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第192回(2022年6月) 逮捕される小児愛者は氷山の一角

 「性指向」というのは人によって大きく異なるものです。同性に対して「ときめく」のは現在多くの国で異常とみなさなれなくなりましたが、数十年前までは先進国でさえ、良くて「病気」、悪ければ「犯罪」の扱いでした。英国の天才作家オスカー・ワイルドも同性愛で有罪となり、牢獄で時を過ごし、晩年には誰からも見向きもされず孤独に死んでいったと言われています。

 ストレートの場合、性指向がある程度大人の女性に向かえば誰からも咎められないわけですが、小児となると話は変わってきます。ただし、その「境界」がどこにあるかについては、時代や文化に影響を受けます。前回紹介した私がタイで知り合ったM君のように、相手が14歳の少女であれば日本でなら犯罪行為となります。タイでも厳密には違法ですが、14歳の少女を置屋で買春し客が逮捕されることは(少なくとも2000年代前半のタイでは)なかったのです。

 日本でこのようなことをやれば大問題で、場合によっては実名で報道されることもあります。最近、13歳の女子への淫行で逮捕された香川県の三豊総合病院の35歳の医師は実名で報道されネット上に写真が拡散されました。ただ、この医師が罪を犯したのは事実であり、二度と医療の世界に戻れないのは確実でしょうが(名前を変えない限りはネット検索ですぐにバレます)、本質的にも罪か、と問われれば話は少し複雑です。
 
 例えば、私がタイのエイズホスピスで診ていたある中年女性の患者さんは最初の出産が14歳だと言っていました。正式に入籍はしていないものの(タイではこういう話が珍しくありません)、その子の父親は夫(husband)だったと言います。おそらく日本でも大昔には13~14歳くらいで結婚、出産するケースはいくらでもあり、それが犯罪とみなされることはなかったでしょう。ただし、2000年代前半のタイでも、江戸時代の日本でも、例えば2歳の子供に性的虐待を加える者がいたとすれば重い罪に問われたに違いありません。

 最近、ドイツで史上最悪と呼んでもいいような小児愛者(ペドファイル)の男が逮捕されました。Marcus R.という名の44歳のこの白人の男、ベビーシッターを装い子供に接触し性的虐待をおこない、その様子を写真やビデオにおさめ、同じ"趣向"をもつ者に送信していたことが発覚し逮捕されました。写真やビデオから、これまでに33人の被害者が特定されたことが2022年5月30日に当局から発表されました。一番幼い被害者はなんと生後1か月です。

 報道によると、この男に犯罪歴はなく、捜査当局の調べによると10人の男子と2人の女子に性虐待を続け、現在18件の虐待で告発されています。あるメディアはこの男性の顔写真を大きく掲載しています。これだけでかでかと顔写真を掲載され、しかも世界中で閲覧されているわけですから、この男が社会復帰するのは相当困難でしょう。ただ、この男、とても44歳には見えないほど幼く、優しそうな整った顔つきをしています。だから小児を取り込むのに長けているのでしょうが、「プロのベビーシッターです」と言われれば多くの人が信用するのではないでしょうか。

 実はドイツでは以前から小児への性虐待があまりにも多いことが問題となっています。ただ、こういった犯罪の国際比較のデータは見当たらず、ドイツだけが多いのかどうかは分かりません。また、見つからなければ数字には上がってこないわけですし、どの程度の行為が性虐待になるかについての明確な基準はありません(少なくとも国際基準はありません)。したがって、仮にすべての犯罪が露呈し、国際的に同じ基準が採用されて調査されたとすれば、ドイツよりも日本が多い、ということになるかもしれません。

 2022年5月30日、トルコのメディア「TRT WORLD」が「ドイツ、2021年の児童虐待事件が増加(Germany reports rise in child abuse cases in 2021)」という記事を掲載しました。記事によると、2021年のドイツでの小児への性虐待の件数は15,500以上に昇り、これは前年から6.3%増加しています。ドイツ連邦刑事庁(Federal Criminal Police Office)長官によると、この数字は警察が把握している数字のみであり、実際の犯罪件数はずっと多いに違いないそうです。当局は、学校のクラスに1~2人程度が性的虐待の被害者となっているとみています。

 このトルコのメディア、なぜかドイツの小児愛事件を詳しく報じており、2020年6月には「小児性愛者の容疑者3万人以上を警察が追っている(Germany investigating 30,000 suspects over paedophilia)」という記事を載せています。また、同じ時期に「ドイツ当局は過去数十年に渡り親の保護が受けられない男子を小児愛者と住まわせていた(For decades German officials handed over vulnerable children to paedophiles)」という驚くような記事も掲載しています。トルコ人がなぜドイツのこのような事件に関心を持つのかが分かりませんが、ドイツ語の読めない私にとって、このメディアはありがたい存在です。ドイツには「Deutsche Welle (DW)」という信頼できる英字新聞があるのですが、こちらは"かたすぎる"というか、三面記事的な話題は好まれないようで、ペドフィリア/ペドファイルの記事はあまり掲載されません。

 日本とドイツを比べてみましょう。ドイツの人口は日本のおよそ3分の2で約8000万人です。そのドイツの年間での警察が把握している小児の被害者が先述したように15,500人です。一方、日本では厚労省が数字を発表しています。令和2年度の児童相談所による児童虐待相談対応件数のうち性的虐待は2,245人で、前年より168人(約8%)増えています。

 日本とドイツを比較すると人口あたりで考えれば小児の性的虐待の被害者は、日本はドイツの10分の1ほどになります。では、日本はドイツほどペドファイルが多くなく子供が安心できる国なのかと問われれば、そういうわけではないと思います。

 なぜなら、報道を読むと、ドイツではインターネットを解析して容疑者を特定し逮捕しているからです。先述のベビーシッターを装っていたペドファイルもネットから足がついています。そしてこの男と"情報交換"をしていた他の同類の容疑者もネットを解析することで逮捕に至っています。他方、日本では児童相談所に届けられて性的虐待が判明したケースがカウントされています。言うまでもなく、日本の統計の取り方では実態が隠れてしまっているわけです。

 では、抵抗できない脆弱な子供たちを守るにはどうすればいいのでしょうか。理想の対策ではありませんが、「罪を重くする」はひとつの現実的な対処法でしょう。例えば小児愛で逮捕されると重刑を課すだけではなく、インターネットに顔をさらすようにするのです。先述のMarcus R.もメディアを通して世界中に写真が拡散しました。イギリスの有名なペドファイルにRichard Huckleがいます。この男はWikipediaでも紹介されているほど悪名高く、写真も世界中に広がっています。興味深いのは、この男、収監されているときに仲間の囚人に性的暴行を加えられ、首を絞められ、刺殺でとどめを刺されたことです。ちなみに、Richard Huckleをレイプして殺害した囚人Paul Fitzgeraldもイギリスのメディアで顔をさらされています。

 では、罪を重くして犯罪者の顔をさらすことで小児への性的虐待は減少するのでしょうか。私はそれでは不十分であり、抜本的な解決にはならないと思っています。では、どうすればいいか。近いうちに私見を述べたいと思います。

 最後に、性的虐待の結果、HIVに感染させられる小児も少なくないことを改めて強調しておきたいと思います。私自身、そういう子供たちをタイでみてきました。