HIV/AIDS関連情報

2006年9月8日(金) 科学者たちが南アのエイズ政策を激しく非難

 日本を含めた先進国では、「エイズの原因はHIV感染であり治療には抗HIV薬を用いる」というのが常識になっています。ところが、これを認めない国家も存在します。

 最近、80人以上の科学者が協力し、南アフリカ共和国大統領Thabo Mbeki氏に、ある「通達」をおこないました。協力した科学者のなかには、RNAウイルスの逆転写酵素を発見し1975年にノーベル医学生理学賞を受賞したアメリカの生物学者David Baltimore氏や、エイズの原因がHIVであることを発見したRobert Gallo氏も含まれています。

 9月8日のThe Independent (online edition)によりますと、大統領に宛てられたその通達には次のように述べられています。

 「厚生大臣のTshabalala-Msimang医師をただちに解雇し、南アフリカがとっている恐ろしくて非科学的なエイズ対策を撤廃すべきだ。エイズの原因がHIVでない、などという馬鹿げた主張をおこない、科学を尊重せずに効果のない不道徳な政策で国民を危険に陥れている人間を厚生大臣に就任させているのは、南アフリカの恥である」

 Tshabalala-Msimang医師は、HIV陽性者に対し、抗HIV薬を支給するのではなく、ビートの根、ニンニク、レモン、芋などを摂取するように指導をおこなっています。

 この通達に対し、Mbeki大統領は返答をしていませんが、この厚生大臣を擁護し、「南アフリカのエイズ対策に対する誤った情報が世界中で流布している」、との発表をおこないました。また、大統領は、「エイズの原因がHIVであるという説は疑わしく、抗HIV薬の効果は定かではない」、とのコメントもおこなっています。

 南アフリカは、2003年に38万人の患者に対し抗HIV薬を支給すると発表しましたが、現在支給を受けているのはわずか14万人です。科学者たちは、実際に必要なのは50万人にのぼるとしています。

 この通達は、先月トロントで開かれたエイズ学会で、「狂信的分派集団(lunatic fringe)」と言う言葉を用い、南アフリカのこの政策を激しく非難した国連大使Stephen Lewis氏に承認されています。

 尚、南アフリカのHIV陽性者は550万人(インドに次いで世界二位)で、一日におよそ900人がエイズで死亡しています。 

(谷口 恭)