HIV/AIDS関連情報

2006年10月29日(日) インド、買春客が置屋でHIV予防教育

 カルカッタのSonagachhi地区は置屋街として有名な地域で、売春婦たちは置屋を勤務場所としているだけでなくその部屋で生活そのものを営んでいます。この地域の売春婦はおよそ1万人で、彼女たちを買いに来る男性客は毎日2万5千人以上にもなると言われています。

 最近、この地域で大変ユニークな団体がHIV予防活動をおこなっています。なんと、買春客のグループが、他の買春客や売春婦に対してHIV予防を教育しているのです。これを10月25日のロイター通信が報道していますのでご紹介いたします。

 この売春街を訪れる男性客の大半はエイズについて正しい知識を持っておらず、コンドームを使用したがらないと言われていますが、およそ200人からなる買春客のグループは、同じく買春目的でこの街を訪れる買春客に対して、コンドームの使用や血液検査の重要性を教育しているのです。

 「僕らはこの置屋街に長く通っているうちに、売春婦たちを守る義務があることに気付いたんだ」、このグループの一員であり、昼間はビジネスマンとして過ごし、頻回に置屋に買春をしにくる男性はそのように述べています。

 この男性は続けます。

 「そして、この置屋街に買春にくる何千人もの男性はコンドームの使用を拒否している。そこが僕らが介入すべきところなんだ」

 この男性を含むこのグループは、毎晩複数の置屋を訪問し、売春婦と買春客の双方に、コンドームの重要性やHIV/AIDSに関する正しい知識を教育しているそうです。

 この男性は言います。

 「なかには僕らの活動にまったく興味を示さない買春客もいるよ。きわめて個人的な領域の話だからね。けど、話を聞いてくれてパンフレットを持って帰ってくれる客もいるんだ」

 この計画は、Darbar Mahila Samanwaya Committee(DMSC)という名称の6万5千人の売春婦からなる組織が中心となって実行されています。今年の初頭にこのプロジェクトが発足し、これまでにおよそ5千人の買春客と売春婦が教育を受けているそうです。

 DMSCの幹部であり以前は売春をしていた女性によると、これまで教育(カウンセリング)を受けた買春客と売春婦のおよそ8割はコンドームを使うようになったそうです。

 しかしながら、まだまだ教育活動は不十分であり、「この売春街を訪れる買春客の9割は性行為でHIVが感染することを知らない」とみる活動家もいるようです。

 WHOによると、この売春街では地域に密着した様々なHIV予防活動が功を奏して、売春婦のHIV陽性率は、この10年間で90%から5%にまで減少してきているそうです。しかしながら、買春客の行動次第では再び感染率が上昇する可能性も指摘されています。

 WHOのある幹部は次のようにコメントしています。

 「買春客が教育をおこなうというこの試みは非常に効果的に機能しており、今後も継続していくことが必要だ」

 売買春をやめましょう、というコピーは単なる理想論にすぎないのであれば、このような試みを世界各地でおこなうのは有効かもしれません。買春客による買春客への教育。これも一種のピア・エデュケーションと言えるでしょう。

(谷口 恭)