HIV/AIDS関連情報

2006年8月19日(土) HIV予防に割礼はどこまで有効か

 The Global Fund to AIDS(世界エイズ基金)が、「割礼でHIVに感染するリスクを60%減らすことができる」、という発表をおこない、先月末あたりから世界中のメディアが報道しています。

 GINAとしては、この発表は設立趣旨にそれほど合致しないと判断したために、当websiteでの紹介を見合わせていましたが、先日世界で最も権威ある医学誌のひとつであるThe Lancetもこの発表を掲載し、さらに、トロントでおこなわれた第16回国際エイズ会議でも議論を呼んだことから、このコーナーで報告することにしました。

 同基金によりますと、「高い割礼率の西アフリカ及び中央アフリカではHIV陽性率が低く、その逆に、低い割礼率の南部アフリカ及び東アフリカでは陽性率が高い」、そうです。この理由は、「割礼をすることにより、陰茎亀頭が硬くなり、このためウイルスが浸透しにくくなるのではないか」、と考えられているそうです。もしも、アフリカに住むすべての男性が割礼をすれば、およそ600万人もの男性が新たにHIVに感染することが防げる、と同基金では試算しています。

 UKの公的機関National Aids Trustの最高責任者であるDeborah Jackが発表したコメントが、8月9日のThe Independent(Online Edition)で報道されています。「割礼がHIV感染を減少させることは事実だとしても、割礼した者のリスクがなくなるわけではない。割礼はコンドームに代わる予防法ではない」、と彼女は警告しています。

 GINAとしては、このコメントを全面的に支持したいと思います。

 第16回国際エイズ会議で話題を呼んだものに、性交前に女性の腟に塗布することによってHIVを死滅させることのできるマイクロビサイドと呼ばれるジェルがあります。このジェルの有用性は科学的に確かなもののようですが、100%確実なわけではありません。割礼と同様、過信は禁物です。それに、HIV以外の性感染症のリスクが減少するわけではありません。

 よく、患者さんから聞かれる質問に、「HIV陽性者と性行為をして自分に感染する可能性は何パーセントくらいですか」、というのがあります。こういう数字はたしかに研究発表されていますが、公衆衛生学的に議論する際に有用であるに過ぎません。個人の行動という観点から考えたときには、ほとんど意味がないのです。

 なぜなら、実際にHIVに感染した人に話を聞くと、ただ一度の性行為で感染したと思われる人がいくらでもいるからです。要するに、一個人でみたときには、HIVに感染する確率は、0%か100%のどちらかしかないのです。

(谷口 恭)