GINAと共に

第91回 直接支援しなければ分からないこと 2014年1月号

  世界で自然災害や戦争などが起こり被災者や難民が生まれたときに寄付をするという人は少なくないと思います。また、特別な災害や戦争などとは関わりなく、常に貧困にあえいでいる人たちは世界中に大勢いますから、そのような人たちに対してUNICEFやUNHCR、WFP、UNESCOなどを通して、毎月定期的に一定額が引き落とされるタイプの寄付をしている人もいるでしょう。

 東日本大震災のときには多くの人が日赤(日本赤十字社)などに寄付をされたでしょうし、日赤の口座に直接送金しなくても、コンビニやショップに置いてある募金箱を経由して寄付をされたという人もいるでしょう。(私が院長をつとめる太融寺町谷口医院でもそのようなかたちで患者さんから集まった寄付金を日赤に送っていました)

 おそらく多くの人は、日赤、UNICEF、UNHCR、WFP、UNESCOなど国際的に有名な支援団体に寄付をすれば、そのお金やそのお金で購入された生活支援物資が困っている人たちに確実に届けられるに違いない、と考えているのではないでしょうか。

 しかし果たして本当にそう断言できるでしょうか。日赤の職員が集まった寄付金の一部をくすねている、ということはあり得ないでしょうが、ではアジアやアフリカの小国に送られた寄付金が本当に災害で家をなくした人に届けられているのでしょうか・・・。

 UNICEFやUNHCRといった団体に対して私が疑問を持っているというわけではありません。そういった団体で働く人たちは善意で尽力されているものと思います。それに、誰もが現地に行って困っている人をみつけてお金や物を直接渡す、ということはできませんから、通常はこういった信頼できる団体に寄付金を委ねることになります。(私個人も太融寺町谷口医院もそのようにしています)

 しかし、です。こういった善意の団体の職員が困窮している人ひとりひとりを訪問して直接支援しているわけでは必ずしもありません。ではどのように寄付金や支援物資が届けられているのかというと、通常は現地の村役場のようなところに届けられることが多いのです。すると現地の役人がお金や物資を仕分けして、被害で家をなくした人や困窮している人に配ることになるわけですが、果たしてここで不正がおこなわれない保証があるでしょうか。

 そのような地域であれば役人たちも裕福な生活をしているわけではありません。つまり彼らもまた困窮しているわけです。そんななか目の前に現金や食べ物が置かれればどのような行動をとるか・・・。私はすべての人間が善意だけで行動するなどと考える性善説はとりません。自虐的な性格の人は、世界と比べて日本人は〇〇が劣っている・・・、というような表現をしますが、私はこと「公正」に関しては、日本人はかなり優秀だと考えています。もちろんまったくないとは言いませんが政治家や役人の不正行為がこれほど少ない国は(少なくともアジアにおいては)ないと思っています。これは、日本人以外の政治家や役人が信用できない、という意味でもあります。

 つまり、寄付をする人と支援団体の職員が善意だけで行動していたとしても、末端に困窮している人に届くまでに不正行為がおこなわれる余地がある、というわけです。

 GINA設立のきっかけとなったタイのエイズホスピスであるパバナプ寺(Wat Phrabhatnamphu)に対し、GINAは長らく寄付を続けてきましたが、昨年(2013年)から中止しました。

 この理由は、パバナプ寺に寄付したお金が、施設に入所しているHIV陽性の人たちが最も必要としていることに使われていると思えなくなってきたからです。数年前からこの施設はどんどんと豪華になってきていました。派手な建物がつくられ、寺というよりは観光地という様相を帯びてきていました。これは、この施設が有名になり、タイ全域から、あるいは全世界から寄付金が集まり出したからです。

 一方で、患者さんたちの生活は改善してきているとはいいがたい状態です。たしかに、入所している患者さんたちには衣食住は与えられていますし、抗HIV薬や他の薬のいくらかは支給されています。しかし、それだけで充分な生活ができるわけではありません。

 例えば、抗HIVを飲んでいるからといって必ず効くわけではありませんし、HIVとは関係のない病気になることもあります。しかし施設に置いてある薬はごくわずかですから、こういった事態になったときには病院に行ったり、薬局で薬を買ったり(タイでは日本では処方箋が必要な薬も薬局で処方箋なしで買えることがあります)しなければなりませんが、患者さんたちにはその交通費もなければ薬を買うお金もありません。また、生活するにあたって、例えば腰痛防止のサポーター、メガネ、その人の状態に合った靴、栄養ゼリーや果物といったこまごまとしたものが必要になりますが、こういったものは支給されません。

 ではこのような実際に患者さんと接することで初めて必要性がわかるものはどうしているかというと、患者さんと最も近い距離にいるボランティアが調達しようとします。しかしボランティアにはそれほどお金がありません。ならばGINAがこのようなボランティアに対し患者さんへの寄付金を「預ける」というかたちにした方がずっと患者さんたちに役立つはずです。現在、GINAはパバナプ寺に入所している患者さんに対する支援をこのようなかたちに全面的に切り替えています。

 タイ北部のパヤオ県のラックプサンというところにエイズ自助グループがあります。この地域にはエイズ孤児も多く、寄付金(奨学金)がないと学校にも行けない状態です。そこでGINAは数年前から、この地域の子どもたちに金銭面での支援をおこなっています。先日、奨学金というかたちで金銭の支援をしている22人の子どもたちから手紙をもらいました。この地域の支援活動をまとめているトムさんという人が集めてくれたのです。

 私が現在タイに行けるのは年に一度程度であり、この地域まで足を伸ばすのは大変なのですができるだけ時間をつくりトムさんとは会うようにしています。そして実情を聞いて、地域で何人のエイズ/HIVの患者さんがいてどのような生活をしているのか、子どもたちは何人いて生活ができているのか、支援は充分か、などを尋ねるようにしています。トムさんは年に一度、GINAが支援をしている子どもたちからの手紙をまとめて送ってくれるのです。手紙は手書きのタイ語ですから読むのに苦労するのですが、それでも感謝の気持ちが伝わってきて、GINAを立ち上げてこれほどよかったと思うこともありません。

 現在GINAが支援している施設や団体、個人については、可能な限り私が直接出向いて話をして、どのような問題があり、どのような支援をすべきかについて検討するようにしています。

 作家の曽野綾子さんが「海外邦人宣教者活動援助後援会」というNGOで活動されているのは有名ですが、曽野さんは支援したお金がきちんと不正なく使われているかを自分の足で見に行かれるそうです。このNGOでは現地の役人にお金を送るわけではなく、海外で支援活動をしている日本人のキリスト教徒に対して援助をしていますから不正行為が行われる可能性は高くありません。それでも曽野さんは直接現場をみて適正に支援金が使われているかどうかを確認しに行かれるそうです。しかも、交通費などはすべて自分のお金でまかなうそうです。

 私自身も、曽野綾子さんのマネをしているつもりはないのですが(とはいえ私は以前から曽野さんのファンではあります)、GINAの活動でタイに渡航するときは、交通費や宿泊費などもすべて実費でまかない経費処理などはしていません。そして、大勢の方からいただいた寄付金がきちんと適切に使われているかどうかを確認するようにしています。

 私は特に人を疑い深い性格ではないと思いますが、かといって「裏切られても信じることが大事・・・」などという甘い考えをもっているわけではありません。もしも時間があれば、UNHCR、WFPなどに対しても現地の職員を訪ねて、本当に適切に支援がおこなわれているのかどうか確認しにいきたいと思っています。しかし、そんなことは現実的には無理でしょうから、いずれGINAの活動を広げて支援する人を増やしていくことを将来の目標としたいと考えています。