GINAと共に

第81回 レイプに関する3つの問題(2013年3月)

 タイに行くとレイプの話をよく聞きます。「聞く」というのは、まず新聞の片隅にそのような記事を見かけることは珍しくありませんし、新聞に載らなくてもタイの知人からそういった話はよく聞きます。新聞に掲載されるのは、<単なるレイプ>ではなく<レイプ+殺人>のようなときですから、<単なるレイプ>ではマスコミに取り上げられることもなく実際に発生しているレイプ事件が日々どれくらいになるのかは想像できません。

 日本人の女性がタイでレイプの被害に合った、という話も過去に何度か聞いたことがあります。欧米人との会話でこのような話になると必ず出てくる意見があります。それは、「日本人の女性は無防備すぎる」ということです。彼らが言うには、「ミニスカートで夜道をひとりで歩いて平気でいる日本人女性がおかしい」、そうです。

 タイ在住の欧米人だけでなく、日本在住の外国人のなかにもこのようなことを言う人は少なくありません。「日本に来て、日本人の女性があまりにも無防備なことに驚いた」と私に語った外国人は過去何人もいます。彼(女)らによると、派手な服を身に纏い高級ブランド品のバッグを見せつけるように夜の街を歩いている女性は<娼婦>にしかみえないそうです。

 では、そのような"無防備な"格好で夜道を歩いてもレイプの被害に合わないんだから日本はとても平和な国なんですよ、ということが言えるでしょうか。答えは次の数字をみれば明らかです。

 日本人の全女性の7.7%がレイプ被害の経験があり、性暴力救援センター受診の1割以上が妊娠していた・・・。

 詳しく説明しましょう。内閣府男女共同参画局が「男女間における暴力に関する調査」というタイトルで実施した2011年の調査によりますと、全女性の7.7%がレイプの被害に合っているそうです(注1)。

 また、大阪阪南中央病院産婦人科の加藤治子医師が主催している「性暴力救援センター・大阪(SACHICO)」によれば、2年間で受け入れた初診患者317人のうち34人(10.7%)が妊娠していたそうです。被害者317人の内訳は、レイプ・強制ワイセツが197人、性虐待(実父、義父、兄など保護的な立場にあるものからの性的行為)が82人、DV(ドメスティック・バイオレンス)が16人、その他22人とされています(注2)。

 実は私が院長をつとめる太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)でもレイプの被害者を診察することがしばしばあります。谷口医院では産婦人科を標榜していませんが、私がGINA代表をつとめていることもあり、レイプによる性感染症を懸念されている女性が受診されるのです。そして、レイプでHIVをうつされた例は谷口医院ではまだありませんが、クラミジアや淋病といった性感染症をうつされた被害者の方は過去何人かおられました。

 レイプの被害にあった女性が心配するのは性感染症だけではありません。妊娠を心配している人もいて、実際にレイプで妊娠していたケースも過去に何例かありました。また、最初の受診時には、不眠や抑うつ状態、あるいは胃痛や頭痛といった症状を話されて、数ヶ月間治療を続けてようやく「実はレイプにあって・・・」と話される人もいます。こういった人のなかには、それまで誰にも話すことができなくて・・・、というケースも少なくありません。

 ちなみに、レイプの被害に合った男性もときどき受診されます。このケースはほとんどが、男性が男性に襲われた、というケースで、女性にレイプされた男性患者というのはあまりありません。しかし、パートナーの女性(つまり、恋人や妻)から身体的暴力や言葉の暴力、ネグレクト(無視される)の被害に合っているという男性の相談はときどき聞くことがあります。

 話をレイプに戻します。しばしばレイプの被害者から話を聞いている私からみて、レイプというのは充分に社会に理解されておらずいくつかの問題があります。今回は3つの点を指摘したいと思います。

 まず1つめにレイプに対する罪が軽すぎることを指摘したいと思います。マスコミで報道されたレイプ事件は過去にいくつもありますが、そのなかでも最も許しがたい事件のひとつが1955年に沖縄県石川市(現・うるま市)でおきた白人軍曹による、市内の幼稚園に通っていた当時6歳の由美子ちゃん誘拐強姦惨殺事件です。レイプされ殺害され草むらに放置された由美子ちゃんの顔面は崩れ、両手は生えた草をしっかりと握っていたそうです。この米兵は軍法会議でいったん死刑判決が出たものの、なんとその後45年の重労働に減刑されています。この事件以降、石川市で生まれた赤ちゃんに由美子と名付ける親はいなくなったと言われています(注3)。

 沖縄の米兵によるレイプ事件で有名なものに、1995年におきた黒人米兵3人による小6少女レイプ事件があります。沖縄県中部地区に住む当時小学6年生の女子が自宅から3分ほどの文具屋で150円のノートを買って店を出たあと、3人の黒人海兵隊員にレンタカーに押し込められ、目と口を粘着テープでふさがれ1.5キロメートル離れたサトウキビ畑でレイプされたという事件です(注4)。このような事件を起こしておきながら、検察の求刑はわずか10年、そして那覇地裁の判決は2人に7年、もうひとりには6年6ヶ月の懲役刑しか下していません。ちなみに、6年6ヶ月の判決を受けた海兵隊員は日本で5年間服役しアメリカに帰国し、20006年にジョージア州のアパートで知り合いの女子大生を暴行殺害し自らも自分の腕を切って自殺しています。

 これだけの事件を起こしたならば、極刑以外にないと感じるのは私だけではないでしょう。現在の日本のレイプに対する罪が軽すぎるのは自明です。おそらくこれがタイなら前者の加害者は死刑、後者の事件は3人とも終身刑となっているはずです。(しかし、日本よりも罪が重いタイでもレイプ事件が少なくないことを考えると、単純に罪を重くすればレイプが減るというわけではないのかもしれません)

 レイプに関する2つめの問題は「デートレイプ」に関する認識の乏しさです。デートレイプとは顔見知りによるレイプのことを言いますがデートレイプの多くは女性も同意していたはずなのに後になって女性が「レイプされた」と文句を言っているだけ、と考えている男性がいまだにいます。私は決してフェミニストではありませんし、確かに男性にフラれた腹いせに「あのときレイプされたから訴える」と随分後になってから言い出す女性がいることも知っていますが、デートレイプを軽視してはいけません。特に信頼されていた友達や上司が豹変してレイプされたというようなケースでは、その後かなりの長期間に渡りPTSD様の症状に苦しむこともあります(注5)。

 2012年8月に米国ミネソタ州の共和党の下院議員が「女性はレイプされた場合なら妊娠することはない」などと発言して問題になったことがありましたが、このような言葉がどれだけ被害者を傷つけるかということが、犯罪には厳しく人権と平等では世界トップであるはずのアメリカの下院議員にも理解されていないのが現実というわけです。

 レイプに関する3つめの問題は「周囲の無神経な発言によって被害者がさらに傷つく」ということです。これは「セカンドレイプ」と呼ばれており、被害状況を聴取する際に「あなたにもスキがあったのでは」などと発言する警察官が加害者と言われることが多いのですが、実際は、教育者や医師によるものもありますし、周囲の家族や知人による場合もあります。例えば、「どうしてもっと早く言わなかったの」とか「あなたはしっかりしているから大丈夫」などと言ってしまえば、それが気遣った言葉のつもりであっても結果として被害者を苦しめることになります(注6)。

 レイプによる被害者は世界中にたくさんいるということ、そして日本国内にも少なくなく、社会からは諸問題が充分に理解されていないことを多くの人に知ってもらいたいと思います。


注1:この調査結果は日本産婦人科医会のウェブサイトで詳しくみることができます。下記URLを参照ください。

http://www.jaog.or.jp/all/document/60_121212.pdf

注2:このデータも上記URLで閲覧できる資料の後半にでてきます。

注3:沖縄のレイプ問題に関しては、佐野眞一著『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史<下>』(集英社文庫)に詳しく取り上げられています。

注4:この事件を契機として沖縄在住の高里鈴代氏が「強姦救援センター沖縄(REICO)」を立ち上げられています。

http://www.space-yui.com/reico10years.htm

注5:注1に記した日本産婦人科医会のデータによりますと、レイプされた相手の1位は配偶者・元配偶者で、2位が「まったく知らない人」の9.8%とされています。3位は「職場・アルバイトの関係者」となっています。

アメリカにも似たような報告があります。2011年12月にCDC(米国疾病対策センター)が公表したデータによりますと、レイプの被害に合ったことのある女性は全体の18.3%で、加害者は1位が「交際相手などのパートナー」51.1%、2位が「知り合い」40.8%で、「まったく知らない人」はそれら以外ということになりますから8.1%となります。つまり、日本の方が「まったく知らない人」からレイプに合っている割合が高いことになります。

注6:注1に記した資料にセカンドレイプに相当する用語がまとめられていますので下記に引用しておきます。

・大丈夫、よくなりますよ
・こんなひどい被害にあった人もいる
・つらいのはあなただけじゃない
・時にあることですよ、気にしないで
・がんばって!しっかり
・早く忘れた方がいいよ
・思ったより元気そうだね
・しっかりしているから大丈夫
・私だったら気が狂ってしまう
・こうすればよかったのに・・・・・・
・なぜ、もっと早くに話さなかったの
・何をやっていたの
・これくらいで済んでよかった
・~よりまだましですよ
・どうして逃げなかったの
・なぜ、助けを呼ばなかったの
・なぜ、○○したの