GINAと共に

第24回 6月20日は何の日か知っていますか? 2008年度版(2008年6月)

 6月20日が何の日か知っている人はどれくらいいるでしょうか。

 正解は、「世界難民の日」です。

 私はこのことを以前別のところで述べたことがあります。(すてらめいとクリニックのウェブサイト『谷口恭のメディカル・エッセィ』2005年7月「6月20日は何の日か知っていますか?」)

 今回のコラムのタイトルに「2008年度版」と加えているのは、繰り返しこの疑問符(?)付きのタイトルで、6月20日が世界難民の日であることを訴えていきたいからです。

 さて、これを読まれている皆さんは、世界中に「難民」と呼ばれている人がどれくらいいるのかご存知でしょうか。また、その難民は増えているのか減っているのかを知っていますでしょうか。

 その前に、「難民」とはどういった人たちのことを指すのかについておさらいしておきましょう。

 1951年の「難民の地位に関する条約」では、難民は、「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた」人々と定義されています。今日、難民とは、政治的な迫害のほか、武力紛争や人権侵害などを逃れるために国境を越えて他国に庇護を求めた人々を指すようになっています。(UNHCRのウェブサイトより要約)

 この定義にあてはまる難民は、UNHCRが支援対象とする人数でみると、2007年末の時点で1,140万人です。また、国際移動に関するモニタリング・センター(International Displacement Monitoring Center)によれば、紛争によって影響を受け、国内避難民となった人の数は2,440万人から2,600万人へと増加しています。

 実は難民の人数はこの2年間は増加傾向にあります。2001年から2005年は5年連続で減少していたことを考えると現在は危機的な状況にあるといえるでしょう。

 私はこういった情報をUNHCR、ユニセフ、WFPなどのウェブサイトや定期的に送られてくる情報誌から得ていますが、"普通の"日本の新聞や雑誌にはこういった情報はほとんど掲載されていないのが現状だと思われます。

 実際、今年の6月20日に「世界難民の日」について報じた新聞は私の知る限りありませんでしたし、テレビのニュースや報道番組でも取り上げられることはありませんでした。

 たしかに、「人種、宗教などで迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた」などと言われても、そのような可能性がほとんどない日本人にはピンとこないかもしれません。

 しかし、自然災害で家族や家を失った人たちのことを想像するのはむつかしくないでしょう。

 今年は現時点で、アジアで非常な大きな天災がふたつもおこっています。

 ひとつは、5月上旬にミャンマーで発生したサイクロン「ナルギス」です。6月中旬に発表された国連の予測では、東南アジアで77,000名以上が死亡、さらに、55,000人が行方不明と報告されています。

 もうひとつは、5月12日に中国四川省で発生した四川大地震で、こちらは6月中旬の時点で、死者およそ7万人、怪我人37万人以上と発表されています。

 今年は日本でも岩手・宮城内陸地震がおこりました。6月14日午前8時43分に岩手県内陸南部でマグニチュード 7.2の地震が発生し、死者12人、行方不明12人(6月24日現在)と報告されています。

 岩手・宮城内陸地震は、ちょうど梅雨の季節と重なったこともあり、土砂崩れなどの災害が続いており、連日マスコミは被害の状況を伝えています。支援活動もおこなわれ、寄附金も集まってきているようです。

 日本国内でこのような被害が起きているわけですから、海外の事情よりもまずは日本の被災者の人たちに何ができるかを各自考えることは大切なことだと思います。

 そして、同時に、岩手・宮城内陸地震の数万倍の被害者をだしたミャンマーのサイクロンと中国の地震について考えてみるのも大切なことだと思うのです。

 私は、日本のマスコミにミャンマーや四川省の現状を積極的に伝えてほしいと感じていますが、被害から1ヶ月以上たった今ではほとんど何も報じられていません。一方、海外のメディア、例えばBBCやCNNでは現在も現地の状況をレポートしており、日本のメディアとは対照的です。

 日本のメディアが報道しないなら、情報は自分でとりにいくしかありません。BBCやCNNは日本でも見れますから、こういった番組をチェックするのもひとつの方法ですし、UNHCRやユニセフのウェブサイトからもいろんな情報が入ってきます。

 「難民」という言葉を聞くと、「彼(女)らに何ができるか」ということを考える人も多いと思いますが、私はまずは、「彼(女)らのことをもっと知るべき」と考えています。実際に、難民や被災者が喜ぶのは、例えば現地に赴いてボランティア活動をおこなったり、寄附金を送ったりすることだとは思いますが、それ以前に、彼(女)らの現況を知ることが大切だと思うのです。


 私はGINAの関連で講演をしたりインタビューを受けたりするときに、「寄附金をお願いします」と言ったことがありません。これは、「寄附金を集めること」よりも「(主にタイの)エイズの現状を知ってもらうこと」が重要だと考えているからです。

 タイのエイズ関連のある施設に働く人が私に話してくれたことがあります。その施設には多くの見学者が訪れるそうですが、なかには「貧しくて寄附ができなくて申し訳ない」と言う人がいるそうです。しかし、その施設で働く人は、「寄附を求めているわけではない」と答えるそうです。そうではなくて、「エイズを患った人の現状を知ってもらえたらそれでいい」そうです。

「お金がなかったら何もできないじゃないか。現状を知ってもらえたら満足なんてのはきれいごとじゃないの・・・」、そのように感じる人もいるでしょう。

 しかし、そうではないのです。お金がなかったら施設の運営はできませんし、GINAも存続できなくなるかもしれませんが、まずは「現状を知ってもらう」ことがGINAを含めて支援活動をしている側の"想い"なのです。

 6月20日は世界難民の日。これを知ってもらうことが今回の「GINAと共に」の"想い"です。

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