GINAと共に

第93回 同性愛者という理由で終身刑 2014年3月号

 2014年2月24日、ウガンダのムセベニ大統領は、「同性愛者に最高で終身刑を科して国民に同性愛者の告発を義務づける」という法案に署名しました。これによりこの国では同性愛者というだけで罪を着せられ、また周囲にカムアウトすることができなくなり(カムアウトすればされた方は告発しなければ罰せられます)、自分のセクシャリティを生涯隠し通さなければならないことになります。(もっとも、ウガンダの法律は以前から同性愛者の最高刑は終身刑でした。今回改めてムセベニ大統領が署名した、というだけのことだと思われます)

 この話だけを聞くと、ウガンダとは時代に逆行したとんでもない国だと感じる人もいるかもしれませんが、実はこのようなことはウガンダに限ったことではなく、アフリカや中東の多くの国では同性愛は罪であり、なかにはスーダンやナイジェリアのように死刑になる国すらあります。

 同性愛のことはこのサイトで何度も取り上げていますが、同性愛というだけで罪を背負わされる合理的な理由は一切ありません。同性愛者が異性愛者を敵対視しているわけではありませんし、テロ活動をしているわけでもありません。暴力的でもなければ反社会的な行動をとるわけでもありません。同性愛者が社会から忌避される理由などまったくないのです。ウガンダのムセベニ大統領だけでなく、同性愛に反対する人は、なぜ同性愛者が罪を問われなければならないのかを合理的に説明する義務があるはずです。

 個人的な感想を言えば、私はアフリカの多くの国で同性愛者が差別されているということに虚しさを覚えます。なぜならアフリカ人というのは、過去数百年にわたり奴隷として迫害されていた歴史があるからです。奴隷貿易の歴史を振り返ることをここではしませんが、アメリカの南北戦争が終結する1865年までの間、世界中のいくつかの地域で黒人は人とはみなされずに奴隷というモノとして扱われてきたわけです。

 今でこそ、世界の警察を気取り(最近はそのパワーを失っていますが)、平等という価値観を強引なまでに押しつけてくるアメリカですが、実は奴隷制度を世界で最後まで維持していたのがこのアメリカ合衆国という国です。偉大な業績を残したアメリカの大統領としてリンカーンはおそらく今もトップ3には入ると思いますが、これは南北戦争を勝利に導いたことがその最たる理由でしょう。南北戦争というのは簡単に言えば、奴隷制に反対するリンカーン率いる米国北部と、奴隷制度の維持を訴える南部との戦いですが、あきらかに無茶苦茶な理屈を正当化しようとしている南部がおかしいのは自明です。しかし実際は、リンカーン率いる北部が戦争の前半には劣勢だったそうです。つまり、アメリカ全体でみれば奴隷制度を維持しようとする世論の方が強かったということです。

 同性愛から少し話がそれますが、言われなき差別としての人種差別についてもう少し話を広げたいと思います。私は医学部入学前に関西学院大学で社会学を学んでいたのですが、そのときに「差別」ということにも興味を持ち少し勉強したことがあります。差別には、部落差別、外国人差別(在日問題など)、人種差別、病気による差別、女性差別、同性愛差別などいくつもありますが、1980年代後半当時は人種差別が社会的にもクローズアップされていました。ネルソン・マンデラ氏が27年間の獄中生活を終え釈放されたのが1990年で、この年にたしか来日もされたはずです。

 80年代後半当時、文化的にも黒人によるものが注目されていました。音楽では従来のソウルやファンクといったジャンルに加え、R&B、ブラックコンテンポラリーと呼ばれる新しいタイプの黒人による音楽がヒットチャートの上位を占めるようになり、特にダンスミュージックでは黒人音楽が完全に席巻していました。スポーツではカール・ルイスやジョイナーが陸上界での話題を独占するようになり、マジック・ジョンソンをはじめバスケットボールの一流プレイヤーも黒人の割合が増えていました。(ちなみに私がこの頃よく読んでいたのは山田詠美さんの小説です)

 1988年には『ミシシッピー・バーニング』というアカデミー賞を受賞した映画が公開されました。これは1964年に米国ミシシッピ州で実際に起きた公民権運動家3人が殺害された事件を取り上げたものです。この映画ではストーリーそのものもさることながら黒人差別の実態が衝撃的に描かれています。私の第一印象は「これは本当に20世紀後半の話なのか。南北戦争以前の時代と何ら変わってないのではないのか・・・」というものです。水飲み場やトイレが白人と黒人で分けられており、黒人出入り禁止の店が公然と存在しているのです。私はこの映画で初めてKKK(クー・クラックス・クラン)(注1)の存在を知りましたが、その映像に恐怖を覚えました。

 ちなみに『風と共に去りぬ』という日本人も大好きなアメリカ映画がありますが、私はこの映画を最近になって初めて見ました。そして驚きました。私の第一印象は「これは黒人差別を正当化する映画ではないのか」というものです。設定が南北戦争時代で主人公のスカーレット・オハラがその南部の人間ですからしょうがないと言えばそうかもしれませんが、現代の価値観からすれば目を疑うような場面が少なくなく、些細な理由で腹を立てたスカーレットがメイドの黒人女子のプリシーを平手打ちするシーンなどは思わず目を背けてしまいました。しかも、スカーレットをとりまく白人男性のほとんどがKKKのメンバーだそうです。随分と古い映画ですから歴史的な価値があるとみなされているのでしょうが、このような映画がもしも今つくられれば世界中どこの映画館でも上映禁止になるでしょう。

 そろそろ話を戻しましょう。ネルソン・マンデラ氏の全世界を感動させた勇気ある行動などのおかげで人種差別は世界的に大きく解消されてきました。これによりアフリカに「人権」という概念が普及してきているはずです。しかし、にもかかわらず同性愛者に対する差別は、中東と並んでアフリカ諸国で最も多く見受けられるのです。もしもマンデラ氏がまだ生きていたら、この事態に対してどのように思われるでしょう。ちなみに、マンデラ氏の南アフリカ共和国には同性愛者を罪にする法律はなかったはずです。

 さて、2014年2月24日に同性愛者を終身刑にするという法律に大統領が署名したウガンダに対して、欧米諸国は一応は抗議する姿勢をみせています。しかしその勢いは、クリミア半島を自国に編入したロシア(注2)に対する姿勢ほど強くはありません。

 また話がそれてしまいますが、欧米諸国のこのロシアに対する抗議はおかしくないでしょうか。そもそもクリミア半島住民の6割はロシア系ですし、ロシア系でない住民も、ウクライナ国民でいるよりも、ロシアに編入されれば給料や年金が増えるわけですからロシア編入に賛成してもおかしくありません。国が分割されたり編入されたりというのは冷戦後の歴史を振り返っても何も珍しいことではなく、それはヨーロッパ諸国でもいくらでもあります。クリミア半島の住民たちが自らロシアへの編入を希望していてそれをロシアが承認するといっているわけですから、これを経済制裁だのなんだのといって対抗する欧米諸国は筋違いではないでしょうか。そしてこれは日本も同様です。私の知る限り、この欧米諸国に追随している日本の外交スタンスに対して批判的なコメントを発しているマスコミもありません。

 地域住民が望んでいることをしようとしている国(ロシア)と、同性愛者というだけで終身刑を科そうとしている国(ウガンダ)の二国を比べて、経済制裁なども含めて外交的に抗議しなければならない国はどちらでしょうか。

 このような問題は外交に任せていても解決しません。今となっては必ずしも成功したとは言えないかもしれませんが、ジャスミン革命をやり遂げたチュニジアや、ムバラク大統領を辞任に追い込んだエジプト革命では、若い学生らがフェイスブックを武器に立ち上がったのです。

 同性愛差別についても政治家ではなく民衆が立ち上がり法案を変えることはできないのでしょうか。しかし、皮肉なことに、その民主革命をやり遂げたチュニジアにもエジプトにもたしか同性愛者が罪になるという法律が今もあったはずです・・・。


注1:KKK(クー・クラックス・クラン)はアメリカの秘密結社で白人至上主義団体。白装束で頭部全体を覆う独特の格好が有名。最近の映画『大統領の執事の涙』では、KKKが黒人の活動家が乗っているバスを襲撃し殺害するシーンが描かれている。

注2:2014年3月16日、ウクライナ内のクリミア自治共和国はロシアに編入されるかを決める住民投票を実施しロシアへの編入が賛成多数となった。3月18日、ロシアのプーチン大統領はクリミアのアクショーノフ首相と編入に関する条約に調印した。



参考:GINAと共に
第86回(2013年8月)「なぜ日本では同性婚の議論が起こらないのか」
第71回(2012年5月)「オバマの同性婚支持とオランドのPACS」
第60回(2011年6月)「同性愛者の社会保障」
第3回(2006年9月)「美しき同性愛」