GINAと共に

第3回(2006年9月) 美しき同性愛

 それは、私が小学校2年生の頃の話・・・。

 私はテレビの部屋で(私の家にはテレビがひとつしかありませんでした)、家族で人気アニメ「ドカベン」を見ていました。二番バッターの殿馬(とのま)が、豪腕ピッチャーからヒットを打つシーンで、「秘打・白鳥の湖」という回転打法を披露したのですが、そのときに流れていた音楽が、チャイコフスキーの「白鳥の湖」でした。

 生まれて初めて「白鳥の湖」を聴いたこの瞬間のことを私は今でも鮮明に覚えています。ストリングスが奏でる旋律のあまりの美しさが心臓を奥まで貫き、一瞬呼吸ができなくなったほどです。

 その12年後のある秋の日・・・。

 私は大学構内のカフェで、社会学関連のある本を読んでいました。その本にチャイコフスキーという名前が出てきたのですが、その時私は、「白鳥の湖」を初めて聴いたときと同じような、あるいはそれ以上の衝撃を受けました。

 チャイコフスキーが同性愛者だったとは・・・。

 それが、私が「同性愛」に興味をもつきっかけとなりました。

 著名な同性愛者はチャイコフスキーだけではありません。少し例をあげてみましょう。

 オスカー・ワイルド、シェイクスピア、ミシェル・フーコー、ジョン・ケージ、フレディ・マーキュリー、ミケランジェロ、アンデルセン、サマセット・モーム、レナード・バーンスタイン、ロラン・バルト、ジェームス・ディーン、デヴィッド・ボウイ、ボーイ・ジョージ、マーロン・ブランド、ジョニー・マティス、エルトン・ジョン、・・・。

 ハリウッド俳優、ミュージシャン、学者、芸術家、作家などを思いつくまま並べてみましたが、挙げればきりがありません。もちろん、日本人にも同性愛者は少なくありません。

 江戸川乱歩、三島由紀夫、折口信夫、淀川長治、・・・。

 女性の同性愛者もみてみましょう。

 ネナ・チェリー、グレイス・ジョーンズ、マルチナ・ナブラチロワ、マドンナ、・・・。

 これだけ、そうそうたる著名人が並ぶと、同性愛がなんだか素晴らしいものに思えてきます。

 私は作家の山田詠美さんのファンなのですが、詠美さんのエッセィのなかで、「ニューヨークでダサい男はみんなストレートで、いい男はみんなゲイ・・・」、といった内容のものを読んだことがあります。

 一度ロンドンで、洒落た雰囲気のカフェに入ったことがあるのですが、そのカフェに入ったとたん、周囲の異様な雰囲気に圧倒されてしまいました。すぐに、そこがゲイ専用のカフェだということが分かったのですが、私が驚いたのは、私以外の客がみんなゲイということではなく、私以外の全員がたいへんお洒落でカッコよかったということです。

 私の知人のなかにもゲイが好きという女性が少なくありません。彼女らが言うには、「ストレートの男は女性の気持ちがまるで分からないけど、ゲイは繊細なハートを持っているから女性をよく理解してくれる」、そうなのです。

 この話を聞いて思い出すのが、ジュリア・ロバーツ主演の映画「ベスト・フレンズ・ウエディング」に登場していたルパート・エベレット(彼は実生活でもゲイです)です。映画のなかで、主人公のキャリア・ウーマンを演じるジュリア・ロバーツが、以前の恋人が結婚するという事態に直面し混乱しているところを、ルパート・エベレットが優しく理解します。この映画を見たとき、私も女性ならこんな友達「ベスト・フレンド」が欲しいと思いました。

 タイに行くと、たいがいどこに行ってもゲイを目にします。(タイでは、カトゥーイと呼ばれる女性の格好をした男性(日本風に言えば「ニューハーフ」)もよく見ますが、ここでは分けて考えたいと思います)

 タイで、中学生が団体で電車に乗っているような場面に遭遇すると、たいてい数人の綺麗に化粧をしたゲイが女子学生と仲良く会話を楽しんでいるのを目にします。中高生の団体旅行などをみると、だいたい1割くらいの男性がいかにもゲイというファッションをしています。

 タイの国民的スーパースターであるBIRDもゲイで、彼はタイの大勢の国民から支持されており女性ファンも少なくありません。タクシン首相も彼の大ファンです。

 タイは、同性どうしの結婚は法的に認められていませんが、おそらく世界一同性愛に寛容な国だと思われます。実際、世界中からゲイやレズビアンが集まってきています。

 何人かのタイのゲイに、「この国では同性愛差別はないのか」、と聞いたことがあるのですが、全員ではありませんが、ほとんどのゲイは、「差別はほとんど感じない」、と言います。だから、私は日本で暮らしにくそうにしているゲイをみると、「タイに行ってみればどうですか」、と言うことがあります。実際、日本人のゲイのなかにもタイ好きは少なくありません。

 そんなわけで、私は同性愛者に対して、偏見どころか、ある意味では羨望のような気持ちもあります。そういう気持ちがあるからかどうかは分かりませんが、私自身もゲイと思われることがときどきあります。特に、タイに行くと、タイの女性から、「あなた、ゲイでしょ」、と言われたことが何度もあります。
 
 私は、自分がゲイと言われると、「お洒落でカッコいい」と言われているような気がするので、決してイヤな気持ちにはならないのですが、素直には喜べない側面もあります。よく、「色白の日本人は、日本ではパッとしない男でもタイ女性からはモテる」、と言われることがありますが、私はゲイと思われるからなのか、色は白いのに、タイ女性の間からさっぱりモテません。もちろん、日本でもモテるわけではありません。

 では、ゲイからはどう思われているかというと、ゲイの人に尋ねると、私は、「とうていゲイには見えないし、これからもゲイになれることはない」、と言われてしまいます。

 ということは、結局私は誰からもモテないということになってしまいます。

 まあ、私の個人的な話はいいとして、同性愛者が社会から差別を受けている、という事態が私には理解できないのです。なかには、同性愛者だという理由で、病院でイヤな思いをした、という人もいます。また、世界には、同性愛行為が法律で厳しく禁じられている国もあります。

 いったい、同性愛者が社会のなかで、どれだけストレートの人に迷惑をかけたというのでしょうか・・・。

 山田詠美さんは、エッセィのなかで、「黒人が差別されてきたのは自明なんだから、自分は逆差別するくらいの気持ちがある」、というようなことを言われたことがあります。私は、差別やスティグマがこの社会からなくなるまで、同性愛者を応援していきたいと考えています。

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