GINAと共に

第126回(2016年12月) これからの「大麻」の話をしよう~その2~

 2016年11月8日の米国での出来事と言えば「次期アメリカ大統領の選挙」であり、翌日の世界中の新聞はトランプ氏一色でした。一方、同日に米国のいくつかの州でおこなわれた住民投票についてはほとんど報じられることがありませんでした。しかし、この住民投票の結果が日本を含む世界に与える影響は決して小さくありません。

 その「住民投票」は大麻の合法化を問うもので、結果を言えば「医療用大麻」が4州で、「嗜好用大麻」も4州で合法化が決まりました。これにより、米国では「医療用大麻」は合計28州+ワシントンD.C.で、「嗜好用大麻」は合計8州+ワシントンD.C.で合法化されたことになります(注1)。

 嗜好用大麻は今世紀に入ってから合法化する国が多く、所持・栽培できる量の制限や公共の施設での使用禁止などルールは設けられているものの、ヨーロッパではいくつかの国で事実上解禁されています。20世紀には「大麻ならオランダ」というイメージがありましたが、現在は、UK、スペイン、ポルトガル、ベルギー、スイス、チェコスロバキアなどでも嗜むことが可能です。(ただし外国人は違法である地域も多い)

 中南米でもメキシコやジャマイカなど事実上合法の国が多いのですが、ウルグアイについては2013年から「完全合法」です。つまり、個人使用だけでなく生産や売買までOKとなった世界初の国となったのです。世界初というイメージがあるオランダは、いわゆる「コーヒーショップ」と呼ばれる一部の店での個人使用はOKですが、個人所持や売買は現在も違法です。

「完全合法」の2番目の国はカナダになりそうです。2017年には法律が制定される予定です。ちなみに、カナダ政府の報告書によると、25歳以上のカナダ人のうち1割が1年以内に大麻を使用し、3分の1以上が「これまでに使ったことがある」と調査に答えているそうです。

 日本はどうでしょうか。2016年に日本の大麻関連で最も話題となったのは、7月の参議院議員選挙に立候補していた元女優の高樹沙耶氏の逮捕・起訴でしょう。大麻取締法違反で逮捕された高樹氏は、参議院選挙の公約として「医療用大麻の研究推進」を掲げていました。

 高樹氏の逮捕ほどは大きく報道されませんでしたが、長野県池田町の過疎化した集落で形成されていた大麻コミュニティが2016年11月に摘発されました。このコミュニティは県内外からの移住者が集まってできたものらしく、大麻を所持していたなどの理由で合計22人が逮捕されています。この地域の山中で大麻を栽培していたそうです。

 これは私の推測に過ぎませんが、おそらく同じようなコミュニティは日本にまだまだあると思います。また、大麻は室内でも温度、湿度、光線量などの環境を整えれば栽培することが可能です。表に出てこないだけで使用している日本人は少なくありません。実際に若者の間で大麻愛好家が増えているというデータもあります。

 警察庁組織犯罪対策部が公表している2015年の報告(注2)によると、薬物事犯の検挙人員は13,524人(前年比3.1%増)であり、覚醒剤は11,022人(前年比0.6%増)とほぼ前年並み。一方、大麻は2,101人(前年比19.3%増)と2割近くも増加しています。同庁の分析では「若年層による大麻の乱用傾向が増大している」とされています。

 一方、日本では従来より"敷居"の低い覚醒剤(2015年の検挙人員の8割以上)は中高年での使用が問題となっています。警察庁によれば、「第3次乱用期」と呼ばれた1997年は摘発者約2万人の50%が20代以下で、40代以上は23%。しかし2008年にはこれが逆転し、2015年には40代以上が6割近くを占めるまでになっています(注3)。

 大麻に話を戻します。過去にこのサイトで何度も指摘しているように、日本の報道は誤解を招きやすくなっています。最も問題なのは、日本のメディアの多くが大麻も覚醒剤もコカインも麻薬も同じように扱っているということです。これらは危険性も依存性もまったく異なります。大麻の危険性を強調しすぎることにより、他の違法薬物との違いが認識されなくなってしまうことが問題である、ということを過去に何度も指摘しました。

 今回はもうひとつの問題を挙げたいと思います。逮捕された高樹氏が参議院選挙出馬時に強調していたことが「医療用大麻の合法化」です。(しかし、高樹氏は「嗜好品」として大麻を嗜んでいたことが後に報道されました) 大麻は薬品としても使えるが嗜好品でもある、と考えている人がいますが、ここは厳密に区別した方がいいと思います。

 大麻には多くの化学物質が含まれており、総称を「カンナビノイド」と呼びます。カンナビノイドのうち重要なのがTHC(テトラヒドロカンナビノール)とCBD(カンナビジオール)です。そして、嗜好性があるのがTHCです。現在医療用大麻を推進している医療者(の大半)はCBDの有用性を訴えているのであり、THCの合法化を求めているわけではありません。

 ただし、CBDの有用性も現段階では高いエビデンス(科学的確証)があるとはいえません。症例報告ベースでは、「難治性の疾患に効いた」というものも出てきていますが、正式な薬として認められる段階には至っていません。1996年の住民投票で合法となったカリフォルニア州を筆頭に現在では合計28州(+ワシントンD.C.)で医療用大麻が使えるアメリカではどうかというと、私の知る限り、医療用大麻の研究が積極的におこなわれているとは言えません。むしろ大麻の効果に懐疑的な医師も少なくありません。

 嗜好品としての大麻推進派の人たちのなかに、大麻を「医薬品にもなる良いもの」という言い方をする人がいますが、彼(女)らが求めているのはCBDでなくTHCです。現在の科学技術をもってすれば、大麻からCBDとTHCを分離することは困難ではありません。ですから、大麻の議論をするときには、それがCBDなのかTHCなのかを分けて考えるべきです。高樹氏のように、選挙活動で「医療用大麻(CBD)」と言っておきながら、自分自身はTHCを嗜んでいた、という話を聞くと、CBDがダシに使われているように思えます。今後、有識者会議や国会でも大麻が議論になる機会が増えると思います。そのときにその大麻がTHCなのかCBDなのか(あるいは他のカンナビノイドなのか)をはっきりと区別して論じる必要がありますし、マスコミにもその点を考えて報道してもらいたいというのが私の意見です。

 次に、嗜好品としての大麻を日本でも認めるべきか、という問題を改めて考えてみましょう。私個人の考えとしては、ウルグアイやカナダのような全面解禁には反対です。両国とも未成年への使用は禁じるそうですが、私は健康な成人にも禁止すべきという考えを持っています。以前にも述べましたが、(THCとしての)大麻は多幸感が得られるという長所がありますが、ダラダラと寝そべり、身体を動かすのもおっくうになります。こんな状態では勉強も仕事もできません。この点、覚醒剤とは正反対です。覚醒剤をキメて勉強すれば徹夜も平気になりますし、一晩中トラックを運転していても疲れませんから、ワーカホリックの日本人には覚醒剤が適していたと言えなくもないのです。
 
 大麻には依存性が少ないと言われていますが、まったくないわけではありません。大麻を若いときに覚えてしまったがゆえに、多幸感に耽り努力を怠ってしまう、というのは避けるべきではないでしょうか。大麻(THC)推進派はよく「タバコやアルコールより依存性が少ない」と言いますが、タバコは多幸感が続くわけではありませんし、アルコールも度を越さなければ翌日には持ち越しません。一方、大麻は(もちろん程度にもよりますが)「翌日も何もする気が起こらない...」ほど持続することもしばしばあります(注4)。

 しかし、リタイヤ後の高齢者はどうでしょう。あるいは若年者でも難治性の疾患を患っている場合はどうでしょう。大麻を摂取すれば(それがTHCの影響なのかCBDによるものなのか私には分かりませんが)食欲が大幅に亢進します。私の知人の大麻愛好家(外国人)は「大麻の最大の欠点は太ること」と言います。高齢者も難治性疾患を抱えた若年者も得てして食欲が落ちます。実際、食欲を出すために医療者は様々な工夫をしているのです。こういった人たちには嗜好品としての大麻(THC)を解禁してもいいのではないかと私は考えています。

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注1:2016年12月現在、医療用大麻が合法化の州は下記の通り(アイウエオ順)。(新)は、2016年11月8日の住民投票で新たに合法化された州です。

アラスカ州、アリゾナ州、アーカンソー州(新)、イリノイ州、オハイオ州、オレゴン州、カリフォルニア州、コロラド州、コネティカット州、デラウェア州、ニュージャージー州、ニューハンプシャー州、ニューメキシコ州、ニューヨーク州、ネバダ州、ノースダコタ州(新)、ハワイ州、バーモント州、フロリダ州(新)、ペンシルバニア州、ミシガン州、ミネソタ州、メイン州、メリーランド州、モンタナ州(新)、ルイジアナ州、ロードアイランド州、ワシントン州、ワシントンD.C.

嗜好用大麻が合法の州は下記です。

アラスカ州、オレゴン州、カリフォルニア州(新)、コロラド州、ネバダ州(新)、マサチューセッツ州(新)、メイン州(新)、ワシントン州、ワシントンD.C.

カリフォルニア州は、2010年11月2日の住民投票では大麻合法化が否決されました。詳しくは下記を参照ください。

GINAと共に第53回(2010年11月)「大麻合法化を巡る米国と覚醒剤に甘すぎる日本」

全米で最も早く嗜好用大麻が合法化されたのはコロラド州で2014年の1月です。下記も参照ください。

GINAと共に第97回(2014年7月)「これからの「大麻」の話をしよう」

注2:下記を参照ください。

https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/yakubutujyuki/yakujyuu/yakujyuu1/h27_yakujyuu_jousei.pdf


注3:覚醒剤が最も入手しやすい国は、まず間違いなく日本であることを過去に指摘してきました。90年代にはタイの方が容易だったという意見もありましたが、2002年あたりから当時のタクシン政権が検挙に力を入れ一気に入手できない国となりました。一説によれば冤罪も多く合計数千人が覚醒剤所持などの疑いで射殺されたと言われています。(このあたりはGINAと共に第25回(2008年7月)「ドラッグ天国に舞い戻ったタイ」で詳しく述べています)

その後タクシン政権がクーデターで失脚し、一時はタクシンの娘のインラックが首相となりましたが、現在タイは軍事政権です。軍事政権と聞くと薬物の取り締まりが厳しそうなイメージがありますが、実態はその逆です。すでに、90年代と同じくらいに薬物入手が簡単になっている上に、2016年6月には法務大臣が驚くべき発表をおこないました。なんと、「覚醒剤の依存性はアルコールやタバコよりも低いから合法にすべき」と発言したのです。下記URLを参照ください。

http://www.dailymail.co.uk/news/article-3645552/Thailand-considering-legalising-CRYSTAL-METH-ruling-junta-s-general-admits-world-lost-war-drugs.html

注4:もっとも私のこの理論はあまり説得力がないかもしれません。アルコールの方が大麻よりも依存性が強いのは事実ですし、本文には「アルコールは翌日に持ち越さないが大麻は続く」と書きましたが、これも程度によりますから、一概には言えません。ただ、私が知る大麻愛好者(ほとんどが外国人)は、大麻をキメすぎて翌日の予定をキャンセルしたり、一日中寝そべっていたり、とそういった体験を頻繁にしています。