HIV/AIDS関連情報

2006年8月18日(金) 香港で不当逮捕される売春婦たち

 8月15日付けのロイター通信に香港の売春事情が報道されています。

 現在、香港では、コンドームを所持しているという理由で、警察が売春婦を逮捕しているそうです。香港警察は、コンドームを所有していることが売春行為につながるとみているそうですが、もちろん明らかな不当逮捕です。

 逮捕を恐れる売春婦たちは、コンドームを所持しなくなり、その結果HIVを含めた性感染症に罹患する者が後を絶たないそうです。

 ところで、この記事によりますと、香港にはおよそ30万人の売春婦が存在し、その半分は本土中国から渡航してきた女性だそうです。1991年の売春婦の人数は約20万人との報告がありますから、15年で5割も増えたことになります。

 ロイター通信が報道しているこの数字には驚いてしまいます。香港の人口は約680万人で、香港の平均寿命を80歳と仮定し(ちなみに香港は平均寿命世界一位です)、どの世代も均等な人数とすると(実際は高齢化が問題になっている国ですが)、20歳から40歳の女性は、およそ85万人となります。売春婦の年齢もだいたいこの枠に入るでしょうから、ロイターの報道の30万人の半数を香港人とすれば、この世代のおよそ18%が売春婦ということになってしまいます。まさか、先進国でそんなことはないでしょうから、実際は、およそ15万人の中国本土から渡航している女性に加え、タイやフィリピンなど他国から売春目的で香港に渡る女性も多いのでしょう。

 話を戻しましょう。現在香港では、持っているだけで逮捕されることからコンドームを使用しない売春行為が相次いでいると言われていますが、実は彼女らがコンドームを用いないのにはもうひとつの理由があります。

 中国から香港に渡航するビザを取得するのにおよそ7万5千円の費用がかかります。しかも滞在できるのは7日間のみです。このため、高い金を払うからコンドームを使わない性行為をさせてくれ、と言う顧客の要望を聞き入れている女性が多いのです。(ちなみに、このような危険な行為を嘆願するのは日本人が最も多いと言われています。)

 子宮頸癌や尖圭コンジローマの原因になるヒトパピローマウイルス(HPV)という病原体がありますが、58人の売春婦のうち7人が陽性で、その7人のうち6人が中国本土からの渡航者であったというデータが、この記事で紹介されています。

 私は性感染症の患者さんを診察する機会が多いのですが、患者さんが感染した国では、中国がタイと並んで最も多いような印象があります。現在も、中国でコンドームを用いない売春行為をし、尖圭コンジローマがなかなか治癒しない患者さんをみています。

(谷口 恭)