GINAと共に
第244回(2026年10月) 理解されない性暴力被害者、4つのタイプ
性暴力の実態があまり知られておらず、被害者は少なくなく、そしてその被害者の苦しみが理解されていないことは本サイトで何度かお伝えしてきました(例えば2013年の「レイプに関する3つの問題」、2016年の「レイプ事件にみる日本の男女不平等」など)。そして私自身も、院長を務める谷口医院で、この20年間に少なからぬ性暴力被害者を診てきました。
犯罪の多くは「加害者への罰則がその程度であれば被害者が救われないではないか」という結論となりますが、その傾向が最も顕著なのが性暴力の被害者です。しかし、ここにきて、(大阪府では)性暴力の被害者への支援が大きく拡充されました。今回はその大阪府の試みを紹介したいと思います。尚、以前は性暴力のことは一般に「レイプ」という表現がとられることが多く、本サイトでも「レイプ」を使っていましたが、最近は「性暴力」という用語が人口に膾炙してきましたから、本稿でも「性暴力」とします。
まず、2013年の「レイプに関する3つの問題」で取り上げた「3つの問題」を振り返っておきましょう。
#1 加害者の罪が軽すぎる(実例は上記コラムを参照ください)
#2 「デートレイプ」が理解されていない
#3 「セカンドレイプ」が理解されていない(具体例は上記コラムを参照ください)
今回は#2について掘り下げます。まず、現在の考えでは「性交渉には客観的に明らかな同意が必要」です。そして、日本の法律では明文化されていませんが、その同意は、少なくとも十分な判断能力が保たれた状態でなされる必要(たとえば「シラフ」のとき)があります。
多くの日本人はこの時点で戸惑います。なぜなら、最近の若者は飲酒しなくなったとはいえ、それでも一部の若者たちはアルコールの力も借りてロマンティックな気分と雰囲気になって、性行為に至る場面が少なくないからです。毎回、性行為にいたる前に、しかも飲酒をしていないときに「今夜は性行為をすることに同意する」と文書で約束しているカップルなど存在するはずがありません。
ですから、「デートレイプ」の定義を厳しくしすぎるとまともな恋愛さえできなくなるわけですが、それでも法や規則は無視できません。米国の規則がそのまま日本でも有効というわけではありませんが、ニューヨーク州内の大学生に適用される「SECTION 6441 性的行為における積極的同意(Affirmative consent to sexual activity)」を抜粋してみましょう(法律用語は分かりにくいので意訳しています)。
・性行為の同意は、言葉または行動によって得なければならない。沈黙や抵抗しないことは同意を意味しない
・過去に合意の上で性行為があったとしても、その次の性行為に対する同意を意味するものではない
・性行為を働きかける者が、薬物やアルコールの影響を受けていたとしても相手からの同意が必要
・いったん同意しても、いつでもその同意は撤回できる
・相手が正常に思考できない場合、同意は成立しない。意識がない場合や眠っている場合も含まれる。アルコール、薬物、その他酩酊物質を摂取している場合、その酩酊の程度によっては、同意が成立しない
・性行為が開始された後、同意が撤回された場合はその性行為を直ちに中止しなければならない。
実際には、性行為の度にこれらの法律を読み直すわけではありませんが、いかに「同意」の基準が厳格かが分かるでしょう。そして、こういった理解が進むことで救われる被害者は確実に増えるでしょう。
谷口医院の過去20年間の経験から、なかなか理解されていない性暴力の被害には下記の4つのパターンがあります。
#1 加害者が(元)配偶者のケース: 2013年のコラム(の注釈)で述べたように、加害者の属性の第1位は「配偶者・元配偶者」です。特に、現在の配偶者やパートナーからの性暴力の被害に遭った時、被害者自身がそれを性暴力と認識していないことがあります。
#2 被害者がセックスワーカー(女性)のケース:そのフーゾク店のサービスの規定以上の行為が強いられればそれは性暴力です(最もよくあるのが、腟挿入がサービスに含まれていないのに挿入されそうになる場合です)。これはれっきとした性暴力ですが、この状況で警察に性暴力の被害届を出す女性はまずいません。しかし、その行為が後にトラウマになることはありますし、それ以前に性感染症や妊娠のリスクを抱えることになります。多くの場合、HIVの暴露後予防(PEP)も必要になります。尚、同様のことは男性のセックスワーカーにも言えることですが、谷口医院の経験ではそのケースは一例もありません。
#3 男性が被害者のケース:これはかなりあります。さらに3つに分類しましょう。いずれの場合も、たいていはHIVの暴露後予防(PEP)が必要になります。
・ケース1:ストレートの男性が(サウナなどの)いわゆるハッテン場に、そこがハッテン場だと知らずに行った場合。夜間に寝ているときに襲われたというのがよくあるケース。この場合警察に届け出することはまずありません。私はこれまで何十人もの被害者に「これはあきらかに性暴力の被害ですから警察に相談しませんか」と促しましたが、いまだに届け出した男性は一人もいません。
・ケース2:ゲイ男性がゲイ男性に襲われる場合。男性どうしであっても性行為には当然同意は必要です。ハッテン場などで「そのつもりではなかったのに肛門に挿入されてしまった」という訴えがときどきあります。
・ケース3:(性自認に関わらず)身体障害者(あるいは精神障害者)の男性が、トイレなどで男性から襲われる場合。保護者などが発見し、警察に届け出ることがあります。谷口医院にも警察に連れられて受診した患者さんがいます。
#4 (男女とも)数日後から数年後に様々な症状が出現するケース:例えば、中学生の頃に知り合いの男性から性暴力の被害を受け、その後精神状態がおかしくなり、めまい、頭痛、吐き気などの症状に苦しめられることがあります。興味深いことに、本人はそういった症状の原因が性暴力だと気づいていないことが多々あります。また、幼少時から実の親を含む周囲の大人から性暴力の被害を受けていて、それが人格形成に影響を及ぼしていることがあります。
性暴力で最も分かりやすいイメージは、例えば「暗闇で見知らぬ男性に捕らえられて暴力を受ける女性」でしょう。これは誰が考えても性暴力で、そういう事件も実は(報道されていないだけで)それなりにあるのですが、上記#1~#4は性暴力と認識されないことがよくあります。
しかし最近、大阪府に「大阪府性犯罪・性暴力被害者のためにワンストップ支援センター(ウィズユーおおさか)」という組織が誕生しました。正確にいえば「最近」ではなく、次のような歴史があります。
・2010年:前身のSACHICO開設(2013年のコラムでも紹介しました)
・2025年4月1日:大阪府の委託事業として「ワンストップ支援センター」運用開始
・2025年10月2日:「ウィズユーおおさか」の通称を発表
すでに谷口医院では性暴力の被害者と考えられる男女やGINAのサイトを通して相談してくる人に対し「ウィズユーおおさか」に連絡するよう伝えています。また、「ウィズユーおおさか」から依頼を受けて被害者を診察することもあります。そして、「ウィズユーおおさか」から「支援対象者(被害者)」と認定されれば、治療費が(上限はありますが)支給されます。HIVの暴露後予防(PEP)の費用(谷口医院では30,000円)も負担してもらえます。
何よりもありがたいのが、「ウィズユーおおさか」のスタッフ全員が性暴力支援に関する専門的な研修を受けていることです。それが、私がこの組織を信頼できる一番の理由です。最後に、「ウィズユーおおさか」のウェブサイトから被害者に向けてのメッセージを紹介します。
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どんな形であってもあなたの同意なしに、性的に接触することは性暴力です。またたとえ接触がなくても、性的な言葉や行動であなたの心やからだを傷つける行為は、性暴力です。キスする、なめる、なめさせられる、触る、触らせる、マッサージする、性器を見せられる、見られる、盗撮される、画像を送らされる、ポルノを見せる、性交する・・・あなたが、同意していない場合、イヤだと思う場合はすべて人権侵害であり、性暴力です。
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犯罪の多くは「加害者への罰則がその程度であれば被害者が救われないではないか」という結論となりますが、その傾向が最も顕著なのが性暴力の被害者です。しかし、ここにきて、(大阪府では)性暴力の被害者への支援が大きく拡充されました。今回はその大阪府の試みを紹介したいと思います。尚、以前は性暴力のことは一般に「レイプ」という表現がとられることが多く、本サイトでも「レイプ」を使っていましたが、最近は「性暴力」という用語が人口に膾炙してきましたから、本稿でも「性暴力」とします。
まず、2013年の「レイプに関する3つの問題」で取り上げた「3つの問題」を振り返っておきましょう。
#1 加害者の罪が軽すぎる(実例は上記コラムを参照ください)
#2 「デートレイプ」が理解されていない
#3 「セカンドレイプ」が理解されていない(具体例は上記コラムを参照ください)
今回は#2について掘り下げます。まず、現在の考えでは「性交渉には客観的に明らかな同意が必要」です。そして、日本の法律では明文化されていませんが、その同意は、少なくとも十分な判断能力が保たれた状態でなされる必要(たとえば「シラフ」のとき)があります。
多くの日本人はこの時点で戸惑います。なぜなら、最近の若者は飲酒しなくなったとはいえ、それでも一部の若者たちはアルコールの力も借りてロマンティックな気分と雰囲気になって、性行為に至る場面が少なくないからです。毎回、性行為にいたる前に、しかも飲酒をしていないときに「今夜は性行為をすることに同意する」と文書で約束しているカップルなど存在するはずがありません。
ですから、「デートレイプ」の定義を厳しくしすぎるとまともな恋愛さえできなくなるわけですが、それでも法や規則は無視できません。米国の規則がそのまま日本でも有効というわけではありませんが、ニューヨーク州内の大学生に適用される「SECTION 6441 性的行為における積極的同意(Affirmative consent to sexual activity)」を抜粋してみましょう(法律用語は分かりにくいので意訳しています)。
・性行為の同意は、言葉または行動によって得なければならない。沈黙や抵抗しないことは同意を意味しない
・過去に合意の上で性行為があったとしても、その次の性行為に対する同意を意味するものではない
・性行為を働きかける者が、薬物やアルコールの影響を受けていたとしても相手からの同意が必要
・いったん同意しても、いつでもその同意は撤回できる
・相手が正常に思考できない場合、同意は成立しない。意識がない場合や眠っている場合も含まれる。アルコール、薬物、その他酩酊物質を摂取している場合、その酩酊の程度によっては、同意が成立しない
・性行為が開始された後、同意が撤回された場合はその性行為を直ちに中止しなければならない。
実際には、性行為の度にこれらの法律を読み直すわけではありませんが、いかに「同意」の基準が厳格かが分かるでしょう。そして、こういった理解が進むことで救われる被害者は確実に増えるでしょう。
谷口医院の過去20年間の経験から、なかなか理解されていない性暴力の被害には下記の4つのパターンがあります。
#1 加害者が(元)配偶者のケース: 2013年のコラム(の注釈)で述べたように、加害者の属性の第1位は「配偶者・元配偶者」です。特に、現在の配偶者やパートナーからの性暴力の被害に遭った時、被害者自身がそれを性暴力と認識していないことがあります。
#2 被害者がセックスワーカー(女性)のケース:そのフーゾク店のサービスの規定以上の行為が強いられればそれは性暴力です(最もよくあるのが、腟挿入がサービスに含まれていないのに挿入されそうになる場合です)。これはれっきとした性暴力ですが、この状況で警察に性暴力の被害届を出す女性はまずいません。しかし、その行為が後にトラウマになることはありますし、それ以前に性感染症や妊娠のリスクを抱えることになります。多くの場合、HIVの暴露後予防(PEP)も必要になります。尚、同様のことは男性のセックスワーカーにも言えることですが、谷口医院の経験ではそのケースは一例もありません。
#3 男性が被害者のケース:これはかなりあります。さらに3つに分類しましょう。いずれの場合も、たいていはHIVの暴露後予防(PEP)が必要になります。
・ケース1:ストレートの男性が(サウナなどの)いわゆるハッテン場に、そこがハッテン場だと知らずに行った場合。夜間に寝ているときに襲われたというのがよくあるケース。この場合警察に届け出することはまずありません。私はこれまで何十人もの被害者に「これはあきらかに性暴力の被害ですから警察に相談しませんか」と促しましたが、いまだに届け出した男性は一人もいません。
・ケース2:ゲイ男性がゲイ男性に襲われる場合。男性どうしであっても性行為には当然同意は必要です。ハッテン場などで「そのつもりではなかったのに肛門に挿入されてしまった」という訴えがときどきあります。
・ケース3:(性自認に関わらず)身体障害者(あるいは精神障害者)の男性が、トイレなどで男性から襲われる場合。保護者などが発見し、警察に届け出ることがあります。谷口医院にも警察に連れられて受診した患者さんがいます。
#4 (男女とも)数日後から数年後に様々な症状が出現するケース:例えば、中学生の頃に知り合いの男性から性暴力の被害を受け、その後精神状態がおかしくなり、めまい、頭痛、吐き気などの症状に苦しめられることがあります。興味深いことに、本人はそういった症状の原因が性暴力だと気づいていないことが多々あります。また、幼少時から実の親を含む周囲の大人から性暴力の被害を受けていて、それが人格形成に影響を及ぼしていることがあります。
性暴力で最も分かりやすいイメージは、例えば「暗闇で見知らぬ男性に捕らえられて暴力を受ける女性」でしょう。これは誰が考えても性暴力で、そういう事件も実は(報道されていないだけで)それなりにあるのですが、上記#1~#4は性暴力と認識されないことがよくあります。
しかし最近、大阪府に「大阪府性犯罪・性暴力被害者のためにワンストップ支援センター(ウィズユーおおさか)」という組織が誕生しました。正確にいえば「最近」ではなく、次のような歴史があります。
・2010年:前身のSACHICO開設(2013年のコラムでも紹介しました)
・2025年4月1日:大阪府の委託事業として「ワンストップ支援センター」運用開始
・2025年10月2日:「ウィズユーおおさか」の通称を発表
すでに谷口医院では性暴力の被害者と考えられる男女やGINAのサイトを通して相談してくる人に対し「ウィズユーおおさか」に連絡するよう伝えています。また、「ウィズユーおおさか」から依頼を受けて被害者を診察することもあります。そして、「ウィズユーおおさか」から「支援対象者(被害者)」と認定されれば、治療費が(上限はありますが)支給されます。HIVの暴露後予防(PEP)の費用(谷口医院では30,000円)も負担してもらえます。
何よりもありがたいのが、「ウィズユーおおさか」のスタッフ全員が性暴力支援に関する専門的な研修を受けていることです。それが、私がこの組織を信頼できる一番の理由です。最後に、「ウィズユーおおさか」のウェブサイトから被害者に向けてのメッセージを紹介します。
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どんな形であってもあなたの同意なしに、性的に接触することは性暴力です。またたとえ接触がなくても、性的な言葉や行動であなたの心やからだを傷つける行為は、性暴力です。キスする、なめる、なめさせられる、触る、触らせる、マッサージする、性器を見せられる、見られる、盗撮される、画像を送らされる、ポルノを見せる、性交する・・・あなたが、同意していない場合、イヤだと思う場合はすべて人権侵害であり、性暴力です。
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