HIV/AIDS関連情報

2007年2月28日(水) イギリスのゲイたちがHPVワクチンを希望するが・・・

 HPV(ヒトパピローマウイルス)のワクチンが開発され、オーストラリアや米国の一部で使用が開始されることになったというニュースはこれまで何度かお伝えしてきましたが、このワクチンが現在、イギリスで議論を呼んでいます。

 このワクチンは商品名をガーダシル(Gardasil)といい、4種類のHPVを予防することが分かっています。このうち2種類は子宮けい癌の、あとの2つは性器にできるイボ(尖圭コンジローマ)の原因ウイルスです。また、HPVは肛門癌や陰茎癌の原因ウイルスであることも分かっています。

 イギリスで話題を呼んでいるのは、このワクチンの接種を希望するゲイが急増しているからです。イギリスでは昨年末にこのワクチンが発売となり、9歳から15歳の男子と16歳から26歳の女性がこのワクチンの適用となっています。

 BBCの報告によれば、現在イギリスの多くのクリニックでこのワクチンを男性に接種しているようです。ロンドンのあるクリニックでは過去6週間に数十人の男性にワクチン接種をおこなったそうです。このワクチンは3回接種する必要があり、費用は合計で450ポンド(約13万円)です。(報道は2月23日のNEWS.COM.AU)

 イギリス政府は、現在このワクチンの対象を、性交渉を始める前の男女に限って接種をすすめています。将来的には、すべての少年少女が11歳か12歳頃に学校で接種できるようにすることを検討しています。こうすることによって子宮けい癌の罹患率が劇的に減少することが期待されています。

 ガーダシルの製造元であるメルク社は、現在4,000人の男性を対象に臨床試験をおこなっており、このうち500人はゲイです。

 一方、ガーダシルの開発者であるオーストラリアのフレイツァー(Freizer)博士は、男性の接種に否定的です。博士は言います。

 「成人のゲイがガーダシルを接種するのは"金の無駄"だ。たしかにガーダシルは尖圭コンジローマや性器の癌を予防することはあるだろう。しかし一夫一婦制に従わない者がこのワクチンの恩恵を享受できるかどうかは分からない。彼らは自分のお金を自由に使えばいい。しかし、効果がどれだけ得られるかは疑問だ」

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 ガーダシルの開発者のフレイツァー博士は、成人男性の接種に否定的な見解をもっているようですが、この理由が報道からはよく分かりません。性交渉を始める前に接種すべき、というのは確かでしょうが、わざわざ一夫一婦(monogamous)という言葉を引用しているのは、同性愛に賛同していないからではないかとも感じられます。

 製造元のメルク社がゲイをも含めた男性に臨床試験を実施しているのは事実ですし、イギリスのゲイたちも違法に入手しているのではなくクリニックで接種をおこなっており、クリニックの医師たちも成人男性への接種を推薦しているようですから、それだけに「金の無駄(waste of money)」という表現まで使って、ゲイたちを非難することに違和感を覚えます。

(谷口 恭)

参考:オーストラリア、子宮けい癌のワクチン無料接種 2006年8月30日
    テキサス州、子宮けい癌のワクチンが義務化 2007年2月9日