GINAと共に

第75回 恥ずべき北タイのロングステイヤー達(2012年9月)

 退職後は海外でのんびり過ごしたい。タイはどうなんでしょう・・・。

 数年前からこのような質問をしばしば受けるようになりました。円高の影響もあってなのか、定年退職後に海外在住を希望する人は年々増えてきているようです。そのなかでも東南アジアは治安がいいことや食事が美味しいことなどに加え、物価が安いことから人気が高いそうで、その東南アジアのなかでも、タイはマレーシアと並ぶ人気国だそうです。

 タイで日本人のロングステイヤーが最も多いのはバンコクですが、バンコクは好きでない、という人もいます。あの空気の悪さと喧騒が、のんびりと老後を過ごしたい、という人達から不人気なのは頷けます。数年くらい前までは、ハジャイ(ハットヤイ)などの南タイもそこそこ人気があったようですが、イスラム系のテロが一向に収まらないことから治安の悪さを懸念する人が増えて日本人は減ってきているそうです。

 一方、北タイの最大都市であるチェンマイは、ここ数年間の発展で外国人が随分と過ごしやすくなっています。英語表記(日本語表記も珍しくありません)の看板が増え、レストランのメニューも英語版が用意され、タクシー、インターネットカフェなども増えて、生活に不便を感じることが次第になくなってきています。

 日本人が増えている北タイはチェンマイだけではありません。チェンライにもここ数年で日本人が増えて、日本人のコミュニティや日本人が経営する食堂などもあるそうです。

 チェンマイやチェンライを含む北タイの魅力として、まず気候がいいことがあげられます。真夏でもバンコクほど気温が上がりませんし、乾いた風が心地よいためにクーラーをそれほど必要としません。公害や空気汚染はほとんどありませんから空気がおいしく静かです。海が好き、という人には物足りないかもしれませんが、きれいな山がたくさんあるためにハイキングやトレッキングを楽しむこともできます。その上、物価がバンコクよりも安く、食べ物はバンコクよりも塩味がきいていて日本人好みの味付けと言えるでしょう。改めて考えてみても北タイはロングステイに理想的な地域といえます。

 北タイがロングステイに向いている理由はまだあります。それは「多くの現地のタイ人が日本人に対して好意的」ということです。タイに行ったことのある人なら体感されたことがあると思いますが、多くのタイ人は日本人に好感を持っています。1970年代には一時的に反日感情から日本製品不買運動などがおこった時代もありましたが、現在では多くのタイ人が親日なのは間違いありません。今でも北タイを含めタイの地方に日本人(の男性)が行くと「コボリ、コボリ」と言って歓迎されます。これは何度も映画化されているタイの国民的小説『クーカム』(日本語版は『メナムの残照』)の主人公が「コボリ」という名の日本人で、今でも「タイで最も有名な日本人は?」とタイ人に質問すると「コボリ」という答えが返ってくることもあります。

 さて、そろそろ本題に入りましょう。日本人にとって北タイが理想のロングステイ先であるのは間違いないのですが、実際のロングステイヤー達の評判が最近すこぶる悪いのです。

 現地の声をまとめてみると、日本人の評判が悪い理由はいくつもあります。「食堂などで大声をだして他人の迷惑を顧みない」「日本人どうしが仲が悪く諍いやけんかが絶えない」「日本人が日本人をだます詐欺が少なくない」「タイ語どころか英語もできない日本人がいて語学を勉強する気すらない」・・・、と同じ日本人として恥ずかしくなる声が後を絶ちません。

 しかし、日本人に対するクレームのなかで最も多いもの、そして最も悪質と思われるものは「恋愛」に絡んだものです。いえ、「恋愛」というよりは「性(セックス)」と言うべきでしょう。

 恋愛をする間もなく仕事一筋でやってきて、独り身のまま気がつけば定年退職、という人や、何らかの事情で離婚をしており現在は独り身、という人が北タイという新天地で新しいパートナーを見つける、ということにはまったく問題ないと思います。問題ないどころか、私は個人的に日本人とタイ人の仲むつまじきカップルを何組も知っていますから、日本で「恋人がいなくて・・」という中高年にタイ行きをすすめることすらあります。

 しかし、北タイで、タイ人やまともに生活している日本人から聞くのは、「カネでセックスを買う日本人のロングステイヤーに辟易している」というものです。例をあげましょう。

 北タイのある地域でエイズ患者のケアをおこなっている日本人の元には定期的にロングステイの日本人男性がやってくるそうです。彼らは、エイズという病やボランティア活動に興味があるわけではありません。「この地に長いことすんでいるなら現地女性と仲良くなる方法を知っているでしょ。若くて美人のタイ人を紹介してください」というものだそうです。もちろん彼らが真剣にパートナーを探しているならば問題はないでしょう。

 けれども、えてしてこうやって「女性を紹介してほしい」と訪ねてくる日本人男性というのは、傲慢で、カネさえ払えば何とでもなると思っているケースが多いそうです。タイ語もまったくできずに、そのことに対して質問すると「これからもタイ語を勉強するつもりはない」と答えるそうなのです。これでは、パートナーを探しているのではなく、「女性を買いに来ている」というべきでしょう。

 もっとひどい例もあります。ロングステイをしている日本人男性のなかには「買春」を繰り返している者もいるというのです。カネを払って買春するのに何か問題があるのか?、という意見もあるかもしれませんが、このようなことをする日本人が増えれば、日本人の好感度が下がるのは間違いありません。いえ、もうすでに日本人が好意的にみられていた時代は過去のものなのかもしれません。

 私は2012年8月にチェンマイに渡航し、複数のエイズ関係者と話をしましたが、日本人の好感度が以前に比べて随分と落ちている、という意見がありました。「買春」目的の日本人が増え、そのせいで、まともな理由で北タイにロングステイする人たちも住みにくくなっているというのです。

 買春を繰り返した結果、HIVに感染した日本人もいるそうです。しかも、その日本人は医療費が払えず治療を受けず、かといって日本に帰る気もないそうなのです。買春でHIVに感染しエイズを発症する、ここまでは他人に迷惑をかけていないかもしれませんが、エイズで身体が衰退してくれば他人のケアがどうしても必要になってきます。

 困っている人が身近にいた場合、タイ人は必ず助けてくれます。身の回りのことをしてくれて食事も分けてくれるのが普通のタイ人です。タイをよく知る人ならば、タイ人が困っている人を放っておかないことを示す例をいくつも知っているでしょう。

 しかしながら、カネに物をいわせ買春を繰り返した結果、HIVに感染した日本人に同情するタイ人がどれだけいるかは疑問です。また、このようなかたちでHIVに感染した日本人は、同胞の日本人からも相手にされないでしょう。

 このような悲劇を避けるためには、HIVを含む性感染症に対する正しい知識を持つということ、恋愛は問題ないがカネにものをいわせた「買春」が与える影響(日本人の評判を落とすのは必至!)をよく考えること、恋愛をするしないに関わらず異国の地に行くからには現地の言葉を勉強すること、などをよく考える必要があります。