
それは、(当たり前ですが)クンニリングスにはコンドームが無用ということです。クンニリングスでもHIV感染がおこったという報告が海外にはありますし、やはりB型肝炎ウイルスや梅毒には容易に感染することもあります。女性の性器ヘルペスが男性の(あるいは女性の)口唇に感染した場合、通常の口唇ヘルペスに比べて治りにくく、再発も多いという特徴があります。
海外にはデンタルダムと呼ばれる、クンニリングスの際に使用する、いわば女性用のコンドームのようなものがありますが、おそらく需要がないことが理由で日本では流通していません。
以上をまとめると、コンドームには、破損するリスク、ラテックスアレルギーのリスク、コンドームをしていても一部の感染症に罹患するリスク、オーラルセックスに伴うリスク、があります。
これら以外にもコンドームの限界を考えなければならないことがらがあります。
後編ではそのあたりを述べて、さらにコンドームを越えたHIV及び性感染症の予防について考えてみたいと思います。
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日本でも80年代後半にエイズが社会問題となり、実際にコンドームの使用者が増えているかどうかは別にして、この言葉が広く浸透してきているように思います。
タイでも90年代前半、ときの保健大臣ミーチャイ・ウィラワタイヤ(Mechai Veravaidya)氏が、コンドーム普及を強く訴え、「100%コンドームキャンペーン」なるものを展開し、主要都市の売春施設だけでなく、一部のレストランなどにも無料コンドームが配置されるようになりました。ミーチャイ氏は、小学校で「コンドーム膨らませ大会」といった奇抜なイベントもおこない、「ミスター・コンドーム」と呼ばれるようにまでなりました。
そして、タイでは「100%コンドームキャンペーン」が功を奏し、HIV新規感染の上昇率が急激に低下してきました。1992年には軍人の4%がHIV陽性だったのに対し、10年後には0.5%程度にまで落ち着きました。
では、コンドームがあればHIVや他の性感染症は完全に防ぐことができるのか・・・
残念ながら答えは否でしょう。今回はその理由を考えていきたいと思います。
まず、コンドームが性交時に破損するというリスクがあります。タイ製のコンドームの不良品率が10%を超えるというニュースを以前お伝えしましたが、コンドームメーカーによってはこのような危険性を考えなければなりません。
日本の製品は質がいいからそんなことは考えなくていいのでは・・・。
そのように思う人もいるでしょうが、海外で性交渉の機会がないとも言えませんし、私が院長をつとめるすてらめいとクリニックの患者さんのなかにも、「(日本製の)コンドームが破れた」と言って受診される方は珍しくありません。
次に、ラテックスにアレルギーのある人が少なくないという問題があります。以前別のところで述べましたが、ラテックスアレルギーはときに重篤な症状をきたします。アレルギー症状が重症化し、性交中に命を落としたという事例も世界にはあります。
この問題には、ウレタンなどのラテックス以外の材料でできているコンドームを用いることで対応できるのですが、ラテックス製のものに比べると、そのようなコンドームはまだまだ流通量が少なく、状況によっては入手しにくいことがあるかもしれません。
次に、コンドームを装着していても罹患する性感染症の問題があります。最も多いのが性器ヘルペスです。コンドームはペニスの根元までしか覆わないために、根元付近に出現している性器ヘルペスに対しては感染のリスクをゼロにすることはできません。また、女性の外陰部に出現している性器ヘルペスはペニスの根元に接触するために、男性から女性、女性から男性、(あるいは男性から男性、女性から女性)、のいずれの場合も感染する危険性があります。
性器ヘルペス以外には、尖圭コンジローマ、梅毒、ケジラミ、疥癬(かいせん)などもコンドームを装着していても感染することがあります。
また、オーラルセックス(フェラチオ、クンニリングス)でうつる感染症もあります。感染力の強いB型肝炎ウイルスや梅毒が代表ですが、HIVもオーラルセックスでうつることがあります。
タイのある病院が2006年におこなった報告では、HIV新規感染の10人に1人がオーラルセックスが原因でした。また、拙書『今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ』でも述べたように、日本でもフェラチオで男性からHIVをうつされた女性もいます。
B型肝炎ウイルスやHIVに比べると容易に治りますが、オーラルセックスでクラミジアや淋病に感染することはまったく珍しくなく、日本のセックスワーカー(風俗嬢)の多くは常にこの問題に悩まされています。
もっとも、オーラルセックス(フェラチオ)の際にもコンドームを用いれば、感染のリスクはかなり低下するのは事実です。しかし、日本人というのは国際的にみてかなりオーラルセックスが好きな民族のようです。
実際、タイのある医療関係者によれば、「セックスワーカーがコンドームなしでフェラチオをするのは日本くらいで、海外のセックスワーカーは原則としてフェラチオはしないか、してもコンドームを用いる」、そうです。
この関係者はさらに興味深いことを言います。彼女によりますと、「タイで日本人を相手にする一部のセックスワーカーはリスクを抱えてコンドームを用いないフェラチオをするが、それは日本人の金払いがいいからである」、そうです。
オーラルセックスにはもうひとつの問題があります。
それは、(当たり前ですが)クンニリングスにはコンドームが無用ということです。クンニリングスでもHIV感染がおこったという報告が海外にはありますし、やはりB型肝炎ウイルスや梅毒には容易に感染することもあります。女性の性器ヘルペスが男性の(あるいは女性の)口唇に感染した場合、通常の口唇ヘルペスに比べて治りにくく、再発も多いという特徴があります。
海外にはデンタルダムと呼ばれる、クンニリングスの際に使用する、いわば女性用のコンドームのようなものがありますが、おそらく需要がないことが理由で日本では流通していません。
以上をまとめると、コンドームには、破損するリスク、ラテックスアレルギーのリスク、コンドームをしていても一部の感染症に罹患するリスク、オーラルセックスに伴うリスク、があります。
これら以外にもコンドームの限界を考えなければならないことがらがあります。
後編ではそのあたりを述べて、さらにコンドームを越えたHIV及び性感染症の予防について考えてみたいと思います。
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第15回 "HIV陰性=OK"という誤解(2007年9月)
私が院長をつとめる「すてらめいとクリニック」には、性感染症の検査目的の患者さんが毎日のように来られます。
検査を受ける動機は、「見知らぬ相手と性交渉をもってしまった」、「酔った勢いで風俗店に行ってしまった」、「海外でついハメをはずしてしまった」、「顧客に強引なセックスを強要された」といったものもあれば、「新しい彼(女)ができたから」、「結婚することになったので」というものもあります。
また、「特に危険な行為があるわけではないけれど、なんとなく気になって・・・」という人もいます。
少し前までは、「カップルで来られるのは西洋人だけで、日本人はひとりで受診する」という特徴がありましたが、最近は、カップルで検査を受けに来る日本人の患者さんも増えてきました。(もちろんこれは歓迎すべきことです!) また、最初はひとりで来て、その後に彼(女)を連れてくるというパターンも増えてきています。
HIV感染というのは性感染だけではありません。「海外でタトゥーを入れたことが心配・・・」、「昔遊び半分でシャブをやったことがあって・・・」、という理由でHIV感染を心配している人もいます。
HIVに対する世間の関心が高まって、検査を受けに来る人が増えることはもちろん歓迎されるべきことなのですが、患者さんのなかには大きな誤解をしている人がいます。
それは、「HIV陰性ならそれでOK」という誤解です。
これがなぜ誤解なのかを説明していきましょう。
まず、HIVは性感染でも血液感染でもそれほど感染力の強い感染症ではありません。例えば、医療者の針刺し事故を考えたとき、B型肝炎ウイルス(HBV)であれば感染の可能性は30%、C型肝炎ウイルス(HCV)なら3%程度です。それに対し、HIV感染の可能性はわずか0.3%です。(10分の1ずつ減っていくところが興味深いですね)
性感染の場合は、数字のデータは見たことがありませんが、B型肝炎ウイルスの感染力がHIVとは比較にならない程強いのは間違いありません。日々の臨床の現場でも、風俗店のオーラルセックス(フェラチオ)で風俗嬢からB型肝炎ウイルスをうつされたという男性や、逆に客からうつされたという女性は、まったく珍しくありません。ディープキスでB型肝炎ウイルスがうつったという報告もあります(ただし、学会で報告されるくらいですからディープキスでの感染の頻度は多くないと思われます)
次に、ウイルスを保有している人の数をみてみましょう。日本では、HIV陽性の人は累計で約1万3千人です。それに対し、B型肝炎では約120万人、HTLV-1で120万人から150万人、C型肝炎にいたっては200万人とも言われています。梅毒については、はっきりしたデータはありませんが、おそらく数十万人程度は病原体を保有しているでしょう。
海外でもこの傾向は同じです。例えば、タイではHIV陽性者が約58万人、中国では65万人とされていますが(中国の実数はこれよりはるかに多いとみられています)、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスはその何十倍も多いのは間違いありません。
つまるところ、HIVというのは血液感染でみても、性感染でみても、他の感染症と比較して、感染力が圧倒的に弱いことに加え、病原体を保有している人に出会う可能性も格段に低いわけです。
もちろん、そのようなHIVにも感染している人はいるわけですから、危険なことをしても大丈夫ということにはなりません。実際、HIVに感染した人たちと話をすると、ごく些細なことで感染している人が多いことに驚かされます。
しかし、全体からみれば、HIVというのはもっとも感染しにくい感染症とも言えるわけで、それならば、HIVだけを調べてその結果が陰性であればそれでOKというのは理屈の上でもおかしいわけです。
ただ、もしもB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HTLV-1などが、HIVに比べて治癒しやすいものであったとすれば、HIVに最も注目すべきということになります。
けれども、実際はそうではありません。HIVに対しては、効果の高い薬剤が次々と開発されたおかげで、現在はかなりの確率でエイズを発症しにくくなっています。しかも、最近では薬を飲むのは1日1回、朝だけとなっています。これなら、薬を職場に持っていく必要もありませんし、規則正しい生活をしていれば飲み忘れることもないでしょう。
一方、他の感染症をみてみると、例えば、B型肝炎ウイルスに感染して、ウイルスが体内に遷延し慢性化した場合、高価な薬をかなり長期に渡って服用しなければなりません。(B型肝炎ウイルスの薬は、HIVに対しても使われることのあるものです) それに、B型肝炎ウイルスに感染すれば、急性肝炎から劇症肝炎に移行することもあり、そうなればかなりの確率で命を奪われます。危険な性行為をした数ヵ月後に命を落としているかもしれないのがB型肝炎ウイルスなのです。(だからこそ、ワクチン接種が大切なのです!)
C型肝炎ウイルスは、B型肝炎ウイルスのように劇症化することはほとんどありませんが、その多くは慢性化し、やがて肝硬変や肝癌に移行していきます。ウイルスを死滅させる薬としてインターフェロンという注射薬があります。最近は、かなり効果の高いインターフェロンが使われるようになってきましたが、それでもおよそ6割の人にしか効きません。あとの4割は何もなす術がないのです。しかも、インターフェロンの注射は週に一度、約1年間打ち続けなければなりません。副作用の少ない注射ではありませんし、それを乗り越えたとしても4割の人は効果がなく、やがて肝硬変や肝癌を待つことになるのです。
HTLV-1はさらに絶望的で、いったん症状が出現すれば有効な治療法がほとんどありません。
もう一度まとめなおすと、HIVよりも、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HTLV-1などの感染症の方が、病原体を保有している人がはるかに多く、感染力も強く、感染すれば有効な手立てがないことも多いのです!
さらに、クラミジアや淋病といった尿道炎、咽頭炎、子宮けい管炎をきたす性感染症も早期発見すれば簡単に治りますが、放置しておくと危険な状態になりかねません。特に、女性が子宮けい管炎をおこした場合、進行して卵管炎がおきれば卵管がつまり不妊の原因となりますし、さらに進行しておなかのなかまでいけば緊急開腹手術になることもあります。
HIV感染が心配ならば、HIVだけでなく、他の感染症も確認しておく必要があるということがお分かりいただけたでしょうか。
参考:
太融寺町谷口医院ウェブサイト
「はやりの病気」第43回「B型肝炎にはワクチンを」
「はやりの病気」第47回「誤解だらけのHTLV-1感染症(前編)」
「はやりの病気」第48回「誤解だらけのHTLV-1感染症(後編)」
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検査を受ける動機は、「見知らぬ相手と性交渉をもってしまった」、「酔った勢いで風俗店に行ってしまった」、「海外でついハメをはずしてしまった」、「顧客に強引なセックスを強要された」といったものもあれば、「新しい彼(女)ができたから」、「結婚することになったので」というものもあります。
また、「特に危険な行為があるわけではないけれど、なんとなく気になって・・・」という人もいます。
少し前までは、「カップルで来られるのは西洋人だけで、日本人はひとりで受診する」という特徴がありましたが、最近は、カップルで検査を受けに来る日本人の患者さんも増えてきました。(もちろんこれは歓迎すべきことです!) また、最初はひとりで来て、その後に彼(女)を連れてくるというパターンも増えてきています。
HIV感染というのは性感染だけではありません。「海外でタトゥーを入れたことが心配・・・」、「昔遊び半分でシャブをやったことがあって・・・」、という理由でHIV感染を心配している人もいます。
HIVに対する世間の関心が高まって、検査を受けに来る人が増えることはもちろん歓迎されるべきことなのですが、患者さんのなかには大きな誤解をしている人がいます。
それは、「HIV陰性ならそれでOK」という誤解です。
これがなぜ誤解なのかを説明していきましょう。
まず、HIVは性感染でも血液感染でもそれほど感染力の強い感染症ではありません。例えば、医療者の針刺し事故を考えたとき、B型肝炎ウイルス(HBV)であれば感染の可能性は30%、C型肝炎ウイルス(HCV)なら3%程度です。それに対し、HIV感染の可能性はわずか0.3%です。(10分の1ずつ減っていくところが興味深いですね)
性感染の場合は、数字のデータは見たことがありませんが、B型肝炎ウイルスの感染力がHIVとは比較にならない程強いのは間違いありません。日々の臨床の現場でも、風俗店のオーラルセックス(フェラチオ)で風俗嬢からB型肝炎ウイルスをうつされたという男性や、逆に客からうつされたという女性は、まったく珍しくありません。ディープキスでB型肝炎ウイルスがうつったという報告もあります(ただし、学会で報告されるくらいですからディープキスでの感染の頻度は多くないと思われます)
次に、ウイルスを保有している人の数をみてみましょう。日本では、HIV陽性の人は累計で約1万3千人です。それに対し、B型肝炎では約120万人、HTLV-1で120万人から150万人、C型肝炎にいたっては200万人とも言われています。梅毒については、はっきりしたデータはありませんが、おそらく数十万人程度は病原体を保有しているでしょう。
海外でもこの傾向は同じです。例えば、タイではHIV陽性者が約58万人、中国では65万人とされていますが(中国の実数はこれよりはるかに多いとみられています)、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスはその何十倍も多いのは間違いありません。
つまるところ、HIVというのは血液感染でみても、性感染でみても、他の感染症と比較して、感染力が圧倒的に弱いことに加え、病原体を保有している人に出会う可能性も格段に低いわけです。
もちろん、そのようなHIVにも感染している人はいるわけですから、危険なことをしても大丈夫ということにはなりません。実際、HIVに感染した人たちと話をすると、ごく些細なことで感染している人が多いことに驚かされます。
しかし、全体からみれば、HIVというのはもっとも感染しにくい感染症とも言えるわけで、それならば、HIVだけを調べてその結果が陰性であればそれでOKというのは理屈の上でもおかしいわけです。
ただ、もしもB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HTLV-1などが、HIVに比べて治癒しやすいものであったとすれば、HIVに最も注目すべきということになります。
けれども、実際はそうではありません。HIVに対しては、効果の高い薬剤が次々と開発されたおかげで、現在はかなりの確率でエイズを発症しにくくなっています。しかも、最近では薬を飲むのは1日1回、朝だけとなっています。これなら、薬を職場に持っていく必要もありませんし、規則正しい生活をしていれば飲み忘れることもないでしょう。
一方、他の感染症をみてみると、例えば、B型肝炎ウイルスに感染して、ウイルスが体内に遷延し慢性化した場合、高価な薬をかなり長期に渡って服用しなければなりません。(B型肝炎ウイルスの薬は、HIVに対しても使われることのあるものです) それに、B型肝炎ウイルスに感染すれば、急性肝炎から劇症肝炎に移行することもあり、そうなればかなりの確率で命を奪われます。危険な性行為をした数ヵ月後に命を落としているかもしれないのがB型肝炎ウイルスなのです。(だからこそ、ワクチン接種が大切なのです!)
C型肝炎ウイルスは、B型肝炎ウイルスのように劇症化することはほとんどありませんが、その多くは慢性化し、やがて肝硬変や肝癌に移行していきます。ウイルスを死滅させる薬としてインターフェロンという注射薬があります。最近は、かなり効果の高いインターフェロンが使われるようになってきましたが、それでもおよそ6割の人にしか効きません。あとの4割は何もなす術がないのです。しかも、インターフェロンの注射は週に一度、約1年間打ち続けなければなりません。副作用の少ない注射ではありませんし、それを乗り越えたとしても4割の人は効果がなく、やがて肝硬変や肝癌を待つことになるのです。
HTLV-1はさらに絶望的で、いったん症状が出現すれば有効な治療法がほとんどありません。
もう一度まとめなおすと、HIVよりも、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HTLV-1などの感染症の方が、病原体を保有している人がはるかに多く、感染力も強く、感染すれば有効な手立てがないことも多いのです!
さらに、クラミジアや淋病といった尿道炎、咽頭炎、子宮けい管炎をきたす性感染症も早期発見すれば簡単に治りますが、放置しておくと危険な状態になりかねません。特に、女性が子宮けい管炎をおこした場合、進行して卵管炎がおきれば卵管がつまり不妊の原因となりますし、さらに進行しておなかのなかまでいけば緊急開腹手術になることもあります。
HIV感染が心配ならば、HIVだけでなく、他の感染症も確認しておく必要があるということがお分かりいただけたでしょうか。
参考:
太融寺町谷口医院ウェブサイト
「はやりの病気」第43回「B型肝炎にはワクチンを」
「はやりの病気」第47回「誤解だらけのHTLV-1感染症(前編)」
「はやりの病気」第48回「誤解だらけのHTLV-1感染症(後編)」
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第14回 リタイア後の楽しみ(2007年8月)
2006年4月に改定された高年齢者雇用安定法では、定年を65歳未満に設定している企業に対して、定年 を引き上げる、退職後に雇用契約を結びなおして再雇用する「継続雇用制度」を導入する、定年制を廃止する、のいずれかが義務付けられるようになりました。
また、今月(2007年8月)には、厚生労働省が、来年度から、従業員全員を70歳まで継続して雇用する企業を財政支援する方針を固めました。雇用保険を活用して、一社あたり40から200万円程度の助成金を支払うことになります。
これは、今後日本で労働人口が急激に減少することから起こる人手不足に対する解決策というのが一番の理由だと思われますが、すでに崩壊してしまっている年金問題への対応策として、厚生労働省は年金支給年齢の切り上げを検討しているのではないかと、私には思えます。
日頃医師として患者さんと接していると、65歳以上、あるいは70歳以上で仕事をしている人は、していない人に比べて"元気"な印象があります。"元気"だから仕事をしている、というのもあるでしょうが、私にはそれだけでないように見えます。つまり、「仕事をしているから生活にハリができて元気になっている」のではないかと思われるのです。
一方で、65歳まで(あるいは60歳まで)働き続けたんだから、高齢者には休ませてあげればいいじゃないか、という意見もあります。
海外ではどうでしょうか。
欧米諸国にある程度長期で滞在したことがある人たちがよく言うのは、高齢者のボランティアの多さです。
病院や施設で患者さんのケアをしたり話し相手になっている人、公園や街を掃除している人、地域の子供たちのためにクリスマスパーティを開いたり、伝統行事を教えたりしている人は、無償のボランティア、それも高齢者のボランティアが多いことがよくあります。
年をとってからの過ごし方が、日本人は仕事、西洋人はボランティア、と単純に区別できるわけではありませんが、なにかとワーカホリックと揶揄されることの多い日本人はやはり仕事が好きなのかもしれません。
私は日本人として仕事は楽しんでおこなうものだと思っていますし、仕事をしている高齢者を医師として支援したいと考えていますが、今一度「ボランティアの喜び」について日本人が思いをめぐらせてみてもいいのではないかと考えています。
仕事とボランティアの一番の違いは、「報酬がもらえるかどうか」です。高福祉国家のヨーロッパ諸国と比べれば、たしかに日本は年をとってからの生活が保障されていません。年金ですら今後受給されるかどうかが疑わしい状況です。
しかしながら、現在の日本では衣・食・住にこまるということはそれほどありませんし、高齢者になれば、例えば子供の教育費や交際費などに悩まされることは少なくなっているでしょうし、住宅ローンの返済が済んでいる人も多いでしょう。また、日本の高齢者の貯蓄率は世界一位だと言われています。
それならば、全員が、というわけにはいきませんが、ある程度お金に余裕のある人はボランティアを始めてみてはどうでしょうか。お金に余裕がある、と言い切れる人はそんなに多くないかもしれませんが、例えば、アルバイトというかたちで週に2~3日程度働けば充分にやっていけるという人は少なくないのではないかと思われます。
もちろん、私が提案するまでもなく、すでにボランティア活動をしている人は少なくありません。団塊世代(1947年から49年生まれ)の3人に1人はすでにボランティア活動をおこなっていることが、国立教育政策研究所がおこなったアンケート調査でわかりました。(報道は2007年8月14日の日本経済新聞)
この調査結果を詳しくみてみると、団塊世代でボランティアにかかわっている人は、全体では35.1%、男性33.6%、女性37.1%です。活動内容は、「町内会などの手伝い」が19.1%でトップ、「ゴミ拾いやリサイクル」「伝統芸能や祭りの指導」が続いています。
また、満足度については、「満足している」「やや満足している」を合わせると72.5%と高い数値を示しています。活動の意義については、「地域に役立つ」「ものの見方が広がる」「友人・知人ができる」などの意見が多いようです。
さて、再び西洋人に話を戻すと、タイのエイズ施設では多くの高齢の西洋人がボランティアをしています。それに対し、タイで会う日本人のボランティアの大半は若い人で、なかには「自分探し」のためにボランティアを試している、というような人もいます。それはそれで悪くはないと思いますが、若い人たちのボランティアはどうしても期間が短くなりがちで、この点が西洋人から批判されがちです。
先に、「ある程度お金に余裕があるなら、収入が得られる仕事は週に2~3回で・・・」という意見を述べましたが、「週に2~3回」ではなく、「半年間は週5日間働いて、残りの半年をボランティアに費やす」という選択肢があってもいいのではないかと思います。労働力があふれている社会では無理でしょうが、これからの日本のように「超高齢化」を迎える社会では、労働者側の売り手市場になりますから、そのような勤務形態も可能になるのではないかと私は考えています。
海外でのボランティアには、日本では体験できない楽しみがいくつもあります。まず、違う文化を知ることができますし、日本で得た知識や技術が現地の人から大変感謝されることもよくあります。それに、もうひとつ大きな楽しみがあります。それは世界中の人と仲良くなれることです。実際、私はタイに行くときの楽しみのひとつが、タイ人だけでなく、世界中から集まってきている人たちと交流がもてることです。(これはバックパッカーの経験がある人ならお分かりいただけるでしょう)
私個人の意見として、ボランティア以外のリタイア後の楽しみとして、語学の習得があります。若い頃は、英語以外の外国語を勉強するのは相当困難ですが(英語だけでもかなり大変!)、リタイア後なら時間にゆとりができるはずです。
語学の習得、海外でのボランティア、この2つは私自身がリタイア後に実践しようと考えていることでもあるのですが、私はこの2つを本格的にできることを考えると、今からリタイア後の人生が楽しみで仕方がありません。
私と同世代か、少し上の世代の人と話をしていると、「老いることへの恐怖」を持っている人が少なくありません。
しかし、リタイア後は、時間にゆとりがもてて、出費が減る分お金にも余裕ができますから、若い時代にできなかったことが楽しめるのです!
70歳まで連続勤務も悪くはないですが、残された人生を最大限に楽しむにはどうすればいいか・・・。その選択肢のなかに、海外でのボランティアと語学習得を入れてみるのはいかがでしょうか。
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また、今月(2007年8月)には、厚生労働省が、来年度から、従業員全員を70歳まで継続して雇用する企業を財政支援する方針を固めました。雇用保険を活用して、一社あたり40から200万円程度の助成金を支払うことになります。
これは、今後日本で労働人口が急激に減少することから起こる人手不足に対する解決策というのが一番の理由だと思われますが、すでに崩壊してしまっている年金問題への対応策として、厚生労働省は年金支給年齢の切り上げを検討しているのではないかと、私には思えます。
日頃医師として患者さんと接していると、65歳以上、あるいは70歳以上で仕事をしている人は、していない人に比べて"元気"な印象があります。"元気"だから仕事をしている、というのもあるでしょうが、私にはそれだけでないように見えます。つまり、「仕事をしているから生活にハリができて元気になっている」のではないかと思われるのです。
一方で、65歳まで(あるいは60歳まで)働き続けたんだから、高齢者には休ませてあげればいいじゃないか、という意見もあります。
海外ではどうでしょうか。
欧米諸国にある程度長期で滞在したことがある人たちがよく言うのは、高齢者のボランティアの多さです。
病院や施設で患者さんのケアをしたり話し相手になっている人、公園や街を掃除している人、地域の子供たちのためにクリスマスパーティを開いたり、伝統行事を教えたりしている人は、無償のボランティア、それも高齢者のボランティアが多いことがよくあります。
年をとってからの過ごし方が、日本人は仕事、西洋人はボランティア、と単純に区別できるわけではありませんが、なにかとワーカホリックと揶揄されることの多い日本人はやはり仕事が好きなのかもしれません。
私は日本人として仕事は楽しんでおこなうものだと思っていますし、仕事をしている高齢者を医師として支援したいと考えていますが、今一度「ボランティアの喜び」について日本人が思いをめぐらせてみてもいいのではないかと考えています。
仕事とボランティアの一番の違いは、「報酬がもらえるかどうか」です。高福祉国家のヨーロッパ諸国と比べれば、たしかに日本は年をとってからの生活が保障されていません。年金ですら今後受給されるかどうかが疑わしい状況です。
しかしながら、現在の日本では衣・食・住にこまるということはそれほどありませんし、高齢者になれば、例えば子供の教育費や交際費などに悩まされることは少なくなっているでしょうし、住宅ローンの返済が済んでいる人も多いでしょう。また、日本の高齢者の貯蓄率は世界一位だと言われています。
それならば、全員が、というわけにはいきませんが、ある程度お金に余裕のある人はボランティアを始めてみてはどうでしょうか。お金に余裕がある、と言い切れる人はそんなに多くないかもしれませんが、例えば、アルバイトというかたちで週に2~3日程度働けば充分にやっていけるという人は少なくないのではないかと思われます。
もちろん、私が提案するまでもなく、すでにボランティア活動をしている人は少なくありません。団塊世代(1947年から49年生まれ)の3人に1人はすでにボランティア活動をおこなっていることが、国立教育政策研究所がおこなったアンケート調査でわかりました。(報道は2007年8月14日の日本経済新聞)
この調査結果を詳しくみてみると、団塊世代でボランティアにかかわっている人は、全体では35.1%、男性33.6%、女性37.1%です。活動内容は、「町内会などの手伝い」が19.1%でトップ、「ゴミ拾いやリサイクル」「伝統芸能や祭りの指導」が続いています。
また、満足度については、「満足している」「やや満足している」を合わせると72.5%と高い数値を示しています。活動の意義については、「地域に役立つ」「ものの見方が広がる」「友人・知人ができる」などの意見が多いようです。
さて、再び西洋人に話を戻すと、タイのエイズ施設では多くの高齢の西洋人がボランティアをしています。それに対し、タイで会う日本人のボランティアの大半は若い人で、なかには「自分探し」のためにボランティアを試している、というような人もいます。それはそれで悪くはないと思いますが、若い人たちのボランティアはどうしても期間が短くなりがちで、この点が西洋人から批判されがちです。
先に、「ある程度お金に余裕があるなら、収入が得られる仕事は週に2~3回で・・・」という意見を述べましたが、「週に2~3回」ではなく、「半年間は週5日間働いて、残りの半年をボランティアに費やす」という選択肢があってもいいのではないかと思います。労働力があふれている社会では無理でしょうが、これからの日本のように「超高齢化」を迎える社会では、労働者側の売り手市場になりますから、そのような勤務形態も可能になるのではないかと私は考えています。
海外でのボランティアには、日本では体験できない楽しみがいくつもあります。まず、違う文化を知ることができますし、日本で得た知識や技術が現地の人から大変感謝されることもよくあります。それに、もうひとつ大きな楽しみがあります。それは世界中の人と仲良くなれることです。実際、私はタイに行くときの楽しみのひとつが、タイ人だけでなく、世界中から集まってきている人たちと交流がもてることです。(これはバックパッカーの経験がある人ならお分かりいただけるでしょう)
私個人の意見として、ボランティア以外のリタイア後の楽しみとして、語学の習得があります。若い頃は、英語以外の外国語を勉強するのは相当困難ですが(英語だけでもかなり大変!)、リタイア後なら時間にゆとりができるはずです。
語学の習得、海外でのボランティア、この2つは私自身がリタイア後に実践しようと考えていることでもあるのですが、私はこの2つを本格的にできることを考えると、今からリタイア後の人生が楽しみで仕方がありません。
私と同世代か、少し上の世代の人と話をしていると、「老いることへの恐怖」を持っている人が少なくありません。
しかし、リタイア後は、時間にゆとりがもてて、出費が減る分お金にも余裕ができますから、若い時代にできなかったことが楽しめるのです!
70歳まで連続勤務も悪くはないですが、残された人生を最大限に楽しむにはどうすればいいか・・・。その選択肢のなかに、海外でのボランティアと語学習得を入れてみるのはいかがでしょうか。
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第13回 恐怖のCM(2007年7月)
おそらく今から20年以上前、私が子供の頃、政府広報のCMで覚醒剤追放を目的としたものがありました。
現在30代以上の人なら覚えてられると思うのですが、私はあれほど恐ろしいCMをみたことがありません。
音楽も一切なく、覚醒剤にむしばまれた無言の若い母親の横で、子供が「ママー、ママー」と泣き叫びます。その子供を無視して母親が自身の左腕に覚醒剤を注射します。このCMには音楽が一切なく、低音の男性の無機質な「覚醒剤やめますか、それとも人間やめますか・・・」というナレーションが流れます。
おそらく特殊メイクだと思うのですが、その母親の表情はまさに"廃人"でした。当時、覚醒剤についてよく分かっていなかった私は、覚醒剤が怖いというよりも、その女性のとても人間とは思えない表情に大変な恐怖を感じました。
このCMをみて、覚醒剤がとんでもないものであり、何があっても手をださないと決めたのは私だけではないはずです。テレビのCMには大変な影響力があるのは誰もが認めることですが、少なくとも私にとって、この恐怖のCMが覚醒剤の"誘惑"を打ち消す以上の効果を与えているのは事実です。
いつのまにかそのCMを見なくなり、私は田舎を離れ都会の生活を始めました。
都会には様々な誘惑があります。田舎にいたときは、(違法)薬物と言えば、タバコ(当時私は未成年でした)とシンナーくらいしかありませんでしたが、都会に出てくれば、大麻や覚醒剤の誘惑が次から次へとやってきます。
今の時代も、覚醒剤で身を滅ぼしていくのは、裏社会に生きている人だけではなく、学生や主婦、サラリーマンなども大勢いると言われていますが、1980年代後半当時もそれは変わらなかったと思います。いえ、あの恐怖のCMで廃人となっていたのも子供をもつ母親だったことを考えると、大昔から日本では覚醒剤の犠牲になるのは裏社会の住人ではなく「一般人」だったと考えるべきでしょう。
あの恐怖のCMは私と同世代の人ならほとんど全員が見ているはずなのに、それでも私の知人で覚醒剤にハマっていく人たちがいました。
覚醒剤は初めから人間を廃人にするわけではなく、ある意味ではその人にとっての"メリット"があります。
例えば、シンナーがキマれば、動けなくなりある種の恍惚感が得られますが、覚醒剤の場合は、"恍惚感"が得られるわけではありません。
むしろ、シャキッとして集中力がでてきます。眠気も吹き飛びます。深夜の長距離ドライバーに覚醒剤ユーザーが多いのはこのためです。私の昔の知人に、試験の前夜に覚醒剤をキメるという人がいましたが、その効果は絶大だそうです。
ダイエット目的で覚醒剤を使用する人もいます。以前、ヒロポンが合法的に堂々と販売されていたとき(なんと、日本は覚醒剤が合法だったのです!)、その効果効能には「痩身」と記載されていたそうです。
セックスの際に用いる人もいます。覚醒剤がキマッた状態でセックスをおこなえば、三日三晩程度ならあっという間にすぎるそうです。金曜日の晩から覚醒剤を使ったセックスをおこない気付けば月曜の朝だった、などという話もよく聞きました。
集中力アップ、ダイエット、セックスの快楽増強、などと、その部分だけを聞けば、たしかにどれも魅力的かもしれません。少々高いお金を払っても、本当にこういった効果が得られるなら試してみたいと思う人もいるでしょう。
実際、私も過去に何度か覚醒剤の誘惑に駆られたことがあります。
けれども、私は決して手を出しませんでしたし、これからも一度たりとも使用するつもりはありません。
その理由のひとつは、「現在医師をしているから」、というものです。医師であれば、覚醒剤がどれだけ有害なものであるかは理解できますし、覚醒剤をきらした状態の患者さんも数多く見ていますし、覚醒剤のせいで仕事だけでなく全財産や家庭を失った人を見る機会もあります。それに、注射針を使いまわせばC型肝炎ウイルスやHIVに感染するリスクがあります。
しかしながら、私が覚醒剤をやらない本当の理由は別のところにあります。実際、「医師なら覚醒剤をやらない」は説得力がありません。なぜなら、毎年数回は「医師が覚醒剤取締法違反で逮捕」という新聞記事を目にしますし、長距離ドライバーと同様、深夜に集中力が要求される医療者のなかには覚醒剤が魅力的にみえる人もいるからです。
私がこれまで覚醒剤に手を染めたことがなく、また今後も手を出さないことを断言できる最大の理由は、子供の頃に心に深く植えつけられたあの恐怖のCMの存在です。
私が医学部に入学したのは27歳のときで、それまでは医学的な知識などほぼ皆無でした。それでも覚醒剤に手を出さなかったのは、心のどこかであの恐怖のCMが私にブレーキをかけてくれたからなのです。
もう一度、あのCMを全国放送すればどうでしょう。特に子供がテレビをみる時間帯にすべてのキー局で一斉に放送すれば絶大な効果があることを私は確信しています。あのCMを流すためならいくらでも税金を使ってもかまわないとさえ思います。
覚醒剤の誘惑があなたを襲ったとき、どうかあの言葉を思い出してみてください。
「覚醒剤やめますか・・・、それとも、人間やめますか・・・?」
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現在30代以上の人なら覚えてられると思うのですが、私はあれほど恐ろしいCMをみたことがありません。
音楽も一切なく、覚醒剤にむしばまれた無言の若い母親の横で、子供が「ママー、ママー」と泣き叫びます。その子供を無視して母親が自身の左腕に覚醒剤を注射します。このCMには音楽が一切なく、低音の男性の無機質な「覚醒剤やめますか、それとも人間やめますか・・・」というナレーションが流れます。
おそらく特殊メイクだと思うのですが、その母親の表情はまさに"廃人"でした。当時、覚醒剤についてよく分かっていなかった私は、覚醒剤が怖いというよりも、その女性のとても人間とは思えない表情に大変な恐怖を感じました。
このCMをみて、覚醒剤がとんでもないものであり、何があっても手をださないと決めたのは私だけではないはずです。テレビのCMには大変な影響力があるのは誰もが認めることですが、少なくとも私にとって、この恐怖のCMが覚醒剤の"誘惑"を打ち消す以上の効果を与えているのは事実です。
いつのまにかそのCMを見なくなり、私は田舎を離れ都会の生活を始めました。
都会には様々な誘惑があります。田舎にいたときは、(違法)薬物と言えば、タバコ(当時私は未成年でした)とシンナーくらいしかありませんでしたが、都会に出てくれば、大麻や覚醒剤の誘惑が次から次へとやってきます。
今の時代も、覚醒剤で身を滅ぼしていくのは、裏社会に生きている人だけではなく、学生や主婦、サラリーマンなども大勢いると言われていますが、1980年代後半当時もそれは変わらなかったと思います。いえ、あの恐怖のCMで廃人となっていたのも子供をもつ母親だったことを考えると、大昔から日本では覚醒剤の犠牲になるのは裏社会の住人ではなく「一般人」だったと考えるべきでしょう。
あの恐怖のCMは私と同世代の人ならほとんど全員が見ているはずなのに、それでも私の知人で覚醒剤にハマっていく人たちがいました。
覚醒剤は初めから人間を廃人にするわけではなく、ある意味ではその人にとっての"メリット"があります。
例えば、シンナーがキマれば、動けなくなりある種の恍惚感が得られますが、覚醒剤の場合は、"恍惚感"が得られるわけではありません。
むしろ、シャキッとして集中力がでてきます。眠気も吹き飛びます。深夜の長距離ドライバーに覚醒剤ユーザーが多いのはこのためです。私の昔の知人に、試験の前夜に覚醒剤をキメるという人がいましたが、その効果は絶大だそうです。
ダイエット目的で覚醒剤を使用する人もいます。以前、ヒロポンが合法的に堂々と販売されていたとき(なんと、日本は覚醒剤が合法だったのです!)、その効果効能には「痩身」と記載されていたそうです。
セックスの際に用いる人もいます。覚醒剤がキマッた状態でセックスをおこなえば、三日三晩程度ならあっという間にすぎるそうです。金曜日の晩から覚醒剤を使ったセックスをおこない気付けば月曜の朝だった、などという話もよく聞きました。
集中力アップ、ダイエット、セックスの快楽増強、などと、その部分だけを聞けば、たしかにどれも魅力的かもしれません。少々高いお金を払っても、本当にこういった効果が得られるなら試してみたいと思う人もいるでしょう。
実際、私も過去に何度か覚醒剤の誘惑に駆られたことがあります。
けれども、私は決して手を出しませんでしたし、これからも一度たりとも使用するつもりはありません。
その理由のひとつは、「現在医師をしているから」、というものです。医師であれば、覚醒剤がどれだけ有害なものであるかは理解できますし、覚醒剤をきらした状態の患者さんも数多く見ていますし、覚醒剤のせいで仕事だけでなく全財産や家庭を失った人を見る機会もあります。それに、注射針を使いまわせばC型肝炎ウイルスやHIVに感染するリスクがあります。
しかしながら、私が覚醒剤をやらない本当の理由は別のところにあります。実際、「医師なら覚醒剤をやらない」は説得力がありません。なぜなら、毎年数回は「医師が覚醒剤取締法違反で逮捕」という新聞記事を目にしますし、長距離ドライバーと同様、深夜に集中力が要求される医療者のなかには覚醒剤が魅力的にみえる人もいるからです。
私がこれまで覚醒剤に手を染めたことがなく、また今後も手を出さないことを断言できる最大の理由は、子供の頃に心に深く植えつけられたあの恐怖のCMの存在です。
私が医学部に入学したのは27歳のときで、それまでは医学的な知識などほぼ皆無でした。それでも覚醒剤に手を出さなかったのは、心のどこかであの恐怖のCMが私にブレーキをかけてくれたからなのです。
もう一度、あのCMを全国放送すればどうでしょう。特に子供がテレビをみる時間帯にすべてのキー局で一斉に放送すれば絶大な効果があることを私は確信しています。あのCMを流すためならいくらでも税金を使ってもかまわないとさえ思います。
覚醒剤の誘惑があなたを襲ったとき、どうかあの言葉を思い出してみてください。
「覚醒剤やめますか・・・、それとも、人間やめますか・・・?」
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