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第242回(2026年8月) HIVの治療法と予防法が大きく変わる

 まもなく、HIVの治療法、そして予防法もが大きく変化していきそうです。2026年7月26日から7月31日にかけて、リオデジャネイロで開催された「AIDS 2026(第26回国際エイズ会議)」で、HIVの歴史を変えるほどの画期的な発表がおこなわれました。

 治療法については、「週にわずか1錠のみの内服」となるのも時間の問題になってきました。ISL/LENという合剤を週にわずか1錠内服するだけでHIVをコントロールできることが発表されたのです。これを詳しく述べる前に、これまでのHIVの治療の歴史を簡単に振り返っておきましょう。

・1987年 核酸系逆転写酵素阻害薬(以下「NRTI」)AZT(ジドブシン)が登場。しかし効果は限定的だった

・1991~1996年 NRTIのddI(ジダノシン)、ddC(ザルシタビン)、d4T(スタブジン)、3TC(ラミブジン)が登場。プロテアーゼ阻害薬(以下「PI」)のSQV(サキナビル)、リトナビル(RTV)、インジナビル(IDV)が登場。非核酸系逆転写酵素阻害薬(以下「NNRTI」)のNVP(ネビラピン)登場

・1996年 「HAART(Highly Active Antiretroviral Therapy)」と呼ばれる3剤併用療法が開始され、これにより治療効果が劇的に向上した

・1998~2003年 NNRTIのエファビレンツ(EFV)登場、NRTIのテノホビル(TDF)、エムトリシタビン(FTC)などが登場

・2006年 初の1日1回1錠のSTR(single tablet regimen)となるAtripla(TDF/FTC/EFV)が登場。しかし日本では承認されず

・2007年 初のインテグラーゼ阻害薬(以下INSTI)ラルテグラビル(RAL)登場。CCR5阻害薬マラビロク(MVC)登場

・2012~2013年 INSTIのエルビテグラビル(EVG)、ドルテグラビル(DTG)登場。そして、日本初のSTRとなる「スタリビルド」(EVG/COBI/FTC/TDF)が登場

・2019年 現在も主流の位置を占める3剤のSTR「ビクタルビ」(BIC/TAF/FTC)が登場

・2020年 2剤のSTR「ドウベイト」(DTG/3TC)が登場

・2022年 カボテグラビル(CAB)+リルピビリン(PRV)の注射による治療が登場。頻度は2か月に一度

 現在主流の治療の3本柱が、2019年以降に登場した3種、すなわち、ビクタルビ、ドウベイト、カボテグラビル+リルピビリンです。使用者からみれば「1日1回の内服か、それとも2か月に一度の注射か」となります。ちなみに、私が院長を務める谷口医院では、HIV陽性の患者さんの8割がビクタルビ、1割がドウベイト、残りの1割がその他、です。

 頻度だけを考えれば2か月に一度でいいカボテグラビル+リルピビリンに軍配が上がりそうですが、注射は医療機関に出向かなければなりませんし、その他薬理学的ないくつかの注意点があって、(特に日本では)当初予想されていたほどには普及していません。今後、頻度が4か月に一度、あるいは半年に一度でいい注射が登場するかもしれないという話があって(実際に開発が進んでいると聞きます)、もしも「4か月(6か月)に一度でいいのなら注射に切り替えてみたい」と考える患者さんが増えてきている、というのが現状です。

 そんななか、「週に一度の内服でOK」とする薬の登場が現実化してきました。

 2026年6月8日、ギリアド社とメルク社は共同で、「イスラトラビル(ISL)+レナカパビル(LEN)の週1回1錠内服でHIVをコントロールできる」とするプレスリリースを発表しました。そして、7月末のリオデジャネイロでの国際学会で詳細を発表。この発表に合わせて医学誌The New England Journal of Medicineに論文「HIV-1治療を目的としたイスラトラビル・レナカパビル経口週1回投与の第3相試験(Phase 3 Trial of Weekly Oral Islatravir? Lenacapavir for HIV-1 Treatment)」を発表しました。

 HIVに限らず、毎日飲まねばならない薬を飲んでいる人なら分かると思いますが、「毎日薬を飲む行為」はたとえ1日1回であってもけっこう大変です。飲んだかどうか分からなくなることも頻繁にあり「もう1回飲んだ方がいいだろうか......」と悩むのも辛いものです。週に一度であれば、飲み忘れることも、飲んだかどうか分からなくなることも激減するでしょう。となると、4か月(あるいは6か月)に一度の注射も魅力ではありますが、「週に一度1錠内服の方が簡単」と考える人も少なくないと予想されます。

 暴露前予防(PrEP=Pre-exposure prophylaxis)についても世界の流れが大きく変わりつつあります。まずは歴史を振り返りましょう。

・2012年 FDAがツルバダ(TDF/FTC)をPrEPとして承認

・2015年9月 WHOがPrEPのガイドラインを公表。同時に谷口医院でもハイリスク者に対するPrEPを開始(ちなみに、PEPについては谷口医院開院時の2007年から実施しています)

・2025年6月 FDAが年2回注射のPrEPとしてレナカパビル(LEN)を承認

 2025年6月のFDAの承認を受け、谷口医院でもレナカパビルのPrEPの案内をしています。しかし、1回の注射が3,530,000円もしますから(もちろん仕入れ値+消費税であり、谷口医院の利益はほぼゼロです)、「年に2回の注射でHIVを(ほぼ)100%防げますよ」と言うと興味を示す人はかなり多いのですが、値段を聞いて諦めます。

 では、この極めて高額なPrEPの恩恵に預かっているのは誰なのでしょうか。それは製薬会社(ギリアド社)が指定する「必要性の高い国」の国民です。同社のウェブサイトによると、同社は120の低・中所得国を「必要性の高い国」と認め「非営利価格」で提供しています。

 これが「差別だ!」と怒りを表しているのは南米諸国です。ブラジル、アルゼンチン、ペルー、メキシコは、レナカパビルが6ヶ月間HIV感染を防ぐ効果があることを示した臨床試験に参加したのにもかかわらず、対象120か国から除外されているのです。第26回国際エイズ会議の開会式では、抗議する活動家らが式を一時中断させる場面もあったとか。

 日本は先進国とみなされているのか対象120か国には入っておらず、ギリアド社が
レナカパビルを「非営利価格」で販売することはありません。では、他の国、例えば対象120か国に入っているタイに行けば低価格でレナカパビルのPrEPができるのでしょうか。私が個人的なルートを使って調べた結果、残念ながら現時点では一般人へのレナカパビルのPrEPはできないようです。ではどこに行けば受けられるのでしょうか。ギリアド社の上記サイトによると、エスワティニ、ケニヤ、レソト、マラウイ、モザンビーク、ナイジェリア、南アフリカ共和国、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエの10か国ではレナカパビルの低価格でのPrEPの供給がすでに開始されていますが、外国人は対象外のようです。

 しかし時間が経過すれば状況は変わるかもしれません。治療については「1週間に1錠だけの内服薬」か「4~6か月に一度の注射」が普通になり、予防は「半年に一度の注射」が常識となる時代がいずれやってくるかもしれません。

 私が初めてHIV/AIDSに関わったのは2002年のタイで、このときはそもそも薬が使えず、ようやく内服薬(HAART)を処方できるようになったのは2004年でした。HIVの治療・予防は大きく変わりました。