HIV/AIDS関連情報

2007年2月5日(月) マイクロビサイドはHIVを予防しない

 マイクロビサイド(microbicide)というジェルをご存知でしょうか。これは性交渉の前に腟内にあらかじめ塗布しておくことによって、侵入してきたHIVを死滅させる薬剤で、コンドームの代用としてHIV予防に有効と考えられ、昨年の国際エイズ学会でも最も話題となったひとつです。マイクロビサイドの主成分はテノフォヴィル(Tenofovir)という抗HIV薬です。

 GINAではこのジェルに関するニュースをこれまでウェブサイトで取り上げていませんでしたが、それはこのジェルの使用に必ずしも賛成の立場にはないからです。理由は、有効性が科学的に確証されていないことと、他の性感染症を防ぐことができないというものです。

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 2月1日のAP通信によりますと、インドとアフリカ諸国でおこなわれていたマイクロビサイドの試験的使用が中止となりました。マイクロビサイドの使用で、HIV感染のリスクを減少させるどころか、かえって感染しやすくなることが判ったからです。

 この研究は、南アフリカ共和国、ベニン、ウガンダ、インドの1,500人の女性を対象としたもので、マイクロビサイドを使用していたグループが、偽薬を使用していたグループよりも大勢の女性がHIVに感染していたことが判りました。また、これらの国々でHIVに新たに感染した女性のうち、半数以上がマイクロビサイドを使用していたことも判りました。

 このマイクロビサイドは、カナダのポリデックス(Polydex)という会社が開発したもので、商品名をアッシャーセル(Ushercell)と言います。綿を基材とした化合物に硫酸セルロースを加えたジェルの形をとっています。

 この研究はバージニア州にあるCONRADという研究グループによっておこなわれ、この研究機関には国際開発米国局(The United States Agency for International Development)やビル&メリンダ・ゲイツ基金も資金協力をしていました。

 また、別の研究機関は、ナイジェリアの1,700人の女性を対象にアッシャーセルの試験的使用をおこなっていましたが、こちらも中止となりました。この研究スタッフのひとりは、「マイクロビサイドがHIV感染予防に有効という科学的確証は全く得ることができなかった」、とコメントしています。

 アッシャーセルは大規模使用を開始する前に11の事前研究を主に米国でおこなっていましたが、これらの研究ではいずれも有効性が示されていたそうです。

 アッシャーセル以外にもカラガード(Carraguard)という名前の別のマイクロビサイドがあり、こちらは現在も試験的調査が続けられています。3月に調査は終了し結果は今年中に発表される予定です。カラガードは、ニューヨークを拠点とする研究機関で開発され、南アフリカの6,000人の女性を対象におこなわれた事前の臨床試験では安全性に問題はなかったそうです。

 マイクロビサイドに巨額の資金を提供していたゲイツ基金のスポークスマンは、「我々は安全で有効性の高いマイクロビサイドが開発されることを信じている」とコメントしています。

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「コンドームを使いましょう」は理想論であって、実際は世の多くの男性がコンドームの使用を拒否するという現実があり、それならば男性側に知識がなくても女性をHIV感染から守る方法を模索する、という考え方は理解できるのですが、マイクロビサイドを使用してHIVに感染した女性のことを考えると、彼女たちは楽観的な期待の"被害者"であり、科学への信頼が損なわれたと言えるでしょう。

 また、マイクロビサイドに過度に期待する人たちに尋ねたいのは、他の性感染症についてはどのように考えているのかということです。HIV以外にも死に至る性感染症はいくつもあるのですから。

(谷口 恭)