GINAと共に

第155回(2019年5月) デンバーでマジックマッシュルームが合法化

 太融寺町谷口医院のウェブサイトの「はやりの病気」の今月(2019年5月)号で、米国のデンバーでマジックマッシュルームが合法化されたことに少し触れました。このニュースはかなりインパクトの強いものであり、世界各国のメディアは大きく取り上げていますが、なぜか日本のマスコミは"無視"しています。「有名人の〇〇が違法薬物で逮捕」という事件には飛びつくものの、国民のひとりひとりが根本から考えていかねばならない「薬物」の本質にはなぜか触れたがらないのが日本のマスコミの特徴です。

 当初の予定よりは遅れたものの、かねてから審議されていた大麻の完全合法化がカナダで実現したのは2018年10月で、国家としてはウルグアイについで2番目となります。合法化されたことで製品の質が急激に向上し、現地を訪れた人の話では、大麻ショップの一部は高級宝石店やブティックなどと見間違えるほどだそうです。医療面での応用はそれほど進んでいるという話は聞かないのですが、どういった大麻がその人に合うかを調べる遺伝子検査まで登場しているという噂もあります。まるでどの抗がん剤を使用すべきかを治療前におこなう遺伝子検査のようです。

 日本では現時点では大麻合法化をという声はさほど大きくなっていませんが、2019年5月15日、厚生労働省は難治性のてんかんに大麻から製造された「エピディオレックス(Epidiolex)」を治験(臨床試験)で使うことを認めると発表しました(エピディオレックスについては過去のコラム第143回(2018年5月)「これからの「大麻」の話をしよう~その3~」を参照ください)。

 なぜここで大麻の話をしたかというと、米国の大麻合法化について思い出す必要があるからです。米国は今も大麻が違法の州の方が多いのですが、今後ますます合法化する州が増えてくるのは間違いなさそうです。合法化が最も早く実現する州は最も自由なカリフォルニア州であろうと考えられていました。ところが、2010年11月2日の住民投票の結果は意外なことに反対派が賛成派を上回り合法化は実現化しませんでした。しかし、この時点では多くの人が米国で大麻合法化が実現化する最初の州はカリフォルニアを置いて他にはないと考えていたと思います。

 ところが、全米で最初の州となったのは意外にもコロラド州とワシントン州だったのです。シアトルのあるワシントン州は「自由な地域」というイメージがありますが、アメリカの中央やや西に存在するコロラド州に対して私にはほとんど印象がありません。

 そのコロラド州の州都デンバーで、2019年5月8日、マジックマッシュルームの合法化が実現しました。前日(5月7日)のロイターの報道では「住民投票では反対派が上回るだろう」とされていました。しかし蓋を開けてみると賛成派が勝利したのです。世界のメディアはこの決定を否定的にみているようです。例えばBBCはタイトルを「非常に僅差。デンバー住民投票でマジックマッシュルームが合法(Denver votes to decriminalise magic mushrooms by razor-thin margin)」とし、デンバーの市長が反対していることを紹介しています。

 ここで私自身のマジックマッシュルームの"思い出"の話をしたいと思います。といっても日本で合法化であった時代も含めて私自身がマジックマッシュルームを試したことはありません。"思い出"とは、私が知り合った「ジャンキー」たちとの思い出で、多くはタイでGINAの活動をしていたときに知り合った人たちです。このサイトで、麻薬、覚醒剤、大麻などについて書くときにはいつも彼(女)らのことを思い出します。

 マジックマッシュルームについて熱く語ってくれたT君は中部地方の出身で、高校卒業後は全国を旅していたそうです。90年代当時は違法ではなくマニアたちは全国(あるいは全世界)に「キノコ」を求めてさまよっていました。T君が気に入ったのは八重山諸島のある島で、その島の牛の糞に「キノコ」が生えていたそうです。T君がその島にこだわったのは単に「キノコ」が見つけやすいという理由だけではありません。「自然」が重要だというのです。

 マジックマッシュルームは(よく同列で語られるLSDと同様)、摂取するときの"環境"が非常に重要です。"環境"によって「グッド」にも「バッド」にもなります。例えば、気の合わない友達と汚い部屋で摂取すれば「バッド・トリップ」に入り頭痛や嘔気に苦しめられますが、自然のなかで気が置けない親友と楽しめば「いい状態」になります。T君は、夕方になるとその島のビーチに出かけ大自然に包まれ波の音を聞きながら「キノコ」を食べると「最高のトリップ」ができるんだと熱く語っていました。

 これを書くためにT君のことを思い出しているときにひとつ気になることがでてきました。T君はあるとき「ドラッグ仲間」からアシッドハウスを教えてもらって、これにハマったそうです。それまでクラブやディスコなどには縁のなかったT君はアシッドハウスを知らなかったそうですが、「キノコ」を摂取するときに聴くと「最高のトリップ」がさらに"最高"になることを知ってしまったというのです。

 この話をT君から聞いた2000年代初頭には気に留めなかったのですが、現在「3rd Summer of Love」の噂をチラホラと聞きます。「Summer of Love」とは1967年夏に当時の若者10万人がサンフランシスコに集まったイベントで、サイケデリックな音楽とドラッグを肯定するヒッピーの運動だったと聞きます。

 「2nd Summer of Love」は80年代後半から90年代初頭にかけておこったムーブメントでした。イビザ島でUKのDJがアシッドハウスを中心としたハウスサウンドを大音量でプレイし、そしてマジックマッシュルームを含む薬物が大量に出回りました(LSDやMDMAも大量に出回りましたがこれらは当時から違法でした)。

 それから30年近くが経過した現在、「3rd Summer of Love」を求める雰囲気が少しずつ膨らんでいるような気がします。デンバーのマジックマッシュルーム合法化はこの動きを加速することになるのではないか、と私は見ています。

 マジックマッシュルームを学術的に考えてみたいと思います。そもそもこういうキノコは日本にも昔から存在し、「ワライタケ」「シビレタケ」などと呼ばれるものがその仲間と考えられます。ときどき新聞の片隅に「毒キノコを誤食して中毒症状」という記事をみかけます。はじめから興奮や幻覚を求めて食したのでは?とついつい考えてしまいます。

 日本でマジックマッシュルームが非合法化されたのは2002年です。その前年(2001年)、俳優の伊藤英明さんが中毒症状で救急搬送されて話題になりました(このときは違法ではなかったため名前は伏せません)。今も世界のなかには違法でない国や地域があります。そもそもシャーマンはマジックマッシュルームを摂取して幻覚をみてそれで祈祷や予言をするわけですから宗教的に禁止するのは困難です。ですが、もちろん先進国では軒並み違法です。大麻と同様大きな罪に問われることは(まず)ありませんが、ものすごく簡単に入手できるわけでもありません。1970年代から「コーヒーショップ」なら嗜好用大麻が合法のオランダでさえマジックマッシュルームは違法です(実はキノコは禁止でも似たようなマジックトリュフは入手できますが)。

 シロシビン(サイロシビン)及びシロシン(サイロシン)がマジックマッシュルームに含まれる興奮や幻覚をもたらす成分です。大麻が医療で用いられるようになったのと同様、これらの成分も医療への応用が研究されています。先に紹介したBBCの報道では、群発頭痛、PTSD、強迫性障害(OCD)への効果が期待されているようです。

 私の知る限り、医師の間では医療用大麻に対しても慎重派の意見の方が多く、嗜好用(娯楽用)となると賛成派はほとんどいません。マジックマッシュルームのようにバッド・トリップしてしまうと衝動的に飛び降りたり自殺したりする可能性のある薬物を認めることには(医療者でなくても)反対するでしょう。しかし、大麻と同様、コロラドで始まった合法化の動きは全米に広がる可能性があります。そうなれば、「本当は身体に悪くない」という"情報"が広がり違法入手する人たちが増えるに違いありません。その次に起こることは、このサイトでさんざん述べてきたように、さらに強力な違法薬物の入手、そしてHIV感染を含む悲惨な顛末です。