GINAと共に

第211回(2024年1月) 大麻に手を出してはいけない「3つ目の理由」

 前回のGINAと共に「大麻について現時点で分かっている科学的知見」では、大麻のいわば副作用について、医学誌「The New England Journal of Medicine」に掲載された論文から抜粋し詳しく述べました。これを読んで(あるいは途中で読むのを放棄して)「こんなことあるわけない!」と感じた大麻愛好家の人もいるかもしれません。

 私自身も、自分自身の大麻摂取の経験はないものの、プライベートの知人や患者さんも含めた大麻使用者に話を聞いた経験から考えて、このような副作用がこれだけ高率で起こるのか、ちょっと疑問に思っていました。

 なにしろ、米国では「地域人口の18.7%が大麻使用障害」、さらに「18~25歳の若者の14.4%(約7人に1人)が大麻使用障害」というのです。そして、急性症状として、強烈な不安感、パニック発作、また、ときにパラノイアと呼ばれる妄想(例えば自分が社会から拒絶されているなどという思いから逃れられなくなります)に苦しむこともあるとされています。身体的影響としては、運動調整障害(スムーズな動きができなくなる)、ろれつが回らない、口渇、結膜の充血、頻脈、起立性低血圧、水平眼振などが起こり得るとされています。

 しかし、私がこれまで少なくとも100人以上の大麻経験者から話を聞いた経験でいえば、このような症状に苦しんだ人はほとんどいません。めまいや頭痛、嘔気などが生じて「大麻は合わなかった」と言う人はいますが、いずれも軽度であり、また、これは私の印象ですが、大麻による弊害というよりは「急激に煙を吸い込んだせいで生じた弊害」ではないかと疑っています。

 少なくとも、私の知る限り、不安感、パニック発作、パラノイアなどは一例も聞いたことがありません。「起き上がれない」「会話が成り立たない」「笑いが止まらない」「壁のしみが動物にみえる」などはありますが、これらは大麻の多幸感の一種と考えるべきであり、副作用や障害とは呼べません。

 では、なぜ私がこれまで話を聞いてきた大麻使用者(日本人が最多だが、西洋人やタイ人もいる)ではこのような副作用が起こらずに、(ほぼ)全員が多幸感だけを感じることができていたのでしょうか。

 これは私の推測ですが「現在流通している"大麻"はかつての大麻とは異なる」ことが原因だと思います。そして、これが私が(特に若者の)大麻に反対する「3つめの理由」です。本サイトでも繰り返し述べてきたように、大麻はアルコールやタバコよりも依存性が強くなく、危険性が少ないのは事実です。では、なぜ私が自分が見聞きしていた経験から大麻に反対しているのかというと、1つには「ハードドラッグのゲートウェイドラッグになるから」、もう1つが「生産性が低下するから(勉強や仕事をする気が起こらなくなるから)」です。

 これら2つの私の反対理由には反論があるのは知っています。「大麻がハードドラッグのゲートウェイドラッグになるというエビデンスがない」というのは大麻愛好家からよく指摘される反論です。ですが、私の経験上、例えばタイで聞き取り調査をした20名以上の覚醒剤中毒者(こちらは全員日本人)の全員が例外なく覚醒剤の前に大麻にハマっていたのです。

 「生産性が低下するから」はやはり私の経験から自明です。「せっかく留学したのに大麻のせいでほとんど引きこもりの生活になってしまった」「大麻のせいで途中で帰国した」といった話をこれまで何度聞いたことか。バンコクで現地採用で働くつもりで渡タイしたが大麻づくしの生活から抜けられなくなって......、などという話も掃いて捨てるほどあります。

 そして最近、私が大麻反対の3つ目に加えるようになった理由が「現在流通している"大麻"はかつての大麻とは異なる」です。そして、この理由により「若者」だけではなく「すべての年齢層」の人たちの大麻使用に慎重になるべきだと考えるようになりました。

 これを説明する前に、最近私がタイに住む知人(日本人男性)から聞いたあるエピソードを紹介しましょう。その知人の知人のさらに知人(やはり日本人男性)が最近タイを訪れて大麻を摂取しました。ナナのバーの女性から安く買ったというその大麻リキッドを男性が摂取すると、その数分後に錯乱状態となりホテルを飛び出し通りで暴れ出し、そのあたりにいたタイ人に連れられ救急病院に搬送されたのです。男性は気が付けば病院のベッドの上に寝かされていて、しかも手足が自由に動かなかったそうです。その日が帰国日だったのですが、やむなくフライトをキャンセルしたそうです。

 こんなこと従来の大麻で起こるはずがありません。おそらく男性が摂取した大麻リキッドは極めて高濃度に濃縮されたものか、他のケミカル(違法性薬物)が混入していたかのどちらか(あるいは両方)です。私は「他のケミカル」だと考えています。

 この話を聞いてもベテランの大麻愛好家は意に介さないかもしれません。「そんなわけのわからないものを摂取する者が悪い。乾燥大麻をジョイントもしくはボングで"伝統的に"吸引している限り安全に嗜めるのだから。自分は信頼できる業者から直接購入しているから安全に楽しめる」という人がいるかもしれません。

 たしかに、リキッド型やフード(グミなど)やドリンク(シェイクやラッシーなど)に入れられた大麻を摂取せずに、従来の吸引方法ならそういった急性症状(中毒症状)に苦しむリスクは避けられそうです。しかし、現実にはそれさえもあやしくなってきています。

 カナダ政府の大麻のサイトによると、乾燥大麻中のTHCのポテンシー(potency)は、1980年代の平均3%から現在では約15%まで増加しており、一部の株(大麻の種類)は30%にもなります。どうやら大麻草の世界でも"品種改良"が進んでいるようなのです。ポテンシーとは薬理学用語で、分かりやすくいえば「高ければ高いほど効果が出やすい」ものです。これまで3%のポテンシーだったものが15%になれば5倍の、30%であれば10倍もの効果が期待できるというわけです。

 さて、長年大麻を嗜み、決まった業者から購入している人たちはこれでも安心と言えるでしょうか。当然のことながら大麻業者の目的は利益であり、他の業者よりも高濃度の「上物(じょうもの)」を販売しようとするでしょう。そちらの方が需要が多く高く売れるからです。ということは、大麻愛好家たちが「安全で変わらない品質」と思い込んでいるものが、知らない間に少しずつTHCの純度が高くなっていた、なんてことが起こっても不思議ではありません。

 では、すでにもう昔のように安全に大麻を嗜むことはできないのでしょうか。あるいはまだ今は比較的安全だとしても今後は危険性を抱えながら使用しなければならないのでしょうか。

 実は大麻を安全に楽しむことができる対策がひとつあります。それは大麻の「合法化」です。我々日本人が"安心して"飲酒ができてタバコを吸えるのは品質が安定しているからです。もしもアルコールが禁止されていて闇業者が製造しているとすれば、エタノールの代わりにメタノールが入れられているかもしれません(アルコールが違法のイランでときどき報道されています)。もしも販売するアルコール飲料に不純物が混じっていたり、表示されている濃度が異なっていたりすればそれは犯罪行為となり業者は生き残れません。大麻についても資格を設け(薬剤師だけに受検資格のある「大麻取扱い主任」などのようなものがいいでしょう)、販売できる濃度を厳格に管理すればいいのです。

 大麻の場合、危険な濃度がすでに分かっています。「2~3mgのTHCを吸入、もしくは5~10mgのTHCを経口摂取」で酩酊状態となります。大麻取扱い主任がこの量を考えて"調合"すればいいのです。

 大麻のトラブル、事故、そして不幸な顛末を避けるにはこのように大麻を合法化する以外に選択肢はないと私は思います。かつて私が(主にタイで)聞き取り調査をした大麻にハマっていた人たちからも意見を聞いてみたいものです。