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2007年3月23日(金) 中国のエイズ活動家の憂い

 Gao Yaojieという80代の女性医師であるエイズ活動家が、バイタル・ボイス(Vital Voices)という団体から賞を受け取るために渡米しようとしたところ中国政府に妨害されたというニュースを以前お伝えしました。この活動家は最終的には渡米をおこない、無事に受賞することができたのですが、授賞式の後、ワシントンでマスコミの取材に答え、中国の現状を嘆いています。詳細を3月13日のロイター通信が報道しています。

 Gao氏は過去10年をエイズ活動に費やし、河南省のエイズ蔓延は行政に責任があることを指摘してきました。河南省の数千人もの農民たちは、貧困から売血せざるを得ず、不衛生な環境で自分たちの血液をお金に換えていましたが、献血がおこなわれた診療所は河南省が運営しているものも少なくなかったのです。

 Gao氏は数千部ものエイズ啓蒙のパンフレットを作成し、バスの乗客、ナイトクラブで働く売春婦、農民などに配布してきました。しかしGao氏は充分な効果がなかった、と取材に答えています。

 「私の行動は失敗だったんじゃないかって思います。10年以上もかけて活動をしてきたけどエイズの蔓延は防げなかったんだから・・・」

 Gao氏の渡米は、当初中国当局は認めていませんでしたが、国際的なプレッシャーのおかげで最終的に渡米が許可されたという経緯があります。ヒラリー・クリントン氏が抗議をしたことも大きな要因だったようです。

 「なぜ中国政府はあなたに渡米を認めようとしなかったのか」という質問に対して、Gao氏は困惑しながらも次のように答えています。

 「それは私の口からは言いにくいんだけど・・・、結局のところ、役人たちは一般人の死や生命に無関心なのよ。彼らが興味をもっているのは、自分たちの権力、地位、報酬、そして省の評判だけなの・・・」

 中国では売血行為は法的に禁止されています。にもかかわらず、Gao氏が省運営の診療所で売血行為がおこなわれていたことを告発した後も、罪に問われた役人はいません。

 Gao氏は、エイズ蔓延に便乗したペテン師たちについても述べています。河南省には「エイズが治る」と嘘をついて効果のない薬を売りまわる人たちが大勢いるそうなのです。

 Gao氏は中国の悪しき伝統である纏足(てんそく)をさせられており小さな足をしていますが、会見で黒いエスパドリーユを履いていたそうです。Gao氏は中国の混乱の歴史を80年以上に渡り見てきた人物です。文化大革命の頃は当局から追われた身となり自殺まで試みています。

 Gao氏は2冊の本を出版することを検討しています。ひとつは、1996年から取り組んできたエイズとの闘いについて、もうひとつはエイズを罹患した人々への贈る言葉です。

 「エイズになった人たちのことを多くの人に知ってもらいたいの。彼(女)らは、何も悪いことをしていないのに悲惨な生活を強いられているわ。子供たちは生命とは何かを知る前に死んでいくのよ・・・」

 Gao氏は売血でエイズを発症したある家族のことを述べました。

 「その家族の父親はすでに亡くなっていて、母親は父親を追うように首吊り自殺をしたの。その夫婦には小さなひとりの子供がいて、首をつっている母親を見つけたの。「降りてきてお母さん、おりてきてお母さん」と何度も叫びながらすでに死んでいる母親の足を引っ張ろうとするのよ・・・」

(谷口 恭)

参考:「中国のエイズ活動家が軟禁状態に」2007年2月13日