GINAと共に
第235回(2026年1月) AIが普及しセックスワーカーが増えていく
現在、新卒のみならず転職市場においても空前の売り手市場が続いています。株価は上昇を続け好景気が持続し、少子高齢化による若年層が減少していますから、新卒のみならず大卒の若者の大半は就職に困らないのでしょう。私が院長をつとめる谷口医院の患者さんをみていても、若くて能力のある人たちはいとも簡単に新しい仕事をみつけています。転職して収入が増えたと言う人も少なくありません。
ところが、そのような売り手市場に若者は恩恵を受けているのだとしても、中年以降でこれといった技術や経験のない人はそういうわけではなく、事務職はほとんど絶望的だという声も多数聞かれます。また、若年者の間でも仕事が見つからずに困窮している人がいます。
男性の場合は、これまでは敬遠されていたいわゆるブルーカラーの需要は現在それなりに高いようです。初めから事務職などのホワイトカラーを目指さずに、身体を使って手に職をつけることを目指してブルーカラーの仕事に従事する若者も少しずつ増えていると聞きます。この傾向は米国で特に顕著なようですが、日本でも少しずつホワイトカラーを見切ってブルーカラーを目指す若者が増えているようで、私自身もこの考えに賛成です。
もともと日本は(例えば韓国などと比べると)ブルーカラーの職業が下に見られたり蔑まされたりすることはなく、また給与も決して低くはなく、どちらかとカッコいい職業であり続け、今もそうではないでしょうか。ただし、この現象は大阪だけ(あるいは私の周りだけ?)なのかもしれません。この話を関東の人にすると、「東京ではそんなことはない。ほとんどの若者はホワイトカラーを目指す」と言われたことが何度もあります。
女性はどうでしょう。男性に比べるとブルーカラーに従事する女性はさほど多くありません。最近では傾向が少しずつ変わり、工場や現場の仕事でも女性の求人が増え、一部の企業は女性を大幅に増やすことで人出不足を解消しているようですが、それでもブルーカラーの労働者数の男女差は小さくありません。また、激しく体力を使う仕事や危険業務には現実にはなかなか女性が入りにくいのも事実です。フェミニストが何を言おうが、平均値で言えば男性と女性には体格にも体力にも歴然とした差があります(これは「個」の話ではなく「全体」の話です)。
販売や飲食の業界では女性の従業員の方が多いでしょうが、少しずつ外国人に職を奪われ、また比較的給与が低いことから、誰もがとびつく職種ではないのが実情でしょう。この類の仕事はルッキズムの要素が入り込み(容姿端麗の方が有利)、そしてそれ以上に重視されるのが「愛嬌の良さ」です。この時代に「愛嬌のよい女性歓迎」などと言えば一斉にバッシングを受けるでしょうが、「見た目がよくて愛嬌があって気が利く若い女性」であれば販売や飲食の世界では間違いなく歓迎されます。
では、それほど愛嬌がよくなくて、気が利かない、例えば同時に複数のことができないとか、要領よく仕事がこなせない女性はどうでしょうか。さらに、大学どころか高校も卒業していない女性ならどうでしょう。このような女性がオフィスワークを務めるのは困難です。コンビニやカフェの場合は、採用されたとしても仕事が遅くてミスが多ければ、たいていは上司からきついことを言われ、そしていずれやめていきます(もちろんそうでない人もいるわけですが、私が過去20年以上にわたり多くの若い女性を診察してきた結果、このように感じています。やはり「個」の話をしているのではなく「全体」の傾向です)。
さらに現在、AIが加速度的な勢いで労働市場に入り込んできています。ひと昔前なら人間が担っていた単純な事務作業が次第にAIの仕事となってきています。さらに、単純労働のみならず、少し前には高度な業務と考えられていた領域にもAIの勢いが入り込んできています。例えば、インターネットの業界でいえば、ついこの間までプログラムが書けて情報学の知識があれば労働市場で引っ張りだこでしたが、この分野にAIが大きく進出したせいで仕事が激減しています。創造力が求められる分野でさえもAIが席巻し、いつ仕事をなくすかもしれないと不安におびえるプログラマーの声をしばしば耳にします。
では好景気のなかでも仕事を得られない女性はどうやって生きていくのか。ひとつの「道」がセックスワークにあるのは事実でしょう。こんなこと他の誰も言わないでしょうが、これまで大勢の若者を診てきている私の視点からは間違いありません。そして、若者だけではありません。50代になってからセックスワークを開始した、あるいは50代になって30年ぶりにセックスワークを復活した、という女性もいます。
ちなみに、先月まで谷口医院に研修に来ていたフランス人の医学生は「日本では50代のセックスワーカーが存在することに驚いた。フランスでは若い女性だけだ」と言っていました。これには様々な見方があるでしょうが、「50代でも(なかには60代も)セックスワークで生活できる日本は恵まれている」のかもしれません。GINAのウェブサイトから連絡してくる人や、あるいは谷口医院の患者さんのなかにもセックスワークに従事しているという人がいます。年齢は20代から50代まで様々です。
この傾向は世界的に生じているようです。
英紙The Independentによると、英国のセックスワーカーを支援する組織「English Collective of Prostitutes」には相談が相次いで寄せられており、過去6ヶ月間でヘルプラインの電話が33%増加しています。生活費の高騰を理由にセックスワークを始めたり、再開したりする女性からの電話が多いようです。ブリストルで路上セックスワーカー(街娼)として働く女性たちに「夜間支援」用のバンを提供している慈善団体One25によると、バンを利用する女性の数が3年間で2倍以上に増加し、2021~2022年度の94人から2024~2025年度には192人にまで増えています。おそらくバンには彼女たちのために食料、スキンケア製品、あるいはコンドームなどが用意されているのでしょう。
英国にはセックスワークの非犯罪化(decriminalisation)を求めるアドボカシー団体「Decrim Now」(Decrimはdecriminalisation=非犯罪化の略)があります。Decrim Nowが2025年10月に発表した報告書には、セックスワーカーの76%が経済的困窮のためにセックスワークを始めたと回答し、回答者の77%が自身になんらかの障害、特に精神疾患や発達障害などがあると認識しています。調査対象となった172人のうち、半数以上がセックスワーク以外に少なくとも1つの仕事を持っていて、育児のためにはセックスワークをしなければならないと考えています。
これは日本でもまったく同じで、少なくともGINAに相談する人(もしくは谷口医院の一部の患者さん)のなかにも同じような悩みを持っている人がいます。「困窮」、「子育て」もそうなのですが、注目すべきは「精神疾患や発達障害」です。これらを病気と呼ぶかどうかは別にして、私に相談してくる女性たち(及び一部は男性)は、現代社会の気忙しさについていけず、その繊細な心が傷つけられ、不安に苛まれ、そのうちに外出するのも苦痛となり、やがてセックスワークを考え始めます。
ところが、セックスワークの世界に入ると、基本的に"接客"は1対1ですから同時にいろんなことに気配りをする必要がなく、会話のテンポがゆっくりすぎたり的を得たことを言えなかったりしても、バカにされるどころかその反対に「癒される」「ほっこりできる」などと男性客からは好評で、承認欲求が満たされます。私自身、これまでセックスワークから抜けられないという女性たちから「でも承認欲求は満たされるんです」という言葉を何度聞いたか分かりません。
英国を含め海外では、セックスワーカーを権利のある労働者とみなし、徴税する代わりに社会保障を供給せよというムーブメントがあります。ただ、労働者とみなされ社会保障が与えられるには氏名を役所に届けなければならなくなり、この点が隘路になりすべてのセックスワーカーが賛同しているわけではありません。日本でもこの意見を主張するセックスワーカーはほとんどいません。
あらためて言うまでもないことですが、どのような社会が訪れようと、たとえばAIがさらなる発展を遂げ生活がこの上なく便利になったとしても、セックスワーカーという職業はなくなりません。いえ、AIが普及し労働の形態が変化するにつれ、セックスワーカーはむしろ増えていくのではないでしょうか。そして、上述したように、一般社会でははじかれてしまってセックスワークに従事せざるを得ない女性たちに癒され慰められている男性が存在するのもまた事実です。この「事実」に目を伏せおざなりにしてしまえば、どんな意見も机上の空論に過ぎなくなります。私がGINAの活動に取り組んで20年が経過した今、深く実感していることです。
ところが、そのような売り手市場に若者は恩恵を受けているのだとしても、中年以降でこれといった技術や経験のない人はそういうわけではなく、事務職はほとんど絶望的だという声も多数聞かれます。また、若年者の間でも仕事が見つからずに困窮している人がいます。
男性の場合は、これまでは敬遠されていたいわゆるブルーカラーの需要は現在それなりに高いようです。初めから事務職などのホワイトカラーを目指さずに、身体を使って手に職をつけることを目指してブルーカラーの仕事に従事する若者も少しずつ増えていると聞きます。この傾向は米国で特に顕著なようですが、日本でも少しずつホワイトカラーを見切ってブルーカラーを目指す若者が増えているようで、私自身もこの考えに賛成です。
もともと日本は(例えば韓国などと比べると)ブルーカラーの職業が下に見られたり蔑まされたりすることはなく、また給与も決して低くはなく、どちらかとカッコいい職業であり続け、今もそうではないでしょうか。ただし、この現象は大阪だけ(あるいは私の周りだけ?)なのかもしれません。この話を関東の人にすると、「東京ではそんなことはない。ほとんどの若者はホワイトカラーを目指す」と言われたことが何度もあります。
女性はどうでしょう。男性に比べるとブルーカラーに従事する女性はさほど多くありません。最近では傾向が少しずつ変わり、工場や現場の仕事でも女性の求人が増え、一部の企業は女性を大幅に増やすことで人出不足を解消しているようですが、それでもブルーカラーの労働者数の男女差は小さくありません。また、激しく体力を使う仕事や危険業務には現実にはなかなか女性が入りにくいのも事実です。フェミニストが何を言おうが、平均値で言えば男性と女性には体格にも体力にも歴然とした差があります(これは「個」の話ではなく「全体」の話です)。
販売や飲食の業界では女性の従業員の方が多いでしょうが、少しずつ外国人に職を奪われ、また比較的給与が低いことから、誰もがとびつく職種ではないのが実情でしょう。この類の仕事はルッキズムの要素が入り込み(容姿端麗の方が有利)、そしてそれ以上に重視されるのが「愛嬌の良さ」です。この時代に「愛嬌のよい女性歓迎」などと言えば一斉にバッシングを受けるでしょうが、「見た目がよくて愛嬌があって気が利く若い女性」であれば販売や飲食の世界では間違いなく歓迎されます。
では、それほど愛嬌がよくなくて、気が利かない、例えば同時に複数のことができないとか、要領よく仕事がこなせない女性はどうでしょうか。さらに、大学どころか高校も卒業していない女性ならどうでしょう。このような女性がオフィスワークを務めるのは困難です。コンビニやカフェの場合は、採用されたとしても仕事が遅くてミスが多ければ、たいていは上司からきついことを言われ、そしていずれやめていきます(もちろんそうでない人もいるわけですが、私が過去20年以上にわたり多くの若い女性を診察してきた結果、このように感じています。やはり「個」の話をしているのではなく「全体」の傾向です)。
さらに現在、AIが加速度的な勢いで労働市場に入り込んできています。ひと昔前なら人間が担っていた単純な事務作業が次第にAIの仕事となってきています。さらに、単純労働のみならず、少し前には高度な業務と考えられていた領域にもAIの勢いが入り込んできています。例えば、インターネットの業界でいえば、ついこの間までプログラムが書けて情報学の知識があれば労働市場で引っ張りだこでしたが、この分野にAIが大きく進出したせいで仕事が激減しています。創造力が求められる分野でさえもAIが席巻し、いつ仕事をなくすかもしれないと不安におびえるプログラマーの声をしばしば耳にします。
では好景気のなかでも仕事を得られない女性はどうやって生きていくのか。ひとつの「道」がセックスワークにあるのは事実でしょう。こんなこと他の誰も言わないでしょうが、これまで大勢の若者を診てきている私の視点からは間違いありません。そして、若者だけではありません。50代になってからセックスワークを開始した、あるいは50代になって30年ぶりにセックスワークを復活した、という女性もいます。
ちなみに、先月まで谷口医院に研修に来ていたフランス人の医学生は「日本では50代のセックスワーカーが存在することに驚いた。フランスでは若い女性だけだ」と言っていました。これには様々な見方があるでしょうが、「50代でも(なかには60代も)セックスワークで生活できる日本は恵まれている」のかもしれません。GINAのウェブサイトから連絡してくる人や、あるいは谷口医院の患者さんのなかにもセックスワークに従事しているという人がいます。年齢は20代から50代まで様々です。
この傾向は世界的に生じているようです。
英紙The Independentによると、英国のセックスワーカーを支援する組織「English Collective of Prostitutes」には相談が相次いで寄せられており、過去6ヶ月間でヘルプラインの電話が33%増加しています。生活費の高騰を理由にセックスワークを始めたり、再開したりする女性からの電話が多いようです。ブリストルで路上セックスワーカー(街娼)として働く女性たちに「夜間支援」用のバンを提供している慈善団体One25によると、バンを利用する女性の数が3年間で2倍以上に増加し、2021~2022年度の94人から2024~2025年度には192人にまで増えています。おそらくバンには彼女たちのために食料、スキンケア製品、あるいはコンドームなどが用意されているのでしょう。
英国にはセックスワークの非犯罪化(decriminalisation)を求めるアドボカシー団体「Decrim Now」(Decrimはdecriminalisation=非犯罪化の略)があります。Decrim Nowが2025年10月に発表した報告書には、セックスワーカーの76%が経済的困窮のためにセックスワークを始めたと回答し、回答者の77%が自身になんらかの障害、特に精神疾患や発達障害などがあると認識しています。調査対象となった172人のうち、半数以上がセックスワーク以外に少なくとも1つの仕事を持っていて、育児のためにはセックスワークをしなければならないと考えています。
これは日本でもまったく同じで、少なくともGINAに相談する人(もしくは谷口医院の一部の患者さん)のなかにも同じような悩みを持っている人がいます。「困窮」、「子育て」もそうなのですが、注目すべきは「精神疾患や発達障害」です。これらを病気と呼ぶかどうかは別にして、私に相談してくる女性たち(及び一部は男性)は、現代社会の気忙しさについていけず、その繊細な心が傷つけられ、不安に苛まれ、そのうちに外出するのも苦痛となり、やがてセックスワークを考え始めます。
ところが、セックスワークの世界に入ると、基本的に"接客"は1対1ですから同時にいろんなことに気配りをする必要がなく、会話のテンポがゆっくりすぎたり的を得たことを言えなかったりしても、バカにされるどころかその反対に「癒される」「ほっこりできる」などと男性客からは好評で、承認欲求が満たされます。私自身、これまでセックスワークから抜けられないという女性たちから「でも承認欲求は満たされるんです」という言葉を何度聞いたか分かりません。
英国を含め海外では、セックスワーカーを権利のある労働者とみなし、徴税する代わりに社会保障を供給せよというムーブメントがあります。ただ、労働者とみなされ社会保障が与えられるには氏名を役所に届けなければならなくなり、この点が隘路になりすべてのセックスワーカーが賛同しているわけではありません。日本でもこの意見を主張するセックスワーカーはほとんどいません。
あらためて言うまでもないことですが、どのような社会が訪れようと、たとえばAIがさらなる発展を遂げ生活がこの上なく便利になったとしても、セックスワーカーという職業はなくなりません。いえ、AIが普及し労働の形態が変化するにつれ、セックスワーカーはむしろ増えていくのではないでしょうか。そして、上述したように、一般社会でははじかれてしまってセックスワークに従事せざるを得ない女性たちに癒され慰められている男性が存在するのもまた事実です。この「事実」に目を伏せおざなりにしてしまえば、どんな意見も机上の空論に過ぎなくなります。私がGINAの活動に取り組んで20年が経過した今、深く実感していることです。











